異世界プロレス

プロレス普及編

エピローグ

カズマはタイトル戦を終えて一人ロッカールームに座っていた。
　あの後カズマは元いた世界に帰ることができた。それもタイトル戦の入場直前に。体力は回復していたがボルガンとの連戦にカズマは精神的に疲れていた。
　あの後直ぐに試合が始まった為思い返すことができなかったがカズマは異世界に居たことを思い出す。まるで夢を見ていたかのようだった。カズマが向こうに居た証明は何もない。ただその筋肉が数々の激闘を記憶していた。
「カズマさん記者会見の時間です」
　扉の向こうから中央日本プロレスのスタッフの声がした。
「今行きます」
　カズマは返事をして立ち上がった。タオルで汗を拭き肩にチャンピオンベルト担ぎカズマはドアノブを回した。
　扉を開け通路に出るとそこはドームの通路ではなく石造り長い暗い通路であった。
　後ろを振り返ると扉もロッカールームもなく暗闇があった。
　カズマは一つ大きく息をして。通路を歩き始めた。
「またか、あの世界に戻るのか？それともまた別の異世界か？」
　カズマはゆっくり歩いて行く。三回目となると慣れたものだ。通路の先に光を見つけた。今度もそこに向かって歩いていく。その足取りは堂々としたものだ。
　通路から出るとカズマが過ごした牢屋に出た。牢屋と言っても鉄格子はなく机に椅子が置かれ清潔感がある。少し見ない間に随分環境が良くなったようだった。少しとはつまり一試合分だ。キョロキョロ牢屋だった部屋を眺めていると後ろから声が出て聞こえた。
「旦那！もしかして旦那ですか！」
　振り返るとグルニエが箒を待って立っていた。
「グルニエこれはどういうことだ？」
　カズマはグルニエに質問したがグルニエは答えなかった。
「どいうことだはこっちの台詞ですぜ旦那！」
　グルニエが言うにはカズマは試合の後忽然と姿を消して行方不明になっていたそうだ。そして姿を消した期間は季節が二回りするぐらいと。こちらの一年が向こうの一年と同じ長さかは分からないがこちらの世界の換算で二年間カズマは姿を消していた。
　カズマにとっては一試合だけ元の世界に帰っただけだがこちらでは随分と経っていた。
「それでグルニエ、お前はなんで闘技場にいるんだ？」
「あっしは旦那と違ってまだ犯罪奴隷です。でも闘技場で魔獣との殺し合いが廃止されてなんとか生き延びることが出来やした。今は犯罪奴隷として闘技場に勤めておりやす」
　グルニエの身の危険が無くなりカズマはホッとした。
「旦那こそなんでいるんですか？元いた世界に戻ったんじゃ？」
　確かにそうだった。カズマは闘技場の殺し合いを止めさせてプロレスを教えた。おそらくそれで役目が終わったから帰ることができたのであろう。
「グルニエ、なにか闘技場で問題は起きてないか？」
　カズマはグルニエに質問した。グルニエは悩んだ。
「問題はないです。殺し合いも無くなってモルダーも捕まって」
　グルニエの答えにカズマも頭を悩ませた。何かここに来た理由があるはずだった。
　グルニエ何か思いつき自信無さそうに言った。
「もしかしたらアレでしょうか」
　グルニエが小窓を指で指す。その小窓は舞台が見えグルニエがいつも応援していた小窓だ。
　小窓からカズマとグルニエが舞台を覗いた。観客席に客はいるがどうも盛り上がっていない。そして舞台で素手で戦っている二人はプロレスのようなものをしていた。
「どうもあんな調子で旦那が戦ってた頃とどうも様子が違げえのです」
　カズマは理解した。この世界にプロレスを教えたがまだプロレスとは何かを完全に理解していなかったのだ。彼らはプロレスのような何かをしているだけだった。
　カズマのこの世界の役割が分かった。
「あいつらに本物のプロレスを教えよう」
　カズマはニヤリと笑った。