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マンションに到着し、ロックを解除してもらい中に入る。部屋に向かうと、出迎えてくれたのは多英ではなく朔夜本人だった。
「あれ? 多英さんは」
「今出かけてる。いろいろ用事抱えてるみたいで、帰るのも遅くなるって言ってた。どうぞ入って。多英さんいないから、何も用意できないけれど」
思った以上に元気な様子に、ほっとする。姿を見るまでは不安もあったが、今日学校を休んだのが本当に大事を取ってのことだと言うことがわかったからだ。
「それは構わないよ。もう、休んだりしなくて平気なのか?」
「うん、大丈夫。ちょっと調べ事してたくらいだもん。今、その途中でさ。俺の部屋でいい?」
話ができるのならどこだって問題がないので、了解の意味で頷く。訪れた朔夜の部屋は本当に作業の途中だったようで、机の上に立ち上がりっぱなしのノートパソコンと、近くに資料がいくつか転がっていた。
「何について調べてたの?」
「あ、ちょっとね……。大したことじゃないよ」
単刀直入に聞けば、はぐらかされる。本来の一真の性格なら、納得がいかずに更に問いただすところだが、今日はやめておく。一つは朔夜の体調のこと、そしてもう一つは、持ち込んだ問題を、いち早く伝えなければならなかったからだ。これ以上の処理をする能力は、現在の一真には備わっていない。
「で、話って?」
それを知ってか知らずか、朔夜は尋ねる。どうしようかと思ったが、これ以上あれこれ考えてもどうにもならない。なので、
「朔夜、聞いて。学校でとんでもないことが起こってる」
一真は、意を決して話し始めた。
「そう……」
覚えている限り詳細に伝えると、朔夜は視線を逸らし、辛そうに瞼を閉じた。それが、一真に刺さる。こんな表情をさせたくない、けれど、現実は現実。予備知識があるとなしでは、実際に現場に立ち会った時に対応できるものが違ってくる。朔夜にとって、困難であることには変わりないが。
「でも、なんでこんな事になったんだろうな」
「えっ?」
「だって、オメガだってわかってから、抑制剤飲んでたんだろ? 確か……、ウチに勤めてるオメガの人達が言ってたけれど、薬があえば、発情期が来てもほとんど症状が出なくて済むことが多いって。それでみんな問題なく働いてる。もちろん、会社にオメガの報告義務はあるけれど、って……」
一真は首をかしげながら言う。その認識は間違っていない。だが、調べていてわかったがその薬に出会えるオメガは少ない。朔夜の場合もそうだ。いくつもある薬の一つを『試しに』使っていた。副作用も出ていたが、症状を押さえ込むことに成功していたのかどうかはわからない。
そして……。
(たぶん、あれだ……)
朔夜には、思い当たる節があった。保健室で養護教諭に言われたこと。もし、あの事が誰かに聞かれていたのなら。それとも、本人がどこか生徒がいるところでそのような話をしていたら、話は噂になり、尾ひれと背びれがついて、ドンドン広がっていく。
どちらにしろめんどくさいことになったな、と大きくため息をついた時。
「えっ……?」
何かが、おかしい。
吐いた息が、妙な熱さを含んでいた。
普通の発熱ではない、昨日のようなどうにもならない怠さはない、が。代わりに。なかなか治らない傷がじくじくと訴えるように、身体の中が疼く。
「あっ。ちょ……っ」
突然の感覚に、思考が追いつかない。疼きは一気に全体に広がり、制御ができない。
(ヤバい! これ……っ)
『発情期』。これが、たどり着いた答え。そう言えば、昨日倒れて以来、薬を全く飲んでいない。そのお陰で今日は倦怠感もなく動けていたが、よりによって、一真がいる時に!
「かず、まっ。……かえ、って」
これ以上発情しないようにと、自分を抱え込むようにして朔夜は呻く。だが、
「うわっ!」
ものすごい力で、床に縫い付けられた。痛みに耐えきれず、思わず目を瞑った朔夜が次に感じたのは、唇に何かが触れたと言うこと。
「えっ……?」
呟いたタイミングで、何かがねじ込まれる。それが、一真の舌だと気づくまでに数秒かかった。
「んっ! んんーっ!!」
なんとか離れようと必死に暴れても、体格で負ける。とても逃げられない。その間にも、着ていたシャツはまくし上げられ、あらわになった胸の尖りに手が触れる。
「やっ。 やだっ! やめてっ……、一真っ!!」
そう叫ぶと共に、彼の瞳を見つめた朔夜は驚愕する。
そこには、いつもの十三歳の少年ではなく。発情し、欲に飢えた男の姿があった。
「あれ? 多英さんは」
「今出かけてる。いろいろ用事抱えてるみたいで、帰るのも遅くなるって言ってた。どうぞ入って。多英さんいないから、何も用意できないけれど」
思った以上に元気な様子に、ほっとする。姿を見るまでは不安もあったが、今日学校を休んだのが本当に大事を取ってのことだと言うことがわかったからだ。
「それは構わないよ。もう、休んだりしなくて平気なのか?」
「うん、大丈夫。ちょっと調べ事してたくらいだもん。今、その途中でさ。俺の部屋でいい?」
話ができるのならどこだって問題がないので、了解の意味で頷く。訪れた朔夜の部屋は本当に作業の途中だったようで、机の上に立ち上がりっぱなしのノートパソコンと、近くに資料がいくつか転がっていた。
「何について調べてたの?」
「あ、ちょっとね……。大したことじゃないよ」
単刀直入に聞けば、はぐらかされる。本来の一真の性格なら、納得がいかずに更に問いただすところだが、今日はやめておく。一つは朔夜の体調のこと、そしてもう一つは、持ち込んだ問題を、いち早く伝えなければならなかったからだ。これ以上の処理をする能力は、現在の一真には備わっていない。
「で、話って?」
それを知ってか知らずか、朔夜は尋ねる。どうしようかと思ったが、これ以上あれこれ考えてもどうにもならない。なので、
「朔夜、聞いて。学校でとんでもないことが起こってる」
一真は、意を決して話し始めた。
「そう……」
覚えている限り詳細に伝えると、朔夜は視線を逸らし、辛そうに瞼を閉じた。それが、一真に刺さる。こんな表情をさせたくない、けれど、現実は現実。予備知識があるとなしでは、実際に現場に立ち会った時に対応できるものが違ってくる。朔夜にとって、困難であることには変わりないが。
「でも、なんでこんな事になったんだろうな」
「えっ?」
「だって、オメガだってわかってから、抑制剤飲んでたんだろ? 確か……、ウチに勤めてるオメガの人達が言ってたけれど、薬があえば、発情期が来てもほとんど症状が出なくて済むことが多いって。それでみんな問題なく働いてる。もちろん、会社にオメガの報告義務はあるけれど、って……」
一真は首をかしげながら言う。その認識は間違っていない。だが、調べていてわかったがその薬に出会えるオメガは少ない。朔夜の場合もそうだ。いくつもある薬の一つを『試しに』使っていた。副作用も出ていたが、症状を押さえ込むことに成功していたのかどうかはわからない。
そして……。
(たぶん、あれだ……)
朔夜には、思い当たる節があった。保健室で養護教諭に言われたこと。もし、あの事が誰かに聞かれていたのなら。それとも、本人がどこか生徒がいるところでそのような話をしていたら、話は噂になり、尾ひれと背びれがついて、ドンドン広がっていく。
どちらにしろめんどくさいことになったな、と大きくため息をついた時。
「えっ……?」
何かが、おかしい。
吐いた息が、妙な熱さを含んでいた。
普通の発熱ではない、昨日のようなどうにもならない怠さはない、が。代わりに。なかなか治らない傷がじくじくと訴えるように、身体の中が疼く。
「あっ。ちょ……っ」
突然の感覚に、思考が追いつかない。疼きは一気に全体に広がり、制御ができない。
(ヤバい! これ……っ)
『発情期』。これが、たどり着いた答え。そう言えば、昨日倒れて以来、薬を全く飲んでいない。そのお陰で今日は倦怠感もなく動けていたが、よりによって、一真がいる時に!
「かず、まっ。……かえ、って」
これ以上発情しないようにと、自分を抱え込むようにして朔夜は呻く。だが、
「うわっ!」
ものすごい力で、床に縫い付けられた。痛みに耐えきれず、思わず目を瞑った朔夜が次に感じたのは、唇に何かが触れたと言うこと。
「えっ……?」
呟いたタイミングで、何かがねじ込まれる。それが、一真の舌だと気づくまでに数秒かかった。
「んっ! んんーっ!!」
なんとか離れようと必死に暴れても、体格で負ける。とても逃げられない。その間にも、着ていたシャツはまくし上げられ、あらわになった胸の尖りに手が触れる。
「やっ。 やだっ! やめてっ……、一真っ!!」
そう叫ぶと共に、彼の瞳を見つめた朔夜は驚愕する。
そこには、いつもの十三歳の少年ではなく。発情し、欲に飢えた男の姿があった。
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