Happy nation

文月

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二章 世界の前提と、誤算。

1.サカマキ (フミカ目線)

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 さて、今我とカツラギは、サカマキの中で復活待ちをしている。
 桜子という人間の少女の魂は、初日に会ったあの後からずっと眠ったままだ。サカマキからはもう(桜子の姿は)見えないだろうが、同じ霊体(というのが正しいかどうかはわからない)である我とカツラギには傍らで昏睡している桜子が見える。
 桜子は、規則的な呼吸を繰り返し、‥ただ眠っている。時々、不安で呼吸していることを確認してしまう程、深く眠っている。
(そういえば、サカマキによるとあと何年かは目覚めもしないんだったっけ)
 我とカツラギは‥人間より魂がずっと強いらしく、平気だ。‥時々は、寝るが、それは睡眠と同じだ。桜子の様に昏睡しているのとは違う。
 暇だ。
 カツラギは、サカマキの目を通して次から次へと入ってくる異世界の情報に、もう毎日が楽しくて楽しくて‥って感じだが、‥我はそれほど勉強家ではない。それでも、最初は面白いなと思っていたが、‥「成程この世界はこういう感じか」ってのがわかれば、もういいやって思う。そんなに単純なわけはないのだろうが、‥まあ、これ位分かればいいや、としか思えない。‥別にここで暮らすわけでもないし、だ。‥それより、身体を動かしたい。座ったり寝たりするばかりでは、身体がなまってなまって仕方が無い。
 だから、
「これは、精神の‥修行だ。武術というのは、精神が強くないと大成しないからな」
 と思うことにしている。
 それと‥「この機会に」カツラギには聞きたいことがある。‥こんなことでもなかったら、じっくりと話すことも出来ないから、聞いておくのもいい。(‥こんなことがなくても、カツラギとフミカらは幼馴染だから、時間はたくさんあったわけなのだが、実生活を送っていると、したいことや、しなければいけないことが多くてそう立ち止まっている時間などないのだ)
 ‥こういう機会も有効活用しよう‥。フミカは自分に言い聞かせて、サカマキが起きているときに、ちょっと睡眠をとって、サカマキが眠っている時間に起きだして、カツラギに質問をすることにした。
 我は、兵士だから、日頃から短い時間の睡眠で持つように身体が慣れている。だが、学者であるカツラギまで、あまり寝ないことに驚いた。‥カツラギにそのことを聞くと、「することは多いから、寝てる時間がもったいない。‥短い時間で、効率の良い眠りを取ることが、時間を有効活用することだ」と如何にもカツラギらしい答えが返って来た。
 我には出来そうはない。我には、というより、兵士には、だ。
 我らの眠りは、浅い。兵士だから戦場に出れば熟睡などしていられないが、家に居ても、我はちょっとの物音で起きる。質のいい眠りが取れてはいないんだろう。
 無防備になることが、職業柄出来ないし、‥戦を思い出してうなされる者もいる。戦から帰った後は、気が高ぶって寝つきにくかったりもする。
 ‥兵士というのは、全く健康に悪い職業だ。
 だからせめて、時間が取れるときは、少しでも身体の疲れを取るために身体の、寝なくても身体を横にしておいたりもする。体力が資本だから、無理して身体を壊しでもしたら大変だ。

 カツラギは、夜でも起きている(※寧ろ、サカマキが寝ているときの方が、いろんな情報が入り込んでこないので、知識の整理に都合がいいと言って、サカマキと生活サイクルを変えるようにしている様だ)し、‥サカマキも我らの会話など聞いてはいないとは思うが、聞かせたい話でもない。
 カツラギは、我に背を向けて、ごろりと横になっている、が、寝てはいない。恐らく今日得た知識を整理しているのであろう。‥すこし機嫌が良さげに見える。
「サカマキって、‥なんであの国の者たちにあんなに嫌われてるんだろうな」
 我がぼそり、と呟くと、カツラギが顔を上げた。「なんでそんなこと聞く? 」って聞きたげな顔をしている。
「我は、人の美醜などよくわからぬが、‥そういう理由からだとしたら、その者の品位が疑われると思うぞ」
 カツラギが我の顔をじっと見た。

 我は人の美醜にこだわらない。
 というか、‥人の顔に驚くほど興味がない。だが、‥他人‥特にあの国の者はそうではない。
 性格に難があろうが‥カツラギは「見目麗しい‥」ってご婦人方に頬を染められている。
 だが、我にとっては、サカマキだってそう変わりはしないと思う。‥関心がないし、知り合いだから‥かもしれないが。
「結構整った顔してると思うけど」
 我は、だがしかし、正直に自分の意見を言うと、カツラギは「う~ん」とちょっと眉を寄せて
「フミカ‥猫‥好きか? 愛玩動物用に品種改良された、小さい奴」
 って、急にそんな話をし始めた。
 ‥猫?
 こっちの世界に来て、「おお、こっちにもいるのか」と思った動物の一つだ。どうやら、こっちの猫は、あっちの世界で「愛玩動物用に品種改良された、小さい奴」とされているものだけの様だ。桜子としてサカマキが窓の外を眺めた位で目に入る程『よくいる』ものらしいことには驚いた。あっちでは、それこそ金持ちが家の中から出さない程可愛がっている超高級動物なのに、と驚いた。
「‥好きでも嫌いでもないが」
 我が首を傾げながら言うと、カツラギは小さく頷いて「私も興味はない」と言った。‥何なんだ。
「金持ちが飼っていたのは、もともと大きい個体の方だった。だが、‥見た目の、問題でこの頃では、護衛として飼うのは、犬の方が多くなった。猫(大)のあの背中の滑らかに動く筋肉が気持ち悪い‥目が細くなるのが‥飼い主でも怖いってよな‥って感じならしいですよ。あと、フットワークはいいけど、そう力がない。気まぐれで、忠誠心って言う点では犬に劣る‥ってところらしいですね」
「うん‥。‥で? 」
 ‥カツラギが何を言いたいのかが分からない。我が首を傾げていると
「だけど、少数ながら猫派もいる。猫が好き、っていう人たちだ。‥だけど、護衛動物として飼うのは、犬の方がいい。一緒に飼ったら喧嘩しかねない。だから、護衛動物として、犬を飼い、愛玩動物として、猫(小)を飼う金持ちがいる、と」
 カツラギが更に説明を続ける。
「うん」
 我はまだ首を傾げながらも、カツラギの言葉に頷く。
 だけど、交配の実験までは進んでいないということで、愛玩用の猫(小)は、総て売られる前に去勢と避妊手術が義務付けられているのだ。だから、その手術費や、1ヶ月に一回の点検等の費用も掛かる為、猫(小)を飼えるのは大金持ちだけだし、護衛動物の犬に食い殺されないためにも、家から出されることがない。
 ‥だから、この世界で外をうろつく猫に驚いたのだ。
 我が、我の知っていることを付け加えて話すと
「そうだね」
 カツラギが頷く。
「‥猫好きもいるけど、あくまで小数派だし、‥愛玩されているのは、大部分が小さな方だってことだ。‥だけど、サカマキは、‥大型のそれも、野生の猫だ」
 本体はって話ではなく、見た目が‥って話。
 サカマキの本体は、ほらあれだ。デカイ鳥型の猛獣。
「‥う! 確かに‥」
 毛並みはいいけど誰にも媚びない。しなやかで、自由気ままで、蠱惑的で‥つかみどころがない。誰も頼らないけど、こりゃ無理だって思ったら、ふらっと消えてしまう。ゴロゴロと喉を鳴らすこともあるが、次の瞬間にはふらっと消えてしまう。
 痩せすぎて、折れそうな背中や腰回り、そして、誰も信じちゃいないって、目。
 そう言われれば、サカマキは猫っぽい。
 ‥カツラギが言ったことを総合すると、つまり、サカマキは猫っぽくて、猫が嫌いな人もいるよね、それは仕方がないだろ、って話‥ってことか。
 ‥で、好きな人もいる、と。
「‥さしずめ、アララキは希少な猫(大)の愛好家ってことかな」
 ‥デカイ猫を「猫可愛がり」するアララキを想像してちょっと笑ってしまった。
 ふふ、とカツラギも微笑む。
「顔だけじゃないみたいですけどね」
 は、友としての優しさだろう。それには我も頷いておいた。
 我も友としてサカマキを良い奴だと思っておる。

 ‥サカマキが猫っぽくて、生理的にダメって奴が多いってこと?
 性格‥とかじゃなく、サカマキの存在自体が。
 サカマキの、顔だとか、仕草だとかが‥。
 サカマキのことろくに知りもしないくせに、だ。
「じゃあ。‥やっぱり顔とかが生理的に受け付けないという下種な理由か? 」
 我が軽蔑の眼差しをカツラギに向けると、(いや、カツラギが悪いわけではないのだが‥)カツラギは、首を振った。

「ん? 」
 我は首を傾げる。
 カツラギは、困ったように眉を寄せて、苦笑した。
「‥あれは、サカマキの運命です」
「運命? 」
 ‥何? 運命。
 嫌われる運命ってこと? なんだそれは‥?
「ええ」
 カツラギが大きく頷いて「そろそろ時間ですね」と呟いて少し微笑んだ。
「ああ、この話は明日にしましょう。サカマキが起きる時間になったようですね。昨日医者が「検査をします」って言ってたから楽しみです。見たことがない機械を間近で見る機会なんて、医者でもなければありませんよ。‥手術なんて、本人は眠っているわけですからね」
 なんて言ったカツラギの目は、‥好奇心しかなかった。
 ‥可哀そうとか、体調はどうだろ? 心配だな。‥とか、ないんだろうな、こいつには‥。
 我は、‥今更ながらカツラギのことが怖くなるのだった。
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