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「……よし、整いましたわ。これこそが、国境を超えた『魂のフュージョン』ですわ!」
キャメルは、森の開けた場所に設置された特大の石板を前に、満足げに腰に手を当てた。
石板の上では、前回仕留めた『ブラッディ・ワイルドボア』のバラ肉が、レオナードの絶妙な火炎魔法によってジューシーに焼き上げられている。
そしてその横には、ハデス王国の『氷河岩塩』と『黒唐辛子』、さらには街で手に入れた『アミの塩辛』を贅沢に使用して漬け込んだ、最新作のキムチが山のように盛られていた。
「レオナード様、準備はよろしいかしら? 温度管理、お願いしますわよ!」
「ああ。肉の表面は二百度、だがキムチの鮮度を保つために周囲の空気は五度をキープしている。……魔力消費は激しいが、君の料理のためなら安いものだ」
レオナードは額に汗を浮かべながらも、精密な魔力操作を続けている。
隣国の最強魔導師が、バーベキューの「温度調整係」として全力を出している光景は、もはやシュールを通り越して神々しさすら感じさせた。
「ありがとうございますわ! では……いざ、実食ですわ!」
キャメルは、こんがり焼けた脂身の甘い肉で、真っ赤に輝くキムチをたっぷりと巻いた。
そしてそれを、大きく開けた口の中へ豪快に放り込む。
「…………っ!!」
沈黙。
キャメルの動きが止まり、瞳がカッと見開かれた。
「……キャメル? 大丈夫か? もしや、アミの塩辛が爆発したのか?」
レオナードが心配そうに覗き込む。
しかし、キャメルは震える手で頬を押さえ、涙を流しながら叫んだ。
「……っ……美味しいいいいいい!! なにこれ、犯罪的ですわ! 猪の野生味溢れる脂が、黒唐辛子の鋭い辛味と出会って、岩塩のミネラルが全てを包み込んで……口の中が『美食の建国記念日』ですわ!!」
「そ、そうか。それは良かった。……私にも一口、分けてもらえるだろうか」
「もちろんですわ! さあ、あーんして、レオナード様! この快楽を知らずに死ぬなんて、人生の損失ですわよ!」
キャメルは、肉汁と赤色のソースが滴る塊を、レオナードの口へ押し込んだ。
レオナードはそれを咀嚼し……一秒後、彼の周囲に魔力の奔流(オーラ)が渦巻いた。
「……なんだ、これは。力が、力が湧いてくる。……これまで数々の回復薬や魔力ポーションを試してきたが、これほど直接的に『魂の飢え』が満たされる感覚は初めてだ」
「でしょう!? キムチは栄養の宝庫、そして愛の結晶ですもの!」
「……愛、か。そうか、これが君の愛なのだな」
レオナードは深く頷き、熱っぽい視線でキャメルを見た。
(……彼女は、この一口に自分の情熱と、私への感謝を込めてくれたのだ。これほどまでに激しく、熱く、そして刺激的な愛を私は知らない)
レオナードの脳内では、またしても都合の良い変換が行われていたが、キャメルは既に「次の肉」を焼くことに夢中だった。
「次はこれですわ! 猪のタンに、たっぷりの刻みキムチを乗せて……レモン汁の代わりに、森で拾った酸っぱい木の実を絞りますわよ!」
「ああ、いくらでも付き合おう。私の魔力が尽きるか、君のお腹が膨れるか……勝負だな」
二人が平和(?)に魔物の肉を貪り食っていると、茂みの奥からカサカサという音が聞こえた。
現れたのは、獲物の匂いに釣られてやってきた「シャドウ・ウルフ」の群れだった。
しかし、彼らはキャメルとレオナードの姿を見た瞬間、本能的な恐怖でその場に凍り付いた。
「……あら、お客様かしら? 残念ですけれど、このお肉は私と冷蔵庫様のものですわよ」
キャメルが、口の周りを赤く染めたまま、般若のような笑みを浮かべてウルフたちを睨みつけた。
「……グルルッ……(こいつら、ヤバい)」
ウルフたちは一瞬で序列を理解し、尻尾を巻いて逃げ出していった。
「ふう、お行儀の悪いワンちゃんたちですわね。……さて、レオナード様。お腹もいっぱいになりましたし、少し運動がてら、あの湖のほとりにある『幻の山わさび』を採りに行きませんこと?」
「山わさび……。……いいだろう。君が行くところなら、どこへでも供をしよう」
レオナードは、キャメルの手を取って立ち上がった。
泥とキムチのタレにまみれた二人の手。それは、どの貴族のダンスパーティーで交わされる握手よりも、強く、固く結ばれていた。
(……いつか、この女を我が国に連れて帰り、世界一の『キムチ宮殿』を建ててやろう)
レオナードの野望は、今、静かに、そして激しく燃え上がっていた。
一方、キャメルは「山わさびをキムチの隠し味に入れたらどうなるか」という計算だけで頭がいっぱいだったのである。
キャメルは、森の開けた場所に設置された特大の石板を前に、満足げに腰に手を当てた。
石板の上では、前回仕留めた『ブラッディ・ワイルドボア』のバラ肉が、レオナードの絶妙な火炎魔法によってジューシーに焼き上げられている。
そしてその横には、ハデス王国の『氷河岩塩』と『黒唐辛子』、さらには街で手に入れた『アミの塩辛』を贅沢に使用して漬け込んだ、最新作のキムチが山のように盛られていた。
「レオナード様、準備はよろしいかしら? 温度管理、お願いしますわよ!」
「ああ。肉の表面は二百度、だがキムチの鮮度を保つために周囲の空気は五度をキープしている。……魔力消費は激しいが、君の料理のためなら安いものだ」
レオナードは額に汗を浮かべながらも、精密な魔力操作を続けている。
隣国の最強魔導師が、バーベキューの「温度調整係」として全力を出している光景は、もはやシュールを通り越して神々しさすら感じさせた。
「ありがとうございますわ! では……いざ、実食ですわ!」
キャメルは、こんがり焼けた脂身の甘い肉で、真っ赤に輝くキムチをたっぷりと巻いた。
そしてそれを、大きく開けた口の中へ豪快に放り込む。
「…………っ!!」
沈黙。
キャメルの動きが止まり、瞳がカッと見開かれた。
「……キャメル? 大丈夫か? もしや、アミの塩辛が爆発したのか?」
レオナードが心配そうに覗き込む。
しかし、キャメルは震える手で頬を押さえ、涙を流しながら叫んだ。
「……っ……美味しいいいいいい!! なにこれ、犯罪的ですわ! 猪の野生味溢れる脂が、黒唐辛子の鋭い辛味と出会って、岩塩のミネラルが全てを包み込んで……口の中が『美食の建国記念日』ですわ!!」
「そ、そうか。それは良かった。……私にも一口、分けてもらえるだろうか」
「もちろんですわ! さあ、あーんして、レオナード様! この快楽を知らずに死ぬなんて、人生の損失ですわよ!」
キャメルは、肉汁と赤色のソースが滴る塊を、レオナードの口へ押し込んだ。
レオナードはそれを咀嚼し……一秒後、彼の周囲に魔力の奔流(オーラ)が渦巻いた。
「……なんだ、これは。力が、力が湧いてくる。……これまで数々の回復薬や魔力ポーションを試してきたが、これほど直接的に『魂の飢え』が満たされる感覚は初めてだ」
「でしょう!? キムチは栄養の宝庫、そして愛の結晶ですもの!」
「……愛、か。そうか、これが君の愛なのだな」
レオナードは深く頷き、熱っぽい視線でキャメルを見た。
(……彼女は、この一口に自分の情熱と、私への感謝を込めてくれたのだ。これほどまでに激しく、熱く、そして刺激的な愛を私は知らない)
レオナードの脳内では、またしても都合の良い変換が行われていたが、キャメルは既に「次の肉」を焼くことに夢中だった。
「次はこれですわ! 猪のタンに、たっぷりの刻みキムチを乗せて……レモン汁の代わりに、森で拾った酸っぱい木の実を絞りますわよ!」
「ああ、いくらでも付き合おう。私の魔力が尽きるか、君のお腹が膨れるか……勝負だな」
二人が平和(?)に魔物の肉を貪り食っていると、茂みの奥からカサカサという音が聞こえた。
現れたのは、獲物の匂いに釣られてやってきた「シャドウ・ウルフ」の群れだった。
しかし、彼らはキャメルとレオナードの姿を見た瞬間、本能的な恐怖でその場に凍り付いた。
「……あら、お客様かしら? 残念ですけれど、このお肉は私と冷蔵庫様のものですわよ」
キャメルが、口の周りを赤く染めたまま、般若のような笑みを浮かべてウルフたちを睨みつけた。
「……グルルッ……(こいつら、ヤバい)」
ウルフたちは一瞬で序列を理解し、尻尾を巻いて逃げ出していった。
「ふう、お行儀の悪いワンちゃんたちですわね。……さて、レオナード様。お腹もいっぱいになりましたし、少し運動がてら、あの湖のほとりにある『幻の山わさび』を採りに行きませんこと?」
「山わさび……。……いいだろう。君が行くところなら、どこへでも供をしよう」
レオナードは、キャメルの手を取って立ち上がった。
泥とキムチのタレにまみれた二人の手。それは、どの貴族のダンスパーティーで交わされる握手よりも、強く、固く結ばれていた。
(……いつか、この女を我が国に連れて帰り、世界一の『キムチ宮殿』を建ててやろう)
レオナードの野望は、今、静かに、そして激しく燃え上がっていた。
一方、キャメルは「山わさびをキムチの隠し味に入れたらどうなるか」という計算だけで頭がいっぱいだったのである。
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