騎士の鎧を着た社畜職人、最高の製品を作ったら王国の運命を変えることになった

第2章：最高の製品は悪用させない！

第14話：初の潜入。論理的運用と最高の製品

　ルナの隣で、シグマは旅装を丁寧に脱ぎ、ルナに手渡した。

　静音加工を施した騎士の鎧姿になったシグマは、ルナから受け取った麻袋の口を固く結び、腰のベルトに共振探知機を固定した。

「ルナ、ここからは単独行動だ。この旅装を預ける。お前はここで待機していてくれ。敵が盾を使う気配があれば、この探知機で波動の強さが異常な数値を示すはずだ。何か異変があれば、すぐにこの場を離れるんだ」

「待って、シグマ。さっき二人で力を合わせるって言ったばかりじゃない！」

　ルナは不安げな表情を隠せない。

「これは論理的な判断だ。潜入（リスク最大フェーズ）は、人数が少ないほど成功率が高くなる。お前は後方支援という、最も重要な役割を担ってくれ。そして、もし俺が昼になっても戻らなければ、すぐに騎士団に通報するんだ。それが俺の安全確保の最終手順だ」

　シグマの言葉には、感情を排した冷静なプロの論理があった。

　ルナは唇を噛みしめ、強く頷いた。

「わかったわ。昼までね。絶対に無茶はしないで」

　シグマは、自作の静音鎧の性能と探知機が提供するデータを頼りに、山道の先にある敵の潜伏場所へ向けて、静かに歩き始めた。

　山道を抜けると、小さな岩山に囲まれた谷間に出た。

　谷間の中央には、粗末な木材と岩を組み合わせて作られた建物（アジト）が見える。

　外では、数人の警戒員が、雑談しながら酒を飲んでいた。

　彼らは警戒している様子もなく、焚き火の煙が谷間に立ち昇っていた。

　騎士団を破った相手だ。

　この緩みは意図的なものか、あるいは単なる油断か。

　どちらにせよ、最大級の危険を伴う相手だ。


　シグマは、谷間へ下りる斜面にある川のせせらぎの近くまで、静音加工の鎧を頼りに進んだ。

　川の音が彼らの警戒心を削いでいる。

　シグマは、鎧の性能のおかげでわずかな摩擦音さえ、環境音に完全に紛れていることを確信した。

　シグマは身を低くし、共振探知機を覗き込んだ。

　針は建物の奥を指し、メーターの数字は高止まりしている。

　間違いなく、盾はあの建物の中にある。

　シグマは、優秀な職人として製品の限界と最適な運用法を把握していた。

　彼は、最も川の音が大きく岩陰の多いルートを、静音性を最大限に活かすように選び、ただひたすらに無音で潜入を開始した。

　建物の裏手に回り込むと、小さな窓があった。

　シグマは窓枠に手をかけ、周囲の状況をもう一度確認した。

　潜入ルート確定。

　これより最終フェーズに移行する。

　シグマは、静かに窓からアジトの内部に侵入した。