Happynation番外編。

文月

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解放条件。カツラギ ⑤

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 多分この「試練(笑) 」から解放される、解放条件ってのはあるんだと思う。
 それを、私は「私の反省する姿」だと思ったが、どうやら違うらしい。
「お~い。帰るぞ? 」
 ショックを受けてその場に立ち尽くす私にひょろ眼鏡が不審そうな顔で話しかけて来た。
 ‥お前、まだいたのか。
 てか、帰るって?
「え? 何処に? 」
 恐る恐る聞くと、ひょろ眼鏡が眉を寄せる。
 思いっきり不機嫌そうな顔‥。
「何処にってお前‥この工事の間住む家だろうが。今朝、親方から朝説明があっただろ? 」
 ‥知らないですけど? 
 それにしても、こいつさっきから馴れ馴れしいし、偉そうだなあ。一体何様のつもりなんだ。
 ‥ああ、先輩様か。親方公認の。そりゃ偉いわな。
「はあ‥」
 きょとんとしていたら、思いっきりため息つかれた。
 ‥ため息つきたいの、私ですけど。
 ホント、サカマキとアララキ後で覚えてろ。私に対する嫌がらせによそ様を巻き込むんじゃない‥。
「兎に角。ぼうっとするなよ。改めて言うぞ。今日から現場が終わるまでは、ここが借りてくれてるアパートに泊まるの。じゃあ帰るぞ」
 脱いだ作業着なんかを詰めたカバンを手に立ち上がり、私の方を振り向く。手には鍵と財布。鍵は、ここの更衣室の鍵の様だ。
「親方たちは? 」 
「それも聞いてなかったのか‥。先にアパートに戻って風呂だけ入って飲みに行くって言ってただろ? で、俺たちは飲まないから着替えてから帰るって」
 ‥そうだっけ。ってか、そういう「設定」ってことか。
 階段を降りようとすると身体がみしり、と鳴った。
 ‥ホントに肉体労働無理。ひょろ眼鏡、顔は貧相だけど何気に筋肉あったな(着替えてるとき見た)‥日頃の成果って奴か。
「隣にコンビにあったから、晩飯買って帰ろう」
 一歩前を歩くひょろ眼鏡と、狭い階段をカンカンいわしながら降りる。
 鉄‥だろうか? の階段。1階が事務所で2階が更衣室になっている2階建てのプレハブ。よくある工事現場の仮設事務所だ。
 でもまあ‥こういう建物も、こんなことでもなかったら入ることもなかった。いい経験させてもらってる‥と思おう。
 ‥にしても、今は目先の‥
「‥お金」
 ダメもとでズボンのポケットをあさってみた。
 お、ポケットに500円玉はいってた。アララキはこっちの貨幣なんて持ってないだろうから、サカマキか? ‥え、今時500円で何が出来るんだ、サカマキ。
「どうした? 」
「‥はあ。‥はい、分かった‥分かりました」
 チャリン。
 何? 今度は100円? さっきまで無かったけど‥、湧いて出て来た? もしかして‥対価的な? え? 何に対しての対価? ‥敬語? まさか‥
「‥教えてくれてありがとうございます」
 チャリン。
 また100円。
 やっぱり‥! サカマキの奴‥ポイント制か‥! しかも、‥敬語をしゃべったらって‥。違うんだろうな、「先輩やなんかを敬う態度を取ったら‥」ってことだろうな。あいつが好きそうなwordだ。五徳ってか。仁・義・礼・智・信。イマドキか!? 古臭いな!!
 ‥言いたいことはあるが、ここは小銭を稼いでおこう‥。
 って何をしゃべろう。
「大卒なんですね。何処ですか? 」
 すん‥
 あ、ひょろ眼鏡の機嫌が急降下した。
「どうでも良くない? 」
 おわ、なんかヨクワカンナイケド、ゴールが遠くなった気がした。
 これはもしかして‥好感度!?
 ‥アララキだな。
 好感度を上げて、元の場所に帰ろう☆ってことか!?
 くそ、‥! あの、年中頭お花畑野郎め!!
 男なんかの好感度なんてどうやって上げろっていうんだ!!


 コンビニでおにぎり二つとお茶を買った私は、今、ボロイアパートでひょろ眼鏡と同室で雑魚寝している。
 違うな。アパートじゃない。下宿屋? 民宿? 何て言うかわかんないんだけど、二階建ての鉄筋のぼろい外装の建物で、1階は風呂(共同らしい。入る前に管理人に聞いて入るようになっている様だ。いつでもってわけでもなくて、夕方6時から8時までとかいてある。女性は困るんじゃないか? って思ったが、今は女性の宿泊客はいない様だ。っていうか、こんなぼろ宿女性は泊まらないと思う。今は、私たちしか泊っていないが、夏休みなんかは登山をする男子学生が泊ると、管理人の妻である人の好さそうなご婦人が言ってた。
 さて、風呂なんだけど、さっき入ってきたが、一般の風呂と同じくらいの大きさしかなかった。風呂の水を毎回抜いて、掃除をしてからあがることになっている様だ。風呂って言っても、そう深いものでもない。ユニットバスみたいな感覚かな。ちょっと溜まるって程度。近くに安い温泉があるらしく宿泊客はそちらを利用することが多いみたいで、ここの風呂を使うのは長期滞在客位な様だ。
 1階は風呂と台所に隣接した食堂と、食堂の横に一般客の泊る部屋が1つあって、一番奥に管理人夫婦の部屋がある。それから、2階の階段を上がって直ぐがまた一般客の部屋で、奥の4部屋(向かい合わせで2部屋ずつ)が長期滞在者の部屋‥みたいな感じの建物だ。
 ホント‥なんて表現したらいいのか分かんないけど、アパートっていう呼称は違う気がする。‥ぼろ下宿屋? 朝ご飯だけが付くようだ。(調理は管理人の主人がしているらしい)
 私たちは、4人ほどづつ同室で宿を借り切っている様だが、今この部屋には私とひょろ眼鏡しかいない。
 今日は、明日が休みだから親方たちは飲みに行っているまま、まだ帰っていない。
 ひょろ眼鏡は‥
 もう寝てるみたいだ。
 落ち着かなくてゴロリと寝返りをうつ。
 男となんか雑魚寝したことない。修学旅行とかでさえ、女の子の部屋で泊ってた。皆でだけど。

「‥好感度って、‥友達になれってことかな‥。だっさいよなあ‥」

 分かったことをまとめてみる。
 サカマキの試練‥ 社会の厳しさを体感しよう☆ ポイント制で100円位の賞金が出る。
 アララキの試練‥ ひょろ眼鏡と仲良くなろう☆ 採点方法不明。好感度が上がる度に「何となくゴールが近くなったかも‥」感がある。
 あくまで、予想だ。正確は分からない。
 好感度って、‥まさか恋愛感情じゃないよな!?
 こんなフツメンのひょろ眼鏡な男とどうやって恋愛なんか出来るんだ。よく知らない奴とセックスとか無理だ(すぐそこに考えが飛ぶ)
 体格からいって、私が受けってことになるのか? 
 アロイスたちとの絡みで、もしかして受けでもイケないこともないんじゃ‥って思いはしたが、‥あれは奴らが超男前っていう前提がある。
 ‥無理だ。
 こんなひょろ眼鏡じゃ無理だ。
 ‥無理矢理襲う? できないでもない。頑張れば‥うん、かなり頑張れば‥。
 違うな。(無理だし)
 ‥そういうことじゃないんだろうな。
 いや、わかってる。そういうことじゃない。
 ‥とにかく、サカマキのポイントを貯めて着替えを買おう‥。晩御飯代も稼がないといけないし。‥長丁場を覚悟しよう。
 今現在私は、僅かながらの小銭しかもってない。タオルも無ければ‥それどころか、着替えもない。パンツとシャツと歯ブラシはさっきコンビニで買って来た。シャツは‥パジャマ代わりだ。今日1日着ていた分はさっき風呂場で洗って来て、今窓辺で干している。
 Happynationも含め、今までこんなに苦労したことは無い。
 あの村では、何でも自給自足だった。衣服は‥でも、獲物と交換とかで大人の女性たちが用意してくれていた。
 食料は、栽培と採取、狩猟で手に入れていた。多分ここ地球でもそれは可能だろうが、‥やってはいけないんだ。飛んでいる鳥とか、適当に弓矢で射殺したら普通に問題になる。食べられる草とかも‥地球は空気も悪いし、犬も排泄しまわってるから、嫌だ。(山菜なら問題は無いんだが‥)海はあるから釣は出来るが、道具もないし、勝手に素潜りとか‥問題があるだろう。
 しかも、そういう食料調達ってどっちかというとアララキやサカマキとか体力派の仕事だったしな。
「まさか、食うに困る日が来ようとは‥」
 決めた。サカマキポイントを貯める。貯めて、私は‥着替えを手にするのだ!!
 媚びてやる、ひょろ眼鏡に。
 何かすることないか? レポートなら代わりに書くよ? 掃除当番も変わってやってもいい。‥って、学生か。掃除当番って、中高生か。
「おい、朝だ。起きろって。あと‥これ。昨日渡そうと思ってたんだけど、作業着。俺のだけど貸してやるよ。俺、正社員だから作業着の替え、支給があるし、3つ持ってるから。大きいと思うけど、1枚じゃ不便だろ? 昨日見てたら、お前何も持ってないみたいだったから‥。
 就活失敗して家に帰れないのか? どう見ても大卒位だよな? ‥俺の友達にもそんな奴いたから‥。だから、俺は何とかして仕事見つけて働かないとって‥。最後は、職種とか考えずにバンバン面接行ってた。‥まあ、この仕事は‥俺は農学部だったからまったくの職種違いって程でもないんだけどな。授業で測量とかもしたし。
 就職活動なんてテレビでやってるみたいにバリバリ出来るのって、都会だけだよな。田舎の三流大学なんてそう求人も来ないし、就職博とかも都会だけだし。‥いや、田舎にもあるけど、やっぱり「こういう人材しか要らない」って狭い門って感じだしな‥。
 お前もそうだったんだろ? で、運悪く就職決まんなくて、大学の斡旋してる下宿出なくちゃいけなくて、でも家に帰りずらいってとこか? で、明日の食にも困って住み込みの工事現場で働く‥。まあ、ある話だよね」
 ‥そうだったのか。私って。
 なんか‥涙出て来た。
「‥泣くなよ。兎に角給料出る迄頑張れって! それから、何処か生活できるところ見つけて、就職活動して‥お前、どう考えても肉体労働向いてなさそうだもんな。ひょろっこいし、小さいし」
 バンバン背中を叩かれる。
「さ、朝ご飯食いに行こうぜ! で、給料出たら返すってことで、貸してやるからТシャツと短パン買いに行こうぜ。‥そういえば、お前、ここに来た時着てた服、洗っとかないとまずくない? 」
 いつのまに着替えたのか分からんかったんだけど、ここに来る前に何か服を着ていて、どうやら支給(借りてるだけかもしれない)の作業着に着替えたらしい。‥どこに置いたんだろう‥と思ったら、ひょろ眼鏡が
「ほら、俺のカバンに入れといてやった」
 と出してきてくれた。
 先に言ってくれ。
 あ、これ、サカマキのТシャツ!! 適当に着替えさせて、こっちに飛ばしたんだな!? これ、桜子に買ってもらった思い出の服だから‥破いたりしたら怖い系??
「‥ありがとうございます‥っ! お金、遠慮なく貸していただきます‥」
 買い物に行くためにサカマキのТシャツを着た。
 あ、若干短い。ジーパンは‥お尻が苦しい。そうか、サカマキの方が華奢なんだな。
「ズボン、女物? 彼女の? 」
 ここで、女の影を匂わせたら、ひょろ眼鏡の心証を悪くしそう。(勝手な思い込み)
「いや、‥身長がちいさいし細いから、男物で中々合うもの無くって‥」
 結構無理矢理な理由だな。誰が信じるんだこれ。
「なるほどなあ」
 ‥納得したよ。まあ、まるっきり嘘ではない。身長が普通並みにある奴には分からんと思うが、普通より低めで、体格も標準より細いってのは、服探しに困るんだ。‥まさか、女物買う訳はないけど。骨格が違うからね。(むしろ子供服の方が合う)‥女物は尻とかやっぱり違うしね。
「安売りの服屋とか探したら、まあ、あるんじゃない? 」
 ひょろ眼鏡‥お前、実はいい奴だったんだな。最初の時、毒づいてすまんかった。
 そうか、謝ろう。
「ありがとうございます。あと、今まで生意気言ってスミマセンでした‥」
「いいってことヨ。学生上がりなんてみんなそんなもんサ! 」

 男前~!!!

 ピコン♪ 『ゴールが近くなった気がしました』
 ‥お。
 さっきから気になってたんだけど、アララキのこのシステム、妖●ウォッチのゲームの「えん●んトンネル」みたいだな。選択肢で長くなったり短くなったりするの。
「あの、ところで先輩って、名前なんて言うんですか? 」

「え! 今更それ~!? 」
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