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第二章 魔法の衆と禁じられた書
第十九話 髪のみぞ知る世界
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ネクロベートの件から数日後、おれたちは変わらず仙郷の大図書館を目指して南下していた。湿原地帯を歩いていると何やら地面がガタガタと鳴動し始める。膝を地面についてから状況を確認する。
「何だこれ、何で地面が揺れてるんだよ」
「もしかして地震かな。それともどこかで巨人が暴れてるとか」
レイはありとあらゆる原因を想像したがどれも正解ではなかった。エルが原因を見つけて指を指す。
「この揺れの正体はあれね」
指さす方を見てみるとぼんやりだが何やら黒色の物体が近づいてくるのが分かった。それが近づく度に揺れも強くなっていくのが分かる。
「あれは”ホラ牛”よ!この時期になると群れで北上する動物ね」
「ホラ牛って何だ?普通の牛と違うのか」
おれが聞こうとしたらレイがおれの服を引っ張りながら声を震わせて喋り始める。
「そんなことよりもさ……その牛ここを通るんじゃない?」
確かにレイの言う通りホラ牛はおれたちの真正面にいる気がする。おれたちは急いでホラ牛の予想進路から外れるために一直線に走って逃げた。かなりの距離を走ったせいで息があがっていたが、おれはもう一度エルに話を聞く。
「さっき聞きそびれたけど、何でホラ牛っていう名前なんだ」
「そんなのは見ていれば分かるわよ」
地面が割れんばかりに揺れているが揺らしている張本人ならぬ張本牛たちは構わず突進している。ハッキリと確認できる距離まで近づいてきたときにようやくエルの言いたいことが分かった。ホラ牛は絶え間なくけたたましい鳴き声をあげながらおれたちを横切っていく。
「ウソオォオォオォォオッ~~~~‼」
ホラ牛たちが過ぎ去ってしばらくの間おれたちは呆然としていた。おれは少しだけモノマネを入れながらレイに聞く。
「なあレイ、普通の牛はモォ~~って鳴くよな」
「僕の聞き間違いじゃなければさっきの牛たちは嘘ぉお~~って鳴いてたよ」
「だから言ったじゃない、見ていれば分かるって」
おれとレイはあまりにもありえない状況に顔を見合わせてから噴き出してしばらく笑いあっていた。おれは地面をバンバンと叩きながら、レイは腹を抱えながら笑っていた。
「アッハッハッハ!ディール、あんな生物はサンアスリム地方じゃ見たことないよ」
「ハハハ、そうだな。それに見たかよ、あのいかにも間抜けそうなツラしてるのにそのうえで嘘ぉお~~だってよ」
いつまでも笑っているおれたちを呆れた表情でエルは見ていた。
「全く……あなた達って本当に愉快ね」
「エル、ホラ牛みたいのが他にもいるのか?」
「当然いるわよ、例えばバルーン羊とか泡鶏とか、あとはその他諸々って感じね」
ここら辺一帯は魔物が出ないから移動が楽だった。おれは休憩中に剣を磨いていたがおれがあの森で手に入れた時から愛用していた剣は最初は身の丈に合わない大きさで振るうのにも苦労したが今では自分の身体というか手によく馴染んでいた。しかし、ここまでの連戦とまともにメンテナンスをしていなかったのが祟って剣の先は丸くなり刃は随分と刃こぼれしていた。
「お前には無理ばっかりさせちゃったな。必ず腕のいい職人に直してもらうからそれまで踏ん張ってくれ」
おれはボソッとそう呟く。剣を磨き終えるとエルが出発するために呼びに来た。
「そろそろ出発するわよ。地図によると仙郷の大図書館まであと少しね」
「なあ、エルはサンアスリムの国の事って知ってるのか?」
「そんなの私が知るわけないじゃない。クレッセントベルトがあるせいであっち側の情報は滅多に入ってこないんだから」
おれはエルの一言を聞き逃さなかった。
「”滅多”になのは少なくともおれたちみたいな外からの来訪者がいるからだよな」
「そうね、怖いもの見たさや好奇心でこっち側に来た人が稀に来るぐらいよ」
「最後に来たのっていつか分かるか?」
「そういえば普通は数十年間隔で来訪者が来るけど、直近なら3年ぐらい前に鎧を着たのが数人来てたかしら」
3年前……おれが命を狙われるようになった時期、それに鎧の騎士たち。偶然というにはあまりにも材料が揃いすぎている。
「そいつらは何のようで来てたんだ?」
「確か……二人組の人間の子供を探しているとかなんとか言ってた気がするけど。やけに細かく聞いてくるわね」
「いや、特に重要ってわけじゃないんだけど。気になったから聞いてみただけだ」
なんでおれの周りには常にカミオン帝国がまとわりついているんだ?会話を終えたおれたちはそれぞれ荷物を持って再び歩き出した。
「ところでさエル、仙郷の大図書館はどんな場所にあるんだい?」
「私がネウィロス様に聞いた時は山の中にひっそりと建っていて秘境のような場所にあると言われたわ」
湿原地帯を抜けておれたちは鬱蒼とした山の中に踏み込んでいった。なんだかジメジメしていて気持ち悪い。しばらく歩き続けているとエルが大きい声をあげた。
「もう嫌!なんでここはこんなに湿度が高いのかしら。そのせいで髪がベタつくじゃない!」
エルが文句を言うもんだからおれは聞かれないようにレイに小声で突っ込んだ。
「誰も見てないんだから気にすることなんかないだろ」
「エルフは繊細だから気になるんだよ、きっと」
「あなた達……何か言ったかしら?」
エルが近くの木の枝をへし折ってから睨むようにこちらを振り返ったのでおれたちは一緒に首を物凄い速さで横に振った。危うくエルの魔法で吹き飛ばされるところだった。ホッと胸をなでおろしているとエルがこちらにズカズカと近づくなりレイの髪に触れた。
「なっ……⁈何でレイの髪はこんな環境下でもサラサラなのよ!」
おれはすかさず答える。
「そりゃあ、レイだからに決まってるだろ!レイの髪は最強なんだよ」
「ディールには聞いてないわよ。それに髪が最強って何よ」
レイは少しだけ照れながら答える。
「僕の場合は生まれつきだからよく分からないんだよね……」
レイの回答を聞いてエルは驚愕していた。それからしばらく肩を落としながら進んでいた。しかし、突如元気になったかと思うと再び大きな声を出して高らかに宣言した。
「絶対に仙郷の大図書館に行ったら湿気を抑える魔法を覚えてやるわ!」
エルは天に向かって右手を突き上げた。おれたちにはもう突っ込む元気も残っていなかったので出来るだけ体力を使わないように彼女に拍手を送った。角度がきついわけではないが流石に何時間も山道を歩いていると疲れる。
「なあー本当にこっちで合ってるのかー?」
「合ってるかは知らないわよ」
「じゃあどこに向かってるんだよ」
「取りあえず登っていけばいつかは辿り着くはずよ。だってしょうがないじゃない、仙郷の大図書館は普通は地図になんて載ってないんだから」
おれとエルの会話を聞いていたレイが手に持っていた地図をおれに渡してきた。
「これがネウィロスさんの書いた地図なんだけどさ、見てよ」
そう言って地図を見せられたおれはびっくりした。これは地図というよりも落書きだ。どうやったらこんなミミズが輪になったみたいな地図が書けるんだ?地図には『ココ!』と書かれた部分から矢印が伸びており仙郷の大図書館があるであろう場所に丸の印がつけられていた。
本当に辿り着けるのかという不安を抱えながらもおれは必死に山を登っていった。途中で川の流れるような音が聞こえてきた。おれたちは自然と歩くのが早くなった。川がある場所に出るとそこには……今にも崩れ落ちそうな橋と老人が立っていた。
「何だこれ、何で地面が揺れてるんだよ」
「もしかして地震かな。それともどこかで巨人が暴れてるとか」
レイはありとあらゆる原因を想像したがどれも正解ではなかった。エルが原因を見つけて指を指す。
「この揺れの正体はあれね」
指さす方を見てみるとぼんやりだが何やら黒色の物体が近づいてくるのが分かった。それが近づく度に揺れも強くなっていくのが分かる。
「あれは”ホラ牛”よ!この時期になると群れで北上する動物ね」
「ホラ牛って何だ?普通の牛と違うのか」
おれが聞こうとしたらレイがおれの服を引っ張りながら声を震わせて喋り始める。
「そんなことよりもさ……その牛ここを通るんじゃない?」
確かにレイの言う通りホラ牛はおれたちの真正面にいる気がする。おれたちは急いでホラ牛の予想進路から外れるために一直線に走って逃げた。かなりの距離を走ったせいで息があがっていたが、おれはもう一度エルに話を聞く。
「さっき聞きそびれたけど、何でホラ牛っていう名前なんだ」
「そんなのは見ていれば分かるわよ」
地面が割れんばかりに揺れているが揺らしている張本人ならぬ張本牛たちは構わず突進している。ハッキリと確認できる距離まで近づいてきたときにようやくエルの言いたいことが分かった。ホラ牛は絶え間なくけたたましい鳴き声をあげながらおれたちを横切っていく。
「ウソオォオォオォォオッ~~~~‼」
ホラ牛たちが過ぎ去ってしばらくの間おれたちは呆然としていた。おれは少しだけモノマネを入れながらレイに聞く。
「なあレイ、普通の牛はモォ~~って鳴くよな」
「僕の聞き間違いじゃなければさっきの牛たちは嘘ぉお~~って鳴いてたよ」
「だから言ったじゃない、見ていれば分かるって」
おれとレイはあまりにもありえない状況に顔を見合わせてから噴き出してしばらく笑いあっていた。おれは地面をバンバンと叩きながら、レイは腹を抱えながら笑っていた。
「アッハッハッハ!ディール、あんな生物はサンアスリム地方じゃ見たことないよ」
「ハハハ、そうだな。それに見たかよ、あのいかにも間抜けそうなツラしてるのにそのうえで嘘ぉお~~だってよ」
いつまでも笑っているおれたちを呆れた表情でエルは見ていた。
「全く……あなた達って本当に愉快ね」
「エル、ホラ牛みたいのが他にもいるのか?」
「当然いるわよ、例えばバルーン羊とか泡鶏とか、あとはその他諸々って感じね」
ここら辺一帯は魔物が出ないから移動が楽だった。おれは休憩中に剣を磨いていたがおれがあの森で手に入れた時から愛用していた剣は最初は身の丈に合わない大きさで振るうのにも苦労したが今では自分の身体というか手によく馴染んでいた。しかし、ここまでの連戦とまともにメンテナンスをしていなかったのが祟って剣の先は丸くなり刃は随分と刃こぼれしていた。
「お前には無理ばっかりさせちゃったな。必ず腕のいい職人に直してもらうからそれまで踏ん張ってくれ」
おれはボソッとそう呟く。剣を磨き終えるとエルが出発するために呼びに来た。
「そろそろ出発するわよ。地図によると仙郷の大図書館まであと少しね」
「なあ、エルはサンアスリムの国の事って知ってるのか?」
「そんなの私が知るわけないじゃない。クレッセントベルトがあるせいであっち側の情報は滅多に入ってこないんだから」
おれはエルの一言を聞き逃さなかった。
「”滅多”になのは少なくともおれたちみたいな外からの来訪者がいるからだよな」
「そうね、怖いもの見たさや好奇心でこっち側に来た人が稀に来るぐらいよ」
「最後に来たのっていつか分かるか?」
「そういえば普通は数十年間隔で来訪者が来るけど、直近なら3年ぐらい前に鎧を着たのが数人来てたかしら」
3年前……おれが命を狙われるようになった時期、それに鎧の騎士たち。偶然というにはあまりにも材料が揃いすぎている。
「そいつらは何のようで来てたんだ?」
「確か……二人組の人間の子供を探しているとかなんとか言ってた気がするけど。やけに細かく聞いてくるわね」
「いや、特に重要ってわけじゃないんだけど。気になったから聞いてみただけだ」
なんでおれの周りには常にカミオン帝国がまとわりついているんだ?会話を終えたおれたちはそれぞれ荷物を持って再び歩き出した。
「ところでさエル、仙郷の大図書館はどんな場所にあるんだい?」
「私がネウィロス様に聞いた時は山の中にひっそりと建っていて秘境のような場所にあると言われたわ」
湿原地帯を抜けておれたちは鬱蒼とした山の中に踏み込んでいった。なんだかジメジメしていて気持ち悪い。しばらく歩き続けているとエルが大きい声をあげた。
「もう嫌!なんでここはこんなに湿度が高いのかしら。そのせいで髪がベタつくじゃない!」
エルが文句を言うもんだからおれは聞かれないようにレイに小声で突っ込んだ。
「誰も見てないんだから気にすることなんかないだろ」
「エルフは繊細だから気になるんだよ、きっと」
「あなた達……何か言ったかしら?」
エルが近くの木の枝をへし折ってから睨むようにこちらを振り返ったのでおれたちは一緒に首を物凄い速さで横に振った。危うくエルの魔法で吹き飛ばされるところだった。ホッと胸をなでおろしているとエルがこちらにズカズカと近づくなりレイの髪に触れた。
「なっ……⁈何でレイの髪はこんな環境下でもサラサラなのよ!」
おれはすかさず答える。
「そりゃあ、レイだからに決まってるだろ!レイの髪は最強なんだよ」
「ディールには聞いてないわよ。それに髪が最強って何よ」
レイは少しだけ照れながら答える。
「僕の場合は生まれつきだからよく分からないんだよね……」
レイの回答を聞いてエルは驚愕していた。それからしばらく肩を落としながら進んでいた。しかし、突如元気になったかと思うと再び大きな声を出して高らかに宣言した。
「絶対に仙郷の大図書館に行ったら湿気を抑える魔法を覚えてやるわ!」
エルは天に向かって右手を突き上げた。おれたちにはもう突っ込む元気も残っていなかったので出来るだけ体力を使わないように彼女に拍手を送った。角度がきついわけではないが流石に何時間も山道を歩いていると疲れる。
「なあー本当にこっちで合ってるのかー?」
「合ってるかは知らないわよ」
「じゃあどこに向かってるんだよ」
「取りあえず登っていけばいつかは辿り着くはずよ。だってしょうがないじゃない、仙郷の大図書館は普通は地図になんて載ってないんだから」
おれとエルの会話を聞いていたレイが手に持っていた地図をおれに渡してきた。
「これがネウィロスさんの書いた地図なんだけどさ、見てよ」
そう言って地図を見せられたおれはびっくりした。これは地図というよりも落書きだ。どうやったらこんなミミズが輪になったみたいな地図が書けるんだ?地図には『ココ!』と書かれた部分から矢印が伸びており仙郷の大図書館があるであろう場所に丸の印がつけられていた。
本当に辿り着けるのかという不安を抱えながらもおれは必死に山を登っていった。途中で川の流れるような音が聞こえてきた。おれたちは自然と歩くのが早くなった。川がある場所に出るとそこには……今にも崩れ落ちそうな橋と老人が立っていた。
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