魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

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第二幕 4場 はぐれ勇者と商人の町

第26話 魔獣襲来

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 服屋を出た俺たちは、帽子屋へ向かっていた。道向かいの歩いて数分のところにあるらしい。俺の隣ではカリンが花柄の包みを両手に抱えて嬉しそうに歩いている。
 そこにニットが寄ってきて、

「気に入った服が見つかってよかったなネエちゃん。じゃあ、店の紹介料を弾んでもらおうかな!」

 そう言って、彼はカリンの目の前に手の平を出した。

「えっ? 紹介料……ですか? どうしましょうアリシアお嬢様」

「人間って――ごほん! この町には不思議な風習があるのね。で、いくら払えば良いのかしら?」

「いや、ちょっと待て!」

 俺は見ていられなくなり声をかけた。
 ニットはきょとんとした表情で俺を見る。

「お前は昨日は宿屋から、そしてさっきは服屋から金を受けとっていたな?」

「ああ、それがどうしたってんだ。いけないってのか?」

「いや、お前がいろんな手段で金を稼ごうとすることについて、俺はとやかく言うつもりはないが……なぜそこまで躍起になるんだ? 宿屋と服屋から受けとった金があれば、しばらく食うには困らないだろう?」

 ニットは少し考え込み、周りに俺たちしかいないことを確認した。
 そして声を潜めて――

「これは町の奴らには内緒のことだけれどさ。オレっちの師匠は仲間を集めて魔王城へ向かう計画があるのさ」

「な――ッ!?」

 アリシアが声を上げようとする寸前で、機転を利かせたカリンが口を押さえた。
 カリンは場の雰囲気を読める頭の良い子だな。

「そのためには金が必要らしいんだ。ほら、武器を揃えたり仲間を募集したり、旅には何かと金が必要だろ?」

「まあ、それは分かるが……いくら必要なんだ?」

「300万ギルスだって」

「さ、さんびゃくまんギルスだってー!?」

 俺は思わず大きな声を上げてしまった。300万ギルスと言えば、贅沢さえしなければ2年間は働かなくても暮らしていけるぐらいの大金だ。農民出身の俺は一生かかっても手にすることなないだろう。農民は物々交換が基本の暮らしだから。

「まさか、それをお前一人で稼ごうとしている訳じゃないよな。お前の師匠は何をやっている。それなりに稼ぎのある人なのか?」

 俺はそう尋ねた直後に後悔した。スラム街住んでいる彼らが稼いでいる訳がないだろう。それでもニットは悪びれることなく――

「師匠は……現在いまは飲んだくれだけど……時が来たら大金を一気に稼ぐって言っている。だから普段はオレっちが唯一の稼ぎ頭なんだぜ! なんたって一番弟子だからよ、オレっちは」

 得意げに話すニットの瞳はきらきらしていた。このきれいな瞳も大人になり、現実を知ることで曇っていくのだうか。

「それで、現在はいくら貯まったんだ?」

「うーん、70万ギルスぐらいかな? オレっちが稼いだ金はその日のうちに師匠に届けているから詳しくは分からないけどな」

「そ、そうか……」




 いやな予感がする。
 しかし……俺たちにとってこの町は単なる通過点。
 目の前の少年ニット一人に深く関わる義理はない。





 帽子屋についた。しかし様子が変だ。店主がシャッターを閉めようとしているのだ。

「なあおっちゃん、オレっちお客さんを連れてきたンだけどよ、朝からもう店じまいかい?」

 ニットが店主に声をかけた。
 すると店主は――

「丘の向こう側に巨大魔獣の群れが出現したのさ。警備隊や通りすがりの戦士の皆さんが一斉に退治に向かっているが、万一のことがあると困るから今日は終わりにするのさ」

「ねえ、店を閉められちゃうと困るんですけど! アタシの帽子が買えないじゃないの!」

 アリシアは店主に食い下がるが、店主は無視するように次々にシャッターを閉めていく。

「アタシの帽子がぁぁぁ――!」

 麦わら帽子に両手を乗せて嘆くアリシアをカリンとフォクスがなだめている。
 カルバスは何もできずにおろかろしているだけ。

 アリシアには悪いけれど、俺たちはもうこの町を出よう。帽子は別の町で買えばいいさ。俺はニットに別れの言葉をかけようとしたのだが。

「ん? どうしたニット?」

 ニットは呆然と立ち尽くしていた。
 そして俺の顔をゆっくりと見上げ――

「丘の手前側がオレっち達が住んでいる場所なんだ……」

 そうか、スラム街は小高い丘の中腹にあった。その丘の向こうに巨大魔獣の群れが来ているということか。

「で……でも大丈夫だぜ。すぐに師匠がみんなやっつけてくれる……はず……だ」

 そう言い終わる前にニットは走り出していた。一度は気丈に振舞おうとしたけれど、急に不安になったのだろう。無理もない。彼はまだ子供なんだ。

 俺はその背中を見て……心の中で別れを告げる。
 しかし……



 本当にそれでいいのか?
 胸が苦しい。首元のハリィがもぞもぞと動き出す。



「ユーマ……あの子を追いかけるの? それとも馬車に乗って町から出て行くの? アタシは……ユーマの選択に従うわ!」

 アリシアが言った。
 彼女には俺の迷いが伝わっていたのか。
 それともその言葉に深い意味はないのか。
 カルバスとカリン、そしてフォクスが俺を黙って見ている。
 皆が俺の決断を待っている。




 俺は――




 馬車はメインストリートを抜けて、細い通路にさし仕掛かる。ここは簡易テントが道の両脇に立ち並ぶ、小さな商店がひしめき合うマーケット街。普段なら人通りの多いこの場所もほとんど人影はなく、隙間なく埋め尽くされているはずの数々の商品も陳列されてはいない。皆、巨大魔獣来襲の知らせを聞いてどこかへ避難しているのだろう。

 途中、マーケットのテントに子供の姿があった。ニットが声をかけてきたので俺は馬の手綱を引いた。

「おいオマエら、そんなところで何をしているんだい?」 

 御者台から立ち上がり、ニットが声をかける。
 それは見覚えのあるぼろぼろの服を着た子供たち。

「ヨシキさんが店のものを持っていくと高く買ってくれるっていったから」
「ヨシキおじちゃんがいつもの倍でかってくれるって」
「ニットの兄貴もいっしょにお宝さがしましょう」
「おにいちゃんもてつだってぇー」

 下は3歳、上は10歳ぐらいの子供たちが、テント下に積まれた木箱の隙間などから店の商品をあら探ししている。魔獣騒ぎの混乱で、店主が回収し損ねたものだろう。

「な、何で師匠がそんな指示を……あいつらを避難させることの方が大切ではないのか?」

 ニットはヨシキという名の師匠の判断に疑問を抱き始めている。

「お前ら、もうそこまでにしてすぐに避難しろ! この町は師匠が守ってくれるから安心だろうがな。でも……万が一のことを考えろ!」

「ニットの兄貴はどうするの?」

「オレっちは師匠に加勢してくるぜ! なんたってオレっちは師匠の一番弟子なんだからよっ!」

「がんばってね、あにきー」
「がんばってあにきー」

 小さな手を元気いっぱいに振る子供たちの声援を受けながら、俺たちは馬車を進める。道は徐々に狭くなり、その先の坂を駆け上がり、スラム街にたどり着いた。
 
 丘の向こう側から魔獣声や銃声が聞こえてくる。

「師匠はもう魔獣退治へ向かったようだな。ありがとうな、ニイちゃんとネエちゃんたち! オレっちも師匠の部屋の武器を借りて加勢に行ってくっからここでお別れだな!」

 ニットは勢いよく馬車から飛び降り、俺たちに手を振った。

 俺は魔獣との戦いを最後まで見届けるつもりだったのだが、ニットはそれを望んでいない……と言うよりも期待していなかったようだ。

「ああ、ニットも元気でな。死ぬなよ!」

 俺は手を振り返して、そんな軽い言葉を返した。
 馬車を転回して戻ろうとしていると、ドアが開いて男が慌てた様子で出てきた。

「師匠!」

「おうニットか。良いところに来たな。部屋の中に荷物がまだあるからオメエはそれを運べ!」

「荷物ですか?」

「ん!? あの馬車はオメエの連れか? 丁度良い! おいキサマら、その馬車を寄越せ。オレ様が使うからよー」

「はあっ!?」

 俺たちはそろって声を上げた。

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