28 / 28
28
豪華客船『レナード・フリーズ号』が、紺碧の海を切り裂いて進む。
船首には、かつて「悪役令嬢」と恐れられ、今は「食の救世主(キムチ聖女)」と崇められるキャメルの姿があった。
彼女は、黄金に輝く白菜型の特注望遠鏡を覗き込み、水平線の彼方を見つめている。
「……見えてきましたわ、レオナード様! あの雲の向こうにあるという、伝説の『七色に光る唐辛子』が眠る絶海の孤島が!」
「ああ、見事な視力だ、キャメル。君の情熱という名の熱探知能力には、最新の魔導レーダーですら敵わないな」
背後から彼女を抱き寄せ、優雅に冷気を放っているのは、ハデス王国の王太子となったレオナードである。
二人の結婚から数年。彼らの「新婚旅行」は、いまだに終わる気配を見せていなかった。
というより、世界中の珍味と刺激を求める「美食の遠征」へと進化を遂げていたのである。
「ふふふ! 七色の唐辛子を手に入れた暁には、私のキムチは宇宙の真理へと到達しますわ。……ああ、想像しただけで、顔面の筋肉が喜びで震えますわね!」
「……今の君の笑顔は、雷神と龍神を同時に怒らせたような凄まじい迫力だ。……素晴らしい。やはり君は、世界で一番私の心を凍りつかせ、そして熱くさせてくれる」
レオナードは、相変わらずの重症な溺愛ぶりで、キャメルの般若顔に熱い口づけを落とした。
その時、船のデッキを掃除していた「お馴染みの二人組」が、深い溜息をついた。
「……もう、見てられませんわね。あのお二人、結婚してからもバカップルぶりに拍車がかかっていますわ」
日焼けした肌に、実用的な作業着。かつて悲劇のヒロインを自称していたリリアンは、今や『ド・ヴァニラ流通』の現場監督として、逞しく成長していた。
「……言うな、リリアン。……私は、あの方たちが島に上陸した後の『荷運び』を想像するだけで、腰が砕けそうだ」
隣で大量のニンニク袋を担いでいるのは、元王子のアルフレッド。彼は今、キャメルの「直属の荷運び人」として、王国で一番の筋力を手に入れていた。
「でもアルフレッド様、私たち、前よりずっと健康になりましたわよね。……あのソースの毒も、キャメル様の激辛スープで完全に解毒されましたし」
「……ああ。皮肉なものだが、あいつにこき使われている今が、人生で一番『生きてる』実感がするよ。……さあ、仕事だ。白菜の鮮度が落ちたら、あの公爵様にまた凍らされるぞ!」
二人は元気に、大蒜の詰まった袋を担いで船倉へと消えていった。
キャメルは、そんな彼らの背中をちらりと見て、満足げに微笑んだ。
「ふふふ。皆、いい顔をしていますわ。……美味しいものを食べて、汗を流して、全力で今を生きる。これぞ、私が手に入れた『自由』の極みですわね!」
「その通りだ、キャメル。……君が変えたのは食文化だけではない。君は、関わる者全ての運命を『熟成』させたんだ」
レオナードが、キャメルの手を強く握りしめる。
「……さあ、行こうか。新しい味覚が、君を待っている。……そして夜には、私の『冷却魔力』をフル稼働させて、君を最高の状態で癒やしてあげよう」
「期待しておりますわよ、私の愛する冷蔵庫様!」
「……ふっ。……一生、君専用の保冷装置として仕えさせてくれ」
船は、赤い帆を風に膨らませ、未知の冒険へと突き進む。
かつて婚約を破棄され、全てを失ったはずの令嬢は、今や世界をその手で……いや、その「味覚」で掌握していた。
前世の記憶などない。魔法のような逆転劇も、ただの「食欲」と「執念」で勝ち取ったもの。
悪役令嬢キャメル・ド・ヴァニラ。
彼女の爆走は、世界が全ての刺激を食い尽くすその日まで、止まることはないのである。
船首には、かつて「悪役令嬢」と恐れられ、今は「食の救世主(キムチ聖女)」と崇められるキャメルの姿があった。
彼女は、黄金に輝く白菜型の特注望遠鏡を覗き込み、水平線の彼方を見つめている。
「……見えてきましたわ、レオナード様! あの雲の向こうにあるという、伝説の『七色に光る唐辛子』が眠る絶海の孤島が!」
「ああ、見事な視力だ、キャメル。君の情熱という名の熱探知能力には、最新の魔導レーダーですら敵わないな」
背後から彼女を抱き寄せ、優雅に冷気を放っているのは、ハデス王国の王太子となったレオナードである。
二人の結婚から数年。彼らの「新婚旅行」は、いまだに終わる気配を見せていなかった。
というより、世界中の珍味と刺激を求める「美食の遠征」へと進化を遂げていたのである。
「ふふふ! 七色の唐辛子を手に入れた暁には、私のキムチは宇宙の真理へと到達しますわ。……ああ、想像しただけで、顔面の筋肉が喜びで震えますわね!」
「……今の君の笑顔は、雷神と龍神を同時に怒らせたような凄まじい迫力だ。……素晴らしい。やはり君は、世界で一番私の心を凍りつかせ、そして熱くさせてくれる」
レオナードは、相変わらずの重症な溺愛ぶりで、キャメルの般若顔に熱い口づけを落とした。
その時、船のデッキを掃除していた「お馴染みの二人組」が、深い溜息をついた。
「……もう、見てられませんわね。あのお二人、結婚してからもバカップルぶりに拍車がかかっていますわ」
日焼けした肌に、実用的な作業着。かつて悲劇のヒロインを自称していたリリアンは、今や『ド・ヴァニラ流通』の現場監督として、逞しく成長していた。
「……言うな、リリアン。……私は、あの方たちが島に上陸した後の『荷運び』を想像するだけで、腰が砕けそうだ」
隣で大量のニンニク袋を担いでいるのは、元王子のアルフレッド。彼は今、キャメルの「直属の荷運び人」として、王国で一番の筋力を手に入れていた。
「でもアルフレッド様、私たち、前よりずっと健康になりましたわよね。……あのソースの毒も、キャメル様の激辛スープで完全に解毒されましたし」
「……ああ。皮肉なものだが、あいつにこき使われている今が、人生で一番『生きてる』実感がするよ。……さあ、仕事だ。白菜の鮮度が落ちたら、あの公爵様にまた凍らされるぞ!」
二人は元気に、大蒜の詰まった袋を担いで船倉へと消えていった。
キャメルは、そんな彼らの背中をちらりと見て、満足げに微笑んだ。
「ふふふ。皆、いい顔をしていますわ。……美味しいものを食べて、汗を流して、全力で今を生きる。これぞ、私が手に入れた『自由』の極みですわね!」
「その通りだ、キャメル。……君が変えたのは食文化だけではない。君は、関わる者全ての運命を『熟成』させたんだ」
レオナードが、キャメルの手を強く握りしめる。
「……さあ、行こうか。新しい味覚が、君を待っている。……そして夜には、私の『冷却魔力』をフル稼働させて、君を最高の状態で癒やしてあげよう」
「期待しておりますわよ、私の愛する冷蔵庫様!」
「……ふっ。……一生、君専用の保冷装置として仕えさせてくれ」
船は、赤い帆を風に膨らませ、未知の冒険へと突き進む。
かつて婚約を破棄され、全てを失ったはずの令嬢は、今や世界をその手で……いや、その「味覚」で掌握していた。
前世の記憶などない。魔法のような逆転劇も、ただの「食欲」と「執念」で勝ち取ったもの。
悪役令嬢キャメル・ド・ヴァニラ。
彼女の爆走は、世界が全ての刺激を食い尽くすその日まで、止まることはないのである。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
本の通りに悪役をこなしてみようと思います
Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。
本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって?
こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。
悪役上等。
なのに、何だか様子がおかしいような?
婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。
八雲
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。
普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!