1 / 1
貝の怪
しおりを挟む
これは私が子供のころ、お母さんと一緒に近所の浜辺に朝の散歩に行った時の話なんですけど……。
お母さんは浜辺で貝殻を見つけるのが好きで、一緒に探してたんです。冬でとっても寒かったのを覚えてます。でも、浜辺でお母さんと歩いてると不思議と暖かくて。
それで、お母さんが「珍しいの見つけた!」って言ってきたんです。喜んでました。片手にちょっと収まりきらないくらいの貝殻でした。たしかに見たことない感じで、綺麗な貝でした。
お母さんは貝から波の音を聞こうとして、耳に貝をぴたっとくっつけたんです。いつもそうします。そうしていたら、急に黙って、立ったまま動かなくなっちゃって。貝殻も砂浜にぽろっと落としました。
「? お母さーん?」
私は近づいて、正面に立ちました。
「ひっ」
お母さんは白目を向いて小刻みに震えていました。口は半開きで、泡を吹きながらよだれがぽたぽたと滴り落ちていて。
「お母さん! 大丈夫!?」
どうしたらいいかわけもわからず、私は背中を叩いてみました。すごく硬くてピクリともしませんでした。救急車を呼ぼうと思ってスマホに手を伸ばしました。すると、お母さんは海に向かって歩き出したんです。
「ちょっとどこいくの!?」
お母さんのコートを引っ張って食い止めようとしました。でも、車みたいに強い力で進んでいくんです。母はとうとう海に入りました。この日の海は極寒です。
私も海に入りました。心臓が止まりそうなくらい冷たいです。もっと頑張ってお母さんを引っ張りました。どれだけ引っ張っても、ダメでした。叫んで助けを呼びましたが、近くには誰もいませんし、時間もありません。
私は必死に考えました。
――貝殻。
ほとんど、直感みたいなものだと思いますが、あの貝のせいだと思いました。そんなに思考が巡っていたわけではありません。
お母さんが波の音を聞いていた貝殻が落ちている砂浜へ全力疾走しました。
私は貝を拾うと、さらに防波堤まで走ってコンクリートに叩きつけました。貝は砕けました。この時、気味の悪い声がしました。
「きゃあ!!」
お母さんの悲鳴です。
振り返ると、お母さんはもうすでにみぞおちくらいまで海に漬かっている状態でした。でも、正気を取り戻したみたいです。
私はお母さんを迎えに海に入りました。お母さんは寒くて、紫になった唇が震えていました。
「なにこれ? 私、どうしちゃったの?」
「わからないよ。急に海に向かって……」
その時、私は見たのです。
海の向こうに漂う、黒い人の影みたいなものを。
そして人影はこう言いました。
「あと少しだったのに」って。
お母さんは浜辺で貝殻を見つけるのが好きで、一緒に探してたんです。冬でとっても寒かったのを覚えてます。でも、浜辺でお母さんと歩いてると不思議と暖かくて。
それで、お母さんが「珍しいの見つけた!」って言ってきたんです。喜んでました。片手にちょっと収まりきらないくらいの貝殻でした。たしかに見たことない感じで、綺麗な貝でした。
お母さんは貝から波の音を聞こうとして、耳に貝をぴたっとくっつけたんです。いつもそうします。そうしていたら、急に黙って、立ったまま動かなくなっちゃって。貝殻も砂浜にぽろっと落としました。
「? お母さーん?」
私は近づいて、正面に立ちました。
「ひっ」
お母さんは白目を向いて小刻みに震えていました。口は半開きで、泡を吹きながらよだれがぽたぽたと滴り落ちていて。
「お母さん! 大丈夫!?」
どうしたらいいかわけもわからず、私は背中を叩いてみました。すごく硬くてピクリともしませんでした。救急車を呼ぼうと思ってスマホに手を伸ばしました。すると、お母さんは海に向かって歩き出したんです。
「ちょっとどこいくの!?」
お母さんのコートを引っ張って食い止めようとしました。でも、車みたいに強い力で進んでいくんです。母はとうとう海に入りました。この日の海は極寒です。
私も海に入りました。心臓が止まりそうなくらい冷たいです。もっと頑張ってお母さんを引っ張りました。どれだけ引っ張っても、ダメでした。叫んで助けを呼びましたが、近くには誰もいませんし、時間もありません。
私は必死に考えました。
――貝殻。
ほとんど、直感みたいなものだと思いますが、あの貝のせいだと思いました。そんなに思考が巡っていたわけではありません。
お母さんが波の音を聞いていた貝殻が落ちている砂浜へ全力疾走しました。
私は貝を拾うと、さらに防波堤まで走ってコンクリートに叩きつけました。貝は砕けました。この時、気味の悪い声がしました。
「きゃあ!!」
お母さんの悲鳴です。
振り返ると、お母さんはもうすでにみぞおちくらいまで海に漬かっている状態でした。でも、正気を取り戻したみたいです。
私はお母さんを迎えに海に入りました。お母さんは寒くて、紫になった唇が震えていました。
「なにこれ? 私、どうしちゃったの?」
「わからないよ。急に海に向かって……」
その時、私は見たのです。
海の向こうに漂う、黒い人の影みたいなものを。
そして人影はこう言いました。
「あと少しだったのに」って。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる