悪役令嬢は婚約破棄に舞い踊る!

黒猫かの

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「続きまして、メインディッシュの肉料理でございます! こちらの最高級霜降り牛は、『コングロマリット商会』様のご提供です! 拍手!」


司会者のアナウンスと共に、会場に盛大な拍手が巻き起こる。


ここは王宮の大広間で行われている披露宴会場。


円卓には豪華な料理が並んでいるが、皿の横にはさりげなく『提供:〇〇商会』というポップが立てられている。


「……徹底しているな」


隣に座るギルバート様が、ワイングラス(側面には『王都ワイナリー』のロゴ入り)を傾けながら感心している。


「当然です。この肉料理一皿で、招待客一人当たりのコストを金貨二枚削減できましたから」


私は計算高い笑みを浮かべ、フォークを手に取った。


「さあ、召し上がれ。味は保証しますよ。商会側も『王室御用達』の肩書き欲しさに、最高品質のものを持ってきたはずですから」


私たちが肉を口に運ぶと、会場のあちこちから「美味い!」「どこの商会の肉だ?」という声が上がる。


宣伝効果は抜群だ。商会の代表者たちが、商談成立の予感に鼻の下を伸ばしているのが見える。


「さて、次は余興の時間ですね」


司会者が声を張り上げる。


「新婦の友人を代表して、リリア男爵令嬢よりご挨拶、ならびに……なんと! 北の地より届いた『スペシャルゲストからの手紙』の代読がございます!」


会場がざわめく。


「スペシャルゲスト? まさか……」


スポットライトが当たり、ピンクのドレスを着たリリア様がマイクの前に立った。


彼女は少し緊張した面持ちで、一枚の泥だらけの便箋を取り出した。


「えー……ご紹介に預かりました、リリアです。本日は、遠い北の地で『自分探しの旅(強制労働)』に出ているアレクシス元王子より、祝電を預かっております」


『おおっ!』


会場から期待の声が上がる。


リリア様は咳払いを一つして、読み上げ始めた。


『チューナ、そしてアイゼンシュタイン辺境伯、結婚おめでとう。


 私は今、牛の出産に立ち会った直後にこの手紙を書いている。
 生命の誕生とは、なんと神秘的で、そして生臭いものだろうか。


 チューナ。君は私に「無能」と言ったが、訂正してほしい。
 私は昨日、鍬(くわ)一本で荒れ地を一ヘクタール開墾した。
 今の私の筋肉は、王宮にいた頃の三倍だ。


 ギルバート殿。もしチューナを泣かせたら、私が北から駆けつけて、鍛え上げたこの筋肉で君を締め上げるつもりだ(勝てる気はしないが)。


 最後に。
 二人の幸せを、牛小屋の隅から心より祈っている。
 
 追伸:リリア、この手紙が読まれる頃には、私が育てたジャガイモが届いているはずだ。披露宴のスープに使ってくれ。』


読み終えた瞬間、会場は静まり返り……そして爆笑に包まれた。


「あいつ、何やってんだ……」


「筋肉キャラに転向したのか?」


「でも、なんだか楽しそうだな」


ギルバート様も肩を震わせて笑っている。


「……変わったな、彼も」


「ええ。まさかジャガイモを送ってくるとは。……あ、今日のスープに入っているジャガイモ、あれがそうですよ」


「なんと。では、心して味わわねばな」


私たちは顔を見合わせて笑った。


かつて婚約破棄を突きつけてきた相手が、今は遠い地からジャガイモで祝福してくれている。


これもまた、最高の「ざまぁ(和解)」の形なのかもしれない。


          ◇


宴もたけなわ。


いよいよ、最後のイベントの時間だ。


「さあ! 独身女性の皆様、お待たせいたしました! 新婦によるブーケトスを行います!」


私が立ち上がると、会場の空気が一変した。


ドレスアップした令嬢たちが、靴を脱ぎ捨て、本気(マジ)の目をしてテラスの下に集結する。


「皆様、ただのブーケだと思っていませんか?」


私はマイクを持って、テラスから彼女たちを見下ろした。


「このブーケには、特典が付いています」


ゴクリ、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。


「特典その一! 『ギルバート様率いる近衛騎士団との合コン優先参加権』!」


『キャアアアアアアッ!!』


黄色い悲鳴が上がる。


「特典その二! 『チューナのよろず相談所・無料コンサルチケット(金貨百枚相当)』!」


『ウオオオオオオッ!!』


今度は野太い声(商売敵の女性商人たち)も混ざる。


「そして特典その三! ……このブーケを受け取った方は、次に『運命の相手』と結ばれるという、私の言霊(呪い)付きです!」


会場のボルテージは最高潮に達した。


「行きますよー! 3、2、1……!」


私は後ろを向き、思い切りブーケを放り投げた。


白い花束が、青空に舞う。


「私のものよぉぉッ!」


「どきなさい! 騎士団長補佐を狙ってるのは私よ!」


「商売繁盛ぉぉッ!」


令嬢たちが入り乱れ、まさに戦場と化す。


ブーケは誰の手にも収まらず、バレーボールのように弾かれ、宙を舞う。


そして。


ポスッ。


最終的にブーケが着地したのは、争奪戦の外で呆然と見ていた、リリア様の腕の中だった。


「えっ?」


リリア様がキョトンとして、自分の腕の中の花束を見る。


「……わ、私?」


一瞬の静寂。


そして、「おめでとー!!」という嵐のような拍手が巻き起こった。


「あらあら、やっぱり彼女のところに行きましたか」


私はテラスの上でニヤリと笑った。


「当然だろう。君が『狙って』投げたように見えたが?」


隣でギルバート様が指摘する。


「おや、バレました? コントロールには自信があるんです(花瓶を投げつける練習の成果です)」


リリア様は顔を真っ赤にしてブーケを抱きしめている。


その視線は、どことなく北の方角(王子のいる方向)を向いているようだった。


「彼女も、もうすぐ『こっち側(既婚者)』に来るかもしれませんね」


「そうだな。……アレクシス殿下がジャガイモ以外のものを送れるようになれば、だが」


          ◇


こうして、狂乱と祝福の披露宴は幕を閉じた。


招待客を見送り、スタッフたちが撤収作業を始める頃には、空は茜色に染まっていた。


「……終わったな」


控え室に戻り、私はソファにどさりと倒れ込んだ。


「お疲れ様、チューナ」


ギルバート様が私の足を優しくマッサージしてくれる。


「最高の一日だったわ。……売上集計の速報値が出たけど、予想以上の黒字よ」


「それは重畳。君の努力が報われたな」


「ええ。これで新居の家具も一新できるし、将来の子供の教育費も……」


私がそこまで言って、ハッと口をつぐんだ。


「子供?」


ギルバート様の手が止まる。


「あ、いえ、それはあくまで長期的な事業計画の一環としての話で……!」


私が慌てて取り繕おうとすると、彼は優しく微笑み、私の隣に座った。


「楽しみだな。君に似て計算高くて、私に似て頑丈な子供か。……きっと、最強の跡継ぎになる」


「……そうですね。家庭教師代は私が節約しますけど」


彼が私の肩を抱き寄せる。


窓の外には、ゼルギウスが打ち上げている最後の花火が見えた。


「愛しているよ、チューナ」


「私もです、ギルバート様。……これからは、この『黒字(幸せ)』を二人で守っていきましょうね」


私たちは静かに寄り添った。


長い長い一日が終わり、これからはじまる新しい日々に思いを馳せながら。
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