ウルバノ王子のハッピーエンド

百目鬼笑太

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第3話

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「別に英雄になりたいとか、そんな願望はないんですけどね」
「はっは! 王子殿下は謙虚であられるようだな! 英雄だなんだは関係ねえだろ、てめえのとこの国の一大事だ。働けや、くそ王子」
「働いてるだろうが!」


 パーティーとして選ばれた一人のサイボーグが低い声で罵倒をしてくる。
 サイボーグは他国の出身なので王子でも私に容赦がない。
 他にもやる気のない魔法師と、関西弁でちょっと元気すぎる元暗殺者や、普通っぽい苦労性の拳法家などがいる。
 好感度ゼロから始まり旅の間に少しずつ中を深めていった。
 まるでギャルゲーだな。だが全員、男である。

 私が主人公ならBLゲだろうか。
 でもたぶん、主人公は拳法家だ。それでも需要がおかしい。
 サイボーグに至ってはそもそも世界観が合ってない。
 おいなんで、お前の体の八割が機械なんだよ。お前の半生に何が起きたんだよ。
 頼むから教えてくれよ。


「ま、まあまあ、二人とも落ち着けよ……ほら目的地の魔王城が見えてきた」
「ああ、やっと帰れる……さっさと魔王も倒してしまおうよ。放りっぱなしの研究を残してきているんだよ、ボク」
「いや~、長い旅やったわ~。これで終わるんかと思たら、ちょっと寂しい気分になってこうへん?」
「ならない!」
「ならん!」


 私とサイボーグの声が重なる。
 振り向くと目が合い、そのまま睨み合う。あん?
 いや、本当に。
 ここまでの旅路は省略したけども、本当に大変だったのだ。
 何が大変かって、まず女の子が一人もいないことだよ!!!
 女の子に魔王討伐の旅とかさせられないっしょ、なんて格好つけて女の子の候補者は選ばなかったけど、今ならぜひとも仲間になって欲しい。
 というか土下座してでもお願いしたい。
 男だけっていう空間が続くとどうなるか? まあ、まず遠慮がないわけじゃん。
 旅の途中で風俗とか下ネタとか、くっそやでこいつらマジ。
 いや、そこは男がいなくなったときの女の集団もあれなんで、あんま言えないんですけど……。
 私も道中、下ネタを口にしてた気もするんで言いにくいんですけど……。
 ともあれ思ったのはメイメイもつれてくればよかったなあ、ってことだ。
 可愛いメイメイがいてくれたら、私だって……私だって……!!
 いやでもメイメイを危険な目に遭わすのは!!
 とにかく汗臭いく、むさくるしい旅だったのだ。そこだけはわかってほしい。



 門番や魔王城内の魔物を倒していき、ついに魔王の前にやってきた。
 銀色の髪、褐色の肌、赤い瞳には金の燐光が散らばっている。
 ハイレグのむき出しになった腰で履くマイクロミニスカート、豊かな乳房が今にもこぼれそうなビスチェ……。
 胸元にはハートに似た魔法紋が桃色の光をわずかに放っている。


「よく来たわね……勇者たち」


 美しく艶かしい甘い声色で魔王が囁く。
 瞬間、仲間たちが倒れた。前かがみに。
 は?


「あら……さすがは聖剣の使い手、といったところかしら……? 私のチャームが効かないだなんてね……?」
「は? つまり、は? お前ら、なに? 勃起してるわけか?」
「ちゃうねん! 不可抗力! これは不可抗力や!」
「これはしゃあないでしょ。だって魔王のチャームだし……ボク、ちゃんと魅了避けしといたんだけどな……」


 頬を赤く染めて、暗殺者と魔法師が言い訳をする。
 はあ、ふうん。
 まあ、相手は魔族の頂点に立つ魔王だしね?
 多少は仕方ないかもね? ホントマジで多少はだけどね?

 このさい、プライドからか黙り込んだままのサイボーグと顔を手で覆い隠して微動だにしない拳法家は無視する。


「魔王……なんて卑劣な手を! 私の仲間たちになんてことをー! もう容赦はせんぞ!」


 気を取り直して、聖剣を構える。
 渾身の一太刀を避けられる。
 次と、一歩、足を進ませる。
 足元の床に魔法紋が光った。
 また桃色の光だ。
 がっと体温があがり、思考に靄がかかったように曇った。
 めまいにこめかみを抑える。今度のものは思考事体に働きかける魔、ほうらしい……?


「ふふっ、あなたも私の虜にしてあげる」


 動きを止めた私の耳元で魔王が囁く。
 細い腕を絡めてきて、二の腕に魔王の豊かな乳房の柔らかさを感じた。


「いいのよ……欲に素直におなりなさいな。私の体が欲しいでしょう?」
「…………いや、結構です」
「は!?」


 表情をとろけさせて、ノリノリで誘惑してきていた魔王の顔が固まる。
 鋭い牙がむき出しになり、目に険を浮かべる。


「どういうことよ!」
「いやあの、マジで、いいんで」
「はっ!? 二度も言うな!」


 警戒を隠さずに魔王が私から距離を取った。ぶるんと魔王の乳房が揺れる。
 わ~……ブラしないで痛くねえのかな、あれ。
 チャームの効果がまだ残っているのか、思考はまだぼんにゃりとしている。


「私のチャームが効いていない!? どういうことだ!」
「どうもこうもねえんだわ……」
「訳を言え!」
「じゃあ言うけど。まず、露出が多すぎ」
「なに!?」


 魔王の瞳の中にハートが浮かび、また桃色の光を放った。
 思考の靄が途端に増える。そっちは効くんかい。

「エロスを語るなら! 露出するな! まず着こめ! お前のエロには品がない!」
「なんだと貴様あああああ!!」
「メイドならボタン多めのロングスカート! セーラー服なら黒タイツ!
 修道服は至高! すぐに乳房やら足やらを露出するだけがエロいと思うな!
 普段は真面目なあの子がときどき見せる乱れた姿にこそ、一切の性を感じさせない禁欲的な姿にこそ真なるエロスが宿る!
 エロ衣装はエロくない! ただ下品! もうお前らも死ね!」

 倒れたままの仲間たちに聖剣を投げつける。※峰打ちです。

 がらんがらんと聖剣が床に転がっていくむなしい音が響いた。
 靄が晴れて、ふと思考がはっきりとしてくる。チャームが解けたようだ。
 投げてしまった聖剣を拾い、魔王を見ると顔を赤くして震えていた。
 涙をたたえた目に睨みつけられている。
 そうなると、やべえ、言いすぎたかなという気がしてくる。
 仲間たちに助けを求めて、視線を送る。
 目はそらされた。案の定気まずさが広がる。


「おま、おまえ……よくも、私を下品などと……!」
「ああ、いや……本当のことを言っただけで私はまったく悪くないし謝らないけど、少しだけ言い過ぎたよ」
「っっこの……!! 私だって好きでこんな格好してるんじゃないもん!! お前ら、男だけのパーティーだったから戦闘せずに無力化するためにはしょうがなかったんだもん!!」
「えぇ……好きで、その恰好してる痴女なのかと思った」


 魔王の言葉にぼろっと本音が漏れた。
 まだチャームの名残が……。
 ついに魔王は泣き出した。
 声を張り上げて、妖艶な美女があられもなく幼女のように泣きわめく。


「あ~……ウルバノさま、謝ったら?」
「は?」
「そうだね。少し言い過ぎだと思うよ」
「は?」
「いや~、あんだけ泣かれるとちょっと悪い気いしてくんなあ~……」
「は?」
「くっ、ふふふ……なに、泣かせてるんだよ~謝れよ~」



 ああああああああああああ!?????

「そのノリやめろ!!!!!!!!!!!!!」


 ガチで言ってるやつもどうかと思うけど、それ以上に笑いをこらえて面白半分で言ってるサイボーグ!
 てめえだけは絶対に許さねえからな!!!
 そうしているうちに魔王が動いた。


 魔王の伸ばされた人差し指が私を示す。


「お前なんか! 呪われろ!! ばーか!」


 黒い煙が私の周囲に立ち込めた。
 ぼふんっ。
 ばさっばさっと煙が晴れる間際に魔王が翼を羽ばたかせて逃げ去っていく後ろ姿が見えた。


「お、おい……おっまえ、ウルバノ、か?」
「は? 当たり前だろう。貴殿の目は節穴か、ってあれ、声が変わって……」


 煙が晴れて見えたのは元仲間たちの目を瞠る姿。
 顔を上げなければ、視点が合わない、背が縮んだのか?

 サイボーグの言葉に皮肉を返すと、声自体も高くなっている。
 子供に戻る呪いだろうか。手を見下ろす。
 着こんでいたはずの鎧がぶかぶかになっている。


「……ん?」
「おま、おまえ……!? 女になっちまってるぞ!?」


 サイボーグが叫んだ。
 細く柔らかさをもつ手のひら、確かに子供というよりは女性的であるように思えた。


「まさかあ~そんなはずないって~」


 まさかと思いつつ、念のために胸元の鎧の隙間から手を突っ込み確認する。
 手のひらには微かながら確かな柔らかさ。
 少しだけ馴染みのあるこれは、はい。
 間違いなく乳房ですね。


「っ!! おい! 急患だ!!!」

 それにはさすがの元仲間たちも混乱したのか、とくサイボーグは私を担ぎ上げると全速力で王国へと戻っていった。
 途中では魔法師が移動の魔法を使ったりと、行きよりもはるかに速い速度で城へと戻っていた。

 私の姿を見て城で待っていた国王たちにまで混乱が感染した。
 城中が、否、国中が私の女性化を知り、混乱し続けた。
 これをのちの有識者はTSパニックと呼んだ。



「姫様。準備が整いましたよ」
「……改めてそう呼ばれるのは、慣れないな」
「ふふっ、ではウルバノさま」
「うん。その方がいい」


 魔王討伐の旅から数年が経った。
 国中の魔法有識者たちがこぞって私にかかった呪いを解こうとやっきになったが、呪いが解けて男に戻ることはなかった。
 私は女の姿のまま新たに国を治める女王として、国を治めることになったのだ。
 初めこそ王位に女がなんて、ぐちぐち言う貴族もいたが私は国王の子であり、聖剣を抜いている正当な王位継承者だ。
 文句は言わせないぞ。

 呪いをかけた魔王の思惑はともかく、私はこの結果に満足している。
 鏡台の前に座っていた私へと美しく成長した姿のメイメイが手を差し出す。
 私は、その手を取って立ち上がる。


 けれど呪いを解こうとした副産物で、メイメイにかかっていたいくつもの魔法が解けていた。
 メイメイの体は成長して、さらに美しく、かわいらしく私の隣にいてくれている。


 うん。これは紛れもなく、ハッピーエンドだろう。
 メイメイにエスコートをされて、私は歩く。

 あれから色々とあった。それはもう色々と。
 姫となった私の婚約者として数多の令息たちが立候補したりと色々だ。


「ウルバノ・エル・デルスターよ」
「はい、国王陛下」
「……ここに正式にエル・デルスター王国の次の王となる。良き君主として務めなさい」
「もちろんにございます。父上」


 中央で待つ父が私の頭に王冠を被せた。
 略式ではあるが、王笏を受け取り私は玉座の前に立った。


 私は王国初の女王になった。そして私の傍には今でもメイメイがいる。


 ああなんて、ハッピーエンドなのかしら。



 数年後。
 私は女好きの聖剣をうっかり抜いてしまう男装少女と出会うのだけど、それは全く別の話だ。
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