Happy nation

文月

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六章 Happy nation

7.リアル・フリーホールは、お断りなんです。

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「臆病になる」って感情。若い時には考えられなかった。

 若い頃の僕は、失うものなんて何もないって思ってた。だから、何も怖いものは無かった。
 傲慢で自信満々で、傍若無人だった。
 「奇跡的に」サカマキに会って、サカマキを愛するようになった僕は、守るものが出来た幸福に、強くなりたいって思った。身体を鍛えて、サカマキを取り巻く差別や偏見に打ち勝つだけの弁を手に入れるために勉強した。
 僕は、僕自信が気が付かないうちに変わっていたんだ。‥変われていたんだ。
 人間いくつになっても心がけ次第で「変われる」し進歩できる。
 その為の「きっかけ」は、努力の結果見えて来たものだったり、仲間の協力だったり、偶然だったりするわけなんだけど‥そういう「いい流れ」って、でも、誰にでも訪れるものじゃないよな、って思う。

 どんなにいい知らせでも、気付かなかったらものにできない。
 例えばね、情報なんてそうだよね。情報は皆に等しく提供されているけど、新聞をチェックしなかったり、ニュースを見なかったら気付かない。それにね、人づてに情報が回ってくることだってあるけど、日頃から友好な関係が築けてなかったら、誰も教えてくれないよね。
 例え、どんなにいい流れを周りの人が持ってきてくれても、その人の事信じられなかったら、その流れに乗ることもないよね?
 サカマキが言ってた「人は一人では生きられない」っていうのに通じるものだろう。
 人と友好な関係を築いたり、人を信じることもまた、一人ではできない事なんだ。

 人智の及ばない、‥神の悪戯っていわれる「偶然」や「奇跡」。‥こればっかりは、人間が努力したところで何にも出来ないよってこと‥。
 僕にとって、最大の奇跡は、サカマキに出会えたこと‥だけど、‥サカマキに会ったのは、「奇跡」なんかじゃない。総て「そう仕組まれたこと」だったんだよ。
 あいつは、そういいたいんだろう。
 自分で強くなった‥変われた気になってるみたいだけど、それらは全部「神の手の上」で踊らされていただけなんだよって。
 その為に、あいつは僕に、あいつとの「賭け」を思い出させた。
 単純に僕に「賭け」を思い出してほしかった‥ってことじゃない。
 サカマキは、その「賭けを成立させるために」自分が用意した相手に過ぎないんだよって言いたいんだ。
 
 思えば、‥最初からあいつは僕に対して好意的じゃなかったんだ。
 だけど、憎んでいた‥って訳でもない。
 一番近い感情は、関心‥興味を持った‥って感じかな? 

 あの時、あいつが僕に対して感じた、感情の全て。
 憎しみだとか、恐れ。苛立ち、焦り。
 そういった感情。だけど、それだけなら、あいつは僕にわざわざ近づいてこなかった。
 近づいてきたのは、
 理解できない僕という存在に、少なからず興味を持ったから、そして、全く自分と違う存在である僕ならもしかしたら‥って、僕に可能性を見たから。

 あいつは、ただ一介の人間であった僕に何を望んだのだろう。


 「若い頃」って言うと、僕は何故か、前世の‥高校生の頃の自分を思い出す。
 ‥といって、その頃の自分の名前も思い出せないし、容姿も覚えていない。
 ただ、‥そんな人様や自分の記憶に残る様な大層な顔じゃなかったんだろうって思う。(覚えてはいないんだけど、それだけは何故か確信できる)
 僕が思い出すのは、その顔のせいで被った誹謗中傷だとかそういった「出来事」ではない。そりゃそういうことを、時々、ふと思い出すことはある。でも、そんなことはさっきのサカマキの言葉と一緒。一緒くたに「想い出」って箱にがさっと入ってて、「箱をひっくり返してたら偶然出て来たわ」的なこと。
 そういうことじゃなくって‥

 僕が思い出す、「高校生の頃の僕」は、まあ一言で言えば、「丈夫」、だった。
 そういうこと。

 今みたいに、魔法が使えるわけでもない、地位もあるわけでもないただの高校生なのに、だ。喧嘩無双だったわけでも勿論ない。凄い天才でもない。‥何の根拠もなく、僕は自信満々だった。自信‥かどうかは分からないが、「慎み」みたいなものは何処にもなかった。
 やたら、丈夫だった。
 ‥今分かったんだけど、「周りの目を気にしなかったから」だったんだよね。そういうの。
 気になったら、ちょっとは慎み深く‥卑屈に位なったのかもしれない。
 周りの‥異性からは、あからさまに嫌われているって程でもないが、恋愛対象として相手にすらされてなかった所謂「モテない君」だったけど、決して多くない‥数人の男友達と多分それなりに楽しく暮らしていた。
 休み時間になったら友達に囲まれる人気者って感じでもなく、教室の隅で三人とかで何となく集まっているって感じ? その状況について、「自分はこのままでいいだろうか」って思うタイプもいるんだろうけど、僕はそうじゃなかった。別にそのままてでいいじゃないって思ってた。
 集まってるって言っても、別に何をするわけでもないし、「ベストフレンド! 」って言えるような関係でもない。ただ、たまたま集まってただけだ。
 思えば平和なクラスだった僕のクラスは、それ‥地味君には地味君の友達が出来て地味に暮らしてるってこと‥について表立っては干渉してこなかった。
 もちろん、そうじゃない人たちもいた。女の子に「(あいつらは)ないわ」って蔑むような視線を向けられ嘲笑されたり、男子生徒に「(あいつらが)打ち上げ、来ても(お互いに)面白くないだろって思ってさ~」って言われて、誘われなかったって記憶が‥なんとなくだけどある。
 けど、‥だからそれがなに? って思ってた。
 驚くべきことに、強がりでなく、普通に「それがどうした? 」って思ってた。傷つかなかった。
 今考えたら、丈夫だったよね。「お前の精神は鋼か」、とか思うよね。

 でもね。
 単に‥何にも考えてなかった‥痛みに鈍感なだけだったんだ。
 自分の痛みに鈍感で、人の苦しみにもまた、鈍感だった。
 自分にも他人にも厳しい‥とは違う。
 前者は、自分にも他人にも無関心なだけで、後者は、自分も他人も隔たりなく、甘やかさないっていう「大きく厳しい優しさ」だ。嫌われることも恐れない「勇気ある優しさ」だ。
 この二つは全く違う。
 それに‥当時の僕は気付かなかったんだ。

 「だから」、そんな「(地味)仲間」の一人が「俺、このままじゃ‥嫌だからちょっとは‥変われる努力しようかな」って言っても「ふうん、ああそう」としか言わなかった。「自分のしたいようにしたらいいんじゃない? 」って。

 「しんどかったら無理しなくてもいいと思うよ」とか労わることもなかった。「君がいなくなると寂しい」とも‥言わなかった。
 ‥思いもしなかった。
 結果、上手くいかなくて落ち込んでた彼を慰めることも「大丈夫、戻って来いよ」って言うこともなかった。
 結局そのまま卒業したから、彼がその後どうなったかは分からない。「あの時は、大変だった」って苦労話で、子供に語れるようになっていたらいいんだけどな‥って今なら思う。
 意地悪で言わなかった、とかじゃない。
 「自分が悪いんじゃん? 」とかもない。
 寧ろ、何にも思わなかった。
 他人に対して、何か思うってことが‥そもそもなかった。

 優しさって、そもそも、相手が苦しんでるって分かるってことだよね。
 同感‥sympathy。
 内なる正義って言葉がある。
 正義の基本は同情じゃなくって、同感らしい。
 相手がカワイソウ‥以前に、「気持ち分かる」って思えるか否か。
 当時の僕は、彼の気持ちなんて考えもしなかった。
 自分の心の痛みにも相手の心の痛みにも鈍感だったから。

 あいつと会った僕は、多少感じが変わっていたって思う。
 友達と群れることが多い、「派手目なタイプ」
 高校の時とは、全く違っていた。
 大学生デビュー?
 ‥そういう風に見えるかもしれないけど、別に僕は何にも変わってなかったよ。
 ‥変わったと言えば、見かけが変わったことだけ。今までみんなと一緒の制服だったのから、妹が選んだ「お洒落な」服を着て行くよう変わったんだ。
 眼鏡をコンタクトに変えたのもこの時だった。これも妹のアドバイス。
 妹にしてみれば
「ちょっとは、見れる格好してよ、恥ずかしい」
 だったらしい。(←妹は地味な兄を心配してあれこれ世話を焼いているのだが、兄には妹の気持ちが伝わっていない)
 僕の見た目が変わったからか、大学生が高校生と比べて精神年齢が上がったからか、僕を「あいつはないわ」って笑う奴もいなくなった。
 大学は高校と違って、クラスがあるっていっても、クラスで受けるのは、必修の授業か語学位だ。同じメンバーでいることを強要されることは高校と違ってそう無かった。
 だけど、自然と同じ授業を受けてるメンバーで集まってレポートを書いたり、昼食を食べたりするようになった。
 一緒にいるっていっても、一緒にいるだけで、皆自分の好きなことをしゃべっているだけの事だ。その人数が増えたってだけだ。
 もともと空気みたいに暮らしていたからか、「空気が読めない」ってこともない。
 人に合わせる気なんか全然なかったけど、誘われれば別に用事が無ければ遊びにも行く。
 女の子と遊びに行くことも増えた。
 その内笑顔も自然になったら、「かっこいい」って言われることも増えた。
 その場しのぎの軽い会話に、人受けのする愛想笑い。
 僕にはその気は全然なかったけど、周りからは、器用に生きてるって風に見えてた様だ。

 人に媚びることもない。
 人を批判することも、非難することもない。
 我が道を行く‥「俺様」タイプ。
 「強い君に憧れるんだ」って「あいつ」が僕にそういった時は苦笑した。
 憧れてます
 って言われても、「じゃあ頑張らなきゃ」ってならないよね?
 寧ろ、「迷惑だな」って思ったよ。「しらんがな」って。
 だから、僕から別に彼に近づくことは無かった。
 だけど、時々視線を感じてたんだ。
 それで、あの時「相談があるんだ」って「時間が取れない? 」って聞かれた。

 賭けの事話したのは、そう言えばあの時だった。
 ‥参った。
 あいつが、神で、地球と異世界を繋ぐ者だったわけか。
 いや~、まさか、あれが異世界転生のきっかけだったとはね。
 よくある、「死んだら神様に会いました」とかじゃなかったのね。
 それどころか、‥神とは初めから知り合いで、寧ろ印象最悪とか‥詰んでる。

 憧れるって、‥愛とか、友情とか信頼とは違う。
 憧れって、勝手な「期待の押し付け」だ。
 少なくとも、あいつの「憧れ」はそうだった。
 期待を勝手に僕に押し付けて、そして、「やっぱりだめだった」って幻滅する。
 幻滅して‥そうしたら、今まで憧れてた自分の時間が、途端に馬鹿みたいに見えてきて、自分を幻滅させた僕が憎くなった。

 憎いから、仕返ししてやりたい
 ‥自分にはその権利があるし、自分にはそれが出来る。
 
 「だから」、僕が幸せになるのを待っていた。
 今まで何事に対しても無関心だった僕が幸せを知って、幸せから不幸に落ちるのを見るために‥あいつは黙って、ずっと待ってた。
 ‥上げてからストーンって不幸のどん底に叩き落すために‥
 でも。そんなのわざわざ引っかかってやるほどお人好しじゃない。
 リアル・フリーホールはお断りだ。

 台本書いて、舞台を整えて、僕主演の劇の舞台監督きどりなんだろうが‥ 
 悪いね。
 監督はもう、お前じゃない。
 僕だ。

 ‥サカマキに‥僕の周りにこれ以上手を出したら、容赦なんかしない。
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