俊哉君は無自覚美人。

文月

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1.特別な乙女だからいいってわけでもない。(リリアンの場合)

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 特別な乙女の面接の補助。
 これが僕に任されたお仕事です。
 朝、クラシルさんが騎士団に行くときに遠回りして秘宝館に送ってもらって、迎えにきてくれたクラシルさんと一緒に帰る。
 まるで子供みたいでちょっと恥ずかしい。
 だけど、クラシルさんがその方が安心するって言うから、まあいいかなあって。
 
 秘宝館での僕の一日は花壇のお花のお世話と掃除から始まる。
 クラシルさんの出勤時間に合わせるから、実はかなり早いんだ。
 時計(日時計っていうの? そういうやつなんだ)の見方が良く分からないから正確な時間は分からないんだけど、開店時間まで結構時間がある。
 面接はお店が開店した後に行われる。面接に来た子に「お店はこういうところ」って見てもらうため、ならしい。
 クラシルさんは「その間も部屋でじっとしてて」って、暇つぶしにいいような本を沢山用意してくれたんだけど、日が高い時間からぼ~とするのは僕の性に合わない。ってか‥なんか、手持ち沙汰になるのって嫌じゃない? 
 で、ちょっと(こそっと)庭に出たら花壇があったから、そこに花を植えたり、お店の掃除なんかをし始めたんだ。勿論、誰にも会わない様に、だ。
 ここの掃除は、お掃除の人も勿論来るんだけど、その人たちはフロアとか玄関といった「お客様が使われるへや」を掃除するだけなんだ。花姫やなんかのお店の子と一般の人(お掃除の人も含む)が顔を合わせない為なんだって。(だから、お店の子たちの部屋は手が空いた人がすることになってるらしいんだけど、なかなか忙しくって手が回ってないみたい)
 ‥クラシルさんの弟の件もあるからかな? 
 でも、前みたいに「無理やり連れてこられた」わけじゃなくって、本人が希望して入った子たちだから、一般の人の方がいい‥って風にはならないんじゃないのかな?? ‥そこは、でもよくわからない。
 ここの人たちのこと、まだあんまりよく分からない。

 で、そんな僕は‥今、クラシルさんに凄く怒られそうな事態に陥っています。
 お店の子に見つかってしまいました!!
 その子は、驚く様子も見せず、目をキラキラさせて
「可愛い! 」
 そういって、僕の頭をポンポンした。
 小さいって揶揄ってるのかもしれないけど‥多分、10㎝も変わらないと思うよ?!
「ほっぺぷにぷに! お肌すべすべ! 」
 って、ローブから出てる部分‥目よりも下の部分を撫ぜ回す。
 わ~やめて!!
 僕が逃げると、クスクス笑って
「あなたも花姫だったの? いつも迎えに来てくれる人って旦那様? カッコイイね! 私もカッコイイ彼氏をゲットして、結婚するぞ~! 」
 って言った。
 ‥クラシルさんのこと見られてたのか‥。この子も「子供みたい、過保護だな」って思ったかな?? 
 恥ずかしい!  
 ‥そうだよね。この子は一人でここに来て、一人で帰ってるんだもんね‥。
「? 」
 黙り込んだ僕に、その子は、ちょこんと小さく首を傾げた。

 この‥さっきから僕にマシンガンの様に話し続けている子は、僕が別の部屋で確認して‥新しく入った新人さんだ。(この子は、そのことは知らない。きっと、僕のことは掃除とかする雑用係だって思っただろう)
 僕と同じ年の18歳らしい彼女は、だけど、7人きょうだいの2番目らしく、凄くしっかりしてる。きっと、幼いきょうだいのお世話をして来たから自然としっかりしてきたんだろう。
 お肌なんかは年相応にぴちぴちしてるし、決して老けているってわけじゃないけど、地球の標準的な18歳なんかよりずっとしっかりしている。
 ここでは、18歳はもう成人してて、大半の人は25歳くらいまでに結婚するのが普通だからかな? 
 昔の日本みたいに、人生50年‥じゃないけど、寿命が短いのかな? って思ったら、そうでもないみたい。
 この子も7人きょうだいだったけど‥ここでは子供が多い家が殆どなんだって。
「その分、‥死ぬ人も多いよ。食べられなかったら死ぬしかないし。魔獣に殺されることだってある」
 って彼女は何でもない様に言った。
 ‥いるんだ。魔獣。
 クラシルさん‥ホントに、無事でいてください。
 一瞬クラシルさんが心配で暗い顔した僕に
「大丈夫よ~。あの方、騎士団長なんでしょ? 強いんでしょ? ‥それにね、ここ何十年も魔獣なんて見てないらしいわよ」
 ってその子は笑った。
 まるでひまわりみたいに明るい笑顔。日焼けした肌が眩しい。
 青色の瞳と、地球では珍しい明るい赤い髪の毛。身長は僕より少し大きい170㎝くらい? だけどここでは小柄な方ならしい(小さい子の平均が170㎝くらいだ)。くりっとした魅力的な目は、だけど、この世界的には「イマイチ」らしい。色の問題とかなのかな? だけど、鼻が小さくて口が小さくて、全体的にあっさりしてて、目が大きいのを含めても、「なかなか美人の類」らしい。‥なんなんだ。何が良くて何が悪いんか分からないな。
 この世界の基準では‥なんてわかんないけど、僕からしたら、明るくって可愛い‥魅力的な子だ。
 笑顔が可愛いし、声のトーンも柔らかで耳につかない。話してたら、(ちょっと疲れる時もあるけど)楽しいし、きっとすぐにこの子のことを大好きになる人でいっぱいになるだろう。
 僕がそんなことを思いながら掃除していると
「ね、私たち友達にならない? 」
 その子が僕をじっと見ながら言った。
「え?? 」
 僕が振り向くと
「ダメ? 」
 首を傾げたその子と目が合った。
 上目遣いで、窺うようなその顔は‥ズルいと思う。断りにくいよ! 
「‥い、いいけど‥」
 僕が小声で承諾すると、その子はぱっと表情を明るくさせた。
 ほんと、ズルいよね! 女の子ってホントズルいよね! いざとなったら男よりずっと強いのに、可愛く弱い振りとかされちゃうと男は馬鹿だからころっといっちゃう。「仕方ないな」ってなっちゃう。‥ホント、ズルいよね! 
「じゃ、決まり! 私はリリアンローザ。リリアンって呼んで! あなたは? 」
「俊哉」
 言って、はっとした。‥いっていいのかな。僕、ここに戸籍とかないぞ? 「そんな人‥この世界中探してもいないけど‥」ってことになったらどうしよう?
 だけど、リリアンは明るく微笑んで
「俊哉。外国の響きね。俊哉はここの人じゃなかったんだね! 外国から来たの? 」
 って言っただけ。
「うん」
 僕は適当に胡麻化して、仕事時間が始まるまであと30分程あるけど‥僕の定位置に戻った。
 ‥怒涛のような人だったな。
 クラシルさんを差別したりなんてしない。それどころか、カッコイイ人って言ってた。「特別な乙女」としての素質は間違いない。だけど‥王子様のお嫁さん候補って自信もって勧められるかって言われると‥何とも。
 ‥だけど、それを決めるのは僕じゃない。会って話してみたら案外気が合うとか‥あるかもしれない。
 仲介人の人とかだったら(仲介人っていうのかな。結婚コーデネーターさん的な役割の人)「‥似たような性格の人との方が‥」とかいうのかな? それでいったら、活発なリリアンと穏やかな王子様は全然違う雰囲気だ。
「‥なんにしろ、それは僕の仕事じゃない」
 僕は一度口に出して呟いて、ため息をついた。

 性格が合う方が一緒に居る時、楽。
 ‥それは、でも確かにそうなのかも。
 リリアンはすぐベルクさんと仲良くなった。
 あの‥リアルこけし顔(この国版)だけど、陽気でお喋りなクラシルさんの部下だ。騎士団所属だけあって、身体は大きい。‥だから、この世界的には、あんまりって感じの扱いの人。
 (クラシルさんが「かっこいい」って言うリリアンにとって)リアルこけし顔はどうなのかな? って思って聞いたら
「顔はあんまり好みじゃないんだけど、凄く話が合うんだ♪ きっと、身体が大きいから両親もきょうだいたちも怖がるって思うけど、だけど、私はあの人が好き。‥結婚出来たらいいなって思ってる」
 って言った。
 その時のリリアンの表情は恋する乙女の様だった。
 僕が前にいることを思い出したんだろう。リリアンはちょっと頬を染めて「ごめんごめん」って胡麻化した。
 でも、その後リリアンは小さく苦笑いして‥いつもの彼女とは違う落ち着いた口調で
「‥いままで毎日何とか暮らすことで精一杯だった。下の‥幼いきょうだいの世話もあったし、家のことも手伝わなくちゃいけなかった。
 結婚生活に夢や希望なんて‥そういえば今まで持ったこともなかった。
 好みでもない誰かと、何となく結婚して、何となく子供産んで‥そうなるんだろうなって‥普通に考えてた。
 でもね。
 何で? ってある日思っちゃったんだよね。
 私の人生それでいいの? って」
 ポツリポツリと話し始めた。
「‥自分だけじゃないんだよ。自分だけ可哀そうとかじゃない‥。貧乏なのはわが家だけかもしれないけど‥、幼馴染の家は金持ちだから政略結婚って言うの? そういう‥家同士の繋がりで結婚相手が決まってた。そこに、私の意思はない。‥皆そうだ。それに、悲しそうに暮らしてたら‥カッコ悪い。弟たちにそんな姿見せたくない。‥人生に絶望して欲しくない。そう思って明るく振る舞って来た」
 そう語るリリアンを見ていると、人は生まれつきの容姿だけじゃなく、生れた環境によっても生き方を制限されるって気付かされた。
 恋愛さえも諦めてしまう位の生活。
 そういえば、今まで僕に‥そういう心配はなかった。
 リリアンは「ゴメン、湿っぽい話しちゃった」って苦笑いすると、無理して明るい口調で
「だから、ここに来たとき玉の輿狙いだったってのも‥確かなんだ。だって、優先順位からいってより政府にとって有用な人の方が先に結婚させたいわけじゃない? ってことは‥偉い人で‥金持ちってことだよね? それに顔も好みとか‥もう、最高じゃない? 」
 って言った。
 無理して「強がって」そういう風に言ったんだろうってことバレバレの口調。
 だけど、‥嘘でもないんだろう。
「でも‥好みは‥大きかったかも。物心ついた時には自分の趣味嗜好が周りとどうやら違うらしいって分かってたからなあ。あっさりのっぺりした顔の「どこがカッコイイの?? 」って思ってた。金持ちの幼馴染の弟が丁度そんな顔でさ「リリア姉ちゃん! 大きくなったら結婚して! 」って言われた時にはゾッとしたわ~。他の友達から「いいな~リリア! ノーチェ(幼馴染の弟の名前)絶対カッコよくなるよ! 」って言われたけど、タイプちゃうわ~って思ってたから。
 一生見ていくなら、見てられる顔の方が! って‥それは思ったな。
 だから、ここが一般募集した時はもう、テンション上がった。両親に言ったら「水商売じゃないの? 」ってやっぱり反対された。「ノーチェさんが結婚してくれるかもしれないでしょ? 」って言われた。‥それ聞いた時は、この人たちが心配してるのは娘の私の貞操とか‥そういうことじゃなくて、ノーチェと結婚って可能性がゼロになることだって‥その時分かった。経済格差とかの問題で‥ノーチェと結婚なんかできっこないだろうし、そもそも私はノーチェと結婚なんてしたくないのにさ! そんなことお構いなしなんだよね」
 最後は愚痴になっていた。
 俯いたリリアンは目を一度強く閉じると、目をかっと見開いて顔を上げ、
「私さ。あの両親の思い通りになんて生きない。絶対ここで自分で相手を探して、幸せになるんだ! 」
 僕にそう言い切った。
 僕は頷いて「そうだね」って同意するだけ。


 王子様が王妃様に求めるのは、自分を愛してくれること。
 その為には、王子様の顔を見ただけで逃げ出す人は問題外。
 ‥だけど、それは王子様にとって一番の条件じゃないらしい。
「何よりも、この国の皆を愛してくれる人でないといけない。自分よりも、勿論僕より、この国が大事‥そんな人。
 僕が王様になったら国を治めていくんだけど、その隣で一緒に「よりよい国」になるように考えてくれる人じゃないといけない」
 そう言ってた。
 王妃様になる資格。平民だから、貴族だから、お金があるから‥そういうことじゃない‥って王子様は言ってたけど、‥育ちでそういうのが無理ってこともあるらしい。
 その日の暮らしに精一杯。望むのは、自分と家族のささやかな幸せ‥。
 悪いことじゃない。だけど‥国母としてはそれではダメなんだろう。

「王子様のお相手探しは、思った以上に難しそう」

 ため息をついた僕だった。
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