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第二章 魔法の衆と禁じられた書
第六話 君たちの旅に祝福あれ
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おれはまたあの日の悪夢を見ていた。恐怖で目が覚める。身体中汗でびっしょりだ。おれは昨日の子供たちを見ていて思った。ここの子供たちにはフィリスだけじゃなくてレイも必要なんだ。あの二人はここの子たちにとって親代わりのようなものなんだ。だからこそレイと旅をして子供たちと引き離すことなんてできない。幸いこの場にレイはいない。どうやら昨日の夜は教会で眠ったらしい。
おれは旅の荷造りをした。あのエルフの夢が予知夢ならおれと同じ想いをする者が出てきてしまう。それだけはどうしても止めたかった。これはシスターが言っていたことなんだ。『自分の心の声に従え』この妖精の区を離れるのは寂しいがそれでも早速実行するときが来たんだ。
旅の荷物を整えて最後に剣を磨く。剣を磨くたびにここでの思い出が蘇る。
3年前ここに来たばかりの時に剣の修行のために外の区へ出てゴロツキにボコボコにされて怪我だらけで帰ってくるとシスターはひどく心配したあとに手当てしてくれたし当時の年長組が仕返しに行ってくれた。
おれがここで鍛えた剣の腕はレイのような名前の付いた真っ当な剣術じゃないし何か技があるわけじゃない。おれが得たのは”生きるための剣”だ。泥臭くても恰好が悪くても最後は勝つのがおれの戦い方なんだ。誰かが教えてくれたわけじゃない。傷ついたからこそ得ることができた我流の剣。
フィリスとは仲が良かったとは言えないが時々自身が好きな神話についてを一方的に喋ってくれた。あの神はいいやつだとかあの神はひどいことをするとか。神話上の架空の生物の話もよくしてくれた。神話上の生物は話だけ聞くと魔物みたいだったからそれだけは興味を持って聞いていた。
早くしないと皆が起きてしまう。袋を背負い腰に剣を装備して準備が完璧なのを確認してから部屋を出た。最後にシスターの墓に挨拶することにした。おれは墓の前で手を合わせて心の中でエルフを助けるために旅に出ることにしたということを報告した。
「シスター、おれはやっぱり助けを求めている誰かを放っておけない性分みたいです。そのせいでいつも顔突っ込んで危険な目に遭ってるけれど、あなたならきっと笑って送り出してくれますよね。さようなら……シスター」
祈りを終えると教会の周りに咲く白い花の香りがおれを包んでいた。死臭漂うこの街で唯一心が和らぐ場所だろう。
おれは妖精の区のバリケードへと着いた。バリケードの隙間から外に出て妖精の区に向かって深くお辞儀をする。そしてロオを出るために一旦敷物の区へと歩き始めた。
これからどうやってエルフを見つけるかを考えながら進んでいると背後からおれを呼ぶいつもの声が聞こえてきた。すぐさま振り返り確認するとそこには親友の姿があった。
「ひどいじゃないかディール!僕を置いて行っちゃうなんて」
想定外の親友の登場におれはびっくりしてしまう。
「何でここにいるんだよ。レイは妖精の区で皆を守っていかなきゃダメじゃないか!」
レイは腰に手をあててにこやかに言った。
「確かに僕は残ろうとしていたよ。だけど、そのこと伝えたらフィリスに怒られたんだ。『子供たちは私がついているから大丈夫だけどディールにはあなたしかいないでしょ‼」ってね」
「レイが来てくれたのは嬉しいけど、この危険な街でおれだけじゃなくてレイまでいなくなったら妖精の区が危ないじゃないか!」
「そのことなんだけどね……」
レイが何かを言いかけたその時、遠くの方からフィリスがなにやら大勢の子供たちを引き連れてこっちに向かってきた!やってくるなりフィリスがおれの肩に手を置いて話し始める。
「これからは私がシスターの後を継いでこの妖精の区を率いていくわ。だから妖精の区のことなら心配しないで。それに心強い助っ人が仲間になったのよ!」
フィリスがそういうと大勢の中から見たことのある奴とない奴が出てきた。片方は……なんとおれたちが先日倒したスチルだ。もう片方は……誰だ?おれが反応に困っているとフィリスがしたり顔で話を続ける。
「実はね、鋼鉄の区の支配者”スチル”と敷物の区の支配者”ラグー”が支援してくれることになったのよ」
フィリスの話を信じられなかった。だって争ったのは昨日の今日だぞ。恨みやおれたちがいないことを理由に裏切るに違いない。
「こいつらが協力なんてするわけないだろ!何考えてるんだフィリス」
するとスチルがのそのそと前に出てきた。スチルはボコボコにされたせいで頭中包帯でグルグル巻きになっている。おれはその姿に笑いそうになったがグッと堪えて話を聞くことにした。
「いやあ、俺様たちがフィリスさんを裏切るわけないじゃないですかあ!小さい子たちに聞きましたよお。そこのガキッ……じゃ~なくてディールさんよりも何千倍も強いらしいじゃないですかあ。ディールさんに敵わなかったのにそれよりも恐ろしくて強いフィリスさんに反抗なんてしませんよお。それに”支援”じゃなくてどちらかというとフィリスさんの”傘下”みたいなもんですよ。だからこれからはフィリスさんが俺様達の親分という訳です」
後ろのラグーも物凄い速さで首を縦に振っていた。よっぽどあの戦いと子供を𠮟りつける時のフィリスの怖さを吹き込まれてトラウマになったんだろう。
おれはちょっとだけ不安だったけどたくましいフィリスや仲間たちの姿を見たらそんな不安も吹き飛んでいった。おれはスチルの身体を叩きながら笑って話す。
「ハッハッハ!くれぐれもフィリスを怒らせるなよ。お前の鉄板鎧なんか一撃で粉々になっちまうから気をつけろよ!」
おれが冗談で言うとスチルには通じなかったらしくビクビクと震えだして許してくれーと言いながら土下座した。
「じゃあ、フィリス。皆の事を頼んだぞ!」
「ええ、任せておいて。あなたは自分のしたいことをしてきなさいよ」
おれとレイは皆に背を向けてロオの外へと歩き始めると後ろから妖精の区の皆の声が聞こえてきた。
「ディールの兄ちゃーん!レイの兄ちゃーん!元気でねー」
「おケガしないでね。それと、ディールの兄ちゃんはレイの兄ちゃんの言うことをよく聞いてねー」
「うぅ……さびしいよぉ」
「おい、泣かないって言ったじゃんか。笑って見送らないと……」
皆の元気な応援の陰に隠れてすすり泣くような声も聞こえてくる。おれは振り向いて皆に呼びかける。
「お前ら――!おれたちはお前らが毎日冒険の話を聞きたがるもんだからちょっとだけ旅に行って来るだけだぞ。土産話をたくさん持って必ず帰ってくるからおれたちの”家”を守って待っていてくれよ――!」
おれが話し終えると無理やり笑顔を作っていた子供たちの目から溜め込まれた涙が一斉にあふれ出した。その様子を見ながらスチルまで泣いていやがる。
「お前ら……泣かないんじゃなかったのかよ……」
ふと横を見るとレイも大泣きだった。
「レイは何か言っとくことないのか?」
「僕はもう十分に伝えたから大丈夫だよ」
「じゃあ……出発するか!お前らーフィリスを怒らせるなよー!」
おれは皆に向かって大きく手を振る。
「「わかったー‼」」
再び皆に背を向けて出発すると皆の泣く声が背中に突き刺さる。おれは外まで耐えられずに下を向いて思い切り泣いてしまった。おれの瞳から大粒の涙が流れ落ちていくのが分かる。妖精の区の子供たちはおれにとって……血もつながってないし境遇や素性なんて知らないけど、いつの間にか大切な”家族”だったんだ。
どれだけ手で涙を拭っても顔は濡れてしまう。おれは心の中で必ずまた帰ると誓った。
しばらく歩いてようやく3年ぶりにロオの街の外へと出ることができた。また新しい旅が始まるんだ。おれたちはまだ見ぬ世界の不思議や冒険への期待で胸が膨らんだ。
おれは旅の荷造りをした。あのエルフの夢が予知夢ならおれと同じ想いをする者が出てきてしまう。それだけはどうしても止めたかった。これはシスターが言っていたことなんだ。『自分の心の声に従え』この妖精の区を離れるのは寂しいがそれでも早速実行するときが来たんだ。
旅の荷物を整えて最後に剣を磨く。剣を磨くたびにここでの思い出が蘇る。
3年前ここに来たばかりの時に剣の修行のために外の区へ出てゴロツキにボコボコにされて怪我だらけで帰ってくるとシスターはひどく心配したあとに手当てしてくれたし当時の年長組が仕返しに行ってくれた。
おれがここで鍛えた剣の腕はレイのような名前の付いた真っ当な剣術じゃないし何か技があるわけじゃない。おれが得たのは”生きるための剣”だ。泥臭くても恰好が悪くても最後は勝つのがおれの戦い方なんだ。誰かが教えてくれたわけじゃない。傷ついたからこそ得ることができた我流の剣。
フィリスとは仲が良かったとは言えないが時々自身が好きな神話についてを一方的に喋ってくれた。あの神はいいやつだとかあの神はひどいことをするとか。神話上の架空の生物の話もよくしてくれた。神話上の生物は話だけ聞くと魔物みたいだったからそれだけは興味を持って聞いていた。
早くしないと皆が起きてしまう。袋を背負い腰に剣を装備して準備が完璧なのを確認してから部屋を出た。最後にシスターの墓に挨拶することにした。おれは墓の前で手を合わせて心の中でエルフを助けるために旅に出ることにしたということを報告した。
「シスター、おれはやっぱり助けを求めている誰かを放っておけない性分みたいです。そのせいでいつも顔突っ込んで危険な目に遭ってるけれど、あなたならきっと笑って送り出してくれますよね。さようなら……シスター」
祈りを終えると教会の周りに咲く白い花の香りがおれを包んでいた。死臭漂うこの街で唯一心が和らぐ場所だろう。
おれは妖精の区のバリケードへと着いた。バリケードの隙間から外に出て妖精の区に向かって深くお辞儀をする。そしてロオを出るために一旦敷物の区へと歩き始めた。
これからどうやってエルフを見つけるかを考えながら進んでいると背後からおれを呼ぶいつもの声が聞こえてきた。すぐさま振り返り確認するとそこには親友の姿があった。
「ひどいじゃないかディール!僕を置いて行っちゃうなんて」
想定外の親友の登場におれはびっくりしてしまう。
「何でここにいるんだよ。レイは妖精の区で皆を守っていかなきゃダメじゃないか!」
レイは腰に手をあててにこやかに言った。
「確かに僕は残ろうとしていたよ。だけど、そのこと伝えたらフィリスに怒られたんだ。『子供たちは私がついているから大丈夫だけどディールにはあなたしかいないでしょ‼」ってね」
「レイが来てくれたのは嬉しいけど、この危険な街でおれだけじゃなくてレイまでいなくなったら妖精の区が危ないじゃないか!」
「そのことなんだけどね……」
レイが何かを言いかけたその時、遠くの方からフィリスがなにやら大勢の子供たちを引き連れてこっちに向かってきた!やってくるなりフィリスがおれの肩に手を置いて話し始める。
「これからは私がシスターの後を継いでこの妖精の区を率いていくわ。だから妖精の区のことなら心配しないで。それに心強い助っ人が仲間になったのよ!」
フィリスがそういうと大勢の中から見たことのある奴とない奴が出てきた。片方は……なんとおれたちが先日倒したスチルだ。もう片方は……誰だ?おれが反応に困っているとフィリスがしたり顔で話を続ける。
「実はね、鋼鉄の区の支配者”スチル”と敷物の区の支配者”ラグー”が支援してくれることになったのよ」
フィリスの話を信じられなかった。だって争ったのは昨日の今日だぞ。恨みやおれたちがいないことを理由に裏切るに違いない。
「こいつらが協力なんてするわけないだろ!何考えてるんだフィリス」
するとスチルがのそのそと前に出てきた。スチルはボコボコにされたせいで頭中包帯でグルグル巻きになっている。おれはその姿に笑いそうになったがグッと堪えて話を聞くことにした。
「いやあ、俺様たちがフィリスさんを裏切るわけないじゃないですかあ!小さい子たちに聞きましたよお。そこのガキッ……じゃ~なくてディールさんよりも何千倍も強いらしいじゃないですかあ。ディールさんに敵わなかったのにそれよりも恐ろしくて強いフィリスさんに反抗なんてしませんよお。それに”支援”じゃなくてどちらかというとフィリスさんの”傘下”みたいなもんですよ。だからこれからはフィリスさんが俺様達の親分という訳です」
後ろのラグーも物凄い速さで首を縦に振っていた。よっぽどあの戦いと子供を𠮟りつける時のフィリスの怖さを吹き込まれてトラウマになったんだろう。
おれはちょっとだけ不安だったけどたくましいフィリスや仲間たちの姿を見たらそんな不安も吹き飛んでいった。おれはスチルの身体を叩きながら笑って話す。
「ハッハッハ!くれぐれもフィリスを怒らせるなよ。お前の鉄板鎧なんか一撃で粉々になっちまうから気をつけろよ!」
おれが冗談で言うとスチルには通じなかったらしくビクビクと震えだして許してくれーと言いながら土下座した。
「じゃあ、フィリス。皆の事を頼んだぞ!」
「ええ、任せておいて。あなたは自分のしたいことをしてきなさいよ」
おれとレイは皆に背を向けてロオの外へと歩き始めると後ろから妖精の区の皆の声が聞こえてきた。
「ディールの兄ちゃーん!レイの兄ちゃーん!元気でねー」
「おケガしないでね。それと、ディールの兄ちゃんはレイの兄ちゃんの言うことをよく聞いてねー」
「うぅ……さびしいよぉ」
「おい、泣かないって言ったじゃんか。笑って見送らないと……」
皆の元気な応援の陰に隠れてすすり泣くような声も聞こえてくる。おれは振り向いて皆に呼びかける。
「お前ら――!おれたちはお前らが毎日冒険の話を聞きたがるもんだからちょっとだけ旅に行って来るだけだぞ。土産話をたくさん持って必ず帰ってくるからおれたちの”家”を守って待っていてくれよ――!」
おれが話し終えると無理やり笑顔を作っていた子供たちの目から溜め込まれた涙が一斉にあふれ出した。その様子を見ながらスチルまで泣いていやがる。
「お前ら……泣かないんじゃなかったのかよ……」
ふと横を見るとレイも大泣きだった。
「レイは何か言っとくことないのか?」
「僕はもう十分に伝えたから大丈夫だよ」
「じゃあ……出発するか!お前らーフィリスを怒らせるなよー!」
おれは皆に向かって大きく手を振る。
「「わかったー‼」」
再び皆に背を向けて出発すると皆の泣く声が背中に突き刺さる。おれは外まで耐えられずに下を向いて思い切り泣いてしまった。おれの瞳から大粒の涙が流れ落ちていくのが分かる。妖精の区の子供たちはおれにとって……血もつながってないし境遇や素性なんて知らないけど、いつの間にか大切な”家族”だったんだ。
どれだけ手で涙を拭っても顔は濡れてしまう。おれは心の中で必ずまた帰ると誓った。
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