俺の大剣(※武器)で魔獣を叩き割ったら、斥候が抜き始めた件

フジイさんち

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【斥候さん、悪癖です】

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「え、俺ぇ?」


こちらは、カロヴァンという街の、冒険者ギルドの受付カウンター。
しっぽのような赤銅色の長髪をくるくると指先で遊ばせながら、その男は素っ頓狂な声を上げた。――受付嬢が、目のやりどころをなくしている。

長袖のオフショルダー。だが首回りと腹に布がない。
カットアウトで腰から太ももまでが露出したボトムス。こちらは本来ポケットがある場所に、布がない。

本人が「防具だ」と言い張る軽装用のクロークは、かろうじてその肌面積を抑えるだけ。
尻を突き出すようにカウンターに肘をつけば、腰元のスリットから見えてはいけないブツが見えそうだった。

「……腕のいい斥候職の方をお探しで、今空いているのはライネルさんしか……」
「ええ~そんなん言ってどうせまた捨てられちゃうんでしょ~俺!」

ライネルと呼ばれたその露出の多い男が、大げさに首を傾げる。
色気の塊のような男だったが、冒険者たちはみな、遠巻きに見ているだけだった。

「……紹介するのも、ちょっと、気が引けますけど……」

受付嬢が小声で呟いたときだった。
ギルドの奥から、ひときわ重たい足音が近づいてきた。

――ぎぃ、と鈍く軋む革の音。
重装の鎧が擦れ合う音が、カウンターの空気を震わせる。

現れたのは、紺色の髪を後ろに流し、鋭い碧眼を細めるようにして、カウンターの前へと歩み出る……大柄な戦士だった。

「……あんたが、カッパーテールか」

その低い声に、ライネルがくい、と顔を向けた。その動きに、長い“しっぽ”が肩口からするりと落ちる。
戦士は、顔をしかめるでもなく、ただじっとその姿を見下ろした。……腰のスリット。露出した太もも。チラつく紐の気配。

(……なん、だ、こいつ……?)

受付嬢が恐る恐る口を挟む。

「ベルクさん。こちらが、今回ご希望されていた斥候職の中で……いちばん……実績がある方です……」
「…………」
「ふぅん?」

ひょい、と身を起こし、ライネルがぐっと、その戦士――ベルクへ顔を寄せた。近づいてくるその様に、ベルクの周囲にいた冒険者たちが、波のように引いていく。
本人はといえば、ライネルの露出の多さに、眉間にしわを、口元には引きつりを見せていた。

「あんたが斥候がほしい前衛?でっけぇな~!名前は?」
「……ベルクだ」
「ベルクかぁ~!なんか名前からして硬そうだな!」

ひくり、とベルクの頬が引きつる。周囲をちらりと、覗く。
捌けていった冒険者たちが、「やめとけ」という顔をしていた。

「俺ね、ライネル!確かにカッパーテールって呼ばれてるよ!」
「……、赤銅のしっぽか」
「ぴったしでしょ??まぁ、仕事はちゃぁんとするからさ、よろしくな、ベールク!」

にへら、と笑ったライネルが、一足先にギルドを出ていく。契約も何もかも、後は全てお任せ、ということだろう。
しようが、しまいがだ。
その後ろ姿を見送り、顔をしかめたまま、ベルクが受付嬢を振り返った。

「……あいつしか、いねぇのか?」

静かな低音に、受付嬢は肩をすくめた。すぐには答えず、視線を資料棚へと泳がせる。けれど――その仕草が、すべてを物語っていた。

「……腕だけで選ぶなら、間違いなくライネルさんです。斥候としての評価は、この周辺でも指折りで……」

言いかけて、また視線を逸らす。まるで「仕事においては信頼できます」とでも言いたげだった。

ベルクは短く息を吐き、眉間を押さえる。先ほど間近で見た、あの布地の少なすぎる装い。
スリットから覗く太もも。腰に揺れる赤銅の髪。そして――近すぎる距離感。

(……腕、だけ、な)

無言のまま、カウンターの契約書に視線を落とした。

「契約は、こちらに。初回依頼終了時までの仮同行扱いで組ませていただきます」

手早く説明を終えた受付嬢が、さらりと契約書を差し出す。
そこには既に、流れるような文字で……”Lynel”と、名が記されていた。

「…………」

ベルクは無言でその名を見下ろし、ゆっくりとペンを取った。



――ベルクが冒険者ギルドをあとにすれば、ギルド前の生け垣の縁にライネルが腰かけていた。
大扉から出てきたベルクをちらりと見て、わずかばかりに首を傾げる。赤髪が、またもするりと垂れる。

「あれ?マジで俺と依頼行く?」
「……ああ」
「はぇ~。ベルクはこの街初めて?」

ベルクの視線が太もものスリットに流れかけ、――憎々しげに目を逸らした。見たいわけではない。だが視線を誘導される。もはや罠だ。

「……昨日、着いた。お前は」
「俺はぁ、この街が拠点みたいな感じ?そっかぁ、外からの人だったら俺のこと知らなくてもしょうがないね!依頼は??」

身軽に立ち上がったライネルが、ベルクが持っていた依頼書を引き抜く。
カドラル、という魔獣の討伐依頼のようで、街から片道一日半ほどの場所だった。

「お前……」
「ライネルとかライでいいよ~」
「……お前、腕は立つんだろうな」
「腕”も”立つよ♡出発は今日?明日?」

――ベルク、沈黙。

”も”、ときた。じゃあ他に何が立つのか。……聞く気にはならなかった。

「……明日の朝一番に出る」
「オッケー!じゃ、東門で待ち合わせな!また明日!」

すり、とベルクの腕に一度すり寄り、ライネルは街の奥へ去っていった。



……ベルクは、しばらく開いた口がふさがらなかった。
まるで嵐のようだった。そして嵐は、何事もなかったかのように通り過ぎていった。

「……なんだ、あいつ……」

喉の奥から漏れた呟きは、風にすら拾われずに消えていく。

ギルド前に残されたベルクの傍らを、通行人が何人か通りすぎる。ちらりと視線を向けてきた者もいたが、その表情に”察した”色が浮かぶと、誰も言葉をかけてこなかった。

やや、脳が拒みつつも、理解を始める。そうか、あれと組む、というのは――あれに巻き込まれるということか。

拳を握る。無意識に、力がこもっていた。視線は無意識に、ライネルが去っていった方向。あの肌色だらけの服と、踊るような足取りが、まだ脳裏に焼き付いている。

「……頭が痛ぇ」

呟いて、ベルクはぐっと顎を引いた。いったん、宿へ戻る。装備の整備もある。明日、朝一番――東門。……“あれ”と……二人で……出るのだ……。

どこか、覚悟にも似た重さが、背中にのしかかっていた。





翌朝――。

交易都市カロヴァン。
定住の人口自体はそこまで多くはないが、行商人や旅人、傭兵、冒険者や巡回聖職者などの出入りが激しく、いわゆる”通る街”。
肌感覚で言えば、二万人都市なみの熱量がある街であった。

街門は北、東、南に三か所。大都市との連絡街道となる北門と、魔獣の森方面へ続く南門。
ライネルたちが待ち合わせをしていたのは、鉱山都市や山岳小道へと続く東門であった。

――その赤銅色の長髪は、遠目からでもすぐ目を引いた。
というか、しっぽのような髪がなくとも目を引く。大きくスリットの入ったズボン。むき出しの腹と鎖骨。腰に手を当てた色気まみれの立ち姿。
紫の目がちらりとベルクを見とめれば、にへらと緩い笑顔。

「おっ、来たじゃ~ん!依頼前に捨てられたかと思った♡」

パッと手を上げればクロークがひるがえり、腰がもろに露出する。――防御力のほどは、期待はできなさそうだ。

「……お前、雪山で真っ先に死ぬな」
「そしたら暖めて♡」
「黙れ」

ベルクに冷たくあしらわれながらも、ライネルは楽しそうにへらへらとしている。
周囲の商人や冒険者は目を逸らす者も多かったが、「ああ、カッパーテールか……」という視線もまた、多かった。

「依頼地の近くまで馬車出てるけど、ちょい混み。馬車待つ?歩きで行く?」

肩口に顎が乗る距離で、ライネルがそう問いかけてきた。――ベルクの眉が、ぴくりと動く。なんのつもりでこんなに近いんだ。

「……寄るな」

低く一言。だが、ライネルは怯む様子もなく、まるで冗談を楽しむように動きを緩める。
クロークの裾が、またふわりと揺れた。太ももの肌が露わになる。

ベルクは無言のまま、視線を依頼書に落とす。カドラルの出現地域は、街道を外れてからさらに半日の山道。
馬車で行けば当然早いが……”ちょい混み”……。コレを連れてちょい混みの馬車……?――いやだ……。

「……歩く。馬車は乗らねぇ」
「オッケ~」

軽い返事に視線を戻せば、紫の瞳がこちらを見ていた。肩口からは退いているが……ベルクは舌打ちを噛み殺し、背負った剣の柄に手をかけた。

「さっさと行くぞ。無駄口叩くなよ、カッパーテール」
「ええ……俺の身体だけが目当てなのね……」
「そういうとこだ……ッ!」

苦々しく口元を歪め、ベルクが踵を返す。背後から足音が軽やかに続き、振り返らずとも、あの斥候はついてきているとわかる。

街門を抜け、街道の先。
まだ空は青く、陽光が二人の影を伸ばしていた。



――《赤殻のカドラル群討伐》
【依頼内容】
山岳街道沿いの岩場にて、地中を掘削する魔獣「カドラル」の群れが発生。足場の崩落や輸送車の転落事故が相次ぎ、街道機能がほぼ停止している。
群れの中心には、全身を赤殻に包んだ特大個体が確認されており、他個体を呼び寄せる共鳴と、瞬時の地中潜行能力を有する。崖際での戦闘が避けられぬため、地形把握と迅速な制圧が求められる。

【討伐対象】
カドラル複数体+赤殻個体(特大)

【報酬】
金貨1枚+銀貨50枚

【注意事項】
・硬い甲殻を持つため通常の刃は通りにくい
・落石・崩落の危険あり/撤退経路の確保を推奨

【備考】
輸送路の遮断により物資高騰中。優先討伐依頼として掲出。



その日の夜の野営。
ぺらり、とライネルが、改めて依頼書に目を通していた。
伏せられた紫眼。燃える焚き火の赤い火に照らされる髪は、まるで炎の色と溶けあってしまいそうだ。
黙っていれば、端正な顔立ち。

「なんかムラムラしてきたなぁ」

――黙っていてくれれば、の話である。

「……はあ?」
「ムラついた!ちょっと抜いてくるわ!見張りよろしく♡」
「ああ!?」

何事かと目を見開くベルクを置き去りに、手近な木の上に消えていく斥候。……ひらひらと、依頼書が取り残される。

……うそだろ、と言葉を失う。
”抜いてくる”というのが自分の予想通りだとすれば、今は野営中だぞ、と。いや、しかし、もしかしたら何かこう、斥候特有の暗号のような――?

――はらり――

木の上から、布が一枚落ちてくる。
なにかと思ってベルクが手に取れば、――紐パンである。

「っあ、あはっ、落ちちゃった、ごめん持ってて♡」

――焚き火にくべてやろうかと、ベルクは思った。

「……ふざけんな」

焚き火の火ばさみを手に取ると同時に、指先がわずかに震えた。黒い……紐パンを……手にする自分。――いや、これもうほぼ紐だ……。

見上げれば、木々の間に気配。あの斥候が、枝の上にぬるりと潜んでいる。殺気も警戒もなく、ただただ“発情”という謎のテンションに身を任せた、ゆるい気配。

「……あの野郎、敵より先にぶっ倒し……」

頭を抱えそうになるのを、ぐっと堪える。
依頼は優先案件だ。ふざけている暇など――いや、ふざけてるのはあいつだ。

パンツはベルクの手によって、焚き火の隣にそっと放り置かれた。
くべるには惜しい、などではない。決して違う。これを燃やせば”あの”スリットからブツが見えてしまうのではないかという判断だ。
火がはぜ、ぱち、と音を立てる。その音に混じって、木の上からかすかに――息の洩れるような気配が降ってきた。

(……野営中だぞ、くそが)

だがしかし、引きずりおろす勇気もない。……もう諦めて、焚き火の前、ベルクはただ黙々と武器の手入れを始めた。できるだけ、耳を塞ぐようにして。



トン、と肩を押される感覚に、ベルクが目を覚ました。
薄目を開ければ、朝日を背に、ライネルが微笑んでいる。

「おう、起きろ~?そろそろ行くぜ!」

赤銅の髪がきらきらと光に透けている。
朝か――と思った瞬間、昨夜の”抜いてくる”発言を思いだし、眉間にギュッとしわが寄った。……目の前の男が妙にすっきりして見えるのが、また腹立たしかった。

「……黙れ」
「えっひどくない??今起こしてあげたよね俺?」
「……うるせぇ殺すぞ」

言葉の応酬をしながらも、野営地を撤収する。
斥候の男は口も軽いが、手つきもてきぱきとしており、そこらの冒険者と組むよりも断然作業がしやすかった。――目のやりどころ以外は。

軽いクロークがなびくたびに、腕も腰も腹も見える。ズボンのカットアウトからは、昨夜のパンツの紐が見える。
なんだったらその隙間から、見えてはいけない場所まで見えそうだ。

「おい見んな♡」

その視線に気づき、ライネルがへらりと笑った。これまた非常に苦々しい顔をして、ベルクが目を逸らす。

「……なんでそんなに開いてんだそこ……」
「え、だってムラついたとき脱ぐ必要ねぇじゃん!便利だぜ~!」

――朝っぱらから、頭を抱えた。無駄だ。こいつと話すのは無駄だ。諦観の眼差しで、ベルクは依頼地のほうを向いた。

「もう……黙って歩け。しゃべんな」

歩を速めながら、祈るように呟く。後ろでは、笑っている気配。
赤銅の髪が朝日に踊り、ぴたりと付き従ってくる空気が、背中から離れない。

見なければいいんだ――と。ベルクはどこまでも真っ直ぐ、前だけを見ていた。





「う~ん……」

そこから半日かけて被害現場にたどり着き、ライネルはきょろきょろと視線を彷徨わせていた。

向かって右側に谷。左側が崖。
街道は、馬車が二台すれ違えるかどうかというところだったが――その道の中ほどから、大きく崩落している。

崖下を覗き込めば、崩落に巻き込まれたであろう輸送車の残骸が見える。焼け焦げた荷物と、砕けた車輪。

「うわヤッバ。これで人死んでねぇの奇跡~」

同じように崖下を見下ろしていたベルクが、無言のままに小さく鼻を鳴らした。
身を起こしたライネルが、再び周囲に目をやる。崖上から崩落してきたのか、岩塊が多い。
一メートルほどの褐色の岩が、ゴロゴロと――。



――すっ、とライネルの腕が、ベルクを制した。ぴたりとその巨躯が立ち止まる。……無言。

岩塊が多すぎる。頭上の崖には、崩落痕はない。

しん――と岩場が静まり返る。



「わり、囲まれてたわ」

ライネルがそう言うや否や、腰元からワイヤーを射出し、崖上へと舞い上がっていく。
黙ってそれを見送ったベルクが、今一度前方へ視線を投げた。

ゴロゴロと転がる岩塊……ではない。――あれが、カドラルだ。


ギチ……とどこからか、軋むような音がした。

それに共鳴するように、岩塊のあちらこちらからギチギチと音が反響してくる。
チカ、と光を感じて視線を上へ投げれば、崖の小さな突起の上、ライネルが広範囲に腕を広げて指さしていた。

――そこから、あっちまで、全部敵――

そんなバカバカしい合図を受けて、ベルクはため息を一つつき、背中の大剣をぬらりと引き抜いた。

「……索敵、早ぇ。合図、早ぇ……」

低く呟くと同時に、ベルクの足が土を蹴った。
地面を裂く勢いで前へ。
手に持った大剣は、振るうというより、叩き伏せるように。

……ひと振りで、擬態を解いたカドラルの殻が弾け飛ぶ。地中へ潜ろうとする個体の殻ごと、地面ごと叩き割る。
崖の端すれすれ。足場の悪さなど、初めから考慮にない。

「ギィ……ギチ、ギチィィ……!」

残されたカドラルたちが、共鳴のような音を立て始める。
まるでこちらの動きに反応して、意識を共有するかのような動き。

――だが。
崖の上に張りついたままの斥候が、ひゅ、と何かを投げ、ついでパ、と手を広げる仕草をした。

(……閃光か破裂か!?)

わずかにベルクが目を細めた瞬間、――ぴし、と広がる閃光。
続けて投げられた小さな玉からは、白煙が噴き出る。目くらましと、そして攪乱。

「チッ、……手数、多い、合図、正確……くそが!」

これは、ちょっと戦いやすいかもしれない。ベルクが剣を逆手に構える。
後方、街道の岩陰からも、土を割って複数体が現れる。
視界の外から、潜行音。砂がうねる。

逃げ場のない、三方囲み。
それでも、ベルクの足は止まらない。
背を預ける者はいないが――こちらを見渡す者はいる。

ベルクの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
……踏み込みはやはり鋭く、次の一撃で、地鳴りが走る。
斬撃ではない、斧のような打撃が、魔獣たちの群れをまとめて薙いだ。



「やっば、カドラルってカニじゃん、カニ。焼いたら美味そ~」

誰に言うでもなく、崖上でライネルは軽口を叩いていた。
眼下ではベルクが、カドラルを確実に処理していく。全体重を乗せた縦の斬撃。
通常の刃は通りにくいとされるカドラルを、一刃に伏せていく膂力。

「……うっ、わぁ……♡」

――思わず、昂る。
ライネルは、男が好きなわけではない。ただ眼下で躍動する筋肉と、慈悲もない一撃。不壊を壊す暴力。……少々下半身がぞくりとした。

ううん、違う違う、それどころではなかった。崖に張り止めたワイヤーを軸に、振り子のように大きく奥へと歩を進める。
はるか下の街道では、ぞろぞろとカドラルたちがベルクに向かって行軍していく。……ので、崖を伝って移動しながらも、眼下のカドラルたちにスモークを落としていく。



はるか前方に煙幕が上がるのを見て、ベルクは一瞬だけ崖上に目をやった。
赤銅のしっぽが……崖面の小さな突起を足掛かりに、遠ざかっていく。あれは恐らく、赤殻を探しに行った。

「……っは、気も利く」

眼前では、煙幕の影響でカドラルたちの進軍速度が下がっていた。視界内、鋏をガチガチと鳴らす数体を、まとめて水平に薙ぎ割る。
煙幕の外側からにじり寄ってくるカドラルも、足をたたき割れば無力化できた。崖下へ突き落とせば、ぐしゃりと鈍い音。

ちょうどいい、準備運動だった。



刃が唸る音を背に、二、三分……街道沿いの崖面を奥へ進んでいったライネルの進路上で、――赤殻のカドラルは、逃げるでも隠れるでもなく、王のように鎮座していた。
こちらにはまだ気づいていないが、明らかに何かを感知するように、突き出た目玉を動かしている。

「お、いた」

……かといって、あれの相手をするのは自分の仕事ではない。戻り、ベルクにこれを伝えるのが役目。
ライネルが大まかな距離を測り、体勢を変えた途端、ズズン……と地響きを鳴らし、赤殻が崖面に潜り込んでいった。

「やっべ、あっち行っちゃったかぁ」

声音に焦った色がなかったのは、さきほどの無情なまでの”叩き割り”が脳裏にあったからか。
それでもなんとかしてくれそうだな、という、ぼんやりとした信頼の芽があった。



ベルクの足元、地面がごくわずかに隆起する。その感覚を察知すると同時に、大剣を逆手に振り抜いた。
刃が地を裂き、潜ろうとしたカドラルの背殻を叩き割る。

(――違う。こいつじゃねぇ)

と、すぐそばの崖の中腹……煙の向こうから、ドン、と鈍い音が響く。岩が揺れ、砂利が弾ける。

「……なんだ……」

ベルクのぼやきに合わせたように、周囲のカドラルたちが突如として、一斉に動きを止めた。
まるで何かの合図を受けたように、地面へ潜り込み始める。――わずかに遅れて、地鳴り。


――ズン。
……ズズン……!


わずか下の崖の斜面……木々の根を割り、赤殻の巨影が地を揺らしながら這い上がってきた。そのサイズは――カドラルたちの倍はある。
鋏は、まるで鍛冶屋の万力のように分厚く、胴を覆う殻は、深紅というより、焼けた鉄のように黒く艶めいていた。

「ッ――来やがったな」

ベルクが一歩踏み出すと同時に、崖上の斥候がワイヤーを跳ねた。
視界の端で、ひらりと赤銅のしっぽが空を滑る。赤殻の真上へ、ライネルが上から煙幕を叩きつける。
――正確には、殻の継ぎ目へ。

煙が渦を巻き、赤殻の動きがわずかに鈍った。……というよりは、混乱しているような動き。何をされたのか、といったところだった。

その隙に、ベルクが前へ出る。
地を蹴る。風圧を巻き起こす勢いで、大剣が頭上に振りかぶられ――

「――ふッ!」

鋭い息と同時に、重さと速さを兼ねた斬撃が、赤殻の腹を正面から叩き割った。
硬い音と肉の裂ける音が混ざり、赤殻の巨体が、がくり、と傾ぐ。

だが、……まだ沈まない。
赤い甲殻が、まるで再び硬化するように、黒光りを増していく。

崖の上、ライネルの体勢が低くなる。
……風で、全体の煙幕が薄くなってきているものの……さきほど赤殻に放ったスモークが、また漂い始めている。
しかし残るカドラルたちが、赤殻の負傷を受けて、地中からちらほらと姿を現し始めている。

見ている限り、視力と音で敵を追っているかのようだった。鋏をこすり合わせてギチギチと鳴らす音で、意思疎通を図っているのかもしれない。

(当たればラッキーだなっ)

びっ、とライネルの手から、谷の上空に向かって爆弾が放られる。
破壊力などない、音だけのそれ。……空中で爆ぜれば、耳障りな鋭い音がする。……それが、煙幕で視界を失ったカドラルたちを誘引した。

「ッ!」

ぐ、と片耳を押さえるようなベルクの仕草。鼓膜が、というほどではなかったものの、なにぶん合図がなかった。
ぎろ、とライネルのほうを睨めば、ごめん、とでも言うかのようにきゅっと突き出された下唇。……くそ、結果が伴ったからこそ、許す……。
ベルクの視線の先では、次々に崖に身を投じていく褐色の影。ぐしゃり、めしゃりと眼下から鈍い音がする。
何匹かは崖を伝って戻ってきた個体もいたが、崖縁に足をかけたところでベルクの大剣に叩き伏せられた。



ギチ、ギチ、と――煙の向こうから、再び赤殻が姿を現す。
まだ閃光の余韻があるらしく、完全に音と振動だけでベルクに向かってきていた。

巨大な鋏からはガチガチと、甲殻からはギチギチギチギチと軋んだ音がする。
それを合図に、行き場をなくしていたカドラルたちが、兵のように集ってくる。
ガチガチャ、ギチギシ、キチキチキチ、と様々な音が交わされていく。

「うっわぁうるせぇ!厄介!」

大きく後退したライネルが、肩で片耳をおさえながら笑う。――アイツっ、とベルクが目で追ったが、去っていったその動線上では……点々と崖面や地面に、杭と支柱が差し込まれていた。

「俺こっちで撤退経路作っとくから!あとよろしく~!」

ひらりと軽やかに振られる手に、返事はせずに、眉だけを動かす。徐々に集まるカドラル。散々に掘削されてしまった地面は、ぐらぐらと振動している。……崖下へ崩れるのも、時間の問題。
遠ざかっていく赤銅の気配に、ベルクは一つだけ、鼻で笑った。


「上等だオイ」


狙うは赤殻、ただ一点。
――ッガィン!、とベルクが大剣を地面に叩きつければ、それは巨大な戦斧の形状に変形した。

碧眼が、ぎらつく。

「仕留めてやるよ」



風が、裂けた。
崖を囲う煙の帳が、ベルクの一歩で吹き飛んだ。
変形した戦斧は、もはや“武器”というより“凶器”だった。鉄塊の質量と殺意を兼ねたそれを片手に、ベルクは突進する。

赤殻のカドラルが、鋏を振り上げた。その一撃は、小型の魔獣を一撃で潰すであろう重さと速度。

だが――遅い。

「……っらぁ!!」

戦斧が、振り上げた鋏を下から跳ね上げるように叩き潰す。一撃で甲殻が裂け、赤殻の腕が軋み音と共に弾け飛んでいく。

もう一撃。……今度は横薙ぎ。うねるような一閃が、赤殻の胴を削り飛ばす。

だが、赤殻も止まらない。
共鳴音とともに、背中の殻が開き、無数の脚が蠢く。
キチキチ、ギシギシ……呼ぶ音だ。地面が揺れ、周囲のカドラルが再び地中から湧き出す。

「……しつけぇんだよ」

ベルクの目が、殺意の色で染まる。全身を覆う土と砂塵……だが、ここには、恐れも戸惑いもない。
むしろ、笑みがひとつ。

――なら、一網打尽だ。

ベルクが振りかぶった戦斧が、今度は地面に突き立てられる。
抉る。穿つ。巻き込む。

戦斧が突き立てられたそのすぐ足元から、崖際の地面が、まるごと隆起し、割れていく。
――、崖が崩れる。
赤殻とカドラルたちを飲み込むように、岩と土がごうごうと流れ落ち……鋏を振るう影が、断末魔のような軋みと共に砕けていく。

砂煙の中。
耳障りに鳴り続けていた音が、――止んだ。

ようやく訪れる、静寂。

「……チッ。初めからこうすればよかったか?」

戦斧を肩に担ぎながら、ベルクが崖の縁から睨み、見下ろす。肩で息を整え、一つ大きく呼吸をする。
一歩踏み出せば――

「あッベルクそこダメ!!」

ライネルの鋭い声とともに、ガラリと足場が崩れた。
一瞬の浮遊感――。咄嗟に武器を手放すが、何より自分が重かった。

「――っ!」

ベルクの巨体が、ずるりと崖縁から落ちかける……瞬間、ピシュッと空を裂く音。

鋭く射出されたワイヤーが、ベルクの胸当てと身体の間に突き刺さる。
ライネルが片足を支点に固定し、腰から突き出したアンカーを締め付けていた。

「うおお、あっぶねぇ~!!」

ギリギリと崖に打ち付けられた滑車がうなり、ベルクの体が引き戻される。
へらりとした表情は変わらないまま、ただしっかりと、絶対に落とさぬように。

「っ……」

ありがとうだとか、助かっただとか、それらが咄嗟にベルクの口から出ることはなかった。助けられた、という事実よりも、ワイヤーフックの先端が、身体のギリギリを通り過ぎていったことに目を見張る。
あの一瞬で、この精密さ。頭も腕もおかしい。

引き上げられる力を反動に、ベルクが崖上にのし上がる。
転がっていた武器を手に取り、大剣の形状に戻す。それを背に。

駆け寄ってきたライネルと揃って崖下を覗けば、カドラルたちの死骸累々。

「……素材回収が面倒だな」
「だな~!てかお前あれ何?なんか武器の形変わってなかった?」
「……あれは、」
「いやぁ!ヤバかったなぁ!俺超興奮したわ!!お前すっげぇ強ぇんだもん!ごめんちょっと抜いてくる♡」
「ッッああ!?」

お前、俺まだ”ありがとう”言ってねぇぞ、というような複雑な顔をするベルクを尻目に、ライネルがさっさと街道わきの岩陰に消えていく。

――ここまでくれば、ベルクもちょっとわかってきた。
ライネルの”問題行動”は、恐らく、というか絶対に、”アレ”だ。

「……信じらんねぇ……頭イカれてやがる……」

静かに、額を押さえた。
……いや……別に……俺だってそういうコトをしないわけじゃない……。でも”今”じゃないのは誰がどう見たって明らかだろう……!!
そんな嘆きを口にしたところで、どうせ自分とヤツしか聞いていないのだから、……声の無駄遣いというものだ。深すぎるほどに深いため息をつくに留める。

岩陰では、風にあおられたクロークの裾が揺れている。
あの隙間から、また何かが飛んできやしないかと――反射的に距離を取る自分が情けない。

(……にしても)

あのワイヤーの精度。
あの距離で、身体を貫かず、装備の隙間だけを通した。

ライネルのあの軽薄さに隠されてはいるが、実力は確かだった。判断も、速度も、手玉の多さも、滑車があったとはいえ――あの細身で戦士の自分を引き上げたことも。

(……本当に“斥候”か、あいつ)

ぼやきながら、崖下の惨状に視線を戻す。カドラルの甲殻が散らばり、砕かれ、まるで山肌に不細工な花を咲かせたかのようだった。

――風が抜ける。
岩陰からは、また変な息の音と、なにやらの音。いや、もう……わかっていても、耳に入れたくない。

「……死ね、ちくしょう……!」

どかりとその場に胡坐をかき、ベルクは周囲に警戒を張った。封鎖された街道とはいえ、人も魔獣も絶対に通らないとも限らない。
まして、背後では無防備真っただ中の斥候。湿った音と荒い息が聞こえる。いやもう本当に頭おかしい。

「っあ~~マジやばかったんだよベルクぅ……っ♡お前ホント強ぇし、カドラルも一発で叩き割っちまうしぃ♡」
「るせぇッ」
「お前が戦う姿すっげぇ興奮するわ~!たまんねぇ♡」


ミシっ、とベルクの背が軋んだ。
――ということは何か、あいつは俺に発情しているのかと。

――それはちょっと違くないか?、と。



しばらく頭を抱えたのち、重い身体がザリ、と立ち上がる。
岩陰に足を運ぶ。物陰からの、音と、呼吸。思い起こせばこの斥候、どこか思わせぶりな男だった。
距離は近い、常に見つめてくる、何かにつけて触れてくる、声は甘ったるい。

……覗き込めば、岩に背を預けるようにしゃがみこむ姿。
スリットから手を差し込み、ズボンの下で……今もなにごとかが行われている。

しなやかな腹筋には汗がにじみ、赤銅のしっぽを掴んで口元を覆っていた。――潤んだ紫眼が、ベルクを見上げる。

「……え、なにぃ??」
「誘ってんのかお前」


ぎらり、と碧眼で見下ろす。
元来そういった対象は女だが、どうにもこの男は色気がありすぎた。

――こいつなら、いける。

がしりと肩を掴めば、紫の瞳がぱちりと瞬き――

「え、え、なんでなんで違う違う!!そういうんじゃねぇじゃん!待って待って待って!!」

――猛烈な拒絶。
ベルクの動きがビタリと止まる。

「……はぁ!?」
「なななんで俺がベルクを誘ってるってことになんだよ!すけべ!」
「……なんっだそれてめぇが言うな!!」

なぁ……、な…………、ぁ…………。

……ベルクの怒声が、悠々と山間に響いた。怒鳴った拍子に、鳥が何羽か飛び立つ始末。
もうこの男わかんねぇ……。こめかみの血管が、今にもブチ切れそうだった。

「お前も俺のこと抱こうとすんのかよ!!ケダモノ!!」
「てめぇにケダモノって言われたく……待て”も”ってなんだ!他にも抱かれてんのか!」
「ぎゃああ無理無理抱かれるとか無理!!マジ無理極まりねぇ!!」

なん、だそ、りゃ!!、と、両手やら全身やらで怒りと呆れを表現しながら、ベルクが荒々しく頭を掻いた。
岩陰の斥候は、というと、それでもズボンの奥に手を突っ込んだまま、慌てて後ずさっている。もはや見えてはいけない場所以外、あらゆる肌が見えていた。汗、肌、紐、そして――色気という名の暴力。
がし、と地面を蹴る音。鋭く踵を返して、とにかくその姿を視界に入れないように距離をとる。

「素材回収して帰るぞッ!」
「ええ?ちょ、あと二回……」
「二か……ッえろボケ野郎が……!!」

絶句寸前だったベルクだが、……なんとか悪態が出てくる。防衛線だ――心の。
背後では「え~~!?」という呑気な声と、笑い混じりの息。……ダメだ。効いてねぇ。


山風が吹き抜ける。汗まみれの戦闘と発情斥候の後始末。
そして、戻るには遠すぎる街道。

ベルクは、天を仰いだ。

「……帰りてぇ……!」





妙に晴々とした斥候の先導のもと――。

ベルクは、精神をドッと疲弊させて崖下へ降りていた。
崖上から張られたロープが、大の男ふたりでぶら下がってもビクともしないのがまた……腹立たしい。

谷底にたたきつけられたカドラルたちは、素材としての価値はもうなさそうだったが、赤殻だけはその硬さもあいまって、しっかりと元の形状をとどめていた。

「さっさとはぎ取って帰ろうぜ~!もうこんな時間だしよ?」
「……誰のせいで時間食ったと思ってんだ……」

戦闘後の”処理”の時間もあり、もうすっかり夕方。他人ごとのように笑う斥候に、やはり殺意が湧きかける。
だが、認めたくはないが、とても悔しいことに、まがりなりにも一瞬でも欲情してしまったのも確か。……ギリ、と奥歯を噛みしめる。ホントになんなんだこいつはと。

「……マジでわかんねぇ。”俺が戦うのがいい”ってなんなんだ」

腰から引き抜いた短剣を、ベルクが、ガキッ、と赤殻の継ぎ目に突き立てた。てこの原理で肉から切り離しながら、傷の少ない箇所を選りとって剥いでいく。

「ええ?そりゃあお前、魔獣を完膚なきまでにぶっ潰すんだもん♡」
「……”俺”ではねぇんだな?」

ぞりぞりと進む解体。傍らにしゃがみ込む斥候は、両手に頬を預けてそれを見つめている。

「う~ん、ベルクではねぇな!戦う姿!」
「……じゃあ、俺以外が戦う姿でも――」
「それは何か違ぇな、お前が戦う姿かな??」
「なんだそりゃ……!」

もう、話せば話すほど泥沼だ。命張った上に――オカズにされるとは。赤殻をはぎ取る腕にも、力が入る。

「特にあの斧形状見た時ヤバかったな♡容赦ねぇんだもん♡」
「……容赦なくされてぇのかてめぇは……」
「あっそれは違う。マジお前じゃなかったら即喉元ナイフ案件。冒険者連中はほとんど撃退済み♡」

ああ、おまえ”も”ってそういうことか、という頭と、――そんなサカってたらそりゃそうだ、という頭と、じゃあ何故俺は良いんだ、という頭があったが――頭痛が激しくなりそうで、ベルクは黙々と、作業の手を進め続けた。



赤殻の素材は思ったよりしっかりしていた。
関節部を丁寧に外していけば、売り物になる程度には損傷も少ない。

「よし、じゃあ俺それ上に運んどくな~」

剥ぎ取りが済んで重なり始めた甲殻を確認したライネルが、腰袋からワイヤーと固定具を取り出し、軽々と一枚の殻を背負っていく。
野営の時も、戦闘中もそうだったが、やはり動きは落ち着いており判断も的確だ。

(……黙ってれば、優秀なんだよな)

戦場での連携。攪乱のタイミング。崖の引き上げ。撤退経路。
『腕だけで選ぶなら』、というギルドの受付嬢の言葉を思い出す。……今ならとてもよく意味が分かる。

――はぁ、ともう一つだけついたため息は、谷底の風に乗って消えていった。





街道を歩くベルクの足取りは、妙に重かった。身体的にも精神的にも疲れた。
風に揺れる外套の内側、ふと手を突っ込んだポケットの中で、柔らかくしなる感触がある。

取り出せば、紐つきの布だ。見覚えはあるが覚えはない。

「……なんで、俺がこんなもん持ってんだ」

小さく吐き捨てた声と同時に、背後から砂利を蹴る音。

「うおおベルク!あった!それ俺のパンツ!」

振り返るより早く、斥候がぴょんと横に並んだ。

「拾っててくれたん?ありがと♡匂い嗅いだ?」
「嗅ぐか!殺すぞ!」

思わずギリィっと手の中で握りしめた危険物を、勢いよく赤銅の頭に叩きつける。

「二度と近づけんな!!」
「うわっ、ひでっ、投げないでよ、俺の大事な装備~」
「そんな布地なさすぎる装備ねぇだろ!」

頭上から落ちてきた下着をひょいと摘まみ上げ、ライネルは何のためらいもなく腰元に突っ込んだ。
ベルクの隣を並び歩きながら、なにやらこう、もぞもぞと、器用にもそのまま着用していく……。……スリットからはやはり……パンツの紐が、しれっとはみ出している。

(……履く意味ねぇだろ)

ベルクは頭を振って前を向いた。今見ていたのは、これは、違う、人間は動くものを目で追う習性があるからで、決して、――決して、へぇそうやってつけるのかなどという観察ではない。

街道は、徐々に人の気配が濃くなりつつある。
もういい、ここから馬車に乗ろう。このまま……また野営にでも突入しようものなら、もう、……自信がない。


冒険者ギルドで、遠巻きに見ていた冒険者たちを思い出す。
……ライネルの”悪癖”に巻き込まれ、”斥候”としてのこいつを諦めた奴ら。

「…………」
「……難しい顔してんね?溜まってる?」
「溜まってねぇッ!!」

――怒鳴りも板に染みついてきてしまった。明日以降の同行をどうするかは……後で考えることにした。





――【斥候さん、悪癖です】
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