婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの

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「……さて。晩餐会もいよいよクライマックス。今夜一番の見どころ、名付けて『自称・悲劇の王子、奈落へのカウントダウン』の開始ですわ!」


会場の中央で、私は再び魔法具の扇子を掲げました。
周囲の貴族たちは、今や私の毒舌を「真実を暴く神託」か何かのように崇め、一言も聞き漏らすまいと静まり返っています。


その視線の先には、先ほど噴水から上がったばかりの、ボロボロのウィルフレッド王子。
彼は震える手で、私の父であるオルブライト公爵に縋り付いていました。


「公爵! 頼む、エリーを説得してくれ! 彼女さえ戻れば、私の評価も、この滞りまくった事務作業も、全てが解決するのだ!」


「判定、入りますわよ! 殿下、今の発言。他力本願点、マイナス五京点ですわ! 自分の不始末を元婚約者の父親に泣きつくなんて、乳離れできていない赤ん坊の方がまだ自立心がありますわよ!」


私の声がホールに響き渡ると、公爵(私の父)は深々と溜息をつき、王子の手を冷たく振り払いました。


「……殿下。誠に残念ながら、私はすでにエリーと絶縁しております。……いえ、正確には彼女に『ポエムの才能の無さ』を実況され、完膚なきまでに親の威厳を粉砕されましたので、もう彼女に指図する勇気など一ミリもございません」


「お父様、判定合格ですわ! 自分の無能さを認めるのが、成長への第一歩ですわよ!」


私は父に親指を立てると、次に陛下の御前へと向き直りました。
国王陛下は、眉間を揉みながら、我が息子の無様な姿を凝視しています。


「陛下。監察官としての最終報告をさせていただきますわ。ウィルフレッド殿下による、過去三年の『やらかしリスト』です! 第一に、国家予算の一部を『マリア様を喜ばせるための移動遊園地』に流用。第二に、重要外交文書を『マリア様との折り紙遊び』に使用し、隣国との条約締結を三ヶ月遅延。そして第三に……!」


私は一呼吸置き、会場全体を見渡しました。


「……自分を支えていた婚約者を、自らのプライドを守るためだけに『悪役』に仕立て上げ、真実から目を逸らし続けた、その圧倒的な『知性の欠乏』ですわ!」


「う、嘘だ! 私は……私はただ、真実の愛を……!」


「はい、その『真実の愛』判定入ります! マリア様、どうぞ!」


私が促すと、マリア様がステップを踏むようにして王子の前に立ちました。
彼女の目は、かつての熱烈な恋心ではなく、冷徹な「実況者の弟子」の光を宿しています。


「王子様。……私、気づきましたの。王子様が私に優しかったのは、私が『扱いやすいドジっ子』だったからなんですわよね。でも、私、エリー師匠に教わりましたの。……本物の愛は、相手の間違いをバシバシ指摘して、一緒に向上していくものだって!」


「マ、マリア……?」


「王子様は私に甘いだけ。それは愛ではなく、ただの『甘やかしという名の毒』ですわ! ……今の王子様、情けなさすぎて、私のメモ帳の一ページを使う価値もありません! さようなら、残念な王子様!」


マリア様は華麗にくるりと背を向けると、私の後ろへと隠れました。
まさに、泥船からの完全な脱出(エスケープ)です。


「……ウィルフレッド」


玉座から、国王陛下の重々しい声が響きました。
陛下は立ち上がり、絶望に染まった王子を見下ろしました。


「……エリー殿の報告、そして今のマリア嬢の言葉。これ以上、耳を塞ぐことはできん。……貴殿から王位継承権を剥奪する。今後は辺境の塔にて、己の過ちと、そしてその乏しい事務処理能力を鍛え直すがよい」


「そ、そんな……! 陛下、父上! 私は……私はぁぁぁ!」


王子は衛兵たちに抱えられ、床を激しく蹴りながら引きずられていきました。
その姿、判定。
「失脚した英雄」ではなく、「駄々をこねる三歳児」として歴史に刻まれることでしょう。


会場には、かつてないほどの爽快な空気が流れていました。
汚職貴族も、無能な王子も、私のツッコミによって一掃されたのです。


「……エリー。これで、王宮の掃除はほぼ完了だな」


カイン様が、私の隣で優しく微笑みました。
その手には、新しい人生の門出を祝うような、透き通ったシャンパンが握られています。


「あら、カイン様。判定入りますわよ。今の笑顔、少しばかり達成感に浸りすぎですわ。……王宮が綺麗になったということは、これから私のツッコミの矛先は、全て貴方に向くということ。……覚悟はできていらして?」


「……ああ。望むところだ。一生をかけて、貴殿のガヤに応えてみせよう」


カイン様が私の腰を引き寄せ、会場中の注目を浴びながら、静かに、しかし情熱的に私を見つめました。


(ふふふ。王位継承権の断捨離、大成功ですわね!)


私は高くグラスを掲げ、自由と、そして新しい「愛のツッコミ」に満ちた未来に、乾杯を捧げるのでした。
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