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高度一万メートル。
酸素も薄く、凍てつくような成層圏を、青白い炎を噴く棺桶(飛行艇)が疾走していた。
『ヒャッハー! 風になるぜぇ!』
『左舷、弾幕薄いぞ! もっと魔力を回せ!』
操縦席に取り憑いたジョセフたちが、楽しそうに叫んでいる。
「ジョセフ、要塞は見えたか!」
ギルバート様が風圧に耐えながら問う。
『前方三時の方角! 黒い雲の中に反応あり! ……げっ、迎撃システムが作動してます!』
雲を抜け、巨大な黒い要塞が姿を現した。
その側面にある無数の砲門が、こちらを狙って火を噴く。
ドシュッ! ドシュッ!
無数の魔導弾が雨のように降り注ぐ。
「チッ……!」
ギルバート様は剣を抜き、飛来する弾を片っ端から切り払う。
「邪魔だ! 道を開けろ!」
彼の一振りごとに衝撃波が飛び、砲台が爆発する。
『閣下、強すぎですぅ! でも、あの主砲直撃したらヤバいです!』
要塞の中央にある巨大な砲口が、赤黒い光を溜め始めていた。
ゼルギウスの魔力だ。
「避ける必要はない」
ギルバート様は冷徹に言い放った。
「正面から突っ込む」
『はあ!? 死にますよ!?』
「私の『愛』は、いかなる砲撃よりも重い。……全速前進だ!」
『もうヤケクソだぁぁッ! 行けぇぇぇッ!』
飛行艇が加速する。
主砲が発射される。
閃光が世界を白く染める中、ギルバート様は吼えた。
「チューナァァァァァァッ!!」
◇
一方、要塞の地下牢。
ズズズズズ……!
激しい振動で、天井からパラパラと砂が落ちてきた。
「……来たわね」
私はニヤリと笑い、ドレスの埃を払って立ち上がった。
手の中にある『星の涙』が、今までになく強く、嬉しそうに脈打っている。
「さあ、お迎えの時間よ。準備はいい?」
私が石に語りかけると、石は『応!』と答えるように輝きを増した。
ガチャン!
牢の扉が開き、ゼルギウスが血相を変えて飛び込んできた。
「き、貴様! 何をした!?」
「何も? ただ、私のパートナーが到着しただけです」
「馬鹿な! あの弾幕を抜けてきただと!? ええい、こうなれば貴様を人質にして……」
ゼルギウスが杖を振り上げ、私を拘束しようとした。
その時。
ズドォォォォォン!!
真上の天井が爆音と共に崩落した。
瓦礫と粉塵が舞う中、一筋の光が差し込む。
そして、その光の中に、一人の男が着地した。
銀色の髪、アイスブルーの瞳。
ボロボロの燕尾服を纏い、手には折れた剣(の柄だけ)を握っている。
「……待たせたな」
ギルバート様だ。
彼はゆっくりと顔を上げ、私を見た。
その顔は煤だらけで、あちこち切り傷だらけだったが、私には世界で一番輝いて見えた。
「……遅いです」
私は腕組みをして、ツンとすました。
「予定より三十分オーバーです。超過料金、請求しますよ?」
「ああ。一生かけて払わせてくれ」
ギルバート様は優しく微笑むと、瞬時に表情を一変させ、ゼルギウスを睨みつけた。
「さて……私の大事な商談相手(フィアンセ)に手を出した代償、払ってもらおうか」
「ひぃっ……!」
ゼルギウスが後ずさる。
「く、来るな! 来ればこいつを殺すぞ!」
ゼルギウスは私の方へ杖を向けた。
だが、ギルバート様は動じない。
「無駄だ。お前の魔力は、もう底をついているだろう?」
「な、何を……」
「要塞の維持、迎撃システム、そして私への攻撃。……すべて使い果たしたはずだ。今の貴様は、ただの老いぼれだ」
「そ、そんなはずは……! 我には『星の核』がある! こいつから無限に魔力を……!」
ゼルギウスが私(の手にある石)に手を伸ばす。
しかし。
私が石を掲げると、石はパチッと静電気のような火花を放ち、ゼルギウスの手を弾いた。
「痛っ!?」
「残念でした。この子はもう、私と『専属契約』を結んだようです」
私は石に頬ずりをした。
「私の魔力(欲望)の方が、貴方の野望よりも純度が高かったみたいですね」
「そ、そんな馬鹿な……! 世界を統べる力が、たかが守銭奴の女に……!」
「たかが守銭奴? 訂正しなさい。私は『国を救ったスーパーコンサルタント』です!」
私は石の力を解放した。
青い光が部屋中に満ち、ゼルギウスを吹き飛ばす。
彼は壁に叩きつけられ、杖を取り落とした。
「決着だな」
ギルバート様が歩み寄り、ゼルギウスの喉元に折れた剣先を突きつけた。
「本来なら八つ裂きにするところだが……。チューナ、どうする?」
「殺してはなりません、ギルバート様」
私は慌てて止めた。
「死なれたら、賠償金が回収できません! 生かして、死ぬまで強制労働させて稼がせます!」
「……ふっ。君らしい」
ギルバート様は剣を収め、私の方へ振り返った。
「帰ろう、チューナ。みんなが待っている」
「はい!」
私は駆け出し、ギルバート様の胸に飛び込んだ。
温かい。
泥と血の匂いがするけれど、今までで一番安心する匂いだ。
「……怖かったか?」
彼が耳元で囁く。
「……少しだけ。でも、貴方が来てくれると信じていましたから」
「愛している」
「私もです」
私たちは崩壊し始めた要塞の中で、二度目の口づけを交わした。
だが、ロマンチックな時間は長く続かない。
『お嬢様! 閣下! イチャイチャしてる場合じゃないです! この要塞、落ちますよ!』
ジョセフの絶叫が響く。
「えっ?」
見ると、制御を失った要塞が傾き始めていた。
「いけない! 脱出しないと!」
「飛行艇は……壊れたな」
ギルバート様が天井の穴を見上げる。着地の衝撃で大破したらしい。
「ど、どうするんですか!?」
「飛ぶしかない」
「は?」
ギルバート様は私を横抱きにした。
「しっかり掴まっていろ。……私の魔力で風を操り、緩やかに落下する」
「そ、そんな無茶な!」
「君と一緒なら、空だって飛べるさ」
彼はニカッと笑い、壁の穴に向かって走り出した。
「ちょっ、心の準備が! あ、その前にゼルギウスも回収して! 財布(彼)を置いていくわけには!」
「了解!」
ギルバート様は気絶しているゼルギウスの襟首を片手で掴み、もう片方の手で私を抱え、大空へとダイブした。
「きゃああああああッ!!」
王都の空に、私の悲鳴と、ギルバート様の高らかな笑い声が響き渡った。
こうして、私たちの長い長い一日が幕を閉じた。
酸素も薄く、凍てつくような成層圏を、青白い炎を噴く棺桶(飛行艇)が疾走していた。
『ヒャッハー! 風になるぜぇ!』
『左舷、弾幕薄いぞ! もっと魔力を回せ!』
操縦席に取り憑いたジョセフたちが、楽しそうに叫んでいる。
「ジョセフ、要塞は見えたか!」
ギルバート様が風圧に耐えながら問う。
『前方三時の方角! 黒い雲の中に反応あり! ……げっ、迎撃システムが作動してます!』
雲を抜け、巨大な黒い要塞が姿を現した。
その側面にある無数の砲門が、こちらを狙って火を噴く。
ドシュッ! ドシュッ!
無数の魔導弾が雨のように降り注ぐ。
「チッ……!」
ギルバート様は剣を抜き、飛来する弾を片っ端から切り払う。
「邪魔だ! 道を開けろ!」
彼の一振りごとに衝撃波が飛び、砲台が爆発する。
『閣下、強すぎですぅ! でも、あの主砲直撃したらヤバいです!』
要塞の中央にある巨大な砲口が、赤黒い光を溜め始めていた。
ゼルギウスの魔力だ。
「避ける必要はない」
ギルバート様は冷徹に言い放った。
「正面から突っ込む」
『はあ!? 死にますよ!?』
「私の『愛』は、いかなる砲撃よりも重い。……全速前進だ!」
『もうヤケクソだぁぁッ! 行けぇぇぇッ!』
飛行艇が加速する。
主砲が発射される。
閃光が世界を白く染める中、ギルバート様は吼えた。
「チューナァァァァァァッ!!」
◇
一方、要塞の地下牢。
ズズズズズ……!
激しい振動で、天井からパラパラと砂が落ちてきた。
「……来たわね」
私はニヤリと笑い、ドレスの埃を払って立ち上がった。
手の中にある『星の涙』が、今までになく強く、嬉しそうに脈打っている。
「さあ、お迎えの時間よ。準備はいい?」
私が石に語りかけると、石は『応!』と答えるように輝きを増した。
ガチャン!
牢の扉が開き、ゼルギウスが血相を変えて飛び込んできた。
「き、貴様! 何をした!?」
「何も? ただ、私のパートナーが到着しただけです」
「馬鹿な! あの弾幕を抜けてきただと!? ええい、こうなれば貴様を人質にして……」
ゼルギウスが杖を振り上げ、私を拘束しようとした。
その時。
ズドォォォォォン!!
真上の天井が爆音と共に崩落した。
瓦礫と粉塵が舞う中、一筋の光が差し込む。
そして、その光の中に、一人の男が着地した。
銀色の髪、アイスブルーの瞳。
ボロボロの燕尾服を纏い、手には折れた剣(の柄だけ)を握っている。
「……待たせたな」
ギルバート様だ。
彼はゆっくりと顔を上げ、私を見た。
その顔は煤だらけで、あちこち切り傷だらけだったが、私には世界で一番輝いて見えた。
「……遅いです」
私は腕組みをして、ツンとすました。
「予定より三十分オーバーです。超過料金、請求しますよ?」
「ああ。一生かけて払わせてくれ」
ギルバート様は優しく微笑むと、瞬時に表情を一変させ、ゼルギウスを睨みつけた。
「さて……私の大事な商談相手(フィアンセ)に手を出した代償、払ってもらおうか」
「ひぃっ……!」
ゼルギウスが後ずさる。
「く、来るな! 来ればこいつを殺すぞ!」
ゼルギウスは私の方へ杖を向けた。
だが、ギルバート様は動じない。
「無駄だ。お前の魔力は、もう底をついているだろう?」
「な、何を……」
「要塞の維持、迎撃システム、そして私への攻撃。……すべて使い果たしたはずだ。今の貴様は、ただの老いぼれだ」
「そ、そんなはずは……! 我には『星の核』がある! こいつから無限に魔力を……!」
ゼルギウスが私(の手にある石)に手を伸ばす。
しかし。
私が石を掲げると、石はパチッと静電気のような火花を放ち、ゼルギウスの手を弾いた。
「痛っ!?」
「残念でした。この子はもう、私と『専属契約』を結んだようです」
私は石に頬ずりをした。
「私の魔力(欲望)の方が、貴方の野望よりも純度が高かったみたいですね」
「そ、そんな馬鹿な……! 世界を統べる力が、たかが守銭奴の女に……!」
「たかが守銭奴? 訂正しなさい。私は『国を救ったスーパーコンサルタント』です!」
私は石の力を解放した。
青い光が部屋中に満ち、ゼルギウスを吹き飛ばす。
彼は壁に叩きつけられ、杖を取り落とした。
「決着だな」
ギルバート様が歩み寄り、ゼルギウスの喉元に折れた剣先を突きつけた。
「本来なら八つ裂きにするところだが……。チューナ、どうする?」
「殺してはなりません、ギルバート様」
私は慌てて止めた。
「死なれたら、賠償金が回収できません! 生かして、死ぬまで強制労働させて稼がせます!」
「……ふっ。君らしい」
ギルバート様は剣を収め、私の方へ振り返った。
「帰ろう、チューナ。みんなが待っている」
「はい!」
私は駆け出し、ギルバート様の胸に飛び込んだ。
温かい。
泥と血の匂いがするけれど、今までで一番安心する匂いだ。
「……怖かったか?」
彼が耳元で囁く。
「……少しだけ。でも、貴方が来てくれると信じていましたから」
「愛している」
「私もです」
私たちは崩壊し始めた要塞の中で、二度目の口づけを交わした。
だが、ロマンチックな時間は長く続かない。
『お嬢様! 閣下! イチャイチャしてる場合じゃないです! この要塞、落ちますよ!』
ジョセフの絶叫が響く。
「えっ?」
見ると、制御を失った要塞が傾き始めていた。
「いけない! 脱出しないと!」
「飛行艇は……壊れたな」
ギルバート様が天井の穴を見上げる。着地の衝撃で大破したらしい。
「ど、どうするんですか!?」
「飛ぶしかない」
「は?」
ギルバート様は私を横抱きにした。
「しっかり掴まっていろ。……私の魔力で風を操り、緩やかに落下する」
「そ、そんな無茶な!」
「君と一緒なら、空だって飛べるさ」
彼はニカッと笑い、壁の穴に向かって走り出した。
「ちょっ、心の準備が! あ、その前にゼルギウスも回収して! 財布(彼)を置いていくわけには!」
「了解!」
ギルバート様は気絶しているゼルギウスの襟首を片手で掴み、もう片方の手で私を抱え、大空へとダイブした。
「きゃああああああッ!!」
王都の空に、私の悲鳴と、ギルバート様の高らかな笑い声が響き渡った。
こうして、私たちの長い長い一日が幕を閉じた。
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