110 / 164
#4 二度裏切られる男
110
しおりを挟む「美紗ちゃん……?」
電話のものとも浅野さんのものとも違う女性の声が割って入った。
恐る恐る声がした方へ振り向くと、マンションの前には一人の女性が立っていた。
「美紗ちゃんだよね?」
懐かしいとさえ思わないほど忘れ去られた声の記憶が急激に蘇る。
目の前に立っているのは紛れもなく城藤美麗だった。
「美麗さん……」
呟いた言葉に私を抱く浅野さんの腕が微かに震えた。
「優磨くん、私のマンションの前まで来た……」
電話の向こうにそれだけ伝えるのが精一杯だった。
「えっ、マジですか!? すぐ行きま……」
優磨くんの驚いた声が聞こえたけれど途中で通話を切ってしまった。
「探したの……美紗ちゃんを……」
マンションの玄関ホールから漏れる明かりに照らされた美麗さんは、最後に見たときよりも痩せていた。元々細かった体型は更に細くなって、着ているセーターから覗く肌は首から肩にかけて骨が浮き出ている。
「どうしてここが……?」
私の声は震えた。
「美麗?」
耳元で浅野さんの驚いた声が聞こえた。
「君は美麗なの?」
浅野さんは私から離れて一歩美麗さんに近づいた。
「慶太?」
浅野さんと美麗さんはお互いに驚いて目を見開いている。
「どうしてここに慶太がいるの?」
「美麗こそ……どうしてここに? 二人は知り合いなの?」
浅野さんの目が今度は私にも向けられる。この状況から今すぐ逃げてしまいたくなった。
「美紗ちゃん、どういうこと?」
そんなこと私が聞きたい。何で今更戻ってきてしまったのだ。
「どういうこと? 説明して」
浅野さんの怯えるような声に私は「ふぅ……」と気持ちを落ち着けるために深呼吸し、浅野さんを視界から追い出して美麗さんを真っ直ぐ見据えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
235
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる