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「……キャメル。確認だが、ここは『死の森』と呼ばれ、熟練の冒険者でも十人に一人は戻ってこられないと言われる最凶の禁足地だぞ」
レオナードが、愛剣の柄に手をかけながら周囲を警戒する。
一方、隣を歩くキャメルは、日除けの麦わら帽子を被り、背中には巨大なリュックサックを背負っていた。
「あら、そうですの? でも、ここには『一晩で熟成が進むという伝説のキノコ』と、『霜降りが美しすぎる巨大猪』が生息していると伺いましたわ」
「……それらは全て、この森の生態系の頂点に君臨する魔物たちだ」
「頂点だろうが底辺だろうが、私の胃袋に入れば皆同じですわ。さあレオナード様、そこ、霜柱が立っていますわよ! 冷気の出力が漏れていますわ!」
「すまない。君の食欲……いや、覇気に当てられて、魔力がつい共鳴してしまった」
レオナードは冷静を装いつつ、心の中で「やはり彼女は、死を恐れぬ狂戦士なのだな」と敬意を深めていた。
その時、茂みの奥から「地響き」のような咆哮が響いた。
現れたのは、体長五メートルを超える「ブラッディ・ワイルドボア」。
鋼鉄のような毛皮と、大木を容易にへし折る巨大な牙を持つ、森の暴君である。
「……出たか。キャメル、下がれ。ここは私が――」
レオナードが剣を抜こうとした瞬間、キャメルが風のような速さで前へ出た。
彼女の手には、いつの間にか一本の「巨大な麺棒(公爵家秘蔵)」が握られていた。
「見つけましたわ……! その首周りの肉、間違いなく最高級のチャーシューになりますわね!」
「グルアァァァァ!!」
猪が猛然と突進する。
しかし、キャメルは逃げるどころか、重心を低く構えてニヤリと笑った。その顔は、空腹に耐えかねた鬼そのものである。
「……物理こそが、最大の調味料ですわ! どっせえええええい!!」
キャメルは麺棒をフルスイングした。
バキィィィィィン!!
という、およそ肉を叩く音とは思えない衝撃音が森に響き渡る。
猪の巨体は一撃で地面に叩きつけられ、白目を剥いて沈黙した。
「……キャメル。今のは……」
「ふう。少し叩きすぎましたかしら? お肉が柔らかくなりすぎるのも考えものですわね」
キャメルは額の汗を拭い、レオナードを振り返った。
「さあ、レオナード様! 出番ですわよ! 鮮度が落ちないうちに、魔法で急速冷却してくださる?」
「……了解した。氷結の魔力よ、大地の獲物を永遠の微睡みに閉じ込めろ」
レオナードが手をかざすと、巨大な猪の死骸(もとい食材)が一瞬で氷に包まれた。
「完璧ですわ! さすが私の専用冷蔵庫様ですわね!」
「……冷蔵庫……。いや、構わない。君にそう呼ばれるのは、不思議と悪くない気分だ」
二人はその後、手際よく(主にキャメルが物理で、レオナードが魔法で)森の「主」たちを次々と仕留めていった。
一時間後。
森の広場には、豪華なピクニックシートが広げられ、中央にはレオナードの「火炎魔法」によって熱せられた特製鉄板が置かれていた。
「ジュゥゥゥ……。ああ、なんて良い香り。この野性味溢れる肉に、私が三日三晩寝かせた特製キムチを添えて……」
キャメルは、こんがり焼けた肉をサンチュで包み、キムチを乗せてレオナードの口元へ差し出した。
「さあ、レオナード様。保冷だけでなく、調理のアシストまでしてくださったお礼ですわ。あーん」
「……!?」
レオナードの顔が、わずかに赤らむ。
戦場でも冷静沈着な彼が、肉一切れを前にして動揺していた。
「……毒見なら不要だ。私は君を信じている」
「毒なんて入っていませんわ! 美味すぎて気絶する可能性はありますけれど!」
レオナードは覚悟を決め、キャメルが差し出した「肉包み」を一口で食べた。
瞬間、口の中に広がる肉の旨味。そして、それを引き立てるキムチの辛味と酸味。
「……っ!!」
「いかがです? 美味しいでしょう?」
レオナードは目を見開き、無言で肉を噛み締めた。
(……なんだ、この調和は。破壊的な辛さの後に来る、圧倒的な慈愛。これは、彼女そのものではないか)
「……素晴らしい。私の命、この一口に捧げても惜しくないほどだ」
「大袈裟ですわね。でも、気に入っていただけて光栄ですわ」
キャメルは満足げに笑い、自分でも豪快に肉を頬張った。
その時、彼女の頬に付いたタレを、レオナードが指先でそっと拭った。
「……付いているぞ、キャメル」
「あ……ありがとうございますわ。レオナード様、案外マメなんですのね」
「……君の前でだけだ」
レオナードの瞳には、かつてないほどの熱が宿っていた。
しかし、キャメルはそれに気づく様子もなく、「次はどの部位を焼きましょうか!」と鉄板を凝視している。
「死の森」の魔物たちは、自分たちが食べられる様子を震えながら物陰から見守るしかなかった。
こうして、キャメルの「食材調達遠足」は、レオナードの恋心を爆発させ、魔物たちを絶滅の危機に追い込みながら、大盛況のうちに幕を閉じたのである。
レオナードが、愛剣の柄に手をかけながら周囲を警戒する。
一方、隣を歩くキャメルは、日除けの麦わら帽子を被り、背中には巨大なリュックサックを背負っていた。
「あら、そうですの? でも、ここには『一晩で熟成が進むという伝説のキノコ』と、『霜降りが美しすぎる巨大猪』が生息していると伺いましたわ」
「……それらは全て、この森の生態系の頂点に君臨する魔物たちだ」
「頂点だろうが底辺だろうが、私の胃袋に入れば皆同じですわ。さあレオナード様、そこ、霜柱が立っていますわよ! 冷気の出力が漏れていますわ!」
「すまない。君の食欲……いや、覇気に当てられて、魔力がつい共鳴してしまった」
レオナードは冷静を装いつつ、心の中で「やはり彼女は、死を恐れぬ狂戦士なのだな」と敬意を深めていた。
その時、茂みの奥から「地響き」のような咆哮が響いた。
現れたのは、体長五メートルを超える「ブラッディ・ワイルドボア」。
鋼鉄のような毛皮と、大木を容易にへし折る巨大な牙を持つ、森の暴君である。
「……出たか。キャメル、下がれ。ここは私が――」
レオナードが剣を抜こうとした瞬間、キャメルが風のような速さで前へ出た。
彼女の手には、いつの間にか一本の「巨大な麺棒(公爵家秘蔵)」が握られていた。
「見つけましたわ……! その首周りの肉、間違いなく最高級のチャーシューになりますわね!」
「グルアァァァァ!!」
猪が猛然と突進する。
しかし、キャメルは逃げるどころか、重心を低く構えてニヤリと笑った。その顔は、空腹に耐えかねた鬼そのものである。
「……物理こそが、最大の調味料ですわ! どっせえええええい!!」
キャメルは麺棒をフルスイングした。
バキィィィィィン!!
という、およそ肉を叩く音とは思えない衝撃音が森に響き渡る。
猪の巨体は一撃で地面に叩きつけられ、白目を剥いて沈黙した。
「……キャメル。今のは……」
「ふう。少し叩きすぎましたかしら? お肉が柔らかくなりすぎるのも考えものですわね」
キャメルは額の汗を拭い、レオナードを振り返った。
「さあ、レオナード様! 出番ですわよ! 鮮度が落ちないうちに、魔法で急速冷却してくださる?」
「……了解した。氷結の魔力よ、大地の獲物を永遠の微睡みに閉じ込めろ」
レオナードが手をかざすと、巨大な猪の死骸(もとい食材)が一瞬で氷に包まれた。
「完璧ですわ! さすが私の専用冷蔵庫様ですわね!」
「……冷蔵庫……。いや、構わない。君にそう呼ばれるのは、不思議と悪くない気分だ」
二人はその後、手際よく(主にキャメルが物理で、レオナードが魔法で)森の「主」たちを次々と仕留めていった。
一時間後。
森の広場には、豪華なピクニックシートが広げられ、中央にはレオナードの「火炎魔法」によって熱せられた特製鉄板が置かれていた。
「ジュゥゥゥ……。ああ、なんて良い香り。この野性味溢れる肉に、私が三日三晩寝かせた特製キムチを添えて……」
キャメルは、こんがり焼けた肉をサンチュで包み、キムチを乗せてレオナードの口元へ差し出した。
「さあ、レオナード様。保冷だけでなく、調理のアシストまでしてくださったお礼ですわ。あーん」
「……!?」
レオナードの顔が、わずかに赤らむ。
戦場でも冷静沈着な彼が、肉一切れを前にして動揺していた。
「……毒見なら不要だ。私は君を信じている」
「毒なんて入っていませんわ! 美味すぎて気絶する可能性はありますけれど!」
レオナードは覚悟を決め、キャメルが差し出した「肉包み」を一口で食べた。
瞬間、口の中に広がる肉の旨味。そして、それを引き立てるキムチの辛味と酸味。
「……っ!!」
「いかがです? 美味しいでしょう?」
レオナードは目を見開き、無言で肉を噛み締めた。
(……なんだ、この調和は。破壊的な辛さの後に来る、圧倒的な慈愛。これは、彼女そのものではないか)
「……素晴らしい。私の命、この一口に捧げても惜しくないほどだ」
「大袈裟ですわね。でも、気に入っていただけて光栄ですわ」
キャメルは満足げに笑い、自分でも豪快に肉を頬張った。
その時、彼女の頬に付いたタレを、レオナードが指先でそっと拭った。
「……付いているぞ、キャメル」
「あ……ありがとうございますわ。レオナード様、案外マメなんですのね」
「……君の前でだけだ」
レオナードの瞳には、かつてないほどの熱が宿っていた。
しかし、キャメルはそれに気づく様子もなく、「次はどの部位を焼きましょうか!」と鉄板を凝視している。
「死の森」の魔物たちは、自分たちが食べられる様子を震えながら物陰から見守るしかなかった。
こうして、キャメルの「食材調達遠足」は、レオナードの恋心を爆発させ、魔物たちを絶滅の危機に追い込みながら、大盛況のうちに幕を閉じたのである。
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