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入江朔夜は、紙を手にしたまま呆然としていた。
十五歳になると行われるもう一つの性の検査。決して長身ではないが大きな目とふっくらとした唇を持つ特徴のある容姿、『綺麗系男子』とよく噂されていた。成績は常にトップ。一家代々アルファの家系、そして全員が医者。誰もが、彼をアルファであると信じて疑わなかった。なのに、紙に記されていたのは、
『オメガ』の文字。
結果は両親に届く。先に子供が結果を見て、受け入れられずに黙秘することを避けるためだ。ベータであるならとにかく、アルファやオメガは、その性により大きな影響を受ける。特にオメガの発情期は、十五歳を過ぎればいつ始まってもおかしくない。故に、誕生日を迎えたと同時に行われるのだが、あまりに意外すぎる結果に、彼自身はもちろん両親も検査が正しく行われたのか、誰かの結果と間違っていないか、疑いをかけたものだ。
しかし、結果を違えれば社会的に大問題になる。何重にもチェックされた上でこれが届けられているはず、検査のやり直しを要求するのは単なる時間の無駄だ。
両親は言いようのない表情を浮かべている、それもそうだろう。彼らは子供の中で最も優秀な彼に、経営している病院を任せようとしていたのだ。だが、オメガとなれば話が変わる。彼に継がせることはできない。人の命が何よりも優先される場所。そんな時に発情などしたら、命が救えなくなるどころか、周りにいるアルファも巻き込むことになるからだ。そして、オメガの影響は、両親や、すでにアルファ認定されている兄、そして、検査にはまだ年数があるが、おそらくアルファであるだろう妹にも及ぶ。
両親は、決断せざるを得なかった。
「朔夜。あなたは明日から、ここで生活することになったわ」
母は、資料を渡す。
「納得がいかないことも多いと思うけれど、これがきっと最善の方法なの。わかるわよね?」
念を押すように告げられ、呆然としていた朔夜の瞳に、戸惑いの色が見える。
「もちろん、生活には困らないようにするわ。多英さんも一緒。お金のことも考えなくていい。全部こちらでまかなう。学校もそのまま通って構わない。ただ、オメガであることは報告しないといけないから、それでもいいってあなたが思うのなら、になるけれど」
勝手に進められていく話に、よく回るはずの朔夜の思考は、完全に動きを止めてしまっている。いや、理解はしているが感情が受け入れることができないと言うべきか。
「どうだ? 朔夜」
それまでずっと黙っていた父が、一言。問いかけではあるが目を見ればわかる。
拒否権は、朔夜にはない。
「わかり、ました……っ」
しばしの沈黙の後、小さく呟き。
ぎこちなく彼は首を縦に振った。
十五歳になると行われるもう一つの性の検査。決して長身ではないが大きな目とふっくらとした唇を持つ特徴のある容姿、『綺麗系男子』とよく噂されていた。成績は常にトップ。一家代々アルファの家系、そして全員が医者。誰もが、彼をアルファであると信じて疑わなかった。なのに、紙に記されていたのは、
『オメガ』の文字。
結果は両親に届く。先に子供が結果を見て、受け入れられずに黙秘することを避けるためだ。ベータであるならとにかく、アルファやオメガは、その性により大きな影響を受ける。特にオメガの発情期は、十五歳を過ぎればいつ始まってもおかしくない。故に、誕生日を迎えたと同時に行われるのだが、あまりに意外すぎる結果に、彼自身はもちろん両親も検査が正しく行われたのか、誰かの結果と間違っていないか、疑いをかけたものだ。
しかし、結果を違えれば社会的に大問題になる。何重にもチェックされた上でこれが届けられているはず、検査のやり直しを要求するのは単なる時間の無駄だ。
両親は言いようのない表情を浮かべている、それもそうだろう。彼らは子供の中で最も優秀な彼に、経営している病院を任せようとしていたのだ。だが、オメガとなれば話が変わる。彼に継がせることはできない。人の命が何よりも優先される場所。そんな時に発情などしたら、命が救えなくなるどころか、周りにいるアルファも巻き込むことになるからだ。そして、オメガの影響は、両親や、すでにアルファ認定されている兄、そして、検査にはまだ年数があるが、おそらくアルファであるだろう妹にも及ぶ。
両親は、決断せざるを得なかった。
「朔夜。あなたは明日から、ここで生活することになったわ」
母は、資料を渡す。
「納得がいかないことも多いと思うけれど、これがきっと最善の方法なの。わかるわよね?」
念を押すように告げられ、呆然としていた朔夜の瞳に、戸惑いの色が見える。
「もちろん、生活には困らないようにするわ。多英さんも一緒。お金のことも考えなくていい。全部こちらでまかなう。学校もそのまま通って構わない。ただ、オメガであることは報告しないといけないから、それでもいいってあなたが思うのなら、になるけれど」
勝手に進められていく話に、よく回るはずの朔夜の思考は、完全に動きを止めてしまっている。いや、理解はしているが感情が受け入れることができないと言うべきか。
「どうだ? 朔夜」
それまでずっと黙っていた父が、一言。問いかけではあるが目を見ればわかる。
拒否権は、朔夜にはない。
「わかり、ました……っ」
しばしの沈黙の後、小さく呟き。
ぎこちなく彼は首を縦に振った。
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