今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月

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今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

繰り返しなんて存在しない世界を実感したんです。

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「送ってもらってしまってすみません。ご家族と会われるの久しぶりだったんじゃないですか? ゆっくりお話されたらよかったのに。私は大丈夫ですよ? 」
 乗り合い馬車に揺られながらハヅキが聞くと、オズワルドは「ん? 」とちょっと首を傾げて
「ゆっくり話すって言われても‥特に話すことないけどな~」
 困ったように笑った。そして
「用事が無きゃ、帰ることもあんまりないですね」
 ははっと肩を竦める。ハヅキは「‥確かに」と苦笑い。自身も学生時代そんな感じだったし、今も実家から通ってなかったらそうなっただろうということは容易に想像できて、ふふっとローブで隠れてちょっと笑う。今日はハヅキたちの外に誰も客は乗っていなかったから気を遣う相手もいないのだが、ローブは被ったままだ。これはもう、癖みたいなもんだから(脱ぐと寧ろ気になるんだ)
「まあ、そんな不義理ができるのも家族が元気でいてくれるからなんですけどね。兄たちには家のこと任せっきりで苦労を掛けてます」
 オズワルドが(きっと何気なく)言った不義理って言葉にドキッと来た。
 耳が痛いっていう奴? 
 ‥あたしだってそうだ。
 不義理はあたしも同じだ。
 家から通って‥家族に何もかもしてもらっているのに‥まるで学生時代のように自分勝手。不義理なのは、あたしだって同じだ。
「学生時代、私もろくに家に帰りませんでした。だけど、家族は私を好きにさせてくれた。家族が何もかもしてくれていたのに、あたしは「自分は一人で出来てる」って思い込んでた。
 ‥親のありがたさとか偉大さとか、ふと考えたりしますね。自分が親になった時それが出来るかなって、不安に思う時もあります」
 ポツリとそう洩らすと
「確かにね」
 しみじみとオズワルドがうなずく。
 ちらりとオズワルドを見た。オズワルドは‥でも「ハヅキ程深刻に感じてない」(ように見える)
 この先‥自分が親になる(かもしれない)。
 何気なく口から出た言葉にぎゅっと心臓を掴まれたような痛みを覚える。
 両親みたいに、子供を好きにさせてあげられる‥そんな親になれるだろうか? 経済面で、精神面で。
 その前に‥両親はホントにあたしに不満を持っていない? 
 いや、だけど‥
 慌てて心の中で否定する。「いや、だけど、そんなに心配しなくたって大丈夫だ」って自分に言い聞かせる。
 あたしなら‥家族が元気で好きなことを一生懸命してるなら、それでいいかなって思うんだよ。親ならさ、子供の意思を尊重してあげたいって思うもんじゃない? きっと両親もそう思ってくれてる。
 だけどそれは‥
 ‥そんなの、逃げでしかないよね。自分が「そう思いたい」だけだ。
 きっとね、うちの両親ならホントにそう思ってくれてるだろう。だけど「そうしていい」「それを当たり前に思っていい」ということではない。
「家族のありがたさを‥当たり前に思って、それが永遠に当たり前に‥そこにあるって思っちゃいけないですね」
 ハヅキがポツリと、つい呟いた言葉は、完全に自分のこと。
 ‥親不孝な自分への懺悔だ。
「確かに‥家族はありがたいですね」
 しみじみとオズワルドが言う。
 オズワルドのこと不誠実な人間だとは思わないけど、だけどこの件については「あたしに話を合わせてくれてるのかな」位にしか思えない。なかなかね、人生一回生きただけの‥20歳そこそこの青年にそれをホントに理解しろって言う方がさ、難しいよ。
「あ、御免なさい。なんか‥」
 慌てて話題を変えようと、明るい声を出すと、オズワルドが首を振って「大丈夫」ってハヅキの頭を撫ぜた。

 大丈夫って何が?

 よくわからないけど‥多分「どんな話しても、引かないよ」「自分に気をつかって、話を変えたり、やめないでいいよ」ってこと。「受け止めるよ。大丈夫」ってこと。
 ‥子供のくせに。でも‥悪くない。
 それと‥頭なぜなぜ嬉しい。
 思わずほっこりしちゃった。こういうこと、たぶん‥たぶんだけど、初体験。 
 ハヅキがほわほわしてたら、オズワルドが
「両親が俺のこと、健康に生んでくれたこと、健康的で文化的な生活をさせてもらったこと、騎士になるのを許してくれたこと。
 何かを強要されないこと、自由にさせてくれること‥
 全部当たり前のことじゃない」
 そう続けた。
 ちぇ、大人だな。あたしはあんなに転生を繰り返してやっと‥気付いた真理なのにさ。
 真理は‥ちょっと大袈裟か。
 でも、「大切なこと」。‥気付けて良かった。だって、これでホントに最後なんだもん。もう、「人間の」練習は終わり。神様が「大丈夫」っていったら、あたしは普通の魂(養殖ものだけどね)として、まっさらな状態で「普通の世界」で「普通の人間」として生まれて、生きていく。

 もう、転生前の記憶はなくなる。

 考えてみたらね、あたしに関わる人間は皆、あたしの魂が経験を積む為の「生きた教科書」だったり「サンプル」だったりするだけの存在だったんだ。
 それを考えちゃうと、一気に何でもよくなっちゃうけど‥そこはさ、「そういう風に考えないようにする」。それってお約束でしょ。

 お化け屋敷のお化けを作りものだっておもいながら入るより、「どんなだろ~」ってドキドキしながら入る方がいいに決まってる、その方が楽しめる。でしょ? (まあ、「作り物だどうせ」って思いながら入っても、どうせ「ぎゃー」って走り回ることになるんだけどね。作り物だって分かっていようと、びっくりすることには違いないんだよ! アレは、生理現象だ。暗闇、急に人‥とか驚かないわけないでしょ)

 ‥現実逃避しちゃった。
 だって‥不安なんだもの。怖いんだもの。今まで何となくがむしゃらにやってきた‥やってこれてたのに、目の前であたしよりずっと色々分かってて、(だのにその上更に! )色んなこと考える人間がいるって気付いちゃったんだもん。
 そんなの‥自己嫌悪感半端ない。(それどころか)嫉妬すら感じちゃうよ。
 あ~あ。あたし今まで何してたんだろ‥。

「ハヅキさん? 」
 オズワルドの心配そうな顔に、ハヅキははっとなる。
 気付けば涙を流していたらしい。
 自分でも気付いてなかったからびっくりした。
「あたしも‥ちゃんと出来るのかな。両親みたいに、子供を愛して、子供を信じて、子供を育てていけるのかな‥
 子供や‥貴方を‥ちゃんと幸せに出来るかな」
 気付いたら、後から後からあふれてくる不安が口からこぼれ落ちていた。
「‥「ちゃんと」っていう形はないんだと思いますよ」
 ハヅキの頭をなぜながらオズワルドが言った。
「お手本も、正解もない。終わりすらない。だから「ちゃんと出来た」もない。
 でもきっと、貴女といつか生まれるかもしれない子供と‥毎日笑って生きてるだけで‥きっと最高に幸せで、俺は死ぬ前に「最高に幸せでな人生だった」って言うだろう。それは俺の人生にとって「唯一の正解」だって思える。
 きっとね、ちっぽけな一人の人間の人生はそれで精一杯なんです。
 ねえハヅキさん。俺たち騎士団の人間や兵士は‥明日が最も保証されてない職業なんだと思います。
 死ぬかもしれないってことが‥普通の人たちよりずっと多い。俺たちにとって死というのは、他の人たちよりずっと身近な存在なんです」
 ドキッとした。

 オズワルドが死んじゃうのは嫌だ。
 死んじゃったら、もう‥何も残らないじゃないか。
 だけどそれは「もう後がない(転生生活を終える)」自分も同じだ。
 でも、自分のことよりなにより‥
 オズワルドが死んじゃうのが嫌だ。
 オズワルドがいなくなった世界に一人残されるのが嫌だ。

 あたしは‥初めて、繰り返しなんて存在しない世界を生きていることを実感した。
 怖くなって、そしたら涙が止まらなくなった。
「いやだ‥オズワルドさんが死んじゃうなんて嫌だ。
 そしたら、あたしはどうしたらいいの? あたし、もっと立派な治療師になるから! だから‥イヤだ。死ぬなんて言わないで‥」
 ハヅキの頭に初めて会った時の‥意識なく真っ白な顔で眠るオズワルドの姿がフラッシュバックした。
 イヤだ。
 イヤだイヤだイヤだ! 
 ボロボロ泣くハヅキを抱きしめてオズワルドが「ごめんね」と何度も呟いて、
「俺は、死なないようにする」
 人間である限り不可能な約束をする。
 だけどね「無理だろ」って思う気持ちなんて、微塵もない。「気休めヤメテ」も「無責任なこと言わないで」も言う気なんてない。
 寧ろ、まだ足りない。
「ようにじゃ足りない。死なないって約束して」
 オズワルドの胸に頬を埋めながらハヅキは言った。ホント無意識に。
 死んだらおしまい、って一番知ってるハズのあたしが言うことじゃないけど‥
 でも‥

「うん、わかった。約束する。
 俺は死なない。
 生きて、ハヅキさんを幸せにする」
 ハヅキの背中をトントンしながらオズワルドが軽い口調で言う。
 まるで子供をあやすような‥子供に軽い口約束をする様な口調。
 でも、その声は誰よりも優しいんだ。
 ハヅキはオズワルドの胸からするっと抜け出すと、
「訂正して、貴方を幸せにするのは、あたし」
 真っ赤な目でそう宣言した。
 ぷはっと笑ってオズワルドが訂正する。

「死なずに、俺は‥ハヅキさんと幸せになる」
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