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突然ですが、王子だったそうです
南の塔の青年
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王都を南に進んでいったところに大きな森がある。人は森の事を『迷い森』と呼んでいた。その森の中に今ではだれも寄りつこうとしない小さな塔がある。誰が何のために建てたのか。それを知る者はいない。
月が西に傾き始め赤くなった木々は暗闇の中で不気味さを増していた。そんな夜も更けだしたころ、塔の扉が音を立てて開いた。そして、塔の中に十代後半と思われる青年が入って行った。青年の髪は空と同じくらい黒く染まり、左の瞳は長い前髪によって隠されていた。青年の手には微かな月の光を反射させ、怪しく光る大きな鎌。鎌は所々赤黒く汚れていた。
青年の手によって付けられた塔の明かりは、党の一階を明るく照らし出した。明かりのついたそこは、居住スペースのようになっている。簡易的な調理台や小さな食器棚。中央には羊皮紙が山のようにかさばって置かれたテーブルと、向かい合う形で二つの椅子が置かれていた。
テーブルの上に鎌や、背負っていたカバンを置いき、青年は椅子に座った。そして、山の中からおもむろに一枚の羊皮紙を取り出し何かを書き始めた。紙の一番には『報告書』と記されていた。
それから一時間くらいたったころだろうか。それが終わると青年は一息ついた。
「終わった~。報告書、提出するのは明日でいいよな。」
終わる頃には、暗かった空は既に明るくなり始めていた。帰って来てから相当の時間が立っていたようだ。青年は椅子に座ったまま伸びをして、側に投げ捨ててあった黒いマントを手に取った。マント服の上から羽織り、塔の明かりを消した。青年は塔を出て、森の中を慣れた様子で歩いていった。
森を歩くこと一時間。国一番の大通り『モナルキーア』。王宮まで続き、小さな個人経営の店から、大商会の本店まで多くの店が並ぶ商業区でもある。その道から一本外れた所に、『ブローレ』と呼ばれる小さなパン屋がある。店は大通りから外れているが、朝の早い時間からやっているため、役所仕事の人には人気のある店だ。まだ、日が昇り始めた時間帯だが、すでに扉に掛けられた看板には『オープン』の文字があった。
青年が扉を開けると、奥から少しふっくらした優しそうな女性が出て来た。女性は、この店を経営している主人の妻であるアルバといった。
「いらっしゃ…なんだ、ラモール君か。いつものかい?」
「ああ。」
そう言って女性は奥に戻り、再び出て来た時には、手に袋を持っていた。
「ありがとう。代金。」
「いや、いいよ。」
「え?嫌でも悪いだろ。」
「そんなのいいよ。また来て売れるならね。」
「…ありがとう。また来る。」
青年_ラモールは上機嫌で店を出た。この後、己の生活が180度変わると知らずに…
月が西に傾き始め赤くなった木々は暗闇の中で不気味さを増していた。そんな夜も更けだしたころ、塔の扉が音を立てて開いた。そして、塔の中に十代後半と思われる青年が入って行った。青年の髪は空と同じくらい黒く染まり、左の瞳は長い前髪によって隠されていた。青年の手には微かな月の光を反射させ、怪しく光る大きな鎌。鎌は所々赤黒く汚れていた。
青年の手によって付けられた塔の明かりは、党の一階を明るく照らし出した。明かりのついたそこは、居住スペースのようになっている。簡易的な調理台や小さな食器棚。中央には羊皮紙が山のようにかさばって置かれたテーブルと、向かい合う形で二つの椅子が置かれていた。
テーブルの上に鎌や、背負っていたカバンを置いき、青年は椅子に座った。そして、山の中からおもむろに一枚の羊皮紙を取り出し何かを書き始めた。紙の一番には『報告書』と記されていた。
それから一時間くらいたったころだろうか。それが終わると青年は一息ついた。
「終わった~。報告書、提出するのは明日でいいよな。」
終わる頃には、暗かった空は既に明るくなり始めていた。帰って来てから相当の時間が立っていたようだ。青年は椅子に座ったまま伸びをして、側に投げ捨ててあった黒いマントを手に取った。マント服の上から羽織り、塔の明かりを消した。青年は塔を出て、森の中を慣れた様子で歩いていった。
森を歩くこと一時間。国一番の大通り『モナルキーア』。王宮まで続き、小さな個人経営の店から、大商会の本店まで多くの店が並ぶ商業区でもある。その道から一本外れた所に、『ブローレ』と呼ばれる小さなパン屋がある。店は大通りから外れているが、朝の早い時間からやっているため、役所仕事の人には人気のある店だ。まだ、日が昇り始めた時間帯だが、すでに扉に掛けられた看板には『オープン』の文字があった。
青年が扉を開けると、奥から少しふっくらした優しそうな女性が出て来た。女性は、この店を経営している主人の妻であるアルバといった。
「いらっしゃ…なんだ、ラモール君か。いつものかい?」
「ああ。」
そう言って女性は奥に戻り、再び出て来た時には、手に袋を持っていた。
「ありがとう。代金。」
「いや、いいよ。」
「え?嫌でも悪いだろ。」
「そんなのいいよ。また来て売れるならね。」
「…ありがとう。また来る。」
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