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第3章《新たな怪異》
第40話《偽物の輪郭》
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小さな鏡に映る顔は、確かに俺自身だった。
けれど、その顔には決定的な違和感があった。見れば見るほど、細かな違いが積み重なって、いつしか『俺』とは別の何かになっていく。
「……拓海?」
彩華の声が聞こえる。
しかし、返事をする余裕はない。
俺はじっと鏡を見つめていた。
「……違う、これは俺じゃない……」
無意識に、言葉が漏れる。
「何が違うんだ?」
久瀬先輩が、淡々と問いかける。
「わかりません。でも、何かが……」
頭の奥が重くなり、思考が霞んでいく。
何かを見落としているような気がした。
「相沢、よく思い出せ。お前が知っている自分の顔と、鏡の中の顔は一致してるか?」
「一致してるはず、です……でも、何かが違う」
「何かって、何?」
彩華が不安そうに尋ねる。
わからない。説明できない。だが、この違和感は『俺』にとって致命的な気がする。
「鏡が割れたのに、まだ俺たちは『向こう側』にいるってことですか?」
「可能性は高いな」
「じゃあ、さっきの鏡は……?」
「あれは、単なる入口の一つにすぎない。『向こう側』は、どこにでも繋がっている」
久瀬先輩の言葉が、さらに不安を煽る。
俺は焦燥感に駆られながら、周囲を見渡した。
廊下の壁、床、窓——そこに映る自分の姿が、どれも微妙にズレている気がする。
「どうすれば戻れるんですか?」
彩華の声が震える。
「ここから抜け出すには、自分が誰なのかを『完全に確信』する必要がある」
「確信……?」
俺が呟くと、久瀬先輩は頷いた。
「鏡の世界に入った者は、自己の輪郭が曖昧になる。曖昧になった自己は簡単に書き換えられるんだ。お前たちが『こちら』に囚われているのは、自分の存在を疑っているからだ」
「つまり、自分が『自分』だと確信すれば、元の世界に戻れるってことですか?」
彩華が鋭く切り込む。
「理論上はな。でも、それが簡単にできれば、誰も囚われたりしない」
確信——。
その言葉が、重く胸に刺さる。
俺は、自分自身の名前すら疑い始めている。確信なんて、どこにある?
「どうすれば、自分を取り戻せるんでしょうか?」
俺の問いに、久瀬先輩は少し間を置いてから答えた。
「自分を確信するためには、他人の存在が必要だ。他人からの認識が、自分という存在を補強する」
「それって……」
「そうだ。拓海、お前に必要なのは、『他者からの認識』だ」
他者——それが、彩華や久瀬先輩ということなのか。
「彩華、俺のことをどう認識してる?」
「……どうって、相沢拓海でしょ? 気が弱くてホラーが苦手な、ちょっと頼りない中二男子」
即答され、俺は苦笑する。
「それ以外に、俺を説明できるか?」
「説明って……」
彩華は少し困惑したような表情を見せる。
「私にとって拓海は、怪異に巻き込まれるたびにビビりながらも、ちゃんと逃げずに一緒にいてくれるやつだよ。それに……」
「それに?」
「なんだかんだで、私は拓海のこと、信頼してるし」
彩華は小さく微笑む。
その言葉が胸に響く。
信頼されている。その事実だけで、自分の輪郭が少しはっきりした気がする。
「……久瀬先輩は、俺のことをどう認識してますか?」
「俺にとって、お前は……」
久瀬先輩が何かを言いかけた瞬間だった。
廊下に突如として響いたのは——鋭いチャイムの音だった。
授業の始まりを知らせる、聞き慣れた音。
だが、その響きはどこか歪で、耳障りなものだった。
「何だ……?」
俺たちが周囲を見渡した瞬間、視界の端に何かが映る。
廊下の奥から、一人の生徒がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
「……悠真?」
彩華が小さく呟いた。
確かに、それは神谷悠真だった。
だが、悠真の表情はいつものそれとは明らかに違っていた。
無表情で、虚ろな瞳。機械的に動く足。
「……おい、悠真!」
俺が叫んでも、悠真は反応しない。
ただ、まっすぐに俺たちの方へ歩いてくる。
「……神谷くん、どうしたの?」
彩華が戸惑いながら問いかける。
しかし、悠真は無言のまま立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。
「お前たちは、誰だ?」
低く、響くような声。
その一言が、俺の心臓を強く締めつける。
それは悠真の声のはずだった。だけど、なぜか『別人』のような響きを帯びている。
「……悠真?」
俺の問いかけにも応じず、悠真は淡々と続ける。
「お前たちは、本当に『向こう側』から来たのか?」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
彼が言う『向こう側』は、俺たちの世界なのか、それとも——。
「答えろ。お前たちは『本物』なのか?」
悠真の問いが、俺の輪郭をさらに揺さぶる。
俺は、何も答えられなかった。
けれど、その顔には決定的な違和感があった。見れば見るほど、細かな違いが積み重なって、いつしか『俺』とは別の何かになっていく。
「……拓海?」
彩華の声が聞こえる。
しかし、返事をする余裕はない。
俺はじっと鏡を見つめていた。
「……違う、これは俺じゃない……」
無意識に、言葉が漏れる。
「何が違うんだ?」
久瀬先輩が、淡々と問いかける。
「わかりません。でも、何かが……」
頭の奥が重くなり、思考が霞んでいく。
何かを見落としているような気がした。
「相沢、よく思い出せ。お前が知っている自分の顔と、鏡の中の顔は一致してるか?」
「一致してるはず、です……でも、何かが違う」
「何かって、何?」
彩華が不安そうに尋ねる。
わからない。説明できない。だが、この違和感は『俺』にとって致命的な気がする。
「鏡が割れたのに、まだ俺たちは『向こう側』にいるってことですか?」
「可能性は高いな」
「じゃあ、さっきの鏡は……?」
「あれは、単なる入口の一つにすぎない。『向こう側』は、どこにでも繋がっている」
久瀬先輩の言葉が、さらに不安を煽る。
俺は焦燥感に駆られながら、周囲を見渡した。
廊下の壁、床、窓——そこに映る自分の姿が、どれも微妙にズレている気がする。
「どうすれば戻れるんですか?」
彩華の声が震える。
「ここから抜け出すには、自分が誰なのかを『完全に確信』する必要がある」
「確信……?」
俺が呟くと、久瀬先輩は頷いた。
「鏡の世界に入った者は、自己の輪郭が曖昧になる。曖昧になった自己は簡単に書き換えられるんだ。お前たちが『こちら』に囚われているのは、自分の存在を疑っているからだ」
「つまり、自分が『自分』だと確信すれば、元の世界に戻れるってことですか?」
彩華が鋭く切り込む。
「理論上はな。でも、それが簡単にできれば、誰も囚われたりしない」
確信——。
その言葉が、重く胸に刺さる。
俺は、自分自身の名前すら疑い始めている。確信なんて、どこにある?
「どうすれば、自分を取り戻せるんでしょうか?」
俺の問いに、久瀬先輩は少し間を置いてから答えた。
「自分を確信するためには、他人の存在が必要だ。他人からの認識が、自分という存在を補強する」
「それって……」
「そうだ。拓海、お前に必要なのは、『他者からの認識』だ」
他者——それが、彩華や久瀬先輩ということなのか。
「彩華、俺のことをどう認識してる?」
「……どうって、相沢拓海でしょ? 気が弱くてホラーが苦手な、ちょっと頼りない中二男子」
即答され、俺は苦笑する。
「それ以外に、俺を説明できるか?」
「説明って……」
彩華は少し困惑したような表情を見せる。
「私にとって拓海は、怪異に巻き込まれるたびにビビりながらも、ちゃんと逃げずに一緒にいてくれるやつだよ。それに……」
「それに?」
「なんだかんだで、私は拓海のこと、信頼してるし」
彩華は小さく微笑む。
その言葉が胸に響く。
信頼されている。その事実だけで、自分の輪郭が少しはっきりした気がする。
「……久瀬先輩は、俺のことをどう認識してますか?」
「俺にとって、お前は……」
久瀬先輩が何かを言いかけた瞬間だった。
廊下に突如として響いたのは——鋭いチャイムの音だった。
授業の始まりを知らせる、聞き慣れた音。
だが、その響きはどこか歪で、耳障りなものだった。
「何だ……?」
俺たちが周囲を見渡した瞬間、視界の端に何かが映る。
廊下の奥から、一人の生徒がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
「……悠真?」
彩華が小さく呟いた。
確かに、それは神谷悠真だった。
だが、悠真の表情はいつものそれとは明らかに違っていた。
無表情で、虚ろな瞳。機械的に動く足。
「……おい、悠真!」
俺が叫んでも、悠真は反応しない。
ただ、まっすぐに俺たちの方へ歩いてくる。
「……神谷くん、どうしたの?」
彩華が戸惑いながら問いかける。
しかし、悠真は無言のまま立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。
「お前たちは、誰だ?」
低く、響くような声。
その一言が、俺の心臓を強く締めつける。
それは悠真の声のはずだった。だけど、なぜか『別人』のような響きを帯びている。
「……悠真?」
俺の問いかけにも応じず、悠真は淡々と続ける。
「お前たちは、本当に『向こう側』から来たのか?」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
彼が言う『向こう側』は、俺たちの世界なのか、それとも——。
「答えろ。お前たちは『本物』なのか?」
悠真の問いが、俺の輪郭をさらに揺さぶる。
俺は、何も答えられなかった。
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