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「……素晴らしい。この真っ赤な数字の羅列を見てくださいませ、レオナード様。これぞ私が夢見た『血肉の収穫高』ですわ!」
ド・ヴァニラ公爵邸の執務室。キャメルは、山積みになった帳簿を前に、般若のような凄まじい笑みを浮かべていた。
「……キャメル。それは一般的には『利益』と呼ぶものだが、君が言うと、まるで敵軍を殲滅した後の戦果報告のように聞こえるな」
レオナードは、彼女の隣で冷たいハーブティー(魔力で氷点下に保たれている)を差し出しながら、穏やかに微笑んだ。
「利益? いいえ、これは『共感の数』ですわ! 我が領地で生産されたキムチが、今やハデス王国だけでなく、西の砂漠の国、南の島国へと海を渡っているのです。……全人類が、私のニンニクの虜になっているのですわよ!」
キャメルは、羽根ペンを高く掲げて宣言した。
「ああ。君の情熱が、貿易船に乗って世界中に刺激を撒き散らしている。……おかげで、我が国の関税収入は昨年度の五倍。陛下も『もうキャメル嬢には頭が上がらん』と、王冠をキムチ色に塗り替えようか検討されているほどだ」
「それはやりすぎですわ。……さて、レオナード様。輸出量が増えるにつれ、課題となるのはやはり『鮮度』ですの」
キャメルは、真剣な眼差しで世界地図を指差した。
「赤道直下の国々へ運ぶ際、どうしても発酵が進みすぎてしまいますの。……そこで、レオナード様。あなたに新しい『任務』を授けますわ」
「……任務? 私の氷魔法を、さらに広範囲に展開しろというのか?」
「いいえ。魔力を付与した『恒温保冷コンテナ船』の建造ですわ! 船底にあなたの魔力回路を刻み込み、常にマイナス二度を維持する……。これを名付けて『レナード・フリーズ号』と呼びますわ!」
レオナードは一瞬、絶句した。隣国の第一王子である自分が、ついに「船」の冷却システムとして歴史に名を刻むことになるとは。
「……レナード・フリーズ号か。……フッ、悪くない。君の名と私の名が、一つの船となって世界中の海を渡る。……これは実質的な『共同墓地』、いや『愛の結晶』と捉えてもいいだろうか?」
「……? まあ、墓地は縁起が悪いですけれど、結晶ならいいかもしれませんわね。白菜の霜も一種の結晶ですし」
キャメルは相変わらず、レオナードの甘い言葉を全て「食品用語」として処理していた。
「ところで、キャメル。……工場の『更生労働者』たちの様子はどうだ? あまり酷使して、商品の品質に影響が出ては困るが」
「あら、視察に行きます? ちょうど今、彼らは『ニンニクの皮剥き・千本ノック』の最中ですわよ」
二人が工場の地下、通称『第一加工室』を覗くと、そこには変わり果てた姿のアルフレッドとリリアンがいた。
「……うぅ。ニンニクが……ニンニクが目に染みる……。もう、世界中のニンニクが消えてしまえばいいのに……」
かつての第一王子アルフレッドは、ボロボロの作業着を纏い、うつろな瞳でひたすらニンニクの皮を剥き続けていた。
「ちょっとアルフレッド様! 手が止まっていてよ! ほら、私の分も剥いて頂戴! 私はこれから、唐辛子の粉砕作業という『命がけ』の仕事が待っているんですから!」
リリアンは、顔中を赤い粉で汚しながらも、生き残るために必死に叫んでいた。
「……いい活気ですわね。レオナード様、あちらの二人の周囲、少し温度を下げてくださる? 汗がキムチに入っては不衛生ですもの」
「了解した。……マイナス十度まで下げれば、汗も思考も凍りつくだろう」
「ヒィッ!? 急に寒く……! 助けて、キャメル様! 私が悪かったですわ、もう二度と恋のライバルなんて言いませんからぁ!」
リリアンが震えながら叫ぶが、キャメルは優雅に踵を返した。
「ライバル? 何をおっしゃるの、リリカル様。あなたは今や、我が帝国の『優秀な歯車』ですわ。誇りに思いなさいな」
工場を後にした二人の前には、夕日に染まったド・ヴァニラ領の広大な白菜畑が広がっていた。
「……キャメル。ビジネスも、復讐も、君は全てを成し遂げた。……そろそろ、私自身の『報酬』についても、真剣に交渉させてもらいたい」
レオナードが、キャメルの肩を抱き寄せ、その長い指を彼女の髪に滑らせた。
「報酬? あら、ハデス王国への輸出利益の二割を、あなたの口座に振り込む手続きは終わっていますわよ?」
「……金の話ではない。私が欲しいのは、君という名の『唯一無二の刺激』だ」
レオナードの瞳が、至近距離で怪しく光る。
「……? 刺激なら、さっきの超激辛試作品をまだ一口分残してありますわよ。……それとも、もっと『冷たい』のがよろしいかしら?」
「……いや。……君のその、絶望的なまでの『鈍感さ』を解かす方法を、一生かけて研究させてもらうとしよう」
レオナードは苦笑いしながら、キャメルの額にそっと唇を寄せた。
「あら、研究なら大歓迎ですわ! 発酵の秘密は奥が深いですからね!」
キャメルは満面の笑み(般若度5%)で答え、沈みゆく太陽に向かって、次なる輸出計画を練り始めるのであった。
ド・ヴァニラ公爵邸の執務室。キャメルは、山積みになった帳簿を前に、般若のような凄まじい笑みを浮かべていた。
「……キャメル。それは一般的には『利益』と呼ぶものだが、君が言うと、まるで敵軍を殲滅した後の戦果報告のように聞こえるな」
レオナードは、彼女の隣で冷たいハーブティー(魔力で氷点下に保たれている)を差し出しながら、穏やかに微笑んだ。
「利益? いいえ、これは『共感の数』ですわ! 我が領地で生産されたキムチが、今やハデス王国だけでなく、西の砂漠の国、南の島国へと海を渡っているのです。……全人類が、私のニンニクの虜になっているのですわよ!」
キャメルは、羽根ペンを高く掲げて宣言した。
「ああ。君の情熱が、貿易船に乗って世界中に刺激を撒き散らしている。……おかげで、我が国の関税収入は昨年度の五倍。陛下も『もうキャメル嬢には頭が上がらん』と、王冠をキムチ色に塗り替えようか検討されているほどだ」
「それはやりすぎですわ。……さて、レオナード様。輸出量が増えるにつれ、課題となるのはやはり『鮮度』ですの」
キャメルは、真剣な眼差しで世界地図を指差した。
「赤道直下の国々へ運ぶ際、どうしても発酵が進みすぎてしまいますの。……そこで、レオナード様。あなたに新しい『任務』を授けますわ」
「……任務? 私の氷魔法を、さらに広範囲に展開しろというのか?」
「いいえ。魔力を付与した『恒温保冷コンテナ船』の建造ですわ! 船底にあなたの魔力回路を刻み込み、常にマイナス二度を維持する……。これを名付けて『レナード・フリーズ号』と呼びますわ!」
レオナードは一瞬、絶句した。隣国の第一王子である自分が、ついに「船」の冷却システムとして歴史に名を刻むことになるとは。
「……レナード・フリーズ号か。……フッ、悪くない。君の名と私の名が、一つの船となって世界中の海を渡る。……これは実質的な『共同墓地』、いや『愛の結晶』と捉えてもいいだろうか?」
「……? まあ、墓地は縁起が悪いですけれど、結晶ならいいかもしれませんわね。白菜の霜も一種の結晶ですし」
キャメルは相変わらず、レオナードの甘い言葉を全て「食品用語」として処理していた。
「ところで、キャメル。……工場の『更生労働者』たちの様子はどうだ? あまり酷使して、商品の品質に影響が出ては困るが」
「あら、視察に行きます? ちょうど今、彼らは『ニンニクの皮剥き・千本ノック』の最中ですわよ」
二人が工場の地下、通称『第一加工室』を覗くと、そこには変わり果てた姿のアルフレッドとリリアンがいた。
「……うぅ。ニンニクが……ニンニクが目に染みる……。もう、世界中のニンニクが消えてしまえばいいのに……」
かつての第一王子アルフレッドは、ボロボロの作業着を纏い、うつろな瞳でひたすらニンニクの皮を剥き続けていた。
「ちょっとアルフレッド様! 手が止まっていてよ! ほら、私の分も剥いて頂戴! 私はこれから、唐辛子の粉砕作業という『命がけ』の仕事が待っているんですから!」
リリアンは、顔中を赤い粉で汚しながらも、生き残るために必死に叫んでいた。
「……いい活気ですわね。レオナード様、あちらの二人の周囲、少し温度を下げてくださる? 汗がキムチに入っては不衛生ですもの」
「了解した。……マイナス十度まで下げれば、汗も思考も凍りつくだろう」
「ヒィッ!? 急に寒く……! 助けて、キャメル様! 私が悪かったですわ、もう二度と恋のライバルなんて言いませんからぁ!」
リリアンが震えながら叫ぶが、キャメルは優雅に踵を返した。
「ライバル? 何をおっしゃるの、リリカル様。あなたは今や、我が帝国の『優秀な歯車』ですわ。誇りに思いなさいな」
工場を後にした二人の前には、夕日に染まったド・ヴァニラ領の広大な白菜畑が広がっていた。
「……キャメル。ビジネスも、復讐も、君は全てを成し遂げた。……そろそろ、私自身の『報酬』についても、真剣に交渉させてもらいたい」
レオナードが、キャメルの肩を抱き寄せ、その長い指を彼女の髪に滑らせた。
「報酬? あら、ハデス王国への輸出利益の二割を、あなたの口座に振り込む手続きは終わっていますわよ?」
「……金の話ではない。私が欲しいのは、君という名の『唯一無二の刺激』だ」
レオナードの瞳が、至近距離で怪しく光る。
「……? 刺激なら、さっきの超激辛試作品をまだ一口分残してありますわよ。……それとも、もっと『冷たい』のがよろしいかしら?」
「……いや。……君のその、絶望的なまでの『鈍感さ』を解かす方法を、一生かけて研究させてもらうとしよう」
レオナードは苦笑いしながら、キャメルの額にそっと唇を寄せた。
「あら、研究なら大歓迎ですわ! 発酵の秘密は奥が深いですからね!」
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