恋して、愛して、変になる

まなづるるい

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第三章 やっぱり貴方は私の運命の人

それは奏太くんですか? いいえ、奏太くんではありません

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    ◇


 とある日のとある時間。私は一人、ファミレスにいた。

 今日はこれから奏太くんとデート。ファミレスで待ち合わせして、ご飯を食べるだけの健全なデート。

 こうして忙しい合間を縫って、私と会ってくれるのは嬉しい。だから、ご飯だけ? なんて我儘は言わないの。

 ちょっとくるの早すぎたかな。

 ドキドキしながら先に席に座って待っていると、誰かが店内に入ってくる。

「あれ? 愛子だ」

 こんなところで愛子に会うとは思わなかった。どうしよう、愛子は奏太くんの顔、知ってるんだよね。

 どうして由乃と奏太くんがこんな時間にファミレスにいるの?

 二人は知り合いだったの?

 なんて聞かれたら困るよ。

 愛子には、奏太くんが私の彼氏だということは話していなかった。自分から奏太くんを紹介しておいて、奏太くんは私の彼氏だから盗らないでね、なんてマウント取るみたいで言えなかったし、私が紹介した所為で愛子が奏太くんに直接会いに行ってえっちまでしちゃった以上、今更、実は私の彼氏なんだとは言えないでしょ。

 ああもうどうしよう、今からでも待ち合わせ場所を変えようかな。

 私はスマホを手にすると、ふと気付いたことがあって動きを止めた。

 愛子と一緒にいる人は誰だろう。

 あんな男の人は見たことないけど、私が知らないだけで愛子に彼氏ができたとか?

 二人は店内の端の方に背を向けて、横並びに座っているようだった。

 彼氏にしては、密着しすぎではなかろうか。何かを話しているみたいだけど、いつまで経っても注文しようとしない二人にどうしても疑問を抱いてしまう。

 いったいさっきから何をしているんだろう。

 プライベートとはいえ、友達の謎の動向を目の当たりにして見て見ぬふりができなかった私は、そっと席を立ち上がると、愛子の方へと近付いた。

 愛子の席の後ろに座ると、二人の会話がさっきよりもよく聞こえる。

「ね、このまましてたらイッちゃいそ?」

 まさかと思った。

 私は二人にばれないよう、ゆっくりと後ろに振り返る。

 すると、そのまさかがそこで行われていた。

 ファミレスにだって監視カメラはあるはずだ。私が変に思うのだから、店員さんだっていい加減、異変に気付くだろう。

 男の人はもういきそうなのか、愛子の腰を抱き寄せた。

 手だけとはいえ、こんなところで発射するまでなんて信じられない。此処は皆が食事をするところなのに、汚いとは思わないの?

 マナーに反する行いに憤りを感じていると、愛子の口から奏太くんの名前が出てきて驚いた。

 え、奏太くん?

 ううん、そんなはずないよ。奏太くんはこれから私と会う約束をしているんだから。それに、どう見たってこの男の人は奏太くんじゃない。だとしたら、愛子は何を言っているの?

 もしかしてその男の人は奏太くんの代わりなの?

 この人を奏太くんだと思って、そういうことをしているの?

 それはそれでどうかと思うけど、どちらにしたってこんな公共の場でそういうことはよくないと思う。私もいつまでも見てないで、早く奏太くんに待ち合わせ場所の変更を連絡しないと。

 なんて思っていると、二人が熱いキスを交わし始めてしまった。

  どうしよう、流石に此処にいたらばれるかな。だけど二人から目が離せないよ。ばれたらばれたで偶然を装えばいっか。此処に奏太くんがこない限り、いくらでも誤魔化せるはずだ。

 今度は愛子の番なのだろう。キスをしながら器用にパンツの中に指が捩じ込まれている。

 なんていうか複雑だなぁ。友達のそういうシーンを目の前で見るなんて。私にそんな趣味はないんだけど。いい加減、私に気付きなさいよ。こんなに近くで見られているのに、どっちも気付かないなんておかしいでしょう。

「愛子さん、濡れすぎ」
「あっ」
「静かにしてください」
「だ、だって奏太くんがえっちなこと言うから……っ」
「俺はなにもしてませんよ」

 そもそもこの男の人は、愛子に奏太くんって呼ばれてなんとも思わないのかな。

 例えばこの男の人は『奏太くん』じゃなくて『蒼太くん』で、名前が同じだから『そうたくん』って言っているだけなのに、私が勘違いしているだけという可能性もなくはない。

 なくはないけど、どちらにせよ愛子が奏太くんの代わりを見つけてそういう行為に至っているという事実に変わりはないし、やっていることは犯罪だよね。

 流石に奏太くんに連絡をしなきゃと思いスマホを手にすると、光の速さで文字を入力する。

『ファミレス混んでるから座れなかった。違うところにしよ』

 私は愛子にばれないうちに席を立ち、ファミレスをあとにした。

 奏太くんとえっちした報告もやばかったけど、愛子って男が絡むと周りが見えなくなるタイプなのかな。うん、多分そう。男に依存してズブズブと深みに嵌っていって、なかなか抜けだせなくなるタイプなのかも。

 だけど本当に奏太くんじゃなくて良かった。あれが奏太くんだったら、私はどうしていたのかな。

 早く、早く奏太くんに会いたい。会ってギュッてしてほしい。

 私は奏太くんとの待ち合わせ場所に向かって走る。

 愛子のああいうところは理解できないし本当に気持ち悪いと思うけど、だからといって友達をやめようとは思わない。思わないけど、やっぱり気持ち悪くて一線を引きたいとは思う。

 あんなふうに奏太くんの代わりを見つけて、自分の性的欲求を満たしているなんて。私はそんなの知りたくなかったよ。




「奏太くん、お待たせ!」

 待ち合わせ場所をファミレスから駅前に変更した私は、急いで奏太くんの元へと駆け寄った。奏太くんは既に到着していて、スマホを片手に持っている。

「ああうん。じゃあ行こうか」

 移動した先はピザとパスタを専門にしたレストランで、店内に入ると私達よりも先にきた人達が既に何人か待っていた。

「此処も結構並んでるね」
「そうだね。この時間帯は何処も混んでいるのかも」
「だったらわざわざ店変えなくても良かったんじゃない?」
「だ、駄目だよぉ。あそこは店の外まで行列ができてたんだからぁ」

 行列ができているなんて嘘。本当は私が愛子と奏太くんを会わせたくなかっただけ。愛子がこれ以上、奏太くんと接触するのが嫌なんだ。

「そんなに混むなんて珍しいね。いつもだったらすぐに席に案内されるのに」

 ちょっと苦しい嘘だったかもしれないけど、なんとか誤魔化せたらしい。気を取り直して順番待ちをしていると、奏太くんのスマホのバイブが振動した。

 お仕事の連絡だったのか、席を外す奏太くん。今度のお仕事は某アニメの声優のお仕事なんだって。奏太くんの声は甘くて色っぽいから、きっと人気が出るんだろうな。




 ようやく奏太くんが席に戻ってくると、少ししてから料理が運ばれてきたので、食事にすることにした。食事中にする会話はどれも当たり障りのない話だった。

 食事をしたら解散して、次に会えるのはいつだろう。アニメが終わる頃までもう会えないのかな。声優のお仕事の流れなんて分かんないから、想像が付かないよ。

 何ヶ月も会えなかったらどうしよう。きっと私のことだから、会いたいと思っても忙しいと思うからって、自分の気持ちを押し殺して我慢しちゃうんだろうな。

 今日だってそうだよ。時間がない中、こうして会ってくれてるんだから、食事をするだけでも幸せなんだって、自分に言い聞かせようとしてる。

「お金は俺が払うよ」
「あ、うん。ありがとう」

 私は奏太くんに伝票を渡した。お店を出たら、暫く会えなくなっちゃうんだ。

 本当は、もう少しだけ一緒にいたい。

 今にも溢れだしてしまいそうな感情をグッと堪えると、私は席を立ち、奏太くんの後ろをついていく。

「じゃあ、また連絡するね」
「うん。お仕事頑張ってね」

 お店を出ると、ちっとも後ろ髪を引かれることなく解散しようとする奏太くん。ちょっとは名残惜しそうに、離れ難いふうに見せてくれたっていいのにな。

 奏太くんに会えない間、私は何をしたらいいの?

 また連絡するねって。またっていつ?

 こんなふうに奏太くんのことを考えているのは私だけで、私のことなんてこれっぽっちも考えてくれなかったらどうしよう。

 私のことなんて忘れて、同じ現場の女性と親しくなったらどうしよう。

 私の知らない女性と一緒に食事をしていたら。色々あって、家まで送ることになってしまったら。

 どうして私ばっかり不安になるの?

 どうして奏太くんはあっさり帰っちゃうの?

 今日は私の家に泊まってなんて言ってない。えっちしたいなんて言ってない。

 何も言ってないのにどうしてすぐに帰っちゃうの?

 何も言ってないからすぐに帰っちゃうの?

 私が何か我儘を言えば、奏太くんは答えてくれた?

 例え私が行かないでと言って、奏太くんを引き止めたとして。私は多分、本当にこれで良かったのだろうかって、それはそれで後悔していたんじゃないかな。

 私はこういう性格だから、どうしても良くない方に考えちゃう。奏太くんのことになると滅法駄目。

 だから多分、私からは連絡しない。したくてもできないと思う。明日から奏太くんからの連絡をひたすら待つだけの日々が始まるの。

 もし二度と連絡がこなくなったりでもしたら、私はきっと、死んじゃうわ。
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