魂色物語

ガホウ

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第一章 燻る火種と冒険の始まり

第五話 迫りくる殺意

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 「ディール!何やってるのさ。早く逃げよう!」

 頭じゃ逃げなきゃいけないって分かってる。でも、身体が動かない。頭の片隅では家族を失ったおれに生きる意味があるのかどうかさえも分からずに困惑していた。どうすればいいんだ?次に取るべき行動は?動け……動いてくれよ……おれの身体!このままだとおれだけじゃなくてレイにも危険が及ぶに違いない。
 
 動けないおれを何とか動かそうとするレイ。別の場所では村人たちが散り散りになり農具を手に取って騎士たちに抵抗する。その中で数人の村人が声を上げる。見える限りでは鍬で兵士の頭を割った村人もいれば兵士に槍で身体を貫かれて息絶えている村人もいる。皆おれの見知った顔ばかりだ。

「このままお前たちに殺されてたまるか!男たちは戦うんだ。女や子供たちを逃がせ!」
「ディール!早く逃げろ!」
「村長を助けろ!」
「やめろ……これ以上近づかないでくれ……やめてくれぇ」
「イヤァ――――‼あなた、死なないでぇ……」

 村のあちこちから悲鳴と怒鳴り声、金属同士のぶつかり合う音が聞こえてくる。そして、兵士の誰かがやったのか村の家に火がつき始めた。ほんの昨日までいつもと変わらない平穏な村だったはずが今ではただただ惨劇だけが広がっていく。

「これでもくらえ!」
 
 レイが袋から爆破石を取り出して謎の騎士の近くに向けて投げる。大きな爆発音とともにその爆風で周囲に土埃が舞いその間に動けないおれをレイが思い切り殴る。

「レイ、何すんだよ。痛てえじゃないか」
「ごめん。他に思いつかなくて」

 でも助かった、レイに殴られたおかげで身体が動く。おれたちは急いで家の屋根から飛び降りて走って逃げだす。とにかく無我夢中で走った。

「オイッ!お前ら、ガキを逃がすんじゃねぇぞ!逃がしたら全員、家族もろとも打ち首だ!」

 謎の騎士の脅迫で他の兵士たちが死に物狂いで追いかけてくる。しかし、あいつらが重装備であること、遠くからの行軍だったことによる疲弊が幸いしておれたちとの距離はどんどん広がっていく。何とかなりそうだ。しばらく走っていると距離を詰めてくる奴らが出てきた。おれたちは爆破石を投げて追い払いながら逃げ続ける。
 ようやく追手が見えなくなってきたところで風車にたどり着く。おれたちはもう息があがっていた。

「ハァハァ……ここまで逃げてきたのはいいけどどうするレイ。お前は屋敷に戻った方がいいじゃないのか?」
「ハァ……ハァ……嫌だ!僕も一緒に逃げるよディール。それに敵がエイリレ王国じゃないから屋敷が安全とも限らないよ」
「お前の両親は放っておいていいのかよ!」
「お父様とお母様は身分が身分だから殺されないと思う。だけど、人質にはなるだろうね……。それに僕もあいつらに攻撃してるんだ。今更戻ったところで状況は悪くなるだけさ」
「分かった、一緒に逃げよう。まずは置いてある使えそうな荷物を持っていこう」

 急いで荷造りをしていると遠くからではあるが兵士たちの声が聞こえてきた。

「レイ、あいつらもうすぐそこまで来てるぞ。ここから離れよう」

 おれたちは風車から離れてあいつらから逃げるように草原へ逃げた。草原地帯の草は丈が高くおれたちの姿を覆い隠す。追手を攪乱するためにおれは爆破石を投げて攻撃する。レイは魔法の小瓶を使い近くの川の水を吸い上げて放出することで急流があいつらを吞み込んで押し戻したり、ぬかるんだ土であいつらの足を止めた。

「”スワロウ”……”ボミット”‼」
「吹き飛べ!」
 ドッカ――――――ン!

 草のせいで追手の数が減っているかよく分からないしレイの位置も分からない。

「レイ――!どこにいるんだ?」
「僕は大丈夫だからとにかく走るんだ!」
「走るって言ったってどっちが前か分かんないぞ!」
「いいから走るん……うわぁー!」
「レイ?どうしたんだ?」

 おれは一瞬足を止めて周囲を見渡すがレイの場所が分からない。考えろ……そうだ、おれが最初に草原へ入ったときにレイは右側にいたはず。今の位置から右後ろへまっすぐに進んだ。この時点で良いことと悪いことが同時に起きた。良いことはレイが見つかったってこと。悪いことはレイが敵の兵士にうつ伏せで捕まっていること。
 こんなところで大切な親友まで失うわけにはいかない。でもどうする?爆破石はレイを巻き込んじゃうし、あいつを突飛ばせる程の力はおれにはない……賭けに出るしかない。
 おれは茂みに隠れて兵士の背後に近づく。

「おい!お前が青の魂色のガキか?」
「そんなもの僕が知るか!放せよ!」
「ハズレっぽいな。……じゃあ、死ね!」
 
 ドッカ――――ン!
 レイに当たらないように力を抑えて兵士の背中に爆破石を当てる。見事に兵士は前へと吹き飛ぶ。

 「グハッ‼……なんだ?!お前は……」
 
 兵士が体勢を立て直しこちらを向いた。おれは間髪入れずにレイの腰元から護身用の短剣を抜き取りヤツの首元めがけて突き刺した。突き刺した場所から鮮血が噴き出しておれの顔が生暖かい血潮で濡れる。兵士はそのまま呼吸が出来ず苦しんで手足をばたつかせもがいていたがピタッと動きが止まり絶命した。
 おれは今、確かに人を殺した。この手で……だけど何故だろう、不思議と罪悪感は感じなかった。

「ディール、ありがとう」
「レイが無事で良かったよ。でも、おれ殺しちまった……」
「ディールが助けてくれなかったら僕が死んでたんだ。だから僕は君に何度でも礼を言うし、非難もしない」

 おれは顔についた返り血を拭うと、兵士のそばに落ちている剣を拾う。しかし、おれには少し大きすぎるし何より重い。貰っていくのはやめた。
 草原を抜けた頃には気づけば兵士たちの声は聞こえなくなっていた。なんとか逃げ切ったようだ。おれとレイは互いの安否を確認し共に安堵する。丈の高い草原地帯を走ってきたので体中が細かい切り傷だらけだった。
 地面に腰を下ろすと目の前には夜明けの太陽が出てきている。おれの心はこれまでのたった一夜の出来事を呑み込めず沈んでいるが日差しはおれたちを憎たらしいほどに明るく照らしていた。
 次にどこに進むべきかレイと話し合うことにした。

「レイ、ここまで逃げてきたのはいいけどこれからどうする。あいつらが諦めるとは思えない」
「カミオンの騎士が襲ってきて逃げられたのが奇跡だよ」
 
「全部失った。家族も家、村長、村のみんな。全部だぞ!おれが何をしたんだ!おれの魂色がなんだって言うんだよ!」
「ディール。君にとって意地悪に聞こえるかもしれないけど、今はまだ嘆いていいときじゃないよ。まだカミオンの騎士が近くに来てるかもしれないんだ。次の目的地を決めよう」
「お前に何が分かるんだよ……。親と妹が目の前で無残に殺されて……。おれがお前と同じように貴族の息子なら親が金や権力で何とかしてみんなが死ななくて済んだのかもな!」
 
 おれは堰がきれたようにありのままの感情を吐き出してしまった。レイは何も悪くないし、むしろ命を救ってくれた恩人だ。おれは友に当たってしまう自分自身に余計に苛立ってしまう。

「そうさ、君が貴族ならそもそも魂色が青と判明した時点で王宮へ連れていかれて守られるだろうね。下手に手を出せば戦争さ」
「第一に君たちの村は未確認の魂色のすごさを理解してなさ過ぎたんだよ!すぐにでもエイリレ王国に連れて行くべきだったんだ。これがどういうことか分からないんだろうね一般人の村人には。過去、数百年間に亘って新しい色が出てきていないんだ。その魂色があれば国でも確実に重要視されて素晴らしい地位が約束されたに違いないよ」
「村の皆や教えを馬鹿にする気かよ!レイ!」

 怒りが抑えられずレイの胸ぐらに掴みかかって思い切り押し倒す。

「いくらでも言うよ。君の村は時代遅れで滅んだってね」
「いい加減にしろよ!これ以上言ったらただじゃおかないぞ」

 振り上げたおれの右の拳はレイの顔のすぐ横の地面を殴った。おれが殴れなかったのはレイの目に大粒の涙が溜まっていたからだ。

「どうしたんだい、殴るんじゃないのか」

 そう言うレイの声は震えている。今にも泣きだしそうだ。
 
「そんなこと出来るわけないだろ」

 おれは掴んでいた手を放す。レイのあからさまな挑発と涙に怒りは自然と心から消えていた。レイは泣いている。

「だって君はすべてを失ったんだ。だったら……っ……せめて……そのどこへもぶつけられない怒りぐらい僕が受け止めてあげなきゃディールが辛すぎるじゃないか!」
「乱暴なことしてごめん。言い過ぎた、貴族がどうとかって」
「僕の方こそ君を怒らせるためとはいえ、ひどいことを言い過ぎたよ。さっきのは本音じゃないから」
「分かってるよ」

 おれはレイの手を取って起こす。レイのおかげで少なくとも冷静さを取り戻すことができた。
 まだ全部を失ったわけじゃなかった。おれには大事な”親友”がいる。
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