僕たちが見上げた空に ☆横浜の空高くホームランかっ飛ばせタシロ!☆

高橋ヒデミチ

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第一章_長嶋一茂

5.脅威のルーキー

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 四月になり新一年生が入部してきた。
 二年前に先輩たちを見て、この人たちには勝てっこない。
 と僕が思ったように、こいつらにレベルの違いを見せつけてやろう。
 そう思っていた僕だったのだが、別次元の新入生が一人混ざっていた。

 僕が中学生の頃には全く知らなかった彼は、中学二年の時に横浜から転校してきたらしく、知らなくて当たり前だった。
 彼の名は水野冬樹みずのふゆきといった。
 バットコントロールの良さは僕がチームで一番。
 と思っていたのだが、水野もミートが上手く、コースに逆らわず広角に打ち分ける能力を持っていた。
 そして何よりもショックだったのは、外野手の頭を越えるような長打力も兼ね備えていた。

 ベースランニングのスピートとセンスは僕がチームで一番。
 だから打順も一番だったのだが、水野の足も僕と同じくらい速く、投手のクセを見抜くセンスも僕以上にあったので、盗塁の技術も凄かった。

 セカンドの守備力は僕がチームで一番。
 だからレギュラーなのだが、よりによって水野のポジションもセカンドだった。
 守備範囲の広さ、捕ってから一塁に投げるまでの動作は互角だったのだが、唯一の違いはセンター前に抜けそうな打球を捕ってからの送球にあった。
 逆シングルで踏ん張って投げなければならず、しかも一塁までの距離が遠い位置。
 僕の送球は山なりでやっと届いていたのだが、水野の送球はシュッと糸を引くように一塁まで届いていた。
 この前まで中学生だった彼に、走攻守全ての面で負けていた……

「おい水野、お前なら佐久穂や松翔でもレギュラーでやって行けそうなのに、何でウチみたいな弱小校に来たの?」
「野球推薦みたいなのがあって、佐久穂も松翔もセレクション受けたんですけど、両方とも落ちました!」
「マジかっ? お前、今の時点でウチの野球部で一番上手いのに、それでも落ちるのか?」
「一番上手いかどうかは分かりませんし、結構簡単に落とされたので、僕なんかまだまだ未熟者ですよ。
 合格したのは五人くらいずつだったんじゃぁ?」
「ってことは、お前より上手いヤツが県内に最低でも十人は居るのか…… しかも一年生で……」

 こんな会話をしながら、僕は将来の目標が間違っていることを、現実のものとして受け止めなければならない。
 と自覚しつつあった。

「でもさぁ、お前なら一般入試で入っても、この後の頑張り次第ではレギュラーも狙えたんじゃない?」
「はぁ…… そうかもしれませんが、ウチは母子家庭であんまりお金が無くて、私立は無理だったんですよ……」
「あぁ…… ゴメンな悪いこと聞いちゃったな……」
「いいっスよ。僕は母ちゃんを楽にさせてやりたいから、高校卒業したら社会人野球に進んで、そこで頑張ってプロに行けたらなぁ…… って思ってるんですよ」
「そうか、しっかりしてるな。お前がウチのチームに入ってきて、ウチとしては戦力アップは間違いないから、良かったと思ってるよ」

 これは間違いなく本音である。本題は次だ。
(ところでさぁ、お前の肩ならサードやショートでもレギュラー務まるから、コンバートする気は無い?)
 って言おうとしていて、ちょっと間が開いた。
 俺にセカンドのレギュラーを譲れよ。
 って言うみたいで気が引けていたのだ。
 そうしているうちに、水野が先に口を開いた。

「先輩、ポジションが被っちゃってて悪いんですが、僕はセカンド以外やりませんよ。
 高校野球で終わるなら別ですけど、この先のレベルでやることを考えたら、僕の肩ではセカンドしか通用しないと思ってるんですよ」

 これは衝撃のコメントだった。
 僕が一年の秋に負けた時に気付いたことを、こいつは既に気付いている。
 しかも現時点で僕よりも上手いし肩も強いのに……
 それなのに僕は将来とは関係無いピッチャーの練習とかやっているところ、こいつは入部したばかりなのに、セカンド一本でやって行く覚悟を持っている。
 
 大学に進学して野球を続けよう。
 とか簡単に考えている僕とは違い、親に負担を掛けないように、社会人野球を志望しているところも、甘ちゃんの僕よりもしっかりしている。

 技術も身体能力も意識の高さも、この前まで中学生だった彼に完全に負けている。
 しかも彼よりも有望な選手が佐久穂や松翔には何人も居る。

 全国で考えたら、何十人も何百人も居るってことだろう……
 プロのスカウトが注目する大学生は、数ある大学野球リーグの一部リーグに属しているチームで、優秀な成績を残している選手。
 例外もあるだろうけど、最低でも二部リーグのレベルで、バリバリのレギュラーとして成績を残しているようでなければ、全く相手にされないだろう。

 甲子園で活躍したような選手や、甲子園に出場できなかったものの、各県ではトップクラスの選手たちがレギュラー候補となるだろうが、一学年にそのレベルの選手が二人揃えば投手以外のポジションは埋まる。
 野球で名の通った大学に僕なんかが行っても、入部すら許可されないのでは?
 入部できたとしても四年間ベンチ入りすることもなく、雑用係で終わるに違いない。

 高校生になったばかりの水野との出会いが、僕の将来の目標を現実的なものに転換する機会となった。
 このまま進学して野球を続けたとしても、プロから指名されるような選手に変貌することなど、想像すらできなくなっていた。

 真剣勝負の野球は、この夏に負けた時点で終わりにしよう。
 と僕は覚悟を決めた。

 それならば、セカンドは水野に譲り、僕は元の守備位置のレフトに戻ることにした。
 遠投は効かないものの、内野の中継までの返球なら以前に比べて大分マシになったし、捕球するまでの動作ならチーム内ではオネエ三木に次いで、水野と互角以上の自負はある。

 攻撃面でも一番水野、二番長嶋ならば、出塁率も高く足も使える。
 夏に勝つために僕はプライドを捨て最善策を選択した。

 レフトのレギュラーで二番打者としての役割も重要だが、控え投手としてもレベルを上げておきたいと思った。
 松村ほどスピードも角度も無い僕は、ナックルの精度を高めて、試合で使えるようにしたいと考えていた。
 それまでは爪を立てて投げていた握りを、指の腹で押し出すような投げ方に変えてみると、コントロールが良くなった上に、以前よりも予測できない変化をするようになった。
 調子が良ければ松村よりも僕が投げたほうが良いのでは?
 なんて思うのは調子に乗り過ぎだろうか?

 横浜から来た水野、もしかしたらドルフィンズのファンかもしれない。
 そう思って、小学生の頃に多城選手のプロ入り初ホームランをキャッチしたこと、それからドルフィンズの選手になることを目標に練習してきたこと、そんな話しをしてみると、水野から想像していた以上の話しをされた。

 水野も小学生の時に多城選手のホームランボールをキャッチしていたのだ。
 しかも節目の100号ホームランだった。
 それ以来多城選手のファンになり、できればドルフィンズの選手になりたい。
 と僕と同じように練習を重ねてきたそうだ。
 そんな二人が偶然にも同じ高校の野球部でチームメイトになるなんて、多城選手に面会に行けば会ってもらえるのではっ?
 なんて話しで盛り上がった。

 皮肉にも、水野との出会いが僕の目標を変えてしまうきっかけになったのだが、遅かれ早かれ僕の能力ではプロなんて無理なのだから、水野と会えて良かった。
 と思っていた。
 僕よりも素質があり、母親想いの彼には、何とか目標を達成して欲しい。
 と応援する気持ちのほうが強かった。
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