悪役令嬢は婚約破棄に舞い踊る!

黒猫かの

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「いいですか、皆様。今回の結婚式のコンセプトは『圧倒的収益』です!」


王宮の一室を貸し切って設立された『チューナ&ギルバート結婚式実行委員会』のオフィス。


私は集められた王宮の広報官や、王都の商人たちを前に熱弁を振るっていた。


ホワイトボードには、緻密な収支計画表が書き込まれている。


「まず、招待客の席次ですが、最前列のS席は『オークション制』にします」


「オ、オークション……?」


商人の一人がおずおずと手を挙げる。


「はい。国王陛下や高位貴族の席は固定ですが、それ以外の良席は『入札』で決めます。英雄ギルバート様を間近で見たい貴族令嬢や、私にコネを作りたい商人は山ほどいますからね。最低落札価格は金貨百枚からです」


「あこぎな……」


「次に、引き出物。これは『企業スポンサー』を募ります。お皿の裏に『〇〇商会』とロゴを入れるだけで、宣伝効果は抜群。すでに十社から申し込みが来ています」


私は次々とプランを発表する。


・ウェディングケーキの側面を広告スペースとして販売。
・新郎新婦の入場曲を、吟遊詩人の新曲プロモーション枠として販売。
・式当日の様子を描いた絵画(ブロマイド)の限定販売。


「そして目玉はこれ。『ギルバート様抱き枕(等身大)』の受注生産です!」


私が試作品(ジョセフが夜なべして作った)を掲げると、会場の女性スタッフから「欲しい!」という悲鳴が上がった。


「すごい……。ベルガモット様は天才だ……」


「これなら本当に、国庫に寄付してもお釣りが来るぞ……」


商人たちが電卓を叩きながら震えている。


「ふっ、当然です。……ギルバート様、いかがですか?」


私は部屋の隅で茶を飲んでいた婚約者に話を振った。


彼は抱き枕の試作品を見つめ、少し複雑そうな顔をしていたが、私を見ると優しく微笑んだ。


「君が楽しそうなら、それでいい。……ただ、抱き枕の私の顔、少し美化されすぎていないか?」


「補正は重要です。夢を売る商売ですから」


          ◇


順調に進む準備。


売上予測は右肩上がり。


私のテンションも最高潮に達していた、その日の午後。


「お嬢様。……『ハイエナ』が現れました」


ジョセフが嫌そうな顔で報告に来た。


「ハイエナ? 動物園の?」


「いえ。もっと性根の腐った、二足歩行のハイエナでございます」


ジョセフが指差した先。


オフィスの入り口で、警備兵ともみ合っている小太りの男がいた。


「通せ! 私は新婦の父だぞ! ベルガモット伯爵だ!」


「……ああ、あの人か」


私は冷めた目で、実の父親を見やった。


第2話で絶縁して以来だ。


私が英雄と結婚し、国を救ったと聞いて、掌を返して擦り寄ってきたのだろう。


分かりやすすぎて欠伸が出る。


「通してあげて」


私が指示すると、父は脂ぎった顔で走ってきた。


「おお、チューナ! 我が愛娘よ! 会いたかったぞ!」


父は両手を広げて抱きつこうとしたが、私はスッと避けた。


父は勢い余って、ギルバート様の抱き枕に抱きついた。


「むぐっ……こ、これはなんだ?」


「私の婚約者の分身(商品)です。触ったのでお買い上げになりますが、よろしいですか? 金貨十枚です」


「じゅ、十枚!? 家族割引はないのか!」


「ありません。で、何のご用でしょう? 私は忙しいのですが」


私が事務的に尋ねると、父はコホンと咳払いをして、揉み手をしながら言った。


「いやなに、結婚すると聞いてな。父親として祝ってやらんといかんと思って駆けつけたのだ」


「そうですか。では、お祝い金は受付で受け付けております。相場は金貨千枚ですが」


「せ、千枚……!? いや、そうではなく!」


父は焦ったように言葉を継ぐ。


「親子水入らずで話がしたいのだ。……そう、今後のベルガモット家の繁栄についてな。お前が辺境伯夫人になれば、我が家との繋がりも深くなる。商売の提携もできるだろう?」


やはり金目当てだ。


「お父様。忘れたのですか? 私は『親族関係終了』を宣言し、貴方はそれを認めましたよね?」


「あ、あれは若気の至りだろう! 血は水よりも濃いと言うではないか! なあ、頼むよチューナ。実家が潤えば、お前の評判も良くなるぞ?」


父はニタニタと笑いながら、私に近づく。


「それに、結婚式の『親族代表挨拶』。あれはやはり父親である私が出ないと格好がつかん。……出演料は弾んでくれるんだろうな?」


私は溜息をついた。


この人は変わらない。


どこまでも浅ましく、自分の利益しか考えていない。


昔の私なら、傷ついたり怒ったりしたかもしれない。


でも今の私は、ただの「処理すべきタスク」としか感じなかった。


「お父様」


私はニッコリと笑った。


「ご提案、ありがとうございます。検討させていただきますね」


「おお! そうかそうか! やはり親子の情は……」


「ただし」


私は机の上の『警備計画書』を手に取った。


「当日の警備担当は、元・帝国宮廷魔導師のゼルギウスです。彼は『不審者や招かれざる客を見つけたら、即座に黒焦げにする』と張り切っております」


「ひっ……!」


「さらに、私の結婚式は完全チケット制です。親族であってもチケット(一枚金貨五百枚)が必要です。お持ちですか?」


「ご、五百枚……!?」


「お持ちでないなら、入場ゲートでゼルギウスの餌食になりますね。……ああ、かわいそうに。実の父親が、娘の晴れ舞台で黒焦げになるなんて」


私はハンカチで嘘泣きをした。


父の顔色が青から白、そして土気色へと変わっていく。


「そ、そんな……私は父だぞ……!」


「父である前に、『金払いの悪い客』はお断りなんです」


私の声が冷たく響く。


そこへ。


「……チューナの言う通りだ」


低い声と共に、ギルバート様が現れた。


彼は私の肩に手を置き、父を氷のような瞳で見下ろした。


「ひぃっ……あ、アイゼンシュタイン閣下……!」


「私の妻になろうとする女性に、不快な思いをさせるな。……彼女が『他人』だと言えば、貴様は他人だ。二度と姿を見せるな」


ギルバート様から放たれる殺気(物理的な冷気)に、父の髪の毛が凍りついた。


「ひ、ひえぇぇぇッ!! お、覚えてろよぉぉッ!」


父は捨て台詞を吐き、脱兎のごとく逃げ出した。


その背中は、第2話の時よりもさらに小さく見えた。


「……やれやれ。手間取らせてすまない」


ギルバート様が私の肩を抱く。


「いいえ。お掃除ありがとうございます。これで『害虫駆除』も完了です」


私は笑顔で答えた。


「それに、彼のおかげでいいアイデアが浮かびました」


「なんだ?」


「『悪役令嬢の絶縁状』という名の激辛クッキー。引き出物に追加しましょう。厄除けとして売れるはずです」


「……君は本当に、転んでもただでは起きないな」


ギルバート様が呆れつつも、愛おしそうに私の髪を撫でる。


「さあ、準備に戻りましょう。結婚式まであと少し。一秒も無駄にはできません!」


私は手を叩き、スタッフたちに指示を飛ばした。


邪魔者は消えた。


あとは最高益を叩き出す、伝説の結婚式を挙げるだけだ。
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