チャラ男でヤリチンのこの俺が、女装男子を好きになるワケが無いッ!!

庵慈莉仁

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チャラ男でヤリチンのこの俺が、女装男子を好きになるワケが無いッ!!

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 パンッ!!

 小気味良い音の後に、ジンワリと自分の頬が熱を持ち始める。

 途端に周りにいた人達がざわつき出し、俺達が注目を集めるようになると

 「最ッ低!!」

 一際大きな声で更に注目されたいのか、目の前にはギッと俺を睨んで、その目から今にも大粒の涙が零れそうなセフレがいる。

 「だから、何もしてね~って言ってんじゃん?」

 「は?証拠あるんですけど?アンタが浮気した相手、私の友達の友達なんだからねッ!」

 あ~~………、それは詰んだな。

 その台詞を聞いて俺は大きく溜め息を吐き出すと、諦めたように肩を竦め

 「だから、何?俺ミサキに付き合おうとか言ってね~よな?」

 「はぁ?……、することしといて何言い出し……」

 「だ~か~らッ、彼女でもね~のにビンタされる筋合い無くね?」

 「……ッ」

 流石に俺が言った言葉に傷付いたのか、ミサキは口をギュッと引き結んでポロリと一滴目から溢れ出した水滴が頬に道筋を作る。

 あ~~~……、面倒臭い。

 「何回かヤった位で彼女面されんのも面倒だし、ミサキが嫌なら別れよう?ま、俺達始まっても無かったケド」

 俺はそう言うと、壁にもたれ掛かっていた上体を起こしてクルリと踵を返す。

 「このッ……、腐れヤリチン野郎ッ!」

 背中にミサキの台詞が刺さるが、俺は涼しい顔をして大学のカフェテラスを出て行く。

 ザワザワと俺達の事を遠目に見ていた野次馬から、『酷い』とか『最低』とか聞こえてくるが、言われ慣れている俺にはさほどダメージは無い。し、直ぐに次が見つかる事も解っている。

 俺の名前は、佐久間清文。

 大学三回生の俺は、ハッキリ言ってモテる。

 モテるが故に彼女を作らず、何人かのセフレと楽しいお付き合いをして大学ライフを謳歌しているのだが、さっきみたいな女もごく稀にいてその度にヒソヒソと俺の事をディスる奴もいる。が

 「清~、見たよ。良いビンタもらってたね~」

 「痛そう、大丈夫だった?」

 大学のカフェテラスから出た俺の背中に、面白そうにそう声をかけてくる奴もいる。

 俺はクルリと声のした方へ振り返り

 「マジで最悪だわ、今日遊ばね?慰めてよ」

 ワラワラと俺に近付いてくる男女に向かって呟くと

 「アハハッ、切り替え早過ぎ無い?」

 「あ、今日パーティあるよ?一緒に行く?」

 と、俺を囲んで一つのグループが出来上がる。

 「何、何のパーティ?飲まないとやってらんね~わ」

 なんて大袈裟に打たれた頬を手の平で覆いながら言葉を返すと、そんな俺をからかうようにワッと笑いがおきて周りが一気に賑やかになる。

 俺がいつも連んでいる奴等は、大学では目立つ部類のグループだ。

 皆自分が俺同様に他の人からどう見られているのか解っている奴等だし、それ故に遊び慣れている。そんな奴等と適度に連んで、深入りはしない。

 俺は誰に対しても自分の金や時間、労力を使う奴は馬鹿だと思っているし、相手に使う位なら惜しみ無く自分に使いたい主義だ。だから恋愛感情も不要。そんな感情があるから相手に振り回される。さっきの女みたいに自分の醜い部分をさらけ出さないといけなくなる。

 気持ち良い事だけ。体の関係だけで十分だろ?

 アハハ。と笑いながら今日の予定を埋めて、俺達は講義を受けにその場から歩き出した。


          ◇


 「清~、こっち、こっち!」

 ドンドンドン……、と低音のバスが鳴り響くクラブの箱で見知った顔が俺を見付けて手を振っている。

 俺はそちらに吸い込まれるように、片手に酒の入った瓶を持って近付くと

 「遅かったじゃん」

 と、上目遣いで俺を見詰める彼女の肩をスマートに抱くと

 「悪い、さっきあっちで声かけられてたから」

 先程まで違う女に声をかけられて、しばらく話をした後番号を交換していた。

 大きな音に相手の耳元でそう言って、曲に合わせて軽くリズムを取る。

 「可愛い子いた?」

 肩を抱いている彼女は、一番長く続いているセフレだ。一応彼女には本命の彼氏がいるらしいが、仕事が忙しくあまり会えないらしい。

 で、その隙間を埋めているのが俺ってワケ。

 「ん~~、リカが一番かな?」

 「またまた~」

 言い慣れた台詞を吐き、相手もそれは解っているが、言われて嫌な気にはならない。

 その証拠に満更でもないような表情で俺に体を擦り寄せてくる。

 ホラね。大抵はなんでもイージーモードだ。

 「次、ゲストが回すらしいからフロア行こうよ」

 テクノ界隈では少し有名なDJが本日のゲストで回すらしく、先程よりも人が増えてきた。リカもファンらしく俺にそう言ってくるが、正直俺はあまり興味が無い。

 それよりも今日あった最悪の出来事をセックスで発散したい欲の方が大きい。

 「ん~~……」

 生返事を返して、腕を引っ張られるまま足を動かしているが、視線を周りに動かして良い子がいないかとチェックする。

 と

 ドンッ、バシャッ。

 冷たい感触が腹から腰にかけて広がり、俺は視線を下へと向ける。

 「あッ…………、ごめんなさい」

 自分が持っている飲み物を俺にぶちまけた彼女が、気不味そうに顔を下に向けて言っている。

 俺は心の中で最悪……。と呟いて、相手の顎を掴みグイと自分の方へ向かせるように持ち上げると

 「あ……」

 まさか相手も俺から顎クイされるとは思っていなかったのか、驚いたような表情で俺に視線を向け

 「あの……?」

 戸惑うように俺を見詰めるが、俺は俺で相手を凝視してしまう。

 …………………。タイプだ。

 女でも身長が高いのか、俺の隣に立っていてもスラリと伸びた手足が目に付く。

 顔も小さく、黒目が大きい。目はパッチリ二重ではないものの横に広く色気がある。
 鼻筋も通っていて、唇の形も良い。

 「悪いと思ってるなら、ちょっと俺に付き合ってよ」

 「えッ?」

 「ちょっと、清!?」

 俺は彼女の手首を掴むと、傍らにいたセフレを置いて人波を掻き分けカウンターへと進んで行く。

 俺の行動に手首を掴まれた彼女は戸惑いながらも引き摺られるように付いて来るしかないし、リカは後ろで俺に悪態をついている。

 カウンターは先程よりも人は少ない。

 皆ゲストDJを見にフロアへと行っているからだ。

 「さて、さっきのお詫びに何か一杯奢ってよ?」

 ニコリと彼女に向かって笑いそう言う俺を、彼女はポカンと見ていて

 「てか、何ちゃん?」

 そんな彼女を無視して俺は聞きたい事を尋ねると、彼女もハッとなり

 「……………、レイ……」

 とだけ答える。

 「レイちゃん、俺は清文。レイちゃんはお酒飲める子かな?」

 飲めるのならばテキーラを飲ませたい。
 早く酔わせて何処かのホテルに行きたいから。

 「まぁ……、飲めるかな」

 先程も思ったが、思いの外レイちゃんはハスキーボイスだ。

 もしかしたら結構な酒豪かもしれない。ならばなおの事強い酒を飲ませるのがベターだろう。

 「だったら一緒にテキーラ飲もうよ?」

 「イヤ、その前に服……濡れたまま……」

 「ん?気になる?」

 チラチラと自分が濡らしてしまった服を見ているレイちゃんに笑顔でそう言い、俺はカウンターの中にいるスタッフに手を上げ、おしぼりとテキーラをお願いする。それと同時に手に持っていた酒の瓶を下げてもらい

 「これで気にならない?」

 もらったおしぼりでトントンと濡れた服を叩くようにすると

 「本当、ごめんなさい……」

 と、もう一度謝ってくるから

 「良いって気にしないで、そのかわり注文したテキーラは奢ってね?」

 笑いながら言った俺にレイちゃんは小さくコクリと頷き、スタッフが用意した酒にお金を払っている。

 ……………、なんだかチョロそうだな。

 カウンターに置かれた酒の一方をこちらにスッと差し出され、俺はショットグラスを持つと

 「じゃぁ、いただきます」

 レイちゃんも持ったグラスにカチリとグラスを合わせて、グイと勢い良く煽り側に置かれたレモンを口の中へと直ぐに持っていく。

 喉が焼けるような感覚のすぐ後に、レモンがそれを押して後味を消す。

 隣を見ると、レイちゃんも俺同様に煽っているから

 「アッハ、飲める口だね。じゃぁ次はご返杯」

 そう言って俺は再度スタッフに同じ物を注文し、今度は俺が金を払う。

 「え?……、それだと意味……無い」

 「ん?まぁ、良いじゃん。まだ飲めるでしょ?」

 「まぁ……」

 「じゃぁ、付き合ってよ。今日は本当嫌な事あってさ飲まないとって思ってたから」

 それは本当の事だ。

 ニコニコと笑顔で言う俺を、レイちゃんはジッと見詰めている。

 俺の周りにはいないタイプの子だよな~と改めて思う。

 ちゃんと意思疎通は出来るケド、うるさくない。俺の周りには派手で良く喋る奴が多いからこういう子も新鮮だ。

 ……………、ちっぱいだけどな……。

 着ている服の中身を想像しながらレイちゃんを見れば、胸はあんまり無い。モデル体型だからかな?と自分を納得させるが、まぁ、無いよりはあった方が俺的は良かったケド、こんなにもタイプの子だ。欲張り過ぎも良くない。

 「今日は誰かと来てたの?」

 二杯目を飲んでそう尋ねると

 「ン……、付き添いで来たけど、はぐれて……」

 「そっか……人多いもんね」

 「ン……」

 およ?もしかして、良い感じに酔ってきてる?

 多分、俺にぶつかる前から酒は飲んでたっぽいし、それにくわえてのテキーラだ。俺の台詞に反応はしてくれているものの、先程よりは目がトロンとしてるかな?

 「レイちゃん、ちょっとここで待っててくれる?俺、トイレ行ってきたい」

 「ン……解った」

 ニコリとレイちゃんにそう言って、一度彼女の頭をポンポンと撫でると、俺はその場から離れる。

 俺も結構酒を飲んでいる。

 クラブに来てから、声をかけられる度に奢ったり奢られたりしていたから、水分が体から出たいと言っているのだ。

 酒はあまり好きな方でも無いが、家系的に強い方なのだろう。成人してから飲むようになったが、記憶を無くした事はない。

 俺と同じ量を飲んでた奴は潰れたから、そういう事なんだなと思ってる位だけど……。

 用を足して、手を洗いながら髪型をチェック。その後に財布を取り出してポケットローションとゴムが入っている事も確認すると、俺はカウンターヘ戻り

 「お待たせ~」

 人混みからカウンターにレイちゃんの姿を見付け、逃げずに待ってくれていた事に期待値が上がってしまう。

 隣に戻ると

 「これ、一応また頼んだんだけど……飲む?」

 カウンターの上には、テキーラでは無い酒が二つ用意されていて

 「え、頼んでくれたの?ありがとう」

 レイちゃんから酒を注文してくれていた事に、今日はイケそうだなと確信に変わった俺は、ニコリと笑顔でそう言ってグラスを持つと一口飲む。

 俺が飲むところをジッと見詰めて、レイちゃんも続いて飲むと

 「この後って、何か予定あったりするの?」

 なんて、彼女の方からの問いかけに

 「俺は無いけど、レイちゃんは?」

 聞き返した俺に、彼女は首を左右に振ると

 「良かったら一緒に抜け出さない?」

 少し伺うように上目遣いでそう言う彼女に、俺はさり気なく腰に手を回して

 「良いよ~、静かなところで映画でも見よっか?」

 再度ニコリと笑いかけながらレイちゃんにそう言って、俺はグラスの酒を飲み干すとそのまま彼女と一緒にクラブを後にする。

 外に出て、俺がよく使っているクラブから近いラブホへと歩き出すと

 「映画って……どこで見るの?」

 不思議そうに聞いてくる彼女に視線を向けながら

 「ん、大きいお風呂もあるよ?一緒に入る?」

 あからさまにラブホを匂わせて言った俺の台詞に、レイちゃんは意外にもニコリと笑って

 「それは今度ね」

 と、俺に言う。

 先ほどとはうって変わっての積極的な物言いに、俺も笑顔だけ向けるが少し違和感を感じる。さっきまで控え目だったのに、俺がトイレから戻って来てからの反応が………。

 けれどまぁいい……、今日はタイプの子に慰めてもらえるし、今度と言っていると言う事は次も会えるかもしれないのだ。

 ラブホに着いたら番号を交換しよう。と、俺はこれからの楽しい時間を想像してニヤリと口元を歪めた。

 ラブホに着いてレイちゃんと早速番号交換した俺は

 「先にお風呂入る?」

 と、彼女に尋ねる。

 彼女はあまりラブホに来た事が無いのか、キョロキョロと辺りを物珍しそうに見渡しながら俺の問い掛けに

 「後からで良いよ、清文君先にどうぞ」

 言いながらレイちゃんの視線が俺の服を見ているから、俺はあぁと納得する。

 あらかた乾いてはいるが、自分が酒をかけてしまった部分が気になるのだ。

 「そ?じゃぁゆっくり時間潰してて」

 レイちゃんの言葉に甘えて、俺はそう言い残して一人バスルームへと足を向ける。

 服を脱いでザッと汗だけ流そうとドアを開けて入ると、シャワーのコックを捻って出てきたお湯に体をあてる。手近にあるボディーソープのポンプからソープを出し体に塗り付けると少し泡立った体をシャワーで流し……

 ドクンッ。ド、ドク、ドク、ドク……。

 突然動悸が早くなってきた俺は、シャワーのせいで酒のまわりが良くなったのか?と早々にバスルームから出ると、下着にホテルのバスローブを着て部屋へと戻る。

 「おかえり」

 ベッドに座って、自分のスマホで何かを見ていたレイちゃんが俺を視界に捉えてそう言うと、スマホをかたわらに置いていたバッグヘとしまい俺の顔を見詰める。

 「顔少し赤いね、お酒まわってる?」

 ニコリと笑いながらも少し心配そうに聞いてきたので

 「そうかも、いつもはこんな事ないんだけどね」

 苦笑いしながらレイちゃんの隣に俺も腰を下ろして言うと

 「お風呂入っちゃったからかな……」

 言いながら指先で俺の首筋をスリリッと撫で上げると

 「ンゥ……ッ」

 ゾワッとした感覚に小さく吐息が漏れてしまう。

 俺は反射的にその指から逃れるように顔を仰け反らせ彼女から少し距離を取り、戸惑うように苦笑いを浮かべると、そんな俺を見て彼女はズイッと俺との間を詰めると俺の膝に乗ってきて

 「もしかして、気持ち良かった?」

 面白そうに言いながら俺が羽織っているバスローブの前をはだけさせると、あらわになった俺の胸に手の平をあてて円を描くように滑らす。

 「え?……ッ、ンなワケ……、ンァッ……」

 否定の言葉を発しながらレイちゃんの手が胸を撫でると、途端に俺の口から気持ち良さ気な吐息が漏れ出て俺は頭に幾つもの?が飛ぶ。

 触れられたところから甘い疼きが広がり、動悸も激しくなる。

 上半身を捩るようにしてくねらせ、レイちゃんから距離を取ろうとするが

 「なんで逃げるの?気持ち良い事しよ?」

 と、耳元で囁かれゾクンと甘い痺れが下半身に広がる。それと同時にレイちゃんが体重を俺にかけるから、俺はドサリとベッドへと倒れる形になってしまって……。

 積極的な子は大歓迎だが、自分の体の変化に戸惑う俺は酒だけでこんなになるのか?と考えを逡巡させていると……

 「ん、どうしたの?考え事?」

 楽しそうに上から俺に声をかけながら、彼女はバスローブの腰紐をシュルリと引き抜き、グイと俺の両手をひとまとめにして上にあげると

 「余裕だね?」

 満面の笑顔で引き抜いた紐を、上にあげた両手首に器用に巻き付けていく。

 「あ?……、何、して……」

 俺はグルグル考えている思考と、触られている所から広がる気持ち良さに反応がワンテンポ遅れがちだ。だからレイちゃんが俺の手首を紐で固定した時には、もう全てが遅かったのだと思う。

 俺の問い掛けにレイちゃんは肩を竦めながら

 「何って、暴れられたら困るから?」

 呟く台詞に、俺が暴れるような事をするのか?と不安が過ぎって少し体をビクつかせて固くなった俺に

 「大丈夫だよ、気持ち良くしてあげるだけだから」

 クスリと笑って彼女の両手が俺の上半身に伸びたかと思うと、思いの外ソフトタッチで下から上に撫で上げるように手が這う。

 「……ッンァ、……な、何……ッ?」

 たったそれだけの事で得も言われぬ快感が体中を駆け巡る。

 俺は初めての感覚に息を呑み、自分の意思とは関係無くそうなってしまう体に戸惑って丸く縮こまろうと体を捩るが

 「駄目だよ丸くなっちゃ、触れないじゃん」

 俺に馬乗りになっているレイちゃんを見上げて、俺は震える口を開くと

 「お前……ッ、俺に何、した……?」

 あの位の酒で酔った事は無い。それに彼女はずっと余裕そうだ……。

 呟いた俺の台詞に一瞬彼女は目を見開き、次いでは面白そうに

 「あ、バレちゃった?」

 可愛くペロッと舌先を唇から覗かせてそう言うと

 「でも大丈夫だよ?体には影響無いヤツだから。ね?」

 ニコニコと上からそう呟いて、滑らせている両手が俺の乳首を掠めたと思ったら、爪先でピンピンと弾くように動き出す。

 「アッ?……、ヒンッ……止めッ、止めろッ……」

 「止めちゃっていいの?気持ち良くて立ってるのに?」

 彼女の言葉に俺は戸惑う。今まで乳首を気持ち良いと感じた事が無かったのに、今はそこを触られる度にビリビリと電流が走るような疼きが広がるからだ。

 先ほど彼女が言っていた『体には影響が無い』と言う台詞に、多分酒に何かを入れられたのだと思う。じゃなければ、こんなにも自分の体が自分の思い通りにならないなんて事……。

 俺は体を触られながら色々と考える。

 彼女と会ったのは今日が初めてのはず。だから彼女本人から恨みを買う事は無い。ならば今までに酷く振った奴等の中の友達か何かで、俺を陥れるつもりでは?

 その答えに行き着いた俺はゾッとして、縛られている手首を解こうと腕を動かすが、うまく力が入らない。

 「ん?どうしたの?」

 モダモダと腕を動かし始めた俺を不思議そうに首を傾げながら彼女が見詰め、途端にクスリと笑うと

 「力入んないから、動かしても無駄だと思うよ?」

 「なんで、こんな事……」

 レイちゃんの意図が解らず呟く俺に、彼女は口角を持ち上げたまま

 「なんで?……、気持ち良かったらなんでも良くない?それとも清文君はマウント取って無いと落ち着かない人?」

 その台詞に俺は益々混乱する。

 俺が振った奴等とも関係が無い、のか?

 彼女の言っているように、気持ち良い事だけする為に俺にクスリを盛って手首を縛ってるって事か?

 「……………、なんでも良いケド、コレ外してよ……」

 力が入らない今、自分では解けない手首を少し持ち上げてお願いするが

 「駄目だよ、逃げられたら嫌だから」

 薬であまり体が動かないのに、レイちゃんは手首も拘束していたいらしい。

 「逃げられ、無いだろ……ッ?」

 現状を見ろよと言葉を飲み込んで呟くが

 「さぁ?どうだろ?」

 そう言って、再び俺の体へと手を伸ばし撫でてくる。

 「もう喋るのは無し、可愛く喘いでね?」

 茶目っ気いっぱいにニコリと笑って、先ほど同様に俺の乳首へと指先を滑らすと、親指の腹で捏ねるように愛撫されれば

 「ンゥ……ッ、クァッ……止めッ」

 「止めて良いのって?こっちも乳首でガチガチになってるけど?」

 両方の指で弄っていたが、レイちゃんは言いながら片方を俺の下半身へと伸ばし、ボクサーの中で膨らみ勃ち上がっているモノを指先でスリリッと下から上へと撫で上げる。

 「外せッ……ンァ、止め、ろ……ッて」

 クソッ、マジで俺の体……ッどうなってる?
気持ち、良いッ……、アッ、乳首……そんな、したらッ……。

 「乳首気持ち良ぃんだ?腰動いてるよ?」

 レイちゃんの台詞にドキリとする。

 触られるところからの快感に、無意識に腰が浮き上下に振っていたのだ。彼女にそう指摘され、俺はカァッと顔が赤くなるのを感じていた。

 「恥ずかしいの?いいのに、素直に気持ち良くなって」

 クスリと笑いながらレイちゃんは俺の勃ち上がったモノをボクサーの上から握ると

 「汚すからもう脱ごうか?」

 言いながら、スリッとボクサーのウエストに指を引っ掛けて一気に下へずりおろすと、ブルンッと勢い良く俺のモノが顔を出す。

 「ンゥ、ゥ……」

 ボクサーの布が擦れる感触も気持ち良く、俺は小さく呻くと

 「アハ、お腹に引っ付きそうなほど勃ってるね、痛く無い?」

 ツンツンと裏筋のカリ首から鈴口にかけて指先で突かれ、ビクビクッと自分のモノが反応する。

 「ハ、……ッァ」

 もっと直接的な刺激が欲しくて、触れる指先にあてるように腰を動かし擦り付けるようにしていると

 「自分で擦り付けてるじゃん、気持ち良い?」

 無意識に快感の方へと流されている自分に気付いて、グッと堪えるように動きを止めようとする俺に

 「気持ち良くなって良いんだよ?」

 言いながらまた乳首に手を伸ばし、親指と人差指で潰すように摘んだかと思うと、刺激に立ち上がった乳首を今度はそのまま扱くように動かしていく。

 「アッ……、ンァ、イ……ッ、アァ……」

 さっきよりも強く刺激され、喉を仰け反らせてしまった俺に彼女はギュッと俺のモノを握って

 「乳首とこっち、どっちでイキたい?」

 ニコニコと笑顔でちっとも笑えない事を口にする。

 「ぇ……ァ……ッ、そっち……、でイキ……ッたい……」

 俺はレイちゃんが握っている自分のモノを見詰めながら呟くが

 「ん?なに?」

 俺がどちらでイキたいのか解るはずなのに、彼女は首を傾げて俺に聞き返す。

 俺は弄られている乳首の刺激で、握られているモノを扱いてもらおうと再び腰を浮かし上下に振ろうとするが

 「だから、どっちでイキたいのか聞いてるのに勝手に動いちゃ駄目だよ」

 握っている俺のモノに圧力をかけられ、俺は眉間に皺を寄せる。

 痛いはずなのに、キツさも気持ち良く感じてしまう。

 「フゥゥ、ン……ッ、ア……、イキ、たい……」

 彼女は俺にハッキリとどちらでイキたいのか言わせたいみたいだが、俺はもう上手く言葉を紡げないでいた。

 イキたい……ッ、もっと強く、……扱いて、欲しい……ッ。

 「もう、言えないか……」

 呟いたレイちゃんは、握っていた手を俺のモノから離すと、その手を上へと伸ばし両手の指で乳首を愛撫し始める。

 「ンァッ、ア……ッ、ヤダ、……ヒゥ……ッ」

 先ほど同様に立ち上がった乳首を指で挟んで扱くと、次いでは爪先でカリカリと弾く。

 俺の思考は徐々に彼女がどうして俺にクスリを飲ませたのか?とか、誰かと繋がっているのか?なんてのを考える余裕が無くなり、ただ体の熱を吐き出したいという欲求だけに頭が支配される。

 「ン、ィ~~ッ……、アッ、アゥ……ッ」

 「乳首だけで、イケそうだね?」

 弄られる度にビクビクと震えるモノを見詰めながらそう呟くレイちゃんは、乳首にあてている指を片方外して自分の口の中に入れると、タップリと唾液をまとわせてから再び俺の乳首へと指を這わす。

 片方とは違うぬるついた感触に俺は息を呑んで喉を反らし

 「アッ……、ハァ……ンンッ」

 堪らず彼女から与えられる感触に喘いでしまう。

 「ん、こっちの方が反応良いね?」

 笑いながらもう片方も同じように唾液を付けて両方弄るから……

 ア…………、駄目、だ……ッ、もぅ、……、そんな、にしたら……ッ、もぅ……ッ!

 限界の近い俺の反応を注意深く見ていたレイちゃんは、ぬるつく両指で扱くようにしていた乳首に圧を加えて引っ張るように抓上げた刹那、俺の腰から背骨を通って頭の先まで強烈な電流が流れた感覚に、俺は背中を反らせてガクガクと体を痙攣させる。

 「アァッ、~~~~ッッ!!!」

 俺のモノからは、触られてもいないのに白濁の精液が勢い良く鈴口から発射され、自分の腹を汚している。

 ………ッ!?は?……、え?お、俺……、イッたのか……ッ?ちんぽ触られても、無い……のに?

 自分の意志とは関係無く体が暴走する事実に戸惑いながらも、快楽にまだヒクヒクと内腿が痙攣していると

 「乳首でイケたね~、じゃぁ今度はコッチでイこうね?」

 ぬるついた指を外してもう一度自分の口の中に指を入れながらレイちゃんが俺に言うと、出した指を下へと持っていくので俺は今度こそ触ってもらえるのかと期待していたが、彼女は俺のモノからさらに下に指をずらすと固く閉じた部分にグッと指先を押し付ける。

 「ハ、ェ……ッ?な、何……?」

 「ん~~?男の人でしか味わえない快感を、味わってもらおうかなって?」

 そうしてぬるついた指を俺の中へと入れ、クイクイと何かを探るような動きをするので、俺はその気持ち悪さにハクハクと口を動かして

 「ィ、……ッヤダ……、止めてッ……」

 と、小さく懇願するが

 「大丈夫だよ、すぐに気持ち良くなるから」

 なんて、止める気配の無い声音に一度レイちゃんを見れば、ジッと俺の反応を見ていた彼女と視線が合うが、俺の視界に入った途端ニコリと笑顔になって

 「怖くないからね?」

 優しく上から俺にそう言うが、言いながら指の本数を増やす彼女に、俺は眉間の皺を深くさせる。

 ぬるついた指はさほど抵抗感無く俺の中へと入ってくるが、初めて中に入っている指の感触は気持ち悪く、圧迫感もあり恐怖だ。

 そこから快感を得られるとは到底信じがたい。

 薬で、体に力が入らない俺を好き勝手にしている彼女は、一人「この辺なんだけどな~……」と、ワケの解らない事を呟いている。だが、

 「アッ……!!」

 彼女の指が俺の内壁の一部分を押した瞬間、ジンッとそこから広がる気持ち良さに俺は声を上げてしまった。

 「ここ?」

 頭の中で?が飛び交っている俺に、レイちゃんはそう聞いてくるが、何をされているのか解らない俺は答えることができずにいた。するともう一度同じか所を彼女がグリッと指で押すと

 「ヒ、ァ゛ッ!……ッ」

 そこからまたビリビリと気持ち良い感覚が広がって、俺は出した事の無い声を上げてしまう。

 「ビンゴだね」

 俺の中で良いか所を見付けて嬉しいのか、少し声が上擦りながらそう言って執拗にそこをグリグリと押し始めたレイちゃんに、俺は首を左右に振り

 「ヤ、ァ……ッ、ダメッ、ダメ……だっ、てぇ……」

 他人や自分でさえも触れた事の無いか所を攻められ、気持ち良くなる恐怖に俺は彼女に懇願に似た声を上げるが

 「大丈夫だよ?ダメじゃなくて、気持ち良いって言ってごらん?」

 子供をあやすみたいに、上半身をグッと俺に近付け頬にチュッ、チュッと音を出しながらキスして囁く彼女の細い腕を掴み

 「こ……ッ、怖い……、怖いぃ~……」

 腰から背中を通って頭まで電流が流れる度に、快感に呑まれそうになる自分が怖くてジワリと溢れた涙が頬を流れる。その度に「怖く無い、怖く無い」とキスしながら彼女が耳元で呟くから……。

 「ンゥ……ッ、ィ……、ィ……ッ気持ち、良い……ッ持ち……良、ィ~……」

 震える唇から教わった台詞を呟くと、中に入っている指が押す事を止めて、ぷっくりとしこりのように出ているモノを指で挟んで両側から圧をかける。

 「ンッ、ヒ……ッ、ア゛ッ、アァ゛~……」

 潰されるように刺激された瞬間に、目の前にチカチカと星が飛び、俺はビクンッと腰が跳ねると意識せずに再び射精してしまう。

 「ァ゛ッ……、ア゛~~~~……」

 「また出ちゃったね、気持ち良かった?」

 白濁を出し、気持ち良さにヒクヒクと喉が震えている俺の唇にスリッとかすめるようにレイちゃんが唇を合わせる。

 …………、あ、キス…………?

 ボウッとする頭でも唇の感触は生々しく、離れていく唇を追いかけるように俺は顔を動かすと

 「ん?どうしたの?」

 俺が何をしたいのか解らなかったレイちゃんが距離をおこうとした顔を止め、そう俺に尋ねてくるから、俺はそのまま近くにある彼女の唇を舌を伸ばしてペロリと舐めた。

 俺が唇を舐めた事が意外だったのか、レイちゃんは驚いたように目を見開きしばらく固まっていたが、俺がずっと唇を舐めていると彼女も自分の舌を伸ばして俺のと絡める。

 ンゥ……ッ、キス……気持ち、良い……ッ。

 舌だけを絡めていたが、レイちゃんがもう少し俺との距離を詰めた事で、唇も触れ二人で深く口付けを交わす。

 「フゥ、ンッ……、ンン……」

 心地良い感覚に俺の吐息も甘いものへと変わっていく。

 俺は夢中で彼女とディープキスをしていると、彼女はゴソゴソと腕を伸ばして何かをしていて、一度名残惜しそうに俺から唇を離し俺に優しい眼差しを向けながら

 「清文君、キス好きなんだ?」

 言いながらスリッと頬を撫でられ、離れていく指先にもっと撫でて欲しくて、その指に俺から頬を擦り寄せると

 「……ッ、何それ……可愛いね」

 一言ポソリと呟いて、チュッと軽く唇にキスすると、腕を伸ばしてベッドヘッドに置いてあった物を掴み俺の目の前にさらす。

 レイちゃんが手に持っているのは、ヘアゴム。

 小さなパッケージに入っているゴムを取り出すと

 「今度は中でイッてみようか?」

 「……………、は、ぇ……?」

 中でイクとは……?何を言っているんだ?

 レイちゃんの言っている事の意味が解らず、ジッと顔を見詰めていると彼女は俺の視線に気付いてニコッと笑顔で

 「さっきよりもきっと気持ち良いよ?」

 取り出したゴムを手に持って、スススと上半身から下半身へと下ろすと、先ほど達したばかりなのにもう半勃ちになっている俺のモノを掴み

 「ケド、こっちではイカさないね?」

 そう言って持っていたゴムを半勃ちになっているモノと睾丸の付け根部分にギチッとはめる。

 「ンァ……ッ、何、して…………ッ」

 ゴムでキツく縛り上げられている感覚に、俺は眉間に皺を寄せて彼女に呟くと

 「大丈夫だよ、さっきよりも気持ち良くなるって言ったよね?」

 中に入ったままの指は、今度は上下にスライドさせるように擦るのでは無く、左右に揺らすように動きを変える。

 「~~~~ッ♡ア゛ッ、ヒ、……ッ?」

 「こっちの方が好き?」

 挟まれたか所をブルブルと揺さぶられ、全身に力が入った俺は、ピンッと脚が伸び腹筋が痙攣し始める。

 「ァ、ア゛~~~ッ♡それ、……ヤバ、い」

 先程の両側から押し潰されるのもヤバかったが、揺さぶられる感覚はまるで叩かれているようで……、俺の口から甘い矯声が漏れるとレイちゃんは

 「気持ち良さそう……ッ、お腹フルフルしてるし……、イキそう?」

 俺の耳元でそう呟き、空いているもう片方の手を痙攣している腹の上に置くと、グッと力を入れて押す。

 「ヒッ、ア゛~~~……ッ、お゛♡……ングゥ……」

 押された圧迫感で、中で弄られてプックリとしているところが押し潰されると同時に左右に叩かれる感覚が合わさり、俺はビクンッと体を跳ねさせ背中をしならせてしまう。

 「お?ナカイキ出来そうだね?」

 レイちゃんの言葉が聞こえてくるが、何を言っているのかは理解できずに、それよりも自分が変なイキかたをしてしまいそうで恐怖の方が上回る。

 俺のモノはゴムで射精をせき止められている為、緩く先走りみたいにピュッ、ピュッと漏れる感じに出るだけで、気持ち良く射精出来ない歯痒さと体の奥から与えられる快感で脳が焼き切れてしまいそうだ。

 「い、イ゛ヤだ……ッ、止めッ、で……」

 「だから、違うじゃん?気持ち良いでしょ?」

 言いながらレイちゃんが強く腹を押した瞬間、揺さぶられているか所と上からの圧力が加わり目の前が真っ白になる。

 「~~~~~ッ♡♡♡」

 声にならない喘ぎに喉を仰け反らせ、ハクハクと空気を噛むと

 「あ~~……ッ、上手にメスイキしてるね?凄い指締め付けてる……」

 経験したことの無いイキ方に、全身を震わせながら長く射精に似た快感を体の内側で体感する。

 くたぁ。と体から力が抜けると彼女の指がゆっくりと俺の中から出ていくので、これでやっと開放される。と思っていると

 「はぁ……ッ、限界……」

 レイちゃんは小さく呟いて一度俺の唇を奪い、穿いているスカートを捲し上げながら

 「今度は一緒に気持ち良くなろうね?」

 ニヤリと笑って言う彼女に、やっとまともなセックスが出来るのか……と少し安堵している自分がいたが、捲し上げたスカートの中から見えたのは女性の下着から見慣れた勃起したモノで………。

 俺はそこで完全に思考がストップしてしまい、ジッとそのか所を凝視してしまう。

 ……………、え?……、は?…………俺の目の前にあるのは……チンコ……か?

 ヘアゴムを取った時に一緒に持っていたのかコンドームをいきり勃っている自分のモノに装着し、一度俺の上半身を跨ぐとローションを手に取ろうとして傾いた彼女のロングヘアが、丁度縛られている俺の近くにきたので、俺は毛先をグッと掴みながら

 「な、何を……ッてか……、誰……ッ!?」

 あまり頭の回らない状態で、全てを上手く喋る事ができない俺に

 「あ……ッ、髪引っ張ったら……」

 レイちゃんは少し狼狽えるようにそう呟きながら頭のてっぺんを自分の手の平で押さえつけようとしていたが、それよりも俺の引っ張るスピードが早かった為か、ズルリと長い髪が彼女の頭から剥がれ落ちた。

 「……ッ!!?!!?、オマッ……誰!?」

 ズルッと落ちた髪の衝撃に俺は掴んでいた手を離すと、髪はそのままベッドの下へと落ち、俺の目の前にはショートカットの化粧をしている綺麗な男がいるだけになる。

 「あ~~……、バレた……」

 気まずそうに呟くレイちゃんは、一度自分の髪をクシャリと掻き混ぜ次いでは大きく溜め息を漏らすが

 「ま、でも関係無いか……」

 開き直ったように放った言葉の意味を考える暇もなく、レイちゃんは再度ローションを手に取り蓋を開けるとトロトロとゴムを装着した自分のモノへと垂らして何度か扱く。

 そうしてさっきまで自分の指を入れていた孔ヘ擦り付けるように手でモノを動かして……。

 「……ッ、や……う、そ……ッだろ……?」

 まさか………、そんな凶器を………入れないよな……ッ?

 女装している驚きに目を奪われていたが、スカートから見えたモノは俺と同等かそれ以上の代物……。華奢な体からは想像出来ないご立派なソレが、俺の中へ入るとも思えず俺はゾッとして顔から血の気がスワッと引く感覚になるが

 「怖がんなくても大丈夫だって、現に早く欲しそうにヒクついてるし、俺上手いから」

 さっきまでの柔らかな口調では無くなり、男だという事を意識させる物言いに俺は混乱する。

 てか、誰だよッ!!つ~か、女装とか質悪い悪戯……ッ

 色々と情報量が多すぎて自分の頭が追い付かないのを良い事に、擦り付けていたモノがユックリと俺の中へと侵入してくる。

 「ア゛ッ!!……カハッ……、止め、ろッ!」

 「ッ……、拒否んないでよ……コッチ触ってやるから……」

 ヘアゴムでせき止められているモノの先端を手の平で包まれクルクルと回されるように触られれば、気持ち良さに体の力が抜けていく。

 「ンッ……あ、ァ~~~……」

 射精したいのにずっと止められているモノには刺激が強過ぎて、俺はイキたくて触られている手の平に擦り付けるように腰を浮かす。

 「ハッ……、気持ち、良い……」

 何度か先端を入れたり出したりしているレイちゃんは、気持ち良さそうにはぁ。と吐息を吐きながらそう言うと力の抜けた俺の体の中に自分のモノを推し進め、一番太いカリ首部分が収まり、そのまま先程よりもスムーズに俺の中へとモノが入ってくる。

 「ハァ、ア゛~~……ッ、ンウゥッ」

 いっぱいに広げられミッチリと俺の中に入っているモノが、指で叩いてふっくらしているか所をグリリッと押し潰し、抉るように腰を動かすとビリビリと指とは比べものにならない快感が体を駆け抜ける。

 「ンゥ~~ッ♡ア゛ッ、ソレ゛、ダメだ」

 「ン~?駄目じゃ、無いだろ?」

 レイちゃんは俺の反応を見ながら執拗に良いか所を自分のモノであてながら耳元で囁くと、顔をずらして俺の唇を奪い、更に腰を奥へと進めていく。

 「ン゛~~……ッ、ン、ンゥ゛……」

 奪われた口の中にぬるついた舌の感触。歯の裏側や頬の内側を舐められ、上顎を舌先でチラチラと愛撫されて鼻で息を吸うのも追い付かない。

 奥まで入ってきたモノは少し馴染むまで止まっていたが、キスで体の力が抜けるとそのタイミングでレイちゃんは腰を大きく振り始めた。

 「ングッ……、フゥン、ン゛ッ……ン゛~~~♡♡♡」

 さっきとは違い押し潰して抉るような感覚から、カリ首で引っ掻くような動きと奥の内壁を擦られる感触に、何度も中でイク波に攫われる。

 口を塞がれ逃げ場を失った快感が俺の思考にボヤをかけ、もう気持ち良く達してしまいたいという気持ちだけが残る。

 「ッ、あ゛~~……、メッチャ絞ってくる……、イキそう?」

 俺が中でイッている事が解るのか、唇を離したレイちゃんが覗き込むように俺に尋ねてくるが、俺は快感に呑まれていて答える事が出来ない。

 そんな俺を見て眉間の皺をさらに深くしたレイちゃんは

 「アッハ……、気持ち良さそうな顔して……」

 そう呟き、追い上げるように腰の動きを早く重くしていくレイちゃんの下で、俺は揺さぶられる。

 「ア゛ッ、も、……ッもぅ゛……ダ、メだッ……」

 「ン?イク?」

 「は……ッ外し゛て゛ッ!……ッちんぽ、のぉ゛ッ……」

 「イッたら外してあげるよ?」

 「イ゛ッだ……、~~~ッ♡、も、……イッだ……から゛ぁ……」

 「ン~~?」

 何度も中で甘イキしているのに、俺の言葉を無視して腰を振るレイちゃんの腕に、縋るように拘束されている両手を伸ばして掴むと

 「……ッあ~~……、何ソレ……クッソ可愛いな……ッ」

 無意識にしてしまった俺の行動に煽られたのか、苛つくように呟いたレイちゃんが、ドチュンッと強く叩きつけるように腰を打ち付けた刹那、ガクガクと足先まで痺れるような感覚に俺は息を呑んで背中をくねらせる。

 「---~~~ッ♡♡♡、ぁ、あ゛ぁ゛~~ッッ!イ゛ッ……グ、イクッ♡イ゛~~……♡」

 「クソッ、俺も……ッ」

 内壁が衝撃によって収縮し、中に入っているモノをキュゥウッと締め付ける感覚に、レイちゃんも堪らない吐息を吐き出しながら、俺の中でビュルル~と射精している。

 ゴム越しでも出ているのが解るほどに締め付けているのに、レイちゃんは出しながらそれでも腰を動かしていて……。

 「ヒィ゛……ッ♡、イ゛ッた……、イッだから……、動く……ッなよぉ……♡」

 「……ッ、余韻イキ……してる、じゃん?……はぁッ、……ッ気持ち、良い……」

 奥に入れていたモノを徐々に手前まで抜き差ししながら移動させ、弱いところにあてるように動かされ俺は簡単に喘いでしまうと

 「上手にイケたから、……ッ外してあげるよ……」

 言いながらベッドヘッドに片手を伸ばしてゴソゴソとし、何かを掴むと俺のモノに嵌めているヘアゴムに小さい鋏をあてがい

 パチン。

 鋏でヘアゴムを切った途端、せき止められていた精液が上がってくる感覚にゾゾゾッと腰から快感が迫り上がり太腿がブルブルと震える。

 「ハァ……ッぁ……、ンゥ、イ゛~~ッ♡」

 尿道を通って、勢いの無い精液が漏れるように溢れる。それでも普通に射精するより何倍も気持ちの良い感覚に、俺は歯を食いしばり喘ぐと

 「たくさん出るな、最後まで絞ってやる」

 レイちゃんは漏れている俺のモノを掴み、絞るように上下に手を扱き始める。それと同時に少しずつ萎え始めた自分のモノを俺の中からユックリと引き抜き、スッと体の位置をずらすと顔を下へとおろす。

 おろした先には俺のモノがあって……、レイちゃんは口を開き漏らしている俺の先端を含むと、ズゾゾッと音を立てて吸い上げる。

 「ンァッ!……ッ、何、して……」

 扱き上げる手の動きと口で吸い上げられる気持ち良さに、俺は喉を仰け反らせながら言うが

 「ンゥ……ッ、ハァ……全部出ただろ?」

 チュッと音を立て俺のモノから口を離し、コクリと喉を鳴らし顔を上げたレイちゃんと視線が絡み……。

 「……ッ」

 視線が絡んだレイちゃんは口元をペロリと舌で舐めているが、それが凄く扇情的で……俺はまたゾクリと自分の体の奥が疼く感覚に戸惑ってしまうと

 「……………、まだ物足りない……か」

 そう言って再び俺の上へと覆いかぶさるように上半身をあげた体が近付いてきて

 「あ……、嘘……ッだろ……?」

 呟いた台詞は唇に奪われていた。


         ◇


 ピピピピッ、ピピピピ……

 自分のスマホからいつものアラーム音が聞こえて、俺は手を頭の上へ持っていきゴソゴソとベッドをまさぐる。

 指先にあたった無機質な感触に、それを掴むと薄っすらと目を開けて画面を確認してからアラームを消し、体の位置を横に変えてシパシパと瞬きをすれば、見慣れない顔が近くにあり息を呑む。

 「……ッ!」

 その瞬間に昨日の出来事が走馬灯のように蘇り、俺はベッドから上半身を起こすと隣でスゥスゥと寝息をかいている顔をジッと見詰める。

 ……………、マジで男なんだが……。

 俺の知らない間に化粧も落としたのか、完全な男の姿で昨日俺を抱いた奴が隣で寝ていて……。

 「……………、マジかよ……」

 ボソッと呟いて俺は小さく溜め息を吐き出すと、寝ている奴を起こさないようにベッドから抜け出し、自分の服は?とキョロと部屋の中を見渡す。

 視線の端にソファーに置かれた服を見付けて着ると、その傍らに置いてあったバッグを手に持ち俺は静かに部屋を出た。

 ラブホから出ると電車に乗って帰る気にもなれず、道端に停まっているタクシーに乗り込み自宅の住所を告げるとタクシーは走り出した。

 タクシーが走り出して窓から外の景色を流れ見ていると、突然本当に何の前触れもなく先程俺の隣で寝ていた奴とセックスをしたんだと実感してしまい、俺は口元に手をあてる。

 女装していた綺麗な男。

 俺に薬を盛って、俺の体を好きに抱いた。

 もっと乱暴に抱かれるのかと思いきや、終始俺に触れる指先は優しくて……。

 「……ッ」

 あの後もワケが解らなくなるまで抱かれて、気付いた時には朝になっていた。

 自分の服を着る時に体は綺麗になっていたので、きっと俺が寝落ちてしまった間にアイツが綺麗にしてくれたのだろう。

 「ハァ……」

 俺は溜め息を吐き出しながら、男の顔を今一度思い浮かべる。俺の知り合いの顔を順に思い出しながら、その中にさっき見た寝顔を当て嵌めていくが一向にピッタリと一致する人物が浮かぶ事は無かった。

 ……………、本当に知り合いじゃ無いって事か……?だとすれば質の悪い奴に捕まってしまったとそう思っていいのか……?犬に噛まれたと思って………?

 何度目かの溜め息を漏らしているうちに、タクシーは自宅の前に到着した。


          ◇


 「え?……、また~……?」

 「……………、悪い……」

 バサリッと背中を覆っている掛け布団を剥いで俺はベッドの端に座ると、セフレの彼女もベッドから起き上がり

 「シャワーしてくるね~」

 少し冷めた感じで言われ「おぉ……」としか返せない俺は、ベッド横にあるチェストに置いていたアイコスを手に取り、吸い始める。

 あの日から……、女装した奴と寝てから、俺はすこぶる体調が悪い。

 まぁ……悪いと言っても体は何ともないのだが、下半身だけが俺のいう事を聞いてくれなくなった。

 ……………早い話、勃たなくなったのだ。

 あの時の事を早く忘れたかった俺は、上書きだと称して手当り次第セフレに連絡を取って事に及んでいるのだが、俺の下半身はうんともすんとも言わなくなった。

 じゃぁ一人でしてみるかと試してみたが、擦っても扱いても萎えて勃起をしない為、射精する事が出来ない。

 ならばお気に入りのAVで抜こうとパソコン画面とにらめっこしたが、結局は組み敷かれている女優が自分と重なり、開いてはいけない感情にそのまま画面を消してしまったのだ。

 ……………、夢精はしたけど……。

 最近は段々とセフレ達が俺が勃たない事をコソコソと噂し始めたから何とかしたいのだが……。

 俺も俺で勃起しないからセックスができずに、イライラする事が増えている。

 「はぁ~……」

 俺はベッドの下に放ってあったバッグの中から財布を取り出し、ホテル代をチェストに置くと服を着込んでシャワーを浴びているセフレのところまで歩いて行き

 「俺、帰るから」

 「え?なんで~?」

 「金、置いてるから泊まるならそうしろ」

 「は?ちょっと、清文~?」

 背中にセフレの声を聞きながら俺は部屋を後にする。

 今日はもう酒でも飲んで寝るしかないなと考えながら帰路に着く。

 自宅に着いてリビングのソファーにドカリと座ると、あ~……。と呟きながら背もたれに頭を乗せ上を向くと、落ち着く前に冷蔵庫から持ってきたビールの缶を手に持ちプルを開ける。

 頭を上げてビールを喉に流し込みテーブルに置くと、フゥと吐息を漏らす。

 こんな事、誰が想像できたよ?たかだか女装した奴に尻を掘られた位で勃たなくなるとかあり得るのか?

 やっと苦労して手に入れた大学生活なのに、たった何時間かの初体験でこうもあっさりとそれらを無くしてしまうとは……。

 苛つきとムカつく感情が入り混じりテーブルの上の缶を手にとってグビグビとビールを飲み干す。

 ……………、かくなる上は、一番したくなかった方法だが……背に腹は代えられないよな?と自分を納得させて俺は早々に寝てしまおうと決意を胸にソファーから立ち上がり寝室の扉を開けた。


          ◇


 大学の講義を受けるために、大講義室の扉を開けて中へと入る。

 今から受ける講義は一年前に単位が足りなくて再度履修し直しているものだ。一年から取れる講義なので人数が多く大講義室で毎回講義を行っている。

 俺は単位を落としたからいつも連んでいる奴等はおらず一人で受けているのだが、今はそれが少しありがたく感じてしまう。

 勃たなくなった俺の噂は俺のまわりで既に囁かれていて、冗談混じりにからかってくる奴もいるから、そういうのがないってだけで精神的には結構楽だ。

 「佐久間先輩、ここ席空いてますよ!」

 何度か話した事のある後輩の女子達がそう声をかけてきてくれるが、俺はニコリと笑っただけで他の席を探す。

 …………、ありがたいけど今は少し女から距離を置きたい。

 万全ではない自分が気安く女と絡むと、成り行きでそうなった時に気不味くなるのは自分だ。それは避けたい。

 ほぼほぼ席が埋まっていて、誰かと席を空けずに座るしかない状況に心の中で溜め息を吐きながら、もうそれならばどこに座っても同じかと目についたところに腰を下ろす。

 ガタタッ。

 腰を下ろした途端に隣に座っている奴があからさまにビクついて席を揺らすので、チラリと見てしまう。

 前髪が目にかかる長さで、野暮ったい眼鏡を掛けていかにも根暗です。みたいな風貌の男が肩をすぼめて座っている。

 ……………、すいませんね。隣にこんな絡んだ事も無いようなチャラ男が座って。

 と、思いながら鞄から筆記用具を出していると講師が入室してきて講義が始まる。

 講師の助手が出欠の紙を配り、それに記入が済むと俺はスマホを取り出して昨日考えていた事を行動におこす。それは、あの女装した奴に連絡を取るという事だ。

 連絡先は交換していたが、事が事だっただけにあちらからも当然連絡は無いし、俺からもだ。だが、俺がこうなってしまったからには何かしら文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。

 俺は相手に対してラインを打つ。

 『オイ、覚えてるだろ?』

 するとタイミング良く、隣の男のスマホが鳴って男がビクつくので俺は再度チラリと隣を盗み見るが、男はコソコソとスマホを取り出して何やら画面を見ている。

 俺は再び自分のスマホを見詰めると、ラインに既読がついたので、返信があるかとしばらく待ってみるが一向に返信が無い。

 既読になるって事は見ているはずだし、俺からってのも解っているのに良い度胸だな。と、俺は苛つきながらまたラインにメッセージを打つ。

 『既読無視してんじゃね~』

 『返信しろ』

 『オイ、聞いてんのか?』

 捲し上げるようにラインを送ってみる。すると数秒後にまた隣の奴のスマホが小さく鳴る事に違和感を覚えた俺は、自分のスマホに集中している素振りを見せて意識を隣の奴に向けると、コソコソとまた自分のスマホを見た途端、ラインに既読がついたので俺は賭けに出た。

 『レイちゃん、俺隣に座ってんのにその態度は無くね?』

 …………………………………。

 ガタタッ!

 ハイ、ビンゴ。

 俺は隣の机の上にある出欠表をピラリと取り上げると、座っている奴はビクリと肩を揺らす。

 俺は自分の出欠表とひとまとめにすると後ろに座っている女子にコソッと話しかけ

 「ゴメン、これ一緒に提出しといてくんない?」

 いきなり話しかけられた女子は驚いた表情で俺を見返しているが、コクリと頷いてくれたので

 「あ、本当?ありがとう。助かる」

 お礼を言って隣に座っている奴の耳元に口を近付け

 「オイ、出るぞ」

 そう言って机に出ている筆記用具や教科書を鞄の中に入れ込んでいくが、一向に動かない奴の態度にイラッとして再び口を寄せると

 「この前の事、今この場で叫んでも良いんだけど?」

 叫ぶワケが無い。叫んで恥ずかしいのは俺の方だが、相手も言われて欲しく無いのか俺の言葉を聞いてユックリと机に出していた物を鞄にしまい始める。

 講義をしている講師と助手に気付かれないようにコソッとしながら後ろの扉から大講義室を出た俺は、俺の後から出てきた奴の手首を掴むとズンズンと歩き出した。

 「ちょ、ちょっとッ!?」

 どこに連れて行かれるのか不安気な声を出している相手を無視して、使われていない空き教室に入ると掴んでいた手首はそのままに、俺は相手の方に振り返って

 「てかさ~、一緒の大学ってどゆこと?」

 「…………ッ」

 俺の問いかけに奴は無言で視線を合わせようとした俺から顔を背ける。俺はその態度にムッとして奴との距離を詰めると

 「名前、何?」

 「は、……え?」

 先程とは違って、まさか名前を聞かれるとは思ってなかったのか、そう言われた奴は戸惑いながら俺の顔を見詰めるから、俺は奴の顔にある野暮ったい眼鏡を取り上げて

 「本名だよ。レイちゃんって名前じゃ無いだろ?」

 取り上げた眼鏡を自分の着ているTシャツの首元に引っ掛けて、もう一度同じ質問をしながら奴の顔をじっくり見る為少し首を傾げた俺に、相手はボソボソと何か呟く。

 「あ?……何?」

 前髪が邪魔で眼鏡を取り上げた方の手を、奴の前髪に伸ばしてグイッと掻き上げると、やはりあの時の綺麗な顔が目の前にある。

 「あ……ッ」

 「名前、何?」

 前髪を掻き上げたと同時にキョロキョロと彷徨っていた目が、諦めたように一瞬下を向き再度俺と目を合わせる為に上がった時には、オドオドとした雰囲気は鳴りを潜め真っ直ぐに俺を捉えると

 「黒川、嶺二」

 -------ドクンッ。

 女装がバレた後の普通の声音と一緒の声が奴の口から出た瞬間、俺の鼓動は何故か跳ねる。

 「てか、いつまでも離さないつもりですか、先輩?」

 次いでは憎たらしいほどに武尊な態度で掴まれている手首を持ち上げると、俺にそう言いながらニヤリと笑う。

 「ッ……、お前……さっきと随分態度が違うじゃん……?」

 言われて俺は奴の手首をブンッと離すと、離された手首を撫でながら

 「大学ではあんまり目立ちたく無いんで……。で?何か用ですか?」

 ため息混じりにそう尋ねられ、俺はカチンッとくると

 「何かって……ッ、お前のせいでッ……」


 「え~~?違うよ~……あ……」

 ガラッと音を立てて教室の扉が開くと、見知らぬ女子達が俺達を見て固まっている。

 「す、すみません……、次の講義の準備に……」

 「…………ッ、ゴメンね。今出てくから……」

 男二人、至近距離で気まずい雰囲気を出している俺達に、ソワソワしている女子に声をかけて俺は咄嗟に奴の手首を掴むと、教室を出て行く。そうして無言で人気の無い廊下を歩いていると

 「もう良いでしょ?逃げようなんて思って無いし」

 掴まれた手首を振り払うようにグイッと自分の方に振って、掴まれている手を振り解くと奴は俺に呟く。

 「ハッ……、本当に逃げない保証は無いだろ?」

 「あのさ~、逃げたのは先輩の方でしょ?俺、朝起きた時に一人で寂しかったな~」

 「なッ……!」

 あの日、俺はラブホのベッドで寝ている奴を置いて帰ったのは事実だが、それを責められる云われは無いはずだと奴を睨み付ける。

 「そんな怖い顔で見ないで下さいよ。で、どこで話すつもりですか?」

 「そんなの、どこでも……」

 「は、無理ですよね?……………、俺ン家来ます?」

 「は?………お前ン家って……」

 「嫌ですか?別に取って食おうなんて思ってないですし、嫌なら先輩の家でもいいですけど?」

 …………、こんな奴を俺の家には上げたくない……。

 だが奴の提案に素直に応えて良いものか?とも疑問があって、俺は押し黙って相手を見詰める。

 「はぁ……、じゃぁ話し出来ないんで俺、行きますけど?」

 渋っている俺を置いて、足を踏み出そうとする奴の腕を咄嗟に摑んで

 「わ、解ったよ!……、お前の家で、良い……」

 モゴモゴと答える俺に、奴は少し笑うと

 「こっち」

 顎をしゃくって歩き出した奴の後を、俺は付いて行く。

 「なぁ……、お前俺の事先輩って言ってるけど、後輩なの?」

 先程からずっと気になっていた事を聞いてみると、奴は首だけこちらに振り返りながら

 「そうだね、俺の方が一個下になるかな」

 「なんで俺が先輩って知ってんだよ」

 俺はこんな後輩、知らなかったぞ?

 ジトッと相手を見ている俺に、奴はクスリと笑って

 「あのさ~、先輩って結構大学で有名なの自覚無い?」

 あ……、これは悪い噂の方で言ってるヤツだな。どうせチャラ男とかヤリチンとかって聞いてんだろ……。

 相手の台詞に俺は顔をフイと反らすと

 「ま、男冥利に尽きるんじゃ無いンすかね?」

 良い風に言っているのか、馬鹿にして言ってるのか解らない答えに俺はどう反応を返すのが正解なのか解らず、黙ったままでいる。

 だが、俺を知っていてあの所業。コイツ、俺に何か恨みがあるのか?と気になってしまい

 「お前…………に、俺何か嫌な事、したことある?」

 ボソボソと呟いた俺に、相手はキョトンとした顔を向けて

 「は?どういう事?」

 そう言ってきた奴の態度を見ると、そういう事は無いようだが……。

 「イヤ……、嫌いだから俺にあんな事……したのかなって……」

 嫌そうに言った俺の言葉を聞いて、奴は驚いたように目を見開き次いではプッと笑い出すと。

 「イヤ……ッ、ハハッ。あ~~……、そっちでとった?」

 笑いながら言っている台詞の意味が解らず、俺は眉間に皺を寄せるがそんな俺の表情を見て

 「イヤイヤ、違うよ。俺は先輩の事知ってたけど別に嫌いとかで抱いてないし」

 「なら……ッ」

 どういう意味であんな事したんだよ。とまでは言えない俺に

 「まぁ正直、先輩の事はタイプだったから抱いてみたいとは思ってたけど?」

 「は?タ、タイプッ!?」

 「そ~そ~、あん時は本当ラッキーって思ってただけで、お互い気持ち良かったんだから問題無いよね?」

 …………、そ、そんな軽い感じで俺はコイツに抱かれたのか……。

 復讐とか嫌がらせで無いって事は良かったケド……。理由が軽すぎるだろッ!!

 相手の理由を聞いて押し黙った俺の顔をチラリと見て、奴は小さく溜め息を吐くと

 「何が気に入らないの?先輩も同じ事沢山してるでしょ?」

 奴の言葉に俺はハッとしてしまう。

 それは、その通りだからだ。

 俺がいつも女にしてた事。それがブーメランみたいに俺に降りかかってきただけ。まさか自分が相手の立場になるなんて思わなかったけど、俺にこういう扱いをされてた相手は今の俺のような心情だったのかな……。

 それ以上俺は何も言えなくなって、ただ黙って奴の後を付いて行く。

 しばらくお互い黙って歩いていたが、奴が不意に足を止め

 「ここ、俺ン家」

 言いながら顔を上げた先には、学生向けのマンションがある。

 俺に一言そう言って、階段を上がっていく奴の後ろを俺も付いて行くと二階の角部屋で止まり、鞄の中から鍵を取り出してドアを開け

 「どうぞ?」

 と、俺を先に入らす為にドアを開けて待っている。

 俺は無言で玄関に入り、靴を脱いで

 「お邪魔します」

 ボソッと呟きながら部屋へと上がると

 「フハッ、先輩って本当意外だよね?」

 笑いながら何が意外なのか解らなかった俺は、部屋に上がって奴を振り返り眉間に皺を寄せて突っ立っていると、俺の後から入ってきた奴がグイッと俺との距離を詰めて、俺が取り上げて自分のTシャツに引っ掛けてあった眼鏡を取ると

 「これは返してもらおうかな」

 「ッ……」

 上目遣いでそう呟き俺から眼鏡を取り上げて、そのまま部屋の中へと入っていく。

 「突っ立ってないでどうぞ?」

 玄関を入ると広いフロアにキッチン、左手にトイレとバスルーム。右手にもう一つ扉があって奴はそちらに入って行く。俺も後からドアを入ると入って正面にベランダ、右側にマットレスだけのベッドがありその前に背の低いソファー、テーブルがあり左側にはデスクとその上にパソコン、デスクの隣は本棚で漫画や雑誌がある。

 男の一人暮らしにしては綺麗に片付いている部屋の中を視線だけ動かしてキョロキョロとする俺に

 「どうぞ、好きなところ座って下さい。何か飲みますか?」

 と、声をかけながらキッチンの方に移動しようとする奴に

 「コーヒー……」

 「インスタントで我慢して下さいね」

 そう言ってキッチンヘ行ってしまった奴の部屋のソファーに腰を落ち着かせる。

 しばらくして二つのカップにコーヒーを入れて戻って来た奴は、テーブルにそれを置くと俺の横に腰を下ろし

 「で、話って何すか?それともまだ文句?」

 ズッと一口コーヒーを啜って俺に尋ねてくる。

 俺はこの体になって少し戸惑う。

 昨日からさっきまで、言いたい事をコイツに全部ぶちまけてやると意気込んでいたが、さっき嫌がらせとかで俺を抱いてないっていうのは解った。後は……。

 フト冷静になってみればあの後から勃た無いなんて、そんな事を言ったところでどうなるものでも無いよな……と思っている自分がいるからだ。

 …………、コイツに言っても問題解決にはならないよな……?てか、逆にからかわれるんじゃ…………。

 頭の中でグルグルと思案して一向に何も言わない俺に、奴は大きく溜め息を吐くと

 「先輩、何でここまで来たの?」

 俺が何も言わない事に呆れるように言葉を投げかける奴を一度ジロリと睨み付け

 「…………、~~~~~ッ」

 ボソボソッと口の中で呟いた俺に、奴は少し苛つきながら俺の顔に自分の顔を近付けてくる。

 「は、何?」

 近付いた顔を避けるように上体を仰け反らした俺を逃さないように、奴は俺の腰に手を回してグイッと引き寄せ

 「聞こえなかった、何て言った?」

 仰け反った俺に近付くように更に距離を詰めてきた奴に、俺はワナワナと唇を震わせて

 「~~~ッ、から、お前のせいでッた、勃たなくなったん……だよッ!」

 叫ぶように言った俺に対して、奴はポカンと何秒間か固まったと思った次の瞬間には

 「ハッ…………、アハッ、ハハハハッ」

 何が面白いのか突然笑いだした奴に、俺は自分の顔が赤くなっていく感覚にチッと舌打ちを返して

 「は、離せよッ」

 腰に回された手を摑んで投げ捨てるように振り払おうとするが、逆にその手を掴まれてしまい

 「え?……、本当に勃たないの?」

 次いでは笑っていた顔からすぐに真剣な顔へと変えて聞いてくるから、俺はタジッと戸惑い

 「そ、んな事……冗談で言えるかよ……」

 ボソリと呟いた俺の台詞に、奴はしばしフ~ンと答えながら考える素振りを見せて

 「一人の時は?」

 俺の顔を覗き込むように尋ねてきた奴の顔が、思いの外近くにあってドキリとしてしまい俺はさっきみたいに顔を少し仰け反らせると

 「は?……ッ、な、何が……?」

 しどろもどろに答える俺に、相手は真剣な顔を変えないまま

 「相手がいて勃たない?それとも一人でする時も?」

 「……ッ、関係、無いだろッ……勃たないってだけで……」

 「ウ~ン、その反応は一人の時もっぽいけど……」

 「バッ……!」

 「あ、図星?」

 痛いところを突かれた俺は、恥ずかしさに顔を下へと向けてしまう。そうする事でそうだと答えてしまっているようなものだ。

 奴は再度俺の腰に手を回して力を込め、先程よりも更にグイッと自分の方に俺を寄せると

 「じゃ、見せてくれる?」

 ニヤリと笑って俺の顔を覗き込むように言ってきた相手に俺は顔を上げて

 「はッ?な、……何言って……ッ」

 「イヤ、だってそれが本当かどうか解んないし?」

 「お、お前ッ……俺が嘘ついてるって言うのかよッ」

 「だ~か~ら~、それを確かめる為にも本当に勃たないか見せてって言ってんだけど?」

 キスされそうなほどに近付いた奴の顔に手の平をバチンッとあてて

 「ば、馬鹿じゃないのかッ!?何で俺がお前に……ッ」

 なんて提案をしてくるんだと勢い良く顔にあてた俺の手を引っ剥がすように退けると、奴は

 「痛ぇ~な……。てかさ、そんな事言ってるけど、俺は俺で先輩の事信用してないからね?」

 「は、はぁッ!?」

 「だってそうだろ?起きたら先輩居なくなってたし、あん時の金も俺が全額払ってるしさぁ~……」

 ………………、そうなのだ。俺は動揺しまくった為、ラブホの金を払わずに帰ってしまっていた。その事はずっと気になっていたのは確かだが、そういう風にいちゃもんを付けてくるとは……。

 「お前ッ……、俺の体好きにしといて……ッ、~~~~ッ金は払うッ!それで良いだろッ!」

 だからお前の前でなんかしないぞ!と暗に匂わせているのに

 「金の問題じゃねぇから。あ、やっぱ勃つのは勃つとか?」

 「違うって、言ってんだろッ!」

 「じゃぁ、証拠見せろ」

 「ッ……」

 突然言い方が変わって、覗き込んでくる表情も先程のものとは違う。俺がコイツを教室で追い詰めた時みたいな表情に変わって、コクリと喉が鳴る。

 「見ないと解ん無いだろ」

 言いながら俺から離れると、立ち上がり腕を掴まれる。

 「な、何?」

 「ベッド」

 引っ張り上げられグイッと後ろのベッドへと連れて行かれブンッと腕を振られれば、反動で俺はベッドへと倒れ込む。

 「ォワッ!」

 倒れ込んだ俺の上に奴が覆い被さるように近付いてきたので、俺は態勢を起き上がらせて壁際へと素早く移動するが、その俺の前に奴は陣取ると

 「ホラ、見せろ」

 そう言って俺の履いているパンツに手をかけようとする。

 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょッ……」

 パンツのボタンとジッパーを下げようとしてくる手を、バシバシと叩いて離そうと掴むがビクともしない。

 す、凄い力だッ、コイツッ!

 「…………なぁ、ちょっと勃ってないか?」

 ボタンとジッパーを下げられパンツの前をくつろがせている奴が、ボソリと耳元で囁く。

 …………………、認めたく無いが、奴の言う通り俺のモノは少し芯を持ち始めていて、さっきから自分自身でもどうしてだと戸惑っていた。だってそうだろ?自分でしても何も反応が無かったのに、コイツに触られそうになって半勃ちしてるとか………。

 「本当に勃たなかったのか?」

 奴は俺のパンツを掴み勢い良くズルッと下にさげるとそのまま俺の脚からパンツを引き抜きペイッとその辺にパンツを投げる。そうして俺の両足を広げるとその中に自分の体を入れ込んで、更に俺に近付き

 「触ったら完勃ちしそうだけど?」

 スリリッと下から上へと撫で上げるように奴の指がボクサーの上から俺のモノに触れると、モノはピクピクと震える。

 「ッ………ァ……」

 それと同時に俺の口から小さな吐息が漏れると、奴は上半身を俺に寄せて耳元で

 「イヤ、勃ってるだろコレ?」

 楽しそうに耳元で囁く奴の声と体臭が匂って、俺はカァッと顔が赤くなるのと体の熱が下半身へと集中するのを感じてモジッと膝を合わせようとするが、コイツの体で合わせる事が出来ずに顔を下へと向けてしまう。

 …………………ッ、クソッ、クソッ。本当に一人の時でも駄目だったのに、なんでコイツの時に反応するんだよッ!

 容易く勃ち上がったモノが、俺と奴の間で主張している。俺はそれを隠そうと自分の手でモノを覆うように伸ばすが、すぐに奴の手に掴まれ

 「出した方が良いな?」

 「は、ぁ?……ッチョッ、え?」

 スリリと俺のモノを撫でていた指が、形を確かめるようにギュッと握ってくる。

 「イッ……オイッ、止め……ッ」

 「止めて良いのか?久し振りなんだろう、気持ち良く出した方が良くないか?」

 そりゃぁ、久し振りで気持ち良く出したいが、お前の前でじゃねぇッ!!

 喉まで出かかっている言葉は、奴が俺のボクサーから俺のモノを出そうとしている行動に阻止され、俺は慌てて空いているもう片方の手を奴の手の上に置くと

 「は、離せよッ!」

 動揺してどもってしまった自分を少し恥ずかしく思うが、今はそれどころでは無い。

 上に置いた手に力を入れて奴の手を退けようとしたが、反対にクルリと手を返されて俺は自分のモノに手をあてがう形になってしまう。しかも奴の手が俺の手の上に乗っかってるという最悪の状況で。

 「あ、自分で触りたかった?気付かなくてゴメンな?」

 「は?……ンなワケ……ッ」

 「ホラ、動かしなよ」

 俺の手の上からギュッと掴んだ手は、そのまま上下に動き出すから俺はボクサーの中で勃っている自分のモノを強制的に扱くようになる。

 「ンァッ……」

 文句を言いたかった唇は、久し振りの感覚に文句よりも甘い吐息が漏れてしまい、俺はギリッと歯を食いしばってしまう。

 「気持ち良かったら素直に喘いだ方が気持ち良いだろ?」

 そう言いながら奴がペロリと俺の唇を舐めるので、俺はびっくりしてアッと口を開けてしまう。その隙きを逃さずに奴の舌が俺の口腔内へと侵入してきて、縦横無尽に舌が動き出す。

 「ンンッ……、んぅッ、ン、ンン~ッ……」

 頬の内側を舐められ追い出そうとする俺の舌に自分の舌を絡めて、俺の舌が逃げようとすれば追いかけてきて絡め取られジュッと吸われる。何度かそんな事を繰り返すうちに俺の脳は気持ち良さに痺れるような感覚でボ~ッとし始めた頃に、俺の抵抗が無くなったと確信したのか歯列や上顎を舌で愛撫してくる。

 「……ッ、ふぅん……、ンンッ」

 頭がボ~とするのと同時に、握られていた手も気持ち良さに抵抗出来なくなって、奴が思うまま俺は勃起しているモノを扱いていると、鈴口からトロトロと溢れ出た先走りがボクサーにシミを作っていて……

 「それ以上汚したら、穿いて帰れなくなるだろ?」

 一度唇を離されて耳元で囁かれた直後に、コイツの手が俺の手を退けてボクサーを引き下ろす。

 久し振りに勃起したモノは勢い良くブルンッとボクサーから飛び出すと腹に付きそうなくらいガチガチになっていて……。

 「気持ち良かったな?まだ気持ち良くなろうな?」

 優しく言いながら下げられたボクサーを再度下へとずらそうとしているが、俺の尻でずらせない。

 「腰、上げろよ。もっと気持ち良くさせてやるから……」

 体の力が抜けてクタッとしている俺がまだ抵抗して奴の邪魔をしていると思ったのか、少し苛ついた感じで囁かれるが、その台詞に俺が顔を上げて奴を見るとすぐにフニャッとした表情へと変わり。

 「あ~~……、ホラ手ぇこっち回して」

 俺の手を摑んでいたのをそのまま自分の首へと回しもう片方もそうすると、奴は俺の腰を片方の腕を回して支え俺の腰を上げてからボクサーを器用に脚の方へとずらす。

 俺の脚を一旦自分の態勢をずらして軽く閉じさせるとそのままボクサーを脚から引き抜き、再び広げて元の態勢に戻し

 「なぁ、あれからここ触ってみたりした?」

 態勢が戻ると今度は直接奴の手で俺のモノを握られ、先走りで濡れていたモノをグチュグチュと音を立てながら愛撫されるが、それと同時に最奥の蕾をスリッと指先で撫でられ、俺はビクリッと体を震わせる。

 「アッ!……、どこ、触って……ッ」

 気持ち良さにされるがままだったが、そこを触られ俺は伸ばされた手を掴むと

 「や、止めろッ」

 蕾から手を離してギッと相手を睨むと、睨まれている本人はどこか楽しそうに

 「止めても良いけど、一人の時の処理の仕方知ってた方が良いんじゃね?」

 「は、はぁッ!?勃ったし……もう、問題ねぇだろ……ッ」

 ……………ッ、俺も何流されてんだよッ!久し振りの人肌と触られる気持ち良さに脳がバグったか!?

 「問題だったらどうすんの?処理の仕方知ってた方が良いと思うけど?もし勃たなくてもココ弄れば勃つしな?」

 「えッ!?た、勃つのかッ?」

 奴の言葉に踊らされるように俺は大きな声で反応してしまうが、すぐにハッと気付いて口をつぐむ。

 俺の反応に奴はニコリと微笑んで、一旦俺から離れるとベッドヘッドの引き出しを開けてローションとゴムを取り出し

 「やっぱ興味あるだろ?」

 悪い顔で俺の頬にチュッと音を立ててキスをすると、ゴムをパッケージから取り出し自分の指に嵌めローションをその上から垂らす。

 手慣れて素早い準備に見とれて、ワンテンポ反応が遅くなった俺に

 「良いところ、しっかり覚えないとな。次は自分でやらなきゃだし?」

 茶目っ気いっぱいに可愛く言われたが、奴の指はスリッと蕾を撫でると、慎重に俺の内壁へと入ってくる。

 抵抗が無いと言えば嘘になるが、先程の「ココを弄れば勃つ」というパワーワードは、確実に俺の反応を鈍らせた。

 それに認めたくは無いが……。正直に言ってしまえば、少しだけ興味はあったのだ。いくら女を抱いても反応したかった時に、後ろが疼く感覚が忘れられなくて何度か自分で触ろうとした。

 結局は怖くて一人でする事は無かったが、あの日コイツに抱かれた時から確実に俺の体は変わってしまった。

 「……、確かこの辺……」

 「アッ……、と、待って……ッ」

 入ってきた指が探るように俺の内壁を触っていて、俺はもう少しで与えられる快感にゾクリと背筋が震える感覚に、少しだけ待ってもらおうと指を伸ばした刹那

 「アッ……ヒ……くぅ…ンッ」

 先日教えられたばかりの自分の弱いか所を奴の指が撫でた途端、ビビビッとそこから広がる快感に声を上げてしまう。

 「ン、ココだね」

 探り当てた奴は嬉しそうに呟き、ユックリと俺と視線を合わせると

 「ココだ、覚えた?」

 中で撫でていた指を今度は上に押し付けるようにグッ、グッと叩いてから引っ掻くように指先を折り曲げる。

 「ア゛ッ?……、カハッ……ア、ハァ……ッ」

 「ン?引っ掻く方が好きっぽい?」

 俺の反応を注意深く見詰めて、叩くよりもプックリと膨れた前立腺を引っ掻かれる方が良いと思ったのか、優しく執拗にソコをチロチロと指先で愛撫され、俺は堪らずに自分のモノを握ってしまう。

 さっきから前立腺を弄られる度に、ピュッ、ピュックっと先走りが射精のように溢れ出て、恥ずかしさにいたたまれなくなった俺はギュッと自分のモノの根本を握って溢れ出ないようにするが、逆に奴には違って見えたようで……。

 「アハッ、イキたい?ケド先にコッチ覚えようね?」

 奴は俺が気持ち良さから自分のモノを扱いてイクのだと勘違いしたようで、俺にそう言いながら中に入れていた指をユックリと引き抜き、新しいゴムを破いて取り出すと何故か俺の指に嵌める。

 そうして俺の指にローションを落としてから

 「ホラ、ココだよ」

 俺の指に自分の指を這わせて、誘導するように蕾にあてがう。

 「えッ……、何ッ!?」

 「だから、自分で覚えないと意味無いって言ったよな?」

 「やッ……、だからって……」

 「怖くね~から、ホラ」

 自分の指を引いて触れないようにしても、上から覆い被さっている奴の手でグッと押され蕾に自分の指先が入っていく。

 「ア……ッ、ァ……」

 「そうそう、ゆっくり」

 意外にも自分の指がスムーズに入っていってしまう事に動揺しながら、第二関節くらいまで収めると

 「さっき俺が引っ掻いてたトコ覚えてるか?ゆっくりで良いから指、動かしてみな?」

 優しく諭されるみたいに言われて、俺はゴクリと喉を鳴らすと、先程奴が中で弄っていたところを恐る恐る上にクイッと指を曲げて触ってみる。

 「ッ、~~~~!」

 「お、あった?」

 前立腺を指がかすめ、俺は息を呑む。その反応に奴は俺の顔を覗き込むように顔を傾げるが、俺はそれよりもジンッとそこから広がる快感にモジッと両膝を合わせる為に脚を閉じようとするが

 「オイ、駄目だろ」

 片膝をグイと開かれて、俺の脚の間に再び奴が体を入れ込んでくる。

 「ハ……ッ、ャ、ダ……」

 「嫌だじゃねぇ、教えてやるんだから全部見せろ」

 言いながら更に俺の指を奥へと入れようと指先に力を入れられ、俺の指は先程よりも奥へと入っていく。気持ちの良いか所はもう解っていて、俺は無意識に自分の指を曲げてしまうと、かすめるよりもダイレクトに指を押し付ける形になってしまい……

 「ンウゥッ……、ア、くぅっ……ッ」

 さっきよりも大きな波にのまれ、俺はビクビクと体を震わせてしまう。それを奴に見られていると思うと恥ずかしさに体を丸めて顔を下へ向けると、伸びてきた手が俺の顎を掴み上へとあげさせる。

 「もう自分で出来て偉いな」

 言いながら近付いてくる顔の速度に合わせてギュッと両目を瞑ると、唇にぬるついた感触。何度か舐められそのまま口の中へと舌が入ってくると、さっきされたみたいに縦横無尽に俺の口腔内を舌で愛撫してくる。

 「ンンぅッ……フゥ……ン、ン、……ッ」

 深い口付けに息苦しさを感じて、薄っすらと目を開ければ至近距離からジッと俺の顔を見ている奴と視線が絡む。

 ずっと見られていたのだと認識してしまうと、ゾゾゾッと腰から這い上がってくる気持ち良さに握っていたモノからまたビュクリと先走りが漏れて、俺は再びキツく目を閉じてしまった。

 そんな俺の変化を奴は見逃さずに、唇を俺から離し

 「ハッ……、エロ……。手伝ってやるな?」

 言いながら俺の頬に自分の頬をスリッと寄せ、片手を俺が握っているモノの上へと被せトロトロと先走りが溢れている亀頭を包み込む。

 「ア゛ッ、止めッ……!」

 すぐにでも達してしまいそうなのに、新たな刺激が加わり俺は喉を仰け反らせる。

 「ホラ、コッチも動かして……」

 覆われクチュ、クチュと亀頭を愛撫されている事に意識が持っていかれ、奥を弄る事が疎かになっていると、重ねている奴の指が催促するように俺の指を上からグッ、グッと動かす。

 「クゥ……ッゥ、ア゛ッ、ダメ……だ……ダメ……ッ」

 「ン~?駄目じゃ無いだろって……、ホラ、我慢しないで……、もうイク?」

 奴が耳元で呟くように、もう限界は近い。 

 キツく握っている手を緩めてしまえば、簡単に達してしまいそうで……。ブルブルと太腿や腹が小刻みに痙攣する度に、内壁が自分の指を締めて勝手に良いところを押してしまう。

 コイツの目の前で達してしまう恥ずかしさが勝り、言われた言葉に反応して俺は体を硬くして緩く首を左右に振ってしまうと小さく溜め息が聞こえて

 「…………先輩、先輩の可愛くイクところ俺に見せてよ?」

 「ア……ッ、ァ……」

 さっきとは打って変わって甘い声音で俺の鼓膜を震わせる言い方に、耳から脳にかけて鳥肌が立つような感覚。

 口に溜まった唾液が喘ぎと同時に唇の端からタラッと漏れるが、拭う事よりもこの快感をやり過ごしたい。

 ハッ……、駄目だ。もぅ、次……ッ指を動かされたら……俺……。

 上から押されている指をもう一度動かされたら、多分イッてしまうと自分でも解る。

 頑なに自分のモノの根本を握っている俺に、奴は更に顔を近付けて俺の耳に舌を這わせるとユックリと俺の指に沿わして蕾の中へ自分の指を入れてきた。

 「ヒィ……ッア、……ァ、ヤ……ッイ゛……グッ、イック……ッ」

 「イケって……」

 耳を舐められ、中へと入ってきた指に直接上から俺の指を押されイかないように加減して触っていたところを強く抉られれば

 「アッッ!~~~~~ッ♡♡♡」

 一瞬全身の力が抜けて、せき止めて握っていた指にも力が入らなくなった瞬間に、グッとつま先まで力が入って丸まると同時に俺は奴の手の平に勢い良く射精してしまう。

 ビュク、ビュクと何度かに分かれて出している間にも、トントンと中の指が執拗に俺の指を叩いて前立腺を刺激するから、その度にビクンッ、ビクンッと体が跳ねて、ツッと漏れていた唾液が服を汚した。

 大きな快感から開放された俺は、クタリと体中を弛緩させベッドの上でピクピクと気持ち良い余韻に包まれる。

 イッた俺の唇に奴は音を立ててキスをすると、ペロリと俺の唾液を舌先ですくってから中に入れていた指をそっと引き抜き、次いでは俺の指もユックリと蕾から出すと

 「はぁ……ッマジ、くっそ可愛……」

 ボソボソと呟くと俺から離れてベッドヘッドの近くにあるティシュッを何枚か引き抜き、俺が汚してしまった手を拭っている。

 俺はズルズルとベッドの上ヘ体を横たわせ、フト頭に浮かんだ疑問が口をついて出る。

 「お前……、ゲイなの?」

 男の俺にも躊躇無く触るし、手慣れている。

 俺の問いかけに奴は一瞬動作を止めて俺を見下ろすが、次いではニコリと笑って

 「嫌、違うけど」

 と、答えるので俺は驚きに口をポカンと開けてしまう。そんな俺を見てフハッ。と小さく吐息を出した奴は、横たわっている俺の隣にバフッと体を投げ出して

 「バイ、かな」

 端的に答えた台詞に、俺はバイ……。と小さく繰り返すと

 「なに、羨ましい?」

 呟いた俺をからかうように言ってきた奴を睨み付けようと顔を横に向けると

 「まぁ、二度美味しい思いはしてるけどな……」

 なんて、言うから。

 「……………オイ、やめとけそんな事言うの」

 チャラい俺に言われても説得力が無いかも知れない。それかチャラい俺の前だから言えた台詞なのか……。

 「イヤイヤイヤ、先輩が言うのかよそれを。てか、俺は先輩よりもマシだと思うけど?」

 ………………。後者の方かと納得して、俺は眉間に皺を寄せると

 「イヤ、お前も大概だぞ?」

 俺よりも遊び慣れた感じ。そういう事に持っていくのが上手い。そう感じた俺の素直な感想を口に出せば

 「イ~ヤ俺は先輩みたいに相手からビンタとか貰った事無いですし?」

 「ッ……、お前ッ」

 同じ大学だ。俺がセフレの彼女からビンタされてるところくらい見ていてもおかしくは無い。だがそれを今言わなくても……。

 俺が横でブツブツと小さく文句を言っていると

 「先輩さ~、しんどくなんない?」

 不意にマジなトーンで俺に話しかけてくる奴の声音にえ?っと尋ねると、奴はよいしょ。と起き上がり再びティッシュを取って、ベッドの下に放っていた俺のボクサーやパンツを掴んで俺に近付き、出し切って萎えている俺のモノをティッシュで綺麗にするとボクサーを器用に履かせ、パンツは畳んでベッドの端に置く。

 「何……、突然……」

 奴の好きにさせながら聞かれた意味を考えるが、奴が何を言いたいのか解らずに少し探るように聞き返した。

 「俺さ、前から結構先輩の事見てて……」

 「ぇ?……、は、ぁ?」

 それとしんどいがどう関係しているのか?俺は頭に沢山の?を浮かべながら奴の続きを待っている。すると

 「先輩ってさ、いっつも人に囲まれてるけど全然楽しく無さそうだよね?」

 「ッ……」

 奴の台詞に俺はドキリとして言葉を失う。

 何かすぐに返事を返せば上手く躱せたのかも知れないが、咄嗟に言葉を紡ぐ事が出来なかった俺は、苦笑いしながら奴から視線を反らすしかなかった。

 「なんで無理してあのグループにいるのかずっと疑問だったんだよね、俺」

 グイグイと土足で、俺の中ではデリケートなところを突いてくる奴に、上手い返しが見付からず黙っている俺に

 「しかも先輩さぁ、ぶっちゃっけ遊び慣れて無いだろ?だから女からビンタなんて……」

 「……系、無いだろ?」

 「え?」

 俺はユックリと横になっている態勢から、上半身を起こして壁に背中を付けて座ると、静かに奴に言葉を投げる。

 奴は一瞬何を言われたのか解らないと俺に聞き返してくるが

 「お前に、関係無いって言ってんだ」

 強く拒否する言葉をあえて選んで、奴に言い放つ。一瞬俺からそんな事を言われるなんて思ってもみなかったのか、奴は驚いた表情を向けたが次いでは大きく溜め息を吐くと

 「似合ってねぇって言ってんの、チャラ男演じたところで良い事無いって知っててなんで続けてんの?」

 「だから……ッ」

 お前に関係無い。って続く台詞は、奴の唇で言えなくなる。

 「ンンぅ……ッ、ンッ!」

 強引に奪われた唇を離せと、俺は奴の胸板を拳でドンッと叩くが反対に手首を掴まれる。そうしてユックリと離れた奴の表情は何故か痛さを我慢しているみたいな顔で……。

 俺は想像していなかった表情に狼狽え、何も言えなくなってしまう。すると苦虫を噛んだみたいな声で

 「自分騙して……良い事あった?」

 「…………ッるさい、お前みたいに素から素材が良いワケじゃ無いんだよッ!」

 コイツが俺に何がしたいのか解らずに、心の中で戸惑いながら文句を口にする。

 「はぁ?今俺の外見の事なんか関係ある?」

 「……ッ」

 ドンッと俺の顔の横に奴の拳が勢い良く伸びてきて、俺は口をつぐむ。

 コイツにしたら何を言ってんだってなるだろうが、俺には違う。自分の中の柔らかいところを掴まれ、暴かれる恐怖につい口に出してしまった台詞だ。

 俺がこんな外見で、他人に時間もお金も費やさなくなったのは大学に入ってから……。

 そう、いわゆる俺は大学デビューというやつで、高校までは本当に只々目立たない根暗のデブだった。

 身長だけはあったから、コソコソと影で『関取』だとか『プロレスラー』だとか名前では無いあだ名で呼ばれていたのも知っていた。だけど、何も言えない性格で……。ヘラヘラと周りの目を気にしながら生活していたのだ。

 だから素から素材が良い奴が羨ましくもあり、嫌いだ。大学に入ってそんな連中と親しくしているが、根本のところは苦手。それをコイツは見破いて……、今迄必死に隠して築き上げたモノを否定してくるから……。

 何も言わずにただ睨み付けている俺を見下ろしていた奴は、ガクリと急に顔を下げてクソでかい溜め息を吐き出すと、呆れたような表情で顔を上げ

 「……………、先輩明日暇?俺とデートしない?」

 さっきまでの悪い空気を無視して、突然突拍子も無い事を言ってくる奴に、俺は一層眉間の皺を深くすると

 「は、はぁあッ!?」

 俺は、それ以外に出てくる言葉を失っていた。



          ◇


 昨日強引に黒川嶺二から取り付けられた約束。

 『先輩来るまで待ってるから、絶対来いよ!』

 何故、あの状況から俺とデートなんて発想が出てくるのか……。

 「何なんだアイツは……、宇宙人なのか?」

 ブツブツと文句を言いながらも、俺は指定されている待ち合わせ場所に到着している。

 約束の時間、十分前に…………。

 -------、イヤ、良く考えたら律儀にここで待ってなくても良くないか?しかも十分前からって……、なんか俺の方が楽しみで早く来ちゃいました感出てるしッ!

 今日だって家をユックリ出ようと思ってたんだ……。ケド、たまたま朝何時もより早く目が覚めちゃったし、部屋の掃除や用事も何だかスムーズに終わって……。そしたらする事無くなって……家を出たらこんな時間に着いて……。

 イヤ、そもそも来なくても良かったよな?ケド……俺が来るまで待つって言ってたし……。イヤ、やっぱりそれでも俺が早くに着いてるのは……、何か違うよな?

 突っ立っていた俺はその事実にハタと気付き、この場から早々に立ち去って違う場所にいようと一歩を踏み出したところで

 「先~輩!」

 後ろから聞き覚えのある声に、俺はビクンと肩を震わせて恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはあの晩のレイちゃんが立っていた。

 「ぁ……」

 まさか女装の格好で来るなんて思ってもみなかった俺は一瞬言葉を無くしてしまうが、そんな俺を見てレイちゃんはフフッと悪戯っぽく笑うと、俺の腕にスルッと自分の腕を絡めて

 「一応、デートだからさ。これだと堂々とこうやって出来るじゃん?」

 と、グイッと俺を引っ張って歩き出す。

 そりゃぁ傍から見れば男女に見えるし、腕を組んでいても違和感は無いだろう。

 それに…………、やっぱり可愛い。

 昨日みたいに男の格好で来ると思っていた俺は、どうしても自分の好みのコイツをチラチラと見てしまう。そんな俺の視線に気が付いたのか、黒川は嬉しそうに俺の顔を見ながら

 「何、やっぱコッチの方がタイプ?」

 なんて、聞いてくるから俺は息を呑んで

 「……ッ、は、はぁ?ンなワケね~し……」

 フイと顔を黒川から反らして、モゴモゴと口を動かすと俺の反応が良かったのか、奴はもう一度フフと笑って

 「とりあえずさ何か食べてから、行きたかったところ行っても良い?」

 と言われ、俺は無言で頷く。

 まず向かったところはベトナム料理店。

 自分では行った事の無いところに連れて行かれて、少しだけ緊張してしまうが出てきた料理は日本人向けにアレンジされているのか、食べやすく美味しかった。

 「え?こういうところ初めて?クセ強すぎた?」

 初めてと聞いた黒川は、心配そうに俺に尋ねてきたが、美味しそうに食べる俺を見て安心したのか終始笑顔で、なんだかんだと会話もスムーズで楽しい。

 アレ……?俺、昨日コイツと変な空気になったよな?と、話をしながら何度か思ったが、目の前にいる女のレイちゃんと昨日の奴とでは全くの別人に見えて、混乱する事もしばしばで……。最終的には何だか考えるのも面倒臭くなってしまい、楽しむ事にした俺がいる。

 食事を済ませて店を出てから、黒川は俺の腕に自分の腕を絡ませるんじゃ無くて手を繋いできたが、それも本当に自然で……。

 俺もなんの違和感も無く繋ぎ返して歩いている。

 「どこ行ってんの?」

 しばらく話しながら歩いているが、次の目的地は知らされていなかったので聞いてみると

 「ん?良いところ」

 ニカリと笑って教えてくれない黒川に、俺はかすかに眉を潜めて奴が歩くスピードに合わせる。

 「ここだよ?」

 道路に看板が出ているところで黒川が足を止めて、ジャ~ンッ!みたいな感じで俺に言ってくるので、俺は看板に目を向けるとそこは猫カフェ。

 「え、猫カフェ?」

 「そ、予約してるから早く行こう」

 猫カフェはビルの二階にあるようで、看板の奥に階段があり奴は俺の手を引くと階段を上がって行く。

 ……………マジで?…………ッ、ちゃ嬉しいンだが?

 階段を上がりながら少しだけ俺はソワついてしまう。それは俺が滅茶苦茶、猫が好きだからッ!

 実家はマンションでペット禁止だったから、小さい頃から動物は飼えなかった。

 高校の時に学校でよく野良猫に餌をやっていたくらいで、それ以来猫を触った記憶が無い。

 大学の講義中とか、一人の時にたまに猫の動画を見て癒やされているくらいで……。

 ウワッ、マジかよ!めっちゃテンション上がるッ!

 階段を上がりながらウキウキしている俺を振り返った黒川が、おもむろにブハッと吹き出して

 「何、ココ正解だった?」

 からかうように言われて、カァッと顔が熱くなるのを感じるが

 「まぁ……、猫、好きだし……ッ」

 素直に答える俺を見て、一瞬黒川はキョトンとした顔になったが、次いではニッと歯を見せて

 「そ、良かった」

 それだけ言うと階段が途中踊り場になったところで奴は右に足を向けると、そこに猫カフェのドアが現れる。

 チリン、チリン。

 「いらっしゃいませ」

 ドアを開けると、奥からスタッフの人が顔を出して挨拶してくれて

 「予約していた黒川ですけど」

 「はい、黒川様お待ちしておりました。当店は初めてですか?」

 「はい」 

 初めてと申告すると、レジの前で一通りシステムを説明される。それが終わるとレジでワンドリンク分のお金とフリータイムのお金を先に払って手を消毒し、靴を脱いで猫達がいるスペースのドアを開けて中へと入る。

 「ドリンクがご用意できましたら、こちらのカフェスペースにお持ちしますのでこちらで飲食お願い致します」

 猫達がいるスペースの手前にもう一つ部屋があって、そこで飲むらしい。そこも猫達が入れないようにドアが付いているが、全面ガラスなので中から猫が見れるようになっている。

 「また、中にある玩具で好きに猫ちゃんと遊んでもらっても大丈夫ですが、無理に抱っこは止めて下さい。お膝に乗ってきたら抱っこは大丈夫です。テーブルにあるメニューは猫ちゃんのおやつメニューになるので、良かったらご利用下さい」

 言いながらドアを開けてくれて、俺達が中へ入るとドアを閉めてくれる。

 「ファ……、ア~」

 中へ入ると、誰だ?と興味がある猫達がスンスンと匂いを嗅ぎに近付いて来てくれて、俺は堪らずに声を漏らすと

 「先輩、猫メッチャ好きじゃん」

 黒川もテンションが上がっているのか、笑いながら言ってくるから

 「実家のマンションペット禁止で……ッ、飼いたいけど駄目だったから」

 入ってすぐ右にソファーがあり、俺は猫の邪魔にならないようにユックリとソファーに腰を下ろすと、何匹かは俺の周りでまだ匂いを嗅ぎにきてくれる。

 黒川も俺の隣に腰を下ろして

 「そっか、俺も猫好きだったからここにして良かった」

 首を傾げながら笑顔で言われドキリと鼓動が跳ねる。が、すぐに視線を猫に向けて

 「あ~……、ここのお金……出すし……」

 何故かドギマギしながら俺は自分のバッグに手を触れたところで

 「あ、良いよ勝手にここ予約して来たかったのは自分だし」

 やんわりした口調で断られるが、俺はゴソゴソとバッグをまさぐりながら

 「イヤイヤ、それは……」
 
 悪い。まで言わせてくれずに

 「じゃぁ、次は先輩に出してもらおうかな。それで良いでしょ?」

 ゴソゴソしている俺の手に黒川の手が重なり、俺は動きを止めると

 「じゃぁ、晩ご飯は俺が出す……」

 重なった手を振り払えずに顔を奴に向けると、ニコリと笑顔で

 「ン、解った。じゃ、楽しもう?」

 「…………そうだな」

 テーブルの下にあった籠の中に、猫にの玩具がひとまとめで入っていて、俺はその一つを掴むとスンスンと匂っている猫の側でウリウリと玩具を動かす。

 まだ若い猫は俺の脚から興味が玩具が移ったのか、ピクリと反応して瞳孔が一気に開くとお尻を高くしフリフリ振ると、その玩具目掛けて飛び付いてくる。

 「ハ、ハワ~~ッ。か、可愛いッ」

 俺の玩具に素直に反応してくれる猫が可愛くて、きっと顔はデレデレになっていると自分でも解るが、久し振りに動物と触れ合っている事実は、そんな些細な事を忘れさせてくれる。

 それが、奴の前でもだ。

 しばらく他の猫達も巻き込みながら玩具で遊んでいたが

 「黒川様、お飲み物の準備が出来ましたのでこちらへどうぞ」

 スタッフの人が部屋のドアを開けて読んでくれるので、俺と黒川は促されるように隣の部屋へと移動する。

 レジのところで頼んでいた飲み物がカウンターに置かれていて、それぞれ自分のところにある椅子に座ると飲みながら部屋の中にいる猫を眺める。

 と、

 「先輩昨日さ、外見の件でメッチャ怒ってたじゃん?」

 唐突に昨日の話を始める黒川に、俺は飲んでいた飲み物を吹きそうになるが、それをグッと堪えて視線を奴の方へと向ける。

 黒川は俺と視線が合うと、少し複雑そうな表情でニコリと笑って

 「俺の外見が良いから、自分の気持は解らないとか……何とか言ってたじゃん?」

 「………………、それは……」

 そう昨日コイツに色々と言われ、昔の自分を思い出してしまい図星を突かれた俺はコイツにあたってしまったのだ。

 口ごもる俺にフッと微かに笑った声が漏れ聞こえ、俺は視線を上げると

 「俺はさ、自分の容姿が嫌で大学では目立たないようにしてんだよね」

 「…………は?」

 意外な台詞に俺は黒川と視線を合わせると

 「だから昨日みたいな眼鏡かけたり、モッサリした髪型してたりね……」

 ラブホでの寝顔と、昨日の男の姿を俺は見ているが、素から綺麗な顔立ちをしている奴は、女装してたって素が良いから可愛く変身できるのだ。

 そんな奴が自分の容姿が嫌だから目立たないようにしているなんて、俺からしてみれば贅沢な悩みというか……。なんでそうなったのか気になってしまう。

 俺ならもっと日々を楽しむ事に全力になるのに……。

 そう思っていたのが顔に出ていたのか、もう一度奴はクスリと面白そうに笑って

 「周りの理想通りに過ごす事に疲れちゃったんだよね」

 「理想……」

 呟いた俺の台詞に、黒川はグラスにささったストローをもてあそびながら

 「そう、見た目で勝手に自分を決めつけられてさ……、ソイツの思ってた姿と違ったらハイサヨナラって……結構しんどかったんだよ」

 カラカラとグラスに氷があたる音が、空間に響いていて、俺はどう言って良いのか解らずに黙ったままだ。

 「それに変な奴等とかに絡まれる事も多かったし……。先輩はさ、自分でそういうキャラを演じてるかも知れないけど……、最初の頃と違ってしんどく無いのかって思ってて」

 黒川は俺から視線を外して、一口ストローから液体を飲むと

 「ま、余計なお世話っちゃ、お世話なのは解ってんだけどさ……楽しく無さそうだなって思ってたのは本当だから」

 「…………ッ、だったら昨日、そう言えば良かっただろ?」

 少しだけ恨めしくブツブツ呟く俺に、黒川はフハッと吹き出し

 「昨日あのまま話してても、先輩きっと聞く耳持たなかっただろ?俺も結構ムキになって言葉が足らなかったし」

 ニヤニヤと笑いながらそう言われ俺は

 「……ッれは、そうかも知れないけど……」

 「少しでも時間が空いたからこうして話が出来てるんだし、それに……」

 一旦奴は言葉を区切って、次いでは俺の方に再度顔を向けると

 「今日も会える口実が出来て、俺としては一石二鳥だったしね?」

 「は、はぁ……ッ?」

 楽しそうに言ってくる黒川の台詞に、俺はどう反応して良いのか解らずにグラスの液体を喉に流し込む。

 そうして昔の事を思い出していた。

 高校の時の俺は、ソコソコ身長はあるが太っていた事もあり自分に自信が持てずオドオドとした態度で高校生活を送っていた。

 昔から太りやすい体質のせいもあって、今が一番痩せている。そういうのもあり目立つ事も嫌いで、影では周りからあまり嬉しく無いあだ名で呼ばれている事も知っていたから、余計に萎縮して目立たないようにしていたのだ。

 そんな時に一人の女子から呼び出されて告白された事がある。

 俺にとっては人生初の告白で、舞い上がったのは無理も無い事だ。

 けれど女子とあまり話した経験も無かった俺は、どう返事をしたら良いのかも解らずに無言で立ち尽くしていると

 『返事は良く考えてくれてからで良いから、また聞きにくるからその時は宜しくお願いします』

 ペコリとお辞儀され、その場から立ち去られてすぐには返事が出来なかった。

 喋った事の無い女子からの告白。

 相手の事なんて一つも知らない俺は、真剣に数日間悩んだ。

 なんで俺が選ばれたのか?本当に相手は俺と付き合いたいのか?もし付き合ったとしたら?それとも断ったら?

 数日悶々と過ごしたある日の放課後。俺は担任にお願いされていた資料室の整理の手伝いを終えて教室に自分の荷物を取りに行った時、教室にまだ数人残っていたのか、中から人の声が聞こえた。

 何だか楽しそうな雰囲気に中に入る事が躊躇われた俺は、少しドアの前で立ち往生していると

 『てかさ~、もし関取からOK貰ったらどうすんの?』

 『え?ヤバ~……』

 『でもOK貰わないと賭けに負けるじゃん?』

 『イヤイヤ、マック奢ってもらう気満々じゃん』

 『ウケル~』

 ドア越しに中から聞こえた会話。
 
 俺を賭けの対象にして面白がっている女子達の会話に俺はその場で血の気が引いて、自分の荷物よりも早くこの場から立ち去りたくて、結局教室に入る事無く家に帰った。

 家に帰ってから俺は、あの女子達に何かしたのだろうか?と考えたが、別に今迄接点さえ無かったのだから、不快にさせる事なんて何もしていないのだと思うと、ただ単に暇潰しでからかわれていただけなのだと気付き、死にたい位に落ちた事を思い出す。

 結局俺はあの後告白してきた子が再度俺に返事を聞きに来た時に断った事で、益々自分の立場を悪くした。

 こんな見た目の奴が、女子からの告白を拒否ったって事で、振られた形になった女子が悪意を持って悪い噂を流し、高校生活の後半は俺にしてみれば記憶を消したい程に辛い日々だった。

 だから大学は当時の同級生があまり来ない県外の大学を選んだし、もう二度とあんな思いをしない為に死物狂いでダイエットをし服装や髪型に至るまで努力して変えた結果、今の俺がある。

 あの時のように誰にも馬鹿にされず、攻撃されないように自分から進んで今の自分になったし、舐められないように誘われれば何処にでも顔を出し、関係を持った。そこに感情を持ち込まなければ自分が傷付く事は無いと理解していたから。

 当初は何でも良かった。違った自分、昔の自分を知っている奴がいない事で好きに出来ていたから……。けれど日を追うごとに、黒川に言われた通り楽しくは無くなった。

 ゲーム攻略と同じ。攻略してしまえば楽しさは半減する。それに加えて相手の事を考えない好き勝手な振る舞いが許される現実に、自分自身苦痛を感じていたのも確かだ。

 けれど止める事が出来なかった。イヤ、止め時が解らなかった……。

 自分で作ったキャラがイメージ先行でドンドン俺を置いていく中、コイツだけはそんな俺に気付いて言ってくれていたって事で…………。

 「どうしたの?急に押し黙って?」

 「へぁッ?……ッ、イヤ、別に……」

 俺の顔を覗き込もうとしてくる視線から逃れて、俺は汗をかいたグラスを手に持ち体ごと向きを変え奴から見えないようにする。

 だって今の俺の顔は絶対に見せられない。

 自分でも解るくらい顔が熱いって感じるから。

 そんな自分をどうにか誤魔化そうと小さく深呼吸を何度か繰り返し、俺はヘラッと口元を緩め向き直りながら

 「でも、お前も勿体無いって思うよ?」

 唐突に話し始めた俺を不思議そうに見詰めながら黒川は首を傾げると

 「勿体無い?」

 俺が言った台詞の意味を考えながら呟く相手に、俺は何も考えずに思った事を口にする。

 「イヤ、だって素が良いのにそれを隠すってさ……、俺だったら最大限利用するけど」

 「…………嫌な過去があるからあえてしてるんだけど?」

 「そ、それでも……ッ。お前なら周りなんて気にせずに出来そうだけど……?そんなに可愛く女装も出来るのに何か……、勿体無いよなって……」

 コイツはコイツなりに容姿で嫌な思いをした過去があるかもだけど……、俺に対して結構ズバズバ言う物言いとか態度とか見ていると、周りを気にしないままちゃんと過ごせそうなのにって思えてしまう。

 上手く言葉には出来ない俺だったが、黒川は俺の気持ちを汲み取ってくれたのかハハッと笑うと

 「ケド、女装してる事はバレたく無いから、やっぱ大学で目立つのはちょっとな……」

 「え?そんなに上手く化けてんのに?」

 「先輩にはバレただろ?」

 「アレは……たまたま、だろ?」

 「たまたまかよッ!」

 大講義室でたまたま隣に座らなかったら、きっと俺はコイツだと気付かなかったはずだ。そう考えると、不思議だな~なんて物思いに耽ってしまう。

 「なぁ、大学でもアンタ見かけたら声掛けて良いよな?」

 少し食い気味に俺にそう言ってくるコイツに、俺は嫌そうな顔を向けて

 「……ッ、別に良いけど…………、俺はまだ昨日の事は許してないからな」

 今日のデートや今の会話でお互いの事が少しだけ知れて絆されそうになっている自分はいるが、それとこれとは別の事と、俺はそうボソリと呟いた。

 すると黒川はキョトンとした顔で

 「は?一人で出来るように教えてあげたのに、そういう事言うの?」

 「は、はぁ?俺はそんな事頼んでねぇッ……」

 文句の延長で、こんな事になった俺をどうしてくれるんだと言いたかっただけなのに、後ろでイケる事を教えられ今以上に女を抱けなくなってしまったらと一抹の不安があるのも確かだ。

 「ま、女抱けなくなっても俺がいるし問題無いでしょ?」

 自分が考えていた事を見透かされたように言われてドキリとしてしまうが

 「大アリだわッ」

 すかさず言い返した俺に黒川はケタケタと笑い出し

 「イヤ、反応早ぇから」

 と茶化されてしまう。


         ◇


 あれから数日。黒川は宣言通り大学で俺を見付ける度に声を掛けてくるようになった。しかもあのモッサイ髪型と眼鏡を止めて。

 「先~輩、もう昼食った?まだなら一緒どう?」

 講義が終わって中庭のベンチでたむろっていると、ニコニコと片手を上げながら黒川が話しかけてくる。

 「あ、クロ君だ~」

 「よぉ、お前も講義終わり?」
 
 「お昼?一緒に行こうよ~」

 モッサイナリを止めたコイツは、やはり外見の良さでモテる。俺に話しかけてくるようになって、グループの女子達がコイツがくる度にソワつきだしたし、一緒にいる男連中も、コイツの外見の良さに一緒にいる事で自分達にメリットがある事が解るからか、絡んでいくようになった。

 「イヤ~俺は先輩と食べたいんで、スミマセン」

 ケドコイツは俺の周りがいくらチヤホヤしても俺にしか懐かない。今みたいに他の奴等からの誘いは断って、俺を連れ出す。

 「ホラ先輩、早く行こう」

 「え~、たまには私達も一緒に連れて行ってよ」

 「クロ君と仲良くなりたい!」

 「俺は先輩と仲良くなりたいかな?」

 笑顔で絡んでくる女子達をそう牽制して、俺の腕の掴むとグイグイ引っ張って行こうとするので

 「オイ、引っ張るなって……」

 「ア~……、また連れてかれたな」

 「清ばっかズルいよぉ~」

 後ろで連れ達が残念そうに呟いている声を聞きながら、俺は黒川に連れて行かれる。

 「最近、近くにできたカフェ行った事ある?」

 黒川にも連れ達の声は聞こえていると思うが、そんな事は気にしていない素振りで俺に話しかけてくるから

 「なぁ……、他の奴等とも喋ったら?」

 ボソリと呟いた俺に、顔を覗き込む仕草で振り返った奴は

 「え、なんで?さっきも言ったけど俺は先輩としか仲良くなりたくないんだけど?」

 はっきりとそう言う黒川に、俺は少し狼狽えながら

 「イヤ……、ケドさ奴等もお前と仲良くしたそうだし」

 猫カフェに行ってから、コイツは自分の思うように過ごす事にしたそうだ。それは俺に言われた事が大きかったと言っていたが、まさかこんなにもグイグイくるなんて俺も思って無くて……。

 ヒョコッと出てきた黒川の存在は、退屈していた俺の周りで目新しいイケメンが出てきたと一斉に女子達が浮足立った。しかも女子達がアプローチしてもなびかない事で逆に興味津々の的で、黒川がいない時に根掘り葉掘り俺にコイツについて聞いてくるから、些か俺も疲れているっていうのが本音だ。

 だから、本人から周りの奴等と絡んでくれるのが一番有り難いんだが……。当の本人は毎回こんな感じで……。

 「俺は逆に先輩が絡む相手変えれば良くないって思ってるけど?」

 「………………、無理だろ?」

 そう、黒川は俺に周りの奴等と距離を取れと言ってくる。それは前から言ってる事で、俺がいつもいるグループで楽しそうにしていないから、無理なく付き合える人を探せと言っているのだ。

 俺自身もそう出来れば一番良いとは本音の部分で思っている。けれど入学してから連るんでいる連中だ、余り深入りせずに付き合ってきたとはいえ、少なからず仲間意識はある。

 「まぁ……それが出来ない先輩も可愛いですけど、最終的に泣かされないで下さいよ?」

 「…………、どういう意味だよ……」

 「そのまんまの意味ですけど?」

 泣かされるって……、成人男性がそうそう泣かされるワケねーだろ?

 何を馬鹿な事を……と黒川の発言に呆れたような溜め息を吐きながら、俺達は先程奴が言っていた最近大学の近くにできたカフェへと向かう。

 昼時もありカフェは人が多く、俺達はテラス席に案内された。店内には大学で見知った顔の奴も何人か居て、軽く挨拶をしながら外の席に腰を下ろす。

 注文を取りに来たスタッフにメニューを指差しながら頼んでいる黒川を見詰めて、器用だよなコイツ。と思う。

 つい先日猫カフェに一緒に遊びに行った時、コイツは女装して来ていたのだが器用に人前と、俺と二人の時の態度や物言いをきちんと使い分けていたのだ。俺との時は素を出して自分の事を俺と言っていたのに、誰かが居る時は必ず私と言っていた。

 混乱しないか?と尋ねた俺に『もう慣れたかな?』と、少し苦笑いしながら答えた黒川に、そんなもんなのかなと思う。猫カフェから出てしばらく街ブラしてから夕飯を食べに行ったが、本当に完璧に女子を演じていて……。いつからしてるんだ?と尋ねると『高三になってからかな、知り合いの子にしてもらってそこからハマった』と言っていたが、多分最初に出会ったクラブで一緒に来ていた連れの事かな?と俺は踏んでいる。

 注文していた食事が運ばれ、楽しく会話しながら黒川とお昼を食べる。最近はこういう普通の絡みが多く、処理の仕方と言って触られたあの日以来コイツから手は出されていない。

 俺の方も何かと黒川が絡んでくるようになってから、セフレの彼女達から連絡がきても断るようになっていて……。

 まぁ、勃つかどうかの不安もあって極力これ以上変な噂が広がらないように自粛してるってワケだ。

 その分黒川と一緒に過ごす時間が増えたのだが、結構趣味が似てるというか……一緒に居ても楽しいだけで、嫌だと感じる事が少ない。

 最近は大学が終わってお互いにバイトが無い時は、どちらかの家で映画を見たり、お笑いを見たりしているし、酒の好みも割と似ていて俺と一緒に飲んでも結構潰れる奴が多かったが、コイツは最後まで付き合える貴重な奴というのもポイントが高い。

 しかも色々とさらけ出してしまっている相手だから気負わずにいられるのは、俺にとってだいぶ楽で……。

 ……………、居心地良いんだよな~……。

 中学、高校と自分に自信が無かった俺は、根暗な奴だったから友達と言える奴も居なくて、もしいたらこんな感じなのかな?とか……、結構今の現状を楽しんでいる節もあったりして……。

 「レイじゃん?」

 突然俺の後ろから黒川の名前を呼ぶ声が聞こえて、俺は声のした方に顔を向けると、そこには髪が長く猫目の美人が友達と一緒に立っていて

 「由佳」

 ユカと呼ばれた彼女は黒川の方に足を進めると

 「何アンタ、本当にモッサイの止めたの?」

 不思議そうにそう言いながら黒川の側まで来ると、不意に俺に視線を合わせて小さくペコリとお辞儀をする。

 俺もつられてペコリと返すと

 「しかも珍しいねボッチのアンタが、誰かとお昼食べてるとか」

 「うるせぇ、お前も早く友達と食べろよ」

 お互い気心が知れている物言いに、親しい友達なのかな?とジッと彼女を見てしまう。

 「は?何その言い方……………、ア……ア~~~、そういう事?」

 彼女は何かに納得したのか、ジッと見詰めている俺を振り返り「フ~ン」と俺の頭から爪先までジロジロと不躾な視線を寄越すと

 「てか、変わりすぎじゃ無い?」

 「由佳ッ!!……、用無いならもう行けよ」

 すかさず黒川がバツの悪そうな顔付きで彼女にこれ以上何も喋らせないように横槍を入れると、彼女は肩を竦めて

 「解ったわよ、邪魔者は消えます~。先輩、またね」

 イ~~ッと黒川に嫌な表情を向けた後、俺にはそう言って後ろにいる友達と店内の中へと消えていく。

 …………………、何だか俺の事を知ってる感じだが……、俺は見たこと無いよな?

 「誰?」

 素直に疑問に思っていた事を聞いて見るが、黒川は嫌そうな顔をして

 「………………、知り合い……」

 一言呟いただけで、それ以上俺に聞かれる事を拒否する空気を纏う。

 知り合いって……、俺の事先輩って言ってたって事は、俺が自分より年上って事も解ってるって事だろ?どこかで会った事あったか?

 俺はグルグルと記憶を手繰り寄せるが、思い出せない。でも、あんな猫目の美人一度会ってたら覚えてそうだけどな……。と、考えていると

 「ソロソロ出ようか?」

 気まずそうに奴がボソリと呟いて席を立つから、俺も半分以上残っていたアイスコーヒーには手を付けずに一緒にカフェを出る。

 大学まで気不味い雰囲気の中を黒川と一緒に歩いているが、俺は先程のユカと呼ばれていた彼女の事を考えていた。

 黒川と仲よさげな感じだった彼女。コイツがモサいナリを止めた事も、大学で余り人と関わりを持って無い事も知っていた。しかも、黒川には珍しい物言い。俺や俺の周りの奴等とも違う喋り方は、二人が親密だと思わせる。

 ………………、彼女、とか?

 フト頭に浮かんだフレーズに、何故か俺はドクンと鈍く鼓動が跳ねる。それと同時に嫌な感覚が自分を飲み込んでいきそうで、ブルブルと首を左右に振っていると

 「先輩?」

 訝しげに俺の行動を見ながら黒川が呟くので、俺はハッとなると

 「な、何でも無い……」

 変な行動を見られてしまったと、両手を振り口を引き攣らせながら答えると

 「?……、なぁ今日も先輩の家バイト終わりに行っても良い?」

 と、聞かれるので

 「ぇあ?……も、勿論!この前のドラマの続きでも見るか?」

 しどろもどろに答えた俺に、黒川は途端に上機嫌になると

 「んじゃ、何かテキトーに酒買って行くわ」

 大学の校舎に着いて、二、三そんなやり取りを交わした後、俺達はそれぞれの講義を受けに別れた。


          ◇


 黒川と俺の家で海外ドラマを見てから数週間。あれから奴と会っていない。

 あれだけアイツから絡んできていたのに、パッタリと来なくなった事に何かあったのかとラインを入れれば「しばらく会えない」とだけ返信がきた。

 俺の周りの奴等は黒川が来なくなってから口々に俺に何故か?と聞くが、俺も詳しくは知らないと答えるしか無い。

 最近まで黒川と一緒に過ごしていた時間が急に無くなり暇な時間が増えたが、かといってまたセフレと過ごそうとは思えず……、自分自身そんな変化に驚きながらも、大学が終われば講義やゼミの課題を大人しく部屋でしている。

 一人で海外ドラマの続きを見る気にはなれないし、ましてや酒を一人で飲もうとは思えなかった。

 「急に……なんなんだよ……」

 理由も教えてもらえない事に、フツフツと時間が過ぎるにつれ怒りが込み上げてくるが、別に俺と黒川の間柄でそこまでになる自分も可笑しいよな?とブレーキがかかり、悶々と日々を過ごす他ない。

 そんな日常を過ごしていたある日、久し振りに大学で黒川を見かけた俺は、自然とそちらに足が向いていて

 「よぉ、久し振りだな」

 中庭のベンチに一人座っている黒川の後ろから俺はそう声をかける。

 俺の声が聞こえた黒川は、ビクッと肩をビクつかせてユックリと俺の方に顔を振り向かせると

 「先輩、久し振り」

 笑顔で答えようとしてくれた顔は失敗に終わったのか、ぎこちなくハハッ……と苦笑いを浮かべてすぐに俺から顔を反らすと、また正面に向いて小さく溜め息を吐き出している。

 「何お前……、なんかあったの?」

 いつもみたいな元気が無いコイツにそう言いながら、俺はベンチをまわって隣に座ると

 「イヤ……何も無いけど?てか、疲れてる」

 チラチラと黒川を盗み見れば、余り寝ていないのか会っていた時より顔色が悪く感じるし、隈も目立っているような……?

 何が忙しくてこんな風になっているのか気にはなるが、答えたく無さそうな本人から無理矢理聞くのも違う気がして突っ込んでは聞かないが、普通に心配にはなる。

 ………………、飯にでも誘ってみるか?

 気分転換になるのか、ならないのかは解らないが……。

 あれだけ一緒にいたが、いつも誘ってきていたのは黒川の方からだったので、いざ自分から誘うとなると少し勇気がいる。

 俺は膝に置いていた手をギュッと固く握り締めると、スゥッと息を吸い込んで飯でも……と言おうとしたところで、黒川のラインが着信を告げたので、そのまま開いた口をつぐんだ。

 黒川は着信の音にうんざりしたような溜め息を漏らして画面を見ると、一度小さくチッと舌打ちして

 「何?」

 あからさまに不機嫌そうな声音で電話に出ると
 
 「は?…………、イヤ、終っただろ?…………ッ解った、解ったから」

 言いながらおもむろに腰をベンチから上げて、「今から向かうって」と呟き電話を切ると俺を振り返り

 「ごめん先輩、またね」

 少し焦っているように俺に向かって片手を上げると、そのままスタスタと歩き出してしまった。

 「お……ぅ……」

 俺も奴の背中に手を振るが、黒川が振り返る事は無く……。

 しばらく奴が歩いて行った方向をボーッと眺めていたが、張り詰めた糸が切れたみたいに俺はベンチの背もたれに頭を乗っけて

 「なんなんだよ……」

 上げていた視線を黒川が座っていたところへ落とすと視線の端に何かが映り、俺はそれに焦点をあてる。

 ………………、多分黒川のノート。

 肩に掛けていたバッグから落ちるのは不自然だから、見ていて入れ忘れたのだろうか?

 ついさっきだから今すぐに追いかければ捕まるはず……。

 俺はそのノートを掴んで黒川が歩いて行った方へと駆け出した。

 どこだ?そんな遠くへは行ってないはずだ。

 俺はキョロキョロと視線を泳がせながら、黒川の姿を探す。すると、少し遠くで誰かと話している奴の背中を見付け、俺はノートを持っている方の手を掲げながら名前を呼ぶために口を開くと、突然の旋風。

 「ぅわッ」

 風の勢いに両目を瞑り、上げていた手を下ろした俺は風が止んで目を開く。そうして下ろした視線を再び黒川の方に向けると

 -------、ドクンッ。

 視線の先に黒川と、話していた相手がキスをしている。

 俺はその場に固まり足から根が生えたように動かすことが出来ない。

 黒川がユックリと相手から距離を取って離れれば、その相手はあのカフェで会った猫目の美人だ。

 「…………ッ」

 そのまま二人は歩き出し、俺の視界から消えていく。


         ◇


 黒川の忙しい時期が終わったのか、あのキスをしていた日から数日後、また何も無い顔で奴からの誘いが増えた。

 だが、今度は俺から奴の誘いを断っている。

 …………、だってそうだろ?彼女がいる奴の誘いを受けていつも連るんでいると、彼女からしたら俺が悪者じゃないか?

 極力喧嘩の原因になりたくない俺は、飯や遊びの誘いを断っている。

 あの日黒川のノートを渡しそびれたが、いつもの面子でたむろっている時に黒川が話しかけて来たので、その時にノートは返した。

 二人で見ていた海外ドラマの続きも、結局はあの後一人で最新話まで見てしまったし、酒も自宅で一人で飲む事に慣れてしまった。

 今日も自宅で一人、お笑いを見ながら晩酌しようと、家から近いコンビニに寄ってつまみと酒を買って帰っている。

 コンビニから出て、自宅アパートの階段を上がり足元から視線を前方ヘ向けると、俺の部屋の前に人影。

 「…………ぁ……」

 相手も俺の姿を認識したのか、しゃがんでいる態勢からスクッと立ち上がると

 「先輩……」

 黒川は小さく呟いて真っ直ぐに俺を見詰める。

 まさか自宅の前に黒川がいるなんて思って無かった俺は、一瞬たじろいでしまうがキュッと唇に力を込めるとドアの方へと進んで行く。

 「今日……断ったよな?」

 パンツのポケットから鍵を取り出し玄関を開けながら呟く俺に、黒川は隣で

 「……ケド、予定無さそうだよな?」

 俺が持っているコンビニの袋を覗き込みながら呟くと、ドアノブを掴もうとした俺の手首を捕まえて

 「中、入れてくんねーの?」

 黒川に掴まれているところから熱が広がって、俺の鼓動が早くなる。俺は、それを振り払うように腕を自分の方にグイッと引き寄せて

 「来るところ間違ってんじゃね~の?」

 奴の顔は見れずにそう返すと

 「は?……、最近アンタ変だよな?何かあった?」

 なんて言い返してくるから、俺は一瞬奥歯を噛み締め次いではヘラッと笑い

 「俺じゃ無くて、お前だろ?……、とにかく今日は無理だから帰れよ」

 ドアを手前に引いて開け、俺は玄関の中へと入ろうとするが、俺が一歩を踏み出すよりも早く黒川の手がドアノブを握るから、俺の手と重なる。

 「は、俺?意味解んないんだけど?」

 もう一度黒川の体温を感じて、俺はバッとドアノブから手を離すと

 「俺に興味無い奴、俺も興味無いからッ」

 早口で捲し立てるように言葉を紡いだ俺は、自分で言った台詞にカァッと顔が赤くなるのを感じて、ドアノブを握っている黒川の手を掴んで離し、もう一度玄関を開けて中へと入ろうとすると、ガッと肩を掴まれ

 「イヤ、ナニナニナニ?どういう意味?」

 俺の言った台詞の意味が解らないと、眉間に皺を寄せながら黒川が距離を詰めてくる。するとフワリと奴の体臭が鼻孔をくすぐり、俺は左腕を奴の胸板に押し当て距離を取る。

 「…………ッ、ヤッパ女の子の方が良いって話……」

 「………………、何?」

 俺が呟いた一言で黒川の動作が止まり、固まるのを感じる。

 「俺もお前も女の方が良いだろって事。こんなさ~……、男二人でいつも一緒に居ても不毛だろ?」

 ペラペラと喋る俺の台詞に、黒川の空気が凍り付いていく雰囲気が伝わってくる。だが俺は喋るのを止められない。

 「お前もバイだって言ってたし、ソロソロ俺達連るむの止めないか?俺も良い加減女の子と遊びたくなってきたしさぁ……」

 「……………ッのかよ?」

 「え?」

 低く唸るように黒川が呟く。その台詞が聞き取れなくて、聞き返してしまった俺に黒川は掴んだ肩に力を入れると俺は反動で奴の顔を見てしまう。

 「女、抱けんのかって聞いてんだ」

 ギッと睨み付けるように俺に言った台詞よりも、睨んだ目の奥に奴の熱を感じてドクンと鼓動が跳ねる。

 俺は咄嗟に黒川から視線を外して

 「…………ッける」

 「あ?」

 「抱けるって言ったんだよッ、もう良いだろ?帰れよッ」

 肩に置かれた手を振り払うように腕を振って、俺は勢い良くドアを開けると部屋の中へ素早く入る。後ろ手でドアノブを掴んで奴の顔を見ないようにドアを閉める瞬間

 「清ッ……」

 バタンッ。

 俺の名前を呟いた黒川の吐息をドアが遮断する。

 ガチッと鍵を施錠して、俺はその場にしばらく立ち尽くした。

 どのくらい玄関で立っていただろう。黒川の靴音が遠くなっていくのを聞いた後も、そのままその場にいたが、ユラリと力無く片足を上げて一歩踏み出せばいつものように靴を脱いで部屋の奥へと進んで行く。

 真っ暗な部屋にパチリと明かりを点け、無意識にカーテンを閉めると俺はそのままベッドヘダイブする。

 「…………………」

 手首に絡まっていたコンビニの袋が重さでガサリと音を立てながら床へ落ちると、何故か笑えて俺は乾いた笑いをハハッと口から出し、次いではギュッと唇を噛み締めた。

 あの、黒川と彼女がキスをしていたのを目撃してから、自分の知りたく無かった感情に気付いてしまった。

 「……………ッ、ハッ」

 もう一度笑おうと口を開いたが、出てきた吐息は熱く湿っていて……、俺は震える唇を閉じようとしたが失敗し、笑いはいつの間にか嗚咽へと変わっていく。

 好きなのだ、黒川の事が。

 自覚する前に失恋してしまった気持ちは、相手に伝える事も出来ないまま、俺の中で消化不良を起こしている。

 最悪な出会いだったはずだ。騙された挙げ句薬を盛られて気持の整理も出来ないまま奴に抱かれた。それ以来女を抱く事もままならなくなったのに……。

 「馬鹿かよ……俺は……」

 それでも、好きになってしまったのだ。

 最悪の出会い以外、奴と過ごす日常は俺にとってとても居心地の良いものだったから……。俺の事をよく見ていた黒川が俺にありのままでいても良いと言ってくれたからだ。

 見た目は変わっても、結局根っこの部分で無理をしていた俺を見付けて、奴の前でだけは素の自分でいられた。どれだけそれに救われていたか……。

 一度だけタイプだと言われ、そこから頻繁に奴から誘われて……、見た目の事で言い合って、奴にお前も素で良いじゃんと伝えればモッサイ見た目から変わり……、俺の周りの奴等からアプローチされても俺にしか懐かず……。

 そんな事されたらさぁ……、俺に気があるんじゃ……って思うよな?

 「………………ケド、違ったんだよな……」

 一人で舞い上がっていた事を思い知り、恥ずかしさに死にたくなる。

 このまま消えてしまえば良いのに……と自分に呪いの言葉を吐きながら、何もやる気の無くなった俺は目を閉じた。


         ◇


 「ねぇ、またクロ君忙しいの~?」

 大学のカフェでいつもの面子と昼飯を食べていると、グループの中の女子が不機嫌そうにそう俺に聞いてくる。

 「は?………、知らね~ケド……」

 あの日から黒川は俺の近くに来なくなった。正確に言うと、姿を見なくなった。

 大学に来ているのか、いないのか解らない俺は、女子が言った質問に答える事が出来ない。

 「知らないって……、この前までよく連るんでたじゃん?」

 「連るんで、は……無いだろ?」

 黒川が忙しい時期を過ぎてまた俺を誘い始めてから、俺はずっとその誘いを断っているのにどこをどう見たらそういう捉え方になるんだよッ。と、心の中でブツブツ言っていると

 「はぁ~……イケメン見るの癒やしだったのに~」

 「解る~」

 「は?俺等もイケメンなんだが?」

 「そ~だそ~だッ」

 俺を置いてワチャワチャと騒ぎ立てる面子のやり取りを見ながら俺はハハッと乾いた笑いを向ける。

 あぁ~、アイツと連るんで無い時ってこんな感じだったよな……。軽いノリ、意味の無い言葉の羅列、表面的な笑顔。

 黒川と出会う前まではそれが俺の全てだった。でも当たり障りなくやり過ごすには一番楽な空間。ただ、笑って頷いて、同調していればはみ出る事は無いから。

 これが俺の日常で、昔の自分を捨てて手に入れたかったモノ。

 「清~クロ君呼んでよ~」

 先程の奴が俺にそう言ってくるが、俺は苦笑いを浮かべて

 「イヤ……無理だし。最近大学に来てるのかさえ知らない」

 「え~~、何それ?」

 「また忙しくなったんじゃ……」

 ね~の?までは言えなかった。

 突然俺の横からスラリと腕が伸びてきたかと思ったら、ドンッと丸テーブルを叩いた音が響いて俺はビクリッと肩を揺らす。

 「先輩、ちょっと顔貸してもらえません?」

 そうして上から聞き覚えのある声が聞こえて、俺は視線をテーブルに置かれた手から腕を辿って顔に行き着くと、そこには猫目の美人で黒川からユカと言われていた彼女が、俺を見下ろしながらそう言っている。

 「あ…………ッ」

 認識した彼女の顔は不機嫌そうで、それを隠しもせずに顎でクイと向こう側を指すと先に一人でスタスタと歩き始めるから、俺もガタタッと慌てながら席を立って彼女の後を追いかける。

 「誰?」

 「さぁ?いつものセフレじゃね?」

 「は?清、ED治ったのかよ?」

 後ろから口々に好き勝手な台詞が聞こえてくるが、俺は無視して歩く。

 彼女は人気の無いところまで歩くと止まり、俺を振り返って

 「まどろっこしい言い方は好きじゃ無いから単刀直入に言わせてもらうけど」

 彼女と同じタイミングで立ち止まった俺に少し近付きながらそう言って、俺の顔を見上げると

 「先輩、レイに何したの?」

 と、ワケが解らない事を聞いてくる。

 「え?……なに?」

 俺はてっきり彼女から黒川ともう会うなとか、誘われても徹底して断って欲しいとかそういう事を言われると思っていたのに、何故か責められるように言われて戸惑ってしまう。だから言葉に詰まって何も言えなくなってしまった俺に対して

 「え?何じゃ無いわよッ、どうしてくれるの?」

 「どうしてって……?」

 言われても……。俺に何が出来るって言うんだ?何も出来ないだろう……?むしろ彼女である君の方がどうとでも出来るのでは?

 困惑している俺の顔を見て、彼女は大きく溜め息を漏らすと

 「レイから色々と聞いてたけど、思わせ振りな態度取っといて結局は女を取るつもり?」

 …………………、は?

 彼女の台詞に俺の頭は混乱する。

 黒川から色々と聞いていた?何をだ!?それに、俺がアイツに思わせ振りな態度を取ってた?…………、それはアイツの方だろ?挙げ句に俺が女を取るとか……、その前にアイツが君とキスしてたんじゃ無いかッ!

 「あ、あのさ……、チョット俺と君じゃ話が噛み合ってないと言うか……。確認なんだけど君、黒川の彼女だよね?」

 さっきから彼女の言い草を聞いていると、黒川の彼女らしからぬ発言が多すぎて混乱していた俺は、核心をつく質問を彼女にしてみる。

 すると俺の言葉を聞いて彼女は目を見開くと、ギリィッ……と奥歯を鳴らして

 「…………ッち、悪い……」

 と、ボソボソ何かを口走った。

 悪いって言う部分だけ聞き取れた俺は、上半身を屈めると気分でも悪くなったのだろうか?ともう一度彼女にどう言ったのか聞こうとしたが

 「ッ、気持ち悪いッ!!」

 今度は耳元で大きな声がそう聞こえて、俺は片手で近付けていた方の耳を閉じると、屈めていた上半身を仰け反らせる。

 「は、はぁ!?」

 彼女の発言に何がどうして気持ち悪いのか理解が追い付かない俺は、間抜けな返事を返すと

 「レイと私は従姉弟ッ!それに私にはちゃんと彼氏いるしッ、何がどうなってそうなってんのよッ!」

 捲し立てるように俺に対して彼女が叫ぶ。その逆鱗に俺は些か引きながら、彼女が言った事を頭の中で反芻していた。

 アイツと彼女が、従姉弟……。

 「い、従姉弟?………、イヤだってこの前……アイツと、キスしてたよね?」

 「はあぁッ!?しないわよッ!彼氏いるって言ってんでしょッ!!」

 え?……ケド、あの角度的にはキスする角度だったんだけど……。

 俺は忘れられないあの時の情景をもう一度思い出す。

 黒川の背中越しに彼女の肩が見えていただけだが、屈んだ黒川の角度を考えると近付いた顔が顔に重なっていたのは間違い無い。

 「いつよ?」

 「は、ぇ?」

 「ソレ。私と、レイがキスしてるなんていつ聞いたの?それとも見たって言うの?」

 彼女の台詞に俺はおぼろげながらもキスを目撃した日と、その時の状況を簡単に伝える。すると彼女はしばらく考え込むような素振りを見せ

 「その日って……確か風が強かった日じゃ無い?」

 思い出すように視線を上にあげて俺に呟く彼女の言葉に、俺も眉間に皺を寄せながら視線をあげて風が強かったか?と思い出そうとする。

 ………………、俺が黒川を追い掛けて声をかける瞬間に……確か旋風が吹いていたような……?

 「そう……かも?」

 「そうよッ、強い風でコンタクトにゴミが付いてレイに確認してもらってたと思うわ!」

 「コンタクト……ゴミ……」

 「そう、それを先輩が勝手にキスしてたなんて勘違いしてたんじゃ無いの?」

 ………………そう、なのか……?

 勢い良く言われた言葉に俺は一瞬停止したが、次いではカァッと顔から火が出ているのでは?と思うほど熱をもった顔面を彼女に見られてしまう。

 そんな俺の顔を見て、彼女はキョトっとした表情を見せたがすぐにグッと握った手を振りかざすと俺の胸板にドンッと拳をあて

 「なんなのッ、なんて顔してんのよ。アンタ達両想いじゃないッ!」

 「……………ッへ、ぇ?」

 両想いと言うフレーズに、再び間抜けな声を出している俺の胸元で、先程ドンッと叩かれた拳はギュッと俺の服を掴むように握られていて

 「レイは昔からアンタしか見てなかったんだから……」

 呟いた台詞に俺は彼女を見下ろすと

 「昔……?大学入ってからだろ?」

 言葉の違和感にそう聞き返す俺に

 「明成学院高等学校……」

 不意に彼女が呟いた高校名は、俺が通っていた高校の名前だ。

 「え?何で知って……」

 「レイも私も通ってたから」

 「………………は?」

 意外な事実を聞かされ、俺は固まって彼女を凝視してしまう。

 ……二人共、高校の後輩?

 そんな俺に呆れたように、けれど口元は笑っている彼女が

 「私が知ってた先輩は、デカくて、太ってて、暗い奴。なのにこの前カフェで見たら随分変わってたからびっくりしたの」
 
 彼女の言葉に、確か初めて会ったカフェで『変わりすぎじゃない?』と、言われた気がする。その時に、黒川は何故か焦っているようにも見えて……。

 「レイは高校の時から先輩しか見てなかった。だから大学も進路指導の先生に先輩が行った大学聞いて同じ所に来てんのよ」

 ………………高校の時から、俺を?あの根暗でずんぐりむっくりな時の俺を?

 にわかには彼女の言っている事が信じられなくて、自虐的に笑みが溢れる。彼女は俺の歪んだ口元を見て、俺が信じて無い事を悟ると

 「一時期先輩達が卒業間近の時に、先輩の悪い噂が広まった事があったじゃない?」

 その台詞に、俺は瞬時にゾクリと背中に悪寒が走る。

 「その時に何かレイは見て……先輩の事が気になったらしくて……私には、教えてくれなかったから今は伝えられないけど……」

 ……そんな自分が落ちている時期に、人に対して何かした覚えは無い。だってそうだろ?自分で自分のモチベーションを上げるのに必死なのに、人に対して優しくしたりとか無理だろ?

 「だから、自分でレイに聞いてッ!」

 何も反応しない俺に、彼女はバッグをゴソゴソと漁ると一枚のインビテーションを取り出し俺に押し付けてきた。

 「今日レイもこのイベントに参加するの、だからお願いッ見に来て先輩!」

 彼女は一度強く唇を噛み締め俺を見詰めてから離れると、そのままクルリと踵を返して帰ってしまう。

 押し付けられたインビテーションを見詰めて、俺はポリッと頬を掻いた。


          ◇


 来るつもりは無かった。だけど彼女の必死さが伝わってしまえば、チラリと見るだけでも……と、気付けば足は会場になっているクラブの前で止まっている。

 黒川と正面切って会う事には気が引ける。

 俺からアイツを拒否ったっていうのに、ノコノコここに来ているのも変な気分だ。

 一目チラッとアイツを見て帰るつもりだと何度も自分に言い聞かせて、俺は受付にインビテーションを差し出し箱の中へと入っていく。

 何度も来た事のある箱は、俺が知っている場所を知らない所だと勘違いさせるほど様変わりしていた。

 いつもは飲食スペースと踊る為のフロアーを壁で仕切っている内装なのに、その壁が無くなって広い空間になっている。それにいつものほの暗い照明は、今日に限っては明るく箱のデコも凝っていて、天井からは葉っぱや蔦が張り巡らされ所々に大きな鳥籠がフロアーに設置されている。その中に独特な服装を着たマネキンがポーズを取っているが、中には本当の人間が入ってユックリとポーズを取っているのだ。

 フロアーの真ん中には長いステージが端からカウンターの手前まで伸びていて、その周りには客が入って来れないように柵で囲いがされている。

 インビを見て薄々気付いてはいたが、今日のイベントはファッションショーらしい。

 それを見て、俺の中で点だったものが線へと変わる。多分だけど黒川の女装は従姉弟の彼女が大きく関係していると……。

 インビの裏面を見てみると、服飾関係の専門学校制作。とあったから、きっと黒川がモデルとしてこのイベントに参加していると言う事だろう。

 年に何回か定期的にこういうイベントを開催しているらしい。

 アイツがここ最近忙しかったのは、こういう事か……。と、何故かホッとしている自分もいて……。

 キョロリと辺りを見渡せば、結構な人が入っている。年齢もバラバラで、歳がいってそうな人とかは誰かの保護者とかなのかな?と、俺はカウンターに近付きながら思っていると

 「アレ、清じゃん?」

 カウンターの中にいるスタッフに飲み物を注文しようとしていた時に、横から聞き慣れた声が聞こえて俺は視線を向けると、いつもの面子の一人が俺も知らない奴等と酒を飲んでいる。

 「お、ぅ佐藤。何、お前も来てたの?」

 まさかここで知り合いに合うとは思って無かった俺は、少し驚きながら答えると

 「俺は付き添いな、コイツの彼女がモデルで出るらしくて見に来たんだよね。清は?」

 「まぁ……俺も似たようなもんだわ……」

 「あぁ、昼間の彼女?」

 「まぁ……」

 まさかお前も知ってる黒川がモデルとして出るから見に来たとは言えない。だって黒川は確実に女装して出てくると予想ができるからだ。

 会話の合間にスタッフに飲み物を注文して、出てきた物を受け取ると俺はその場から離れようとしたが、佐藤の手が俺の肩に伸びて引き留めると、俺の耳元に唇を寄せて

 「てか清ってインポ治ったの?」

 コイツ等が影で俺の事をインポだ、EDだとからかっていたのは知っていたが、直接的に言われた事が無かったので俺もスルーしていた。だからこんな風に言われ、俺はギョッとした表情で少し上半身を佐藤から離して奴を見詰めると、佐藤は面白そうに

 「あ、何?まだ治って無かった?」

 ニヤニヤと下衆な笑いを浮かべながら聞いてくる佐藤に、俺は眉間に皺を寄せて嫌そうな表情を向けるとそのまま無視してその場から離れた。

 割と佐藤は良い奴っていう印象をずっと持っていただけに、少しショックを受けている自分もいて……、俺は気を紛らわせようと持っている酒をグビッと喉に流し込みながら奴等から離れたところで立っていると、奥のダンスフロアーに設置されているDJブースからアンビエントな曲が流れてくる。すると明るかった箱は、モデルが通るステージ以外は暗く照明が落とされて、ザワザワとしていた周りが少し静かになる。

 すると奥から着飾ったモデル達がステージを歩いて来ると、途端にカメラのフラッシュやスマホをかざす手が増え、俺は人混みの合間を縫って見えるように体を少し移動した。

 アッ……。

 奥からでも一瞬で解ってしまう。誰よりも俺にはオーラが違って見える。

 いつもよりステージ用に化粧しているのか、目の周りがキラキラとしていて……、やはり黒川の女装している姿はタイプだと改めて思い知らされる。

 少しづつ近付いてくる奴から目線が反らせない。ステージ正面でポーズを決めてターンした黒川が少し視線を下に向けた瞬間、バチリと俺と目線が絡んだ気がしたが、奴はそのままステージを歩いて行く。

 ……………、まぁそうだよな。気付くワケ無いよな。こんなに人がいる中で俺を認識するのは至難の業。

 って、気付いて欲しいのかよッ!と自分に突っ込みを入れて、一人気不味く視線を下げてみたり……。

 しばらくすると曲調が変わって、ウエディングドレスっぽい装いでモデル達が歩いて来る。

 多分、これで終わりなはず……。

 ショーが終わるとそのままこの箱で打ち上げみたいなタイムラインになっていたはずだ。

 最初の何組かは男女のペアで登場してくるが、最後の方はウエディングドレスを着た女性モデルだけが出てくる。

 その中に黒川が歩いて出て来た。

 少しだけ奴が一人で出てきた事に安堵しながら、俺はジッと歩いて来る黒川を見詰めている。

 先程同様正面でゆったりとポーズを決めてターンした奴が、やはり視線を俺に向けてきたので、黒川が俺を認識していると確信する。

 確信してしまうと、ドクドクと俺の鼓動が早鐘を打ち始めて……。来たのがバレてしまったから一言何か言った方が良いのか?とか、嫌このまま帰ろうか?等と迷いが出てきて、益々俺は落ち着きが無くなってしまい……。

 すると俺の肩にスルリと腕が伸びて、ガシッと肩を掴まれ

 「清~、構って~」

 と、距離を取っていた佐藤がいつの間にか俺の隣に来ている。

 「あ?……イヤ、お前友達は?」

 したたかに酔っているのか、佐藤からは酒の匂いがして俺は奴の友達を視線を彷徨わせて探していると

 「今アイツ等は、バックステージ付近で彼女とその友達の出待ち中じゃね?」

 言いながらも空いている方の手に持っている酒を飲みながら言う佐藤に

 「お前も行っとけよ?可愛い娘紹介してくれんじゃね~の?」

 ハハッと苦笑いを浮かべて言い返す俺に、一瞬佐藤は無言になって俺を見詰め、ニヤリと口元をまた歪めて

 「じゃ、一緒に行こうぜ?」

 と提案してくるから、俺は引き続き口角を引き上げたまま

 「無理だって、俺も人待ってるし」

 なんて嘯く。

 そんな俺の返事が気に入らなかったのか、佐藤は更に体を俺に擦り寄せてくると

 「てかさ~、俺思ってたんだけど……清さ~黒川と連るみだしてからインポになってね?」

 「………ッは?な、に?」

 佐藤の言葉に俺は青ざめ、すぐに反応出来なかった。そんな俺を見て益々口元を歪めた奴は

 「もしかして清、黒川とヤッたからインポになったとか?……、掘られちゃった?」

 佐藤の目付きにゾクリと悪寒が走る。

 こういう目をする奴を俺は知っている。そしてそういう奴は人を傷付けるという事も。

 その時、フロアーがザワリと賑やかになって、バックステージからモデル達が続々と着ていた衣装のままフロアーに入ってくる。

 「オイ、お前飲み過ぎだって。水もらってきてやるから……」

 佐藤と距離を取りたくて、俺はそう言いながら離れようとするが掴まれた肩に力を入れられ

 「何だよ清、黒川とはできて俺とは無理って言いたいのかよ~」

 俺が逃げないようにガッチリと肩に回した腕に戸惑いながらも、俺はどうやってコイツから逃げようかと逡巡していると

 「誰、ソイツ?」

 ザワザワとうるさいフロアーの中、ハッキリと奴の声が聞こえて俺は視線を正面に泳がす。

 「あ………ッ」

 俺の目の前には黒川がウエディングドレス姿で立って、俺と佐藤を交互に見ながら眉間に皺を寄せている。

 「あ?誰って、君は何ちゃんですか?」

 佐藤も俺と話の途中で入ってきた黒川に、嫌そうな顔を向けて尋ねているが

 「お前には聞いてない。何?絡まれてんの?」

 バッサリと佐藤の質問を切って、俺に聞いてくる態度に苛ついたのか、佐藤は俺からユラリと離れると圧をかけるように黒川に近付いて

 「あぁ?女だからってその態度は良くないよね~?」

 佐藤は言いながら黒川の肩を掴もうと手を伸ばした瞬間。

 ドターンッ!

 目の前で佐藤がフロアーの床に倒れ込む。

 俺は何が起きたのか解らずに固まってしまったが

 「スタッフさ~んッ!この人酔ってて危ないからどうにかして下さ~い!」

 床に倒れた大きな音で、俺達を囲うように空間ができていてその中心で黒川が大きな声を出してスタッフを呼んでいる。

 「んで、アンタはこっち」

 俺の手首を掴んだ黒川が、佐藤を置いて俺をその場から引っ張り出すとスタスタとバックステージの中へと入って行く。

 「チョッ………、俺部外者……」

 「すぐ済む」

 バックステージの中では関係者がショーの成功にシャンパンを飲んでいるところで……。その中にあの従姉弟の彼女がいて、俺達を見付けると駆け寄って来ると

 「レイ、先輩と会えたんだ」

 嬉しそうに俺達を見ている彼女に黒川は

 「このまま抜けても大丈夫だよな?」

 言いながら自分の荷物だろうバッグを肩に担ぐと彼女に確認を取っている。

 「勿論、ショーも大成功だし後は打ち上げみたいなもんだから全然問題無しッ!」

 何故か彼女は両手で拳を作って、黒川に頑張れみたいなジェスチャーをしていて……。それを見ていた黒川も、薄っすらと笑うと彼女の頭にポンポンと手を置いて

 「ありがとな由佳」

 そう言ってバックステージの奥へと俺の手を引っ張っていく。

 「え?オイ、お前何処に……」

 行ってんだよ。とまで言い終わらないうちに、店の裏口から外に出ると

 「先輩、一緒に大きい風呂入ろう!」

 と、笑いながら走り出す。

 「え?………ッは?」

 グンッと引っ張られながら、俺は返事を出来ずに走り出した奴のテンポに合わせて一歩を踏み出した。


         ◇


 大きい風呂と言われた時点で、何処に行くかなんて解りきっていた。

 黒川に引っ張られるまま連れて行かれた場所は、俺と奴が初めて致したラブホ。

 あの時と同じ部屋では無いにしろ、どこも作りは似たりよったりだろう。

 部屋に着いて黒川はすぐにバスタブにお湯を張りに行くと、貯まるまでの時間今は洗面所で自分の化粧を取っているみたいだ。俺はと言うと、借りてきた猫みたいにソファーにチョコンと座っていて……。

 ガチャ。

 洗面所から出てきた音に俺はビクンと肩を震わせて、正面を向いたまま。すると俺の横にドサリッと座った黒川が、俺の顔を覗き込むように顔を近付けてくるから、俺はスイと視線を横にずらす。

 「先輩」

 「な、………ッ何だよ……」

 「由佳と話したんだって?」

 黒川の方を見なくても笑顔で言っていると声音で解る。

 「まぁ……」

 何て答えたら良いのか解らず、とりあえず返事だけ返すと

 「由佳が言うには、俺達両想いらしいんだけど合ってる?」

 「………ッ」

 黒川の言う確認に俺は息を呑むと、ユックリと奴の方に顔を向けて視線を上げれば、嬉しそうな顔とぶつかり俺はまた視線を下げてしまう。

 ………………、なんて顔してんだよっ、コイツ!

 けれど、気になっていた事を聞かなければと俺は一度唇にキュッと力を込めて

 「お前……俺の事高校の時から知ってたの?」

 「そうだね、知ってた。ずっと前から見てたって言ってただろ?」

 「高校からとか思わねーしッ!」

 「まぁ……そうか。ケド先輩追いかけて今の大学入ったのも本当だよ?」

 嬉しそうな表情のまま、黒川は俺の手を握るから……、俺はピクリと指先を震わせ

 「お前……高校の時の俺、知ってるだろ?今とは違って……」

 お前に気にしてもらえるような外見でも無かったのに……。

 「俺さ、高校の時の先輩が好きなんだよね……」

 「えぇ………ッ?」

 意外な黒川の告白に、俺は驚きを隠せない。今の俺じゃ無くてあの地味で、デブだった頃の俺を好きになる奴なんか……。

 その気持ちが表情に出ていたのか、黒川はハハッと笑って

 「先輩さよく野良猫に餌やってたじゃん?」

 「ん?」

 実家で猫が飼えなかった俺は、高校に住み着いている猫に度々餌をやっていた。

 それと、コイツが俺を気にする事に何の関係があるのか解らずに、黒川の言葉を待っていると

 「最初は地味な人がいるな~、位だったんだけどね……。猫に餌やってる時だけ先輩、笑ってたんだよね」

 黒川の言葉に俺はハッとする。

 ……………、そうだ。野良猫と遊んでいる時だけは笑ってた記憶がある。それ以外は常に緊張していて……人の目が気になっていた。特に卒業間近はあの件があったから……。

 「で、先輩の悪い噂みたいなのも広がった時期があったじゃん?俺は信じられなかったけど……結構後輩周りでも有名でさ……。だから尚更気になったってのもあるけど……」

 「そうか……」

 黒川の従姉弟が言っていた事は本当だったんだな、と確信する。俺の中ではそんなに噂が広がっているとは思って無かったが、二人に言われてしまえばその通りだったのだと思わざるを得ない。

 「結構酷い噂だったから、俺先輩はもう学校にも来ないだろうなって勝手に思ってて……。ケド先輩さ~、来てんだよね学校。で、普通に猫に餌やってんのッ!」

 それを何だか嬉しそうに言う黒川の声に、俺は顔を上げてしまう。

 そうして視線が奴と絡めば

 「いつものように笑顔で猫と遊んでててさ~……、あ~~俺、先輩の事好きだなって」

 「イヤ……おかしいだろ?それで何で好きになるんだよッ」

 「だって強いじゃん?」

 「……は?、強い?」

 黒川が言っている言葉の意味を考えてみるが、猫にしか相手にしてもらえていない俺を強いと表現する奴に困惑する。

 「普通は来れなくなるよ?防衛本能働くから逃げるよね、人って……。ケド先輩は逃げずに来てたじゃん?あんな噂流されても誰にもキレずにさ。それって結局のところ滅茶苦茶強くて優しいって事なんじゃ無いかな?」

 ………………優しい?

 「意気地が無かっただけだろ?」

 自虐的に呟いて、少しだけ自分の台詞に傷付くが、本当の事だろ?と言い聞かせる。だけど黒川は

 「イヤ違うね。結果先輩がずっと登校してたから噂も自然に消えたじゃん?」

 「そうか……?」

 「そうなんだよ!俺は当時すげぇ腐ってて、前にも言ったけど人と関わりたく無かったワケ」

 うん。知ってる。猫カフェで話してくれたやつだよな?

 「ケド先輩の態度でおかしいかもだけど、俺も妙にスカッとして……。先輩みたいな人に優しくされたいなぁって思ってたんだよ。それに……」

 「それに……?」

 一旦黒川は言葉を区切ってから、握っていた手に力を込めると

 「タイミングよく由佳にさ、女装してもらってから女の格好してる時は結構自分本位に振る舞えてたっていうか」

 「うん……」

 やはり女装の入口は彼女なんだな。と相槌をしながら口元が上がってしまう。

 「俺、男の外見だと結構ストーカー被害が多くて……。変な女の人に襲われそうになったりとか、電車乗ってても女の人から痴漢にあったりとかしてて……」

 「えッ!?」

 突然のハードな告白に俺は驚いて黒川を凝視してしまう。そんな俺をおかしそうに見詰めながら黒川は続きを話し始める。

 「ケド女装してると女の人からは何もされずに済んだし、男からちょっかい出されても今日みたいに倒せるしね。だから楽で……」

 そうだった。佐藤をいとも容易く床に倒していた黒川を思い出して

 「なんかしてんの?」

 と、聞けば

 「まぁ昔から変なのに絡まれたから、合気道してて……」

 納得。

 「てかアイツ誰だよ?」

 黒川の問いに俺はキョトンとしてしまう。だって……

 「イヤ……知ってるだろ?俺のグループの佐藤……」

 「は?あんな奴、いたか?」

 眉間に皺を寄せ思い出そうとしているらしいが、どうやら思い出せないらしい。
 
 あの時、佐藤から向けられた視線は俺がよく知っていたものだ。

 ………………高校の時、同じ視線を色々な人から向けられていたからな……。ゾッとするほど人を否定している目……。

 昔のようになりたくなくて、自分から選んで連るんでいた奴から向けられたそれは、酷く俺を動揺させた。

 佐藤の目を思い出して、持っていかれそうになっている俺に黒川は話を続ける。

 「んで、先輩追い掛けて大学に入ったらなんか高校の時とは別人になってるじゃん?」

 まぁ……、もうあんな気持ちになりたくなかったからな、だから大学デビューしたんだケド……。こんな事になってしまった。

 「最初は人に対して笑ってると思ってたから、良かったって……。ケドよくよく見たら全然楽しそうじゃね~の」

 「………、それで俺に無理してあのグループにいるなって言ったのか?」

 なんだかこんなにも黒川とお互いの事について話すのは初めてだ。だからこそ相手の言っている意味が解らずにモヤモヤしていた気持ちがクリアになり、本当にコイツは俺の事を見ていてくれていたんだと嬉しく思う。
 
 「そ。まだ高校の時の先輩の方が無理して無かったんじゃないかって思えて、仕方なかった。だからこそ俺の好きな強くて優しい先輩に戻って欲しかったんだ」

 高校の時と、今の俺。自分に言わせればどちらもキツイと言えばそうだ。だが高校の時を嫌でも思い出せる位には俺の中で過去にはなっている。今は、自分で望んだ現状に疲れて辛い。外見は変わっても結局は中身が変わってないから……。

 そのギャップを自分で埋めるのは、無理をしないと埋まらない。昔の自分とは種類の違う苦痛だ。何が一番の苦痛なのかと言えば、吐き出せる相手がいない事。

 高校では野良猫がその相手だったのかも知れない。だから通えていたってのも大きかったのかも……。それが大学では無かった分、キツかった。

 ………………でも……。

 もう、俺にはコイツがいる。

 突然ストンとその事実が俺の中に落ちてきてしまえば、なんだか急に恥ずかしくなってしまい見詰めていた視線を彷徨わせて下に落下させてしまうと

 「……先輩?」

 笑いを含んだ言い方は、俺が恥ずかしさに視線を反らしたと解っていて……。奴は上半身を屈めて覗き込むように俺の顔を見てくる。

 「なん、だよ……」

 覗き込んでバチリと合った目が嬉しそうに緩んで、それと同時に握っていた手が俺の顎を優しく掴んで

 「ハハッ……メッチャ顔赤くなってるじゃん」

 「しょ、……しょうが無いだろッ」

 こんなにも胸がキュゥゥッと掴まれるような甘い痛みになる相手と出会った事が無かったのだから……。

 「なぁ……本当に先輩って俺の事、好き?」 

 唐突に再度聞かれ、俺はハクと空気を噛む。

 答えなんて解っているはずだ。奴の従姉弟からも聞いているはずだし、俺の態度を見れば明らかなはずなのに……。それでもこうやって聞いてくるのは、きっとちゃんとした確信が欲しいから。

 一度は俺に女の方が良いと言われているコイツからしたら、ちゃんと俺の口から聞いて安心したいのだ……。だってもし反対の立場なら、俺も本人から聞きたい。

 俺は一度ギュッと目を閉じて、小さく深呼吸すると意を決して瞼を開き奴の顔を真っ直ぐに見詰めて

 「……ッ好き……」

 言い終わるか終わらないかのタイミングで奴から噛み付くようなキス。

 その行動に驚いた俺が小さく口を開けば、すかさず黒川の舌が口腔内へ伸びてきて、深く口付けを交わす形になる。

 縦横無尽に動き回る舌は、器用に俺の舌を絡め取り舌の表面を撫でると、上顎を愛撫してくる。

 「ンッ……フゥゥ……、ンッンゥ……」

 鼻で息をしていても気持ち良さに頭がボーっとする頃、ジュッと音を立てて舌を吸われながらやっと開放されると

 「俺も好き」

 照れ臭く嬉しそうにそう呟く黒川の顔を見て、俺も自然と笑みが溢れる。

 「じゃ、先輩一緒に風呂に……ッ、風呂!」

 黒川は急に立ち上がると、バスルームへと駆け出していく。

 そう言えば、風呂にお湯を張っていたっけ?

 「あ~~ッ……」

 案の定バスルームから黒川の悲鳴が聞こえて、俺はプハッと吹き出してしまう。

 しばらくして黒川がバスルームから戻ってくると

 「バスタブからお湯溢れてたわ……」

 「だろうな」

 おかしくて笑っている俺の目の前にズイと手を差し出し

 「一緒に入ろうよ先輩」

 ニカリと笑って言う奴に俺は

 「イヤ~……別でお願いします」

 ペコリと頭を下げた俺に、途端に拗ねるような顔付きになった奴は俺の手首を掴んで

 「前に今度は一緒に入るって言った。それに……もう一回やり直しさせてよ」

 「やり直し?」

 「そ、女装じゃなくて素の俺で先輩の事抱きたい」

 「………ッ」


          ◇


 チャプリとバスタブのお湯が跳ねる度、俺の口からは甘い吐息が漏れ出てしまう。
 
 湯船に入る前に黒川からさんざ体を弄られ一度射精しているはずの俺は、手を引かれてお湯に浸かった今も奴から与えられる愛撫でギンギンになっている。

 「気持ち良い、先輩?」

 後ろから抱き締めるような態勢は、意外にも逃げる事ができずに奴の思うままにされてしまう。

 耳元で濡れたような声で囁かれた後に、舌がそのまま耳をチュッ、チュッパと愛撫し始めるから……、すでに両指で弄くりまわされている乳首との刺激で、俺は奴の首筋に顔を埋めるようにしてビクビクと体を震わせるしかなくなる。

 「先~輩?」

 耳を舐めていた舌を外して、甘く聞いてくる奴の声に応えるように俺は震える唇から舌を伸ばし、埋めている首筋に舌を這わせて
 
 「ンッ……、き、持ち……良い……ッ」

 素直に呟いた俺の台詞に、腰にあたっている奴のモノがビクビクと反応するのが解って、ブルッと臀部が揺れてしまう。

 「……ッ、はぁ……可愛い。なぁ、もう出ようか?ベッドで抱きたい」

 そう囁かれ俺は小さくコクッと頷く。力の入らない体に頑張って力を入れてバスタブから出ると、後ろから黒川がバスタオルでワシャワシャと水分を取ってくれて、俺は洗面台に両手を突いて黒川に好きなようにさせ、あらかた拭き上げた奴に手を引かれてベッドへ連れて行かれる。

 「先輩、水分補給しな」

 ホテルの冷蔵庫から出した水のペットボトルを投げられて受け取り、俺はキャップを外して喉を潤す。

 飲み終わってベッドボードへペットボトルを置くと、待ってましたという顔で黒川が俺の上ヘ乗ってきて

 「ハハッ、何か緊張すんね?」

 照れ隠しなのかそんな事を言う黒川にギュッと胸を掴まれる自分も、大概だと思いながら奴の首に両手を回してキスをねだると、そんな俺に気付いたのかユックリと黒川が俺の顔に近付き、再び深く唇を合わせた。

 キスの合間に奴はゴソゴソと片手を伸ばしてベッドボードを弄っていて、一度唇を離した時には器用にもジェルとコンドームを持っているから、たまらずに吹き出してしまう。

 「え?笑うとか……」

 「悪い……、何か、ツボに入った……ッ」

 体を少し丸めて笑う俺に、心外だと言わんばかりの表情を向けてきたが、次いでは俺のモノにジェルを大量に垂れ流すと

 「笑い声よりかは、可愛い声聞きたいんだけど?」

 と、半勃ちになっている俺のモノを握って扱き始める。

 「アッ……、お前ッ、いきなり……、ハァッ」

 ジェルで滑りの良くなった黒川の指が、強弱をつけて裏筋からカリ、亀頭部分を撫でるように触ると、今度は手の平全体で包み込みジュッ、グジュッと厭らしい音を立てて扱く。その度に俺の腰は無意識に上がっていき、ヘコヘコと動くと

 「気持ちぃんだ?脚も開いてきてるよ?」

 黒川に指摘され俺は恥ずかしい気持ちになるが、それよりももっと気持ち良くして欲しくて……

 「んぁッ、気持ち、良ィ~ッ、……と、……ッもっと……して……」

 「ハッ……エッロ……」

 俺の痴態に煽られたのか黒川はペロリと自分の唇を舐めると、広がった俺の脚の間に自分の体を入れ込み空いている方の手で撫で上げるようにスリリと双丘の奥にある孔に指を這わせる。

 「ぁ……ッ」

 触ってもらえる……、奥掻き混ぜて……ッ。

 黒川に教えてもらった俺の良いトコロ。

 コイツと距離を取っていた時に、自分で何度か中を擦ってみたが、あの時みたいに気持ち良く射精はできなかった。

 期待で自分から黒川の指に擦り付けるように腰を上下に揺らせば、コクリと奴が喉を鳴らす音が聞こえてきて俺は黒川の顔に視線を向けると、バチリと目があった先に雄の顔がある。

 フ~ッ、フ~ッ、と酷くしてしまいそうな自身を理性で押し付けている様に、ゾクリと腰から背中にかけて痺れが走り

 「早、く……ッ」

 呟いた瞬間、ヌププッ……と入って来た指は、最初から二本で……。俺はその質量に喉を仰け反らしてビクビクと体を震わせると

 「ヒッ……あ゛~~ッ♡」

 緩く出た喘ぎと同時に堪らずに射精してしまう。

 ピンッと伸ばした脚が、ガクガクと弛緩していくと、それを待っていたと言わんばかりに黒川が中に入れた指を動かして内壁にあるコリコリとしたシコリを引っ掻くように指を動かし始め、俺は息を呑む。

 「ンゥ゛~……、あ゛ッソコ……ぎ持ち、良ィ゛~~ッ」

 「ここ、気持ち良いな?」

 「う゛ンッ……気持ち……ィ゛ッ……気持ち゛、良い……ッ」

 引っ掛かれ、押し潰され、挟まれ、叩かれる。その間も俺のモノを扱いていた手は、玉に伸びてユルユルとマッサージするように揉みしだくと、会陰を時折グッグッと刺激するので、その度に内壁が痙攣して中に入っている指を食い締めてしまう。

 食い締めた指がシコリを挟んだまま前後に持ち上げるように擦った刹那、大きい波に呑まれて俺は一度ビクンッと大きく腹を波打たせた。

 「あ~~先輩、上手にメスイキできたね」

 ボゥッと気持ち良さに頭が回らない俺に、黒川が嬉しそうにそう呟きながら俺の膝小僧にチュッ、チュッとキスをすると、中に入れていた指を引き抜いてクルリと俺を裏返しにする。

 ベッドに放ってあったジェルを手に取り自分のモノに垂らすと何度か扱いて、近くにあるコンドームに手を伸ばし、パッケージを破ろうとしている黒川の腕を俺は掴んで

 「早く……ッ、レイ……」

 弄られていた後ろが切なく、早く満たして欲しくて……ワケも解らずにそう呟く俺に黒川は、チィッと大きく舌打ちすると

 「煽った先輩が悪い……」

 うつ伏せで寝ている俺の腰を両手で持ち上げると、ニュグググッとカリ高のモノが俺の中へと侵入してくる。

 「ぁ゛~~~ッ……♡♡♡」

 奥までミッチリと嵌ったモノは、馴染むのを待たずに律動を始めた。

 あ゛ッ、ア゛ァ……ッ♡、生、気持ちぃ……♡生チンポ……気持、ち……ッ♡♡♡

 片膝を上げ、上から落とすように腰を打ち付けてくる黒川が、俺の背中に舌を這わせながら

 「先輩……ッ、少し、だけ前……持ち上げて……ッ」

 腰だけ高く持たれている姿勢から四つん這いになって欲しいのかそう呟かれ、俺はユルッと上半身を持ち上げると、スルルと伸びてきた片手が俺の乳首をキュッと摘みあげる。

 「アッ、乳首……♡弄っちゃ……♡♡」

 「ん?良いでしょ?」

 バツンッ、バツンッと臀部と黒川の太腿が打つかる度に、鈍い音を立てながら俺の柔らかい肉が波打つ。

 ブルブルと俺の内腿も震え、打ち付けられる度に内壁もギュゥゥと黒川のモノを締め付けると

 ア゛……イ゛、グ……♡さっきよりも゛大き゛いの……グ、ルッ♡

 腰を持っていたもう一つの手も乳首に伸びたかと思うと、カリカリカリッと指先で引っ掛かれ、俺がその刺激に喉を反らすと同時にギュッと両乳首を引っ張られる。

 「イ゛ァ♡……ック……イ゛、ギュッ♡♡」

 大きな快感に耐えるように奥歯を噛み締め体中を強張らせると、俺のモノから勢い良く透明の液体がプシッと漏れ出る。その瞬間くぐもった声と内壁にビュルルッと注がれる黒川の精液の感触に、ブルブルと俺の臀部が痙攣してしまう。

 俺は再び上半身をベッドへヘタリと付けてしまい、時折ビクンッビクンッと体が跳ねる。黒川もまた射精後立膝にしていた片方をベッドへ下ろすと乳首から手を離し、スススと背中を撫でて俺の腰に手を置き一呼吸置いていて……。

 ………………、まだ黒川のモノは俺の中に入ったままだ。そしてビクビクと体が跳ねる度に、気持ち良い感覚が俺を襲う。

 俺は緩く自分で腰を動かし、奥から手前にあるシコリに黒川のモノをあてるとシビビビビと悶え、小刻みに入口付近を腰を揺らして自分で自分の気持ち良いところを黒川のカリで擦り付けてしまい……。

 恥ずかしい……が、気持ち良さの方が勝ってしまい動かしている腰を止められない。

 本当に小刻みに上下に動かしたり、回すように腰をうねらせたりしていると後ろから

 「ッア~~……、先輩……ソレ、先っぽ気持ち良い……ッ」

 黒川の気持ち良さそうな声が俺の鼓膜を震わせ、酔わせる。このままこうやって動かしても良いのだと……、黒川も気持ち良くなってくれていると思えば、徐々に腰の動きも大きくなって……

 「ンゥ゛ッ、気持ち、良いよぉ~♡」

 俺の濡れた声に、中に入っている黒川のモノがググッとまた質量を持ち始め、張ったカリがシコリに引っ掛かるようになり、俺は夢中で腰を振り始めると

 「ハァ……、クッソ」

 小さく悪態を吐いた黒川が腰を浮かし、俺の腰に置いている手に力を入れるとクルっと俺を横向きにさせる。

 持ち上がった俺の片足を器用に退けて自分の肩に担ぐと

 「覚悟してね、清文」

 ニタッと笑った直後にまた、黒川は腰を振り始めた。


          ◇


 あの後さんざん泣かされた俺は、行為が終わった後足に力が入らずベッドの上で黒川に体を綺麗にしてもらうという恥ずかしい体験を経験した。

 ………………、次回は絶対にゴムを着けてもらう。

 体を綺麗にしてもらった後、休憩から泊まりに変えざるを得ず……。まぁ、今回は俺がホテル代を払ったので、チャンチャンだ。

 ベッドの上で二人並んで横になり、黒川は明日起きる時間をスマホにセットすると俺の方に体ごと向け

 「先輩あのさ~」

 なんだか収まるところに収まった後のコイツは、甘えたの年下を丸出しにしてきてる?とフト感じる。

 「なに?」

 思いの外ガサガサになっている自分の声に笑いを堪えると

 「今度、スーツ着てくんね?」

 と、俺にお願いしてくるので

 「スーツ?」

 何でスーツなんか……と不思議そうに聞き返すと

 「今日の衣装着た俺と一緒に、写真撮ってよ?」

 黒川は言いながらソファーへ視線を投げている。俺の後ろにある衣装は、ウエディングドレス。ステージで何組かはカップルっぽく歩いていた。

 「良いケド……」

 自分と女装してウエディングドレスを着ているレイちゃんを想像して、少し恥ずかしくなった俺はボソボソと呟くと

 「マジでッ!?」

 思いの外嬉しそうにテンションを上げた黒川に少し驚きながらも、俺は気になっている事を聞いてみる。

 「それよかお前……、明日ここ出る時あの衣装で出るの?」

 俺の問にニコニコ顔の黒川は固まり、次いではスワッと青くなると

 「ヤベ~……ッ、由佳に連絡ッ!!」

 ガバリッと起き上がり電話をし始める黒川の隣で、俺はギャハハッ!と声を上げて笑った。




おしまい。
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