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Chapter1
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目が覚めたとき、ここがどこか全く理解することができなかった。それだけ、見慣れた景色とかけ離れていたからだ。
二、三度、瞬きを繰り返す。そうして、この部屋にいくつかの気配があることに気づいた。そちらに視線を送れば。
「んふっ。……気づいた?」
そう、告げる者と。その背後に立つ、いかにも鍛えていそうな男。そして。
「……ま、みや……、りく、と……?」
唯一、記憶が照合したのがその名前。途切れ途切れに告げれば、
「あら。陸ちゃんはわかるのね。さっすがぁ。有名俳優さんは違うわねっ♪」
最初に声をかけた人物が、嬉しそうに答える。
「うそ……」
そうつぶやくのも無理はなかった。間宮陸仁と言えば、ドラマやCM、雑誌など、毎日のようにどこかで見かけるモデル出身の人気俳優。長身に外国人を思わせるような顔、細身ではあるが脱げばしっかりと筋肉がついていることもあり、毎年抱かれたい男のランキング上位にも入っている。芸能人に詳しくない彼の情報はその程度だが、疎くてもこれだけのことが入るのだ。見ただけですぐにわかる。
だが、何故そんな彼が目の前にいるのか、そして他の二人は誰なのか。それが全くわからなくて戸惑う。
「ふふっ。ホント。あなた、自分が熱中症になりかかってたの覚えてる? その時陸ちゃんが助けてくれたのよ」
そう説明を受けても理解できない。
一体、何故?
自分は、そこら辺にいる、ごく普通の一般人。歩いていたって、誰も気にとめることはない。たとえ、熱中症になりかかっていたとはいえ、華やかな世界にいる人物が気にとめるはずなんてない。
……『あの人』のように。
自虐的に微笑んだ彼は、ベッドから身体を起こす。
「助けてくれてありがとうございます。じゃあ、俺はこれで……」
「えっ? ちょっと待って。どういう事??」
「帰ります。このままだとあなた達に迷惑がかかるでしょ?」
そこまでを一気に伝え。床に脚を下ろし、歩き出そうとしたが。
「っ! うっ……」
すぐに、膝から力が抜ける。力強い腕にすぐさま支えられたため倒れはしなかったが、思った以上に力が入らないことに愕然とした。
「もうっ。だから待ってって言ったのよ。身体は思った以上にダメージ受けてるんだから、気づいてすぐ歩こうとすればそうなるわ。陸ちゃん、あなた別に迷惑だって思ってないでしょ?」
「えっ? あ、ああ……。むしろ、このまま帰られた方が、気になってしかたねぇし」
尋ねられ、間宮がそう返せば。
「ほらっ! ここの家主がこう言ってるんだからいいのよっ。最低でも今日はここで休んでいきなさい」
そう、彼に告げ。華奢な身体をベッドに戻す。
自らの不調を認めたのか、とくに抵抗することもなく、彼は再び横たわった。
「水分摂れる?少しで良いから」
差し出されたストローが刺さったペットボトル。彼は、素直に口をつける。飲んだ量としてはわずかではあるが、こまめに補給していければ問題はないだろう。
「……ね?」
少し落ち着いたところで、ママは声をかける。
「あなたの名前、教えてくれない?あたしは真澄。バーのママをやってる。で、陸ちゃん……は、わかるわよね? その隣にいるのが中山大輔。あたしのダーリン」
「えっ?あ。……えっ、と……?」
一気に告げられ、彼の脳はキャパオーバーを起こす。
「あはっ。ごめんなさいねぇ。あたし、ついつい一気に喋っちゃうクセがあって。……そうよ。あたしとダーリンはそう言う関係。どっちも男よ。戸籍上はね。でも、あたしはずっと、自分を女だと思って生きてきたの。心と体が一致しないのよぉ。困ったことにね」
「そう……、なん、だ……」
「そうよぉ。でも、見た目がちっとも可愛くないから昔はね、いろいろ諦めてたの。こんな筋肉ムッキムキのマッチョになったのも、鍛えちゃえばあたしも自分のこと、男だと思えるかな? って思ってのこと。だけど、無理だった。でも、こんなあたしを唯一わかってくれたのがダーリンなの。だから今は、鍛えてもいるけれど、ネイルもするしメイクもする。これがあたしなんだ! って、胸張って言えるわ。その分、あなたはいいわねぇ。こんなにほっぺつるんつるん。目も綺麗だし何より全体がかわいいしっ。もうっ、食べちゃいたいっ!!」
そう言いながら、頬を指でつつくママに対し。
「やめ、て……っ!」
彼は抵抗を見せるが、彼女の方が一枚上手。
「んー。じゃあ、名前教えてくれたらやめてあげる。言わなかったらずっと、つんつんしちゃうもんねーっ♪」
ニコニコと笑いながらそう言われてしまっては。
「わ……、わかったっ。俺、はっ。あやせっ。……綾瀬尚哉って言うのっ!」
名前を告げる以外ない。
「あら、ナオちゃんって言うの。かっわいいーっ」
それを受けてママは返す。ペースの主導権は、相変わらず握られたまま。
彼らの様子を、間宮と大輔は近くで様子を伺っていたが。
「……真澄に任せた方が良さそうだな」
そう言われ、間宮は同意する。自分では、このペースに持ち込むことは到底できない。
彼らは、寝室を後にする。話の内容は、後で真澄から聞けばいい。
今ここにいること自体、無意味だと悟ったからだ。
二、三度、瞬きを繰り返す。そうして、この部屋にいくつかの気配があることに気づいた。そちらに視線を送れば。
「んふっ。……気づいた?」
そう、告げる者と。その背後に立つ、いかにも鍛えていそうな男。そして。
「……ま、みや……、りく、と……?」
唯一、記憶が照合したのがその名前。途切れ途切れに告げれば、
「あら。陸ちゃんはわかるのね。さっすがぁ。有名俳優さんは違うわねっ♪」
最初に声をかけた人物が、嬉しそうに答える。
「うそ……」
そうつぶやくのも無理はなかった。間宮陸仁と言えば、ドラマやCM、雑誌など、毎日のようにどこかで見かけるモデル出身の人気俳優。長身に外国人を思わせるような顔、細身ではあるが脱げばしっかりと筋肉がついていることもあり、毎年抱かれたい男のランキング上位にも入っている。芸能人に詳しくない彼の情報はその程度だが、疎くてもこれだけのことが入るのだ。見ただけですぐにわかる。
だが、何故そんな彼が目の前にいるのか、そして他の二人は誰なのか。それが全くわからなくて戸惑う。
「ふふっ。ホント。あなた、自分が熱中症になりかかってたの覚えてる? その時陸ちゃんが助けてくれたのよ」
そう説明を受けても理解できない。
一体、何故?
自分は、そこら辺にいる、ごく普通の一般人。歩いていたって、誰も気にとめることはない。たとえ、熱中症になりかかっていたとはいえ、華やかな世界にいる人物が気にとめるはずなんてない。
……『あの人』のように。
自虐的に微笑んだ彼は、ベッドから身体を起こす。
「助けてくれてありがとうございます。じゃあ、俺はこれで……」
「えっ? ちょっと待って。どういう事??」
「帰ります。このままだとあなた達に迷惑がかかるでしょ?」
そこまでを一気に伝え。床に脚を下ろし、歩き出そうとしたが。
「っ! うっ……」
すぐに、膝から力が抜ける。力強い腕にすぐさま支えられたため倒れはしなかったが、思った以上に力が入らないことに愕然とした。
「もうっ。だから待ってって言ったのよ。身体は思った以上にダメージ受けてるんだから、気づいてすぐ歩こうとすればそうなるわ。陸ちゃん、あなた別に迷惑だって思ってないでしょ?」
「えっ? あ、ああ……。むしろ、このまま帰られた方が、気になってしかたねぇし」
尋ねられ、間宮がそう返せば。
「ほらっ! ここの家主がこう言ってるんだからいいのよっ。最低でも今日はここで休んでいきなさい」
そう、彼に告げ。華奢な身体をベッドに戻す。
自らの不調を認めたのか、とくに抵抗することもなく、彼は再び横たわった。
「水分摂れる?少しで良いから」
差し出されたストローが刺さったペットボトル。彼は、素直に口をつける。飲んだ量としてはわずかではあるが、こまめに補給していければ問題はないだろう。
「……ね?」
少し落ち着いたところで、ママは声をかける。
「あなたの名前、教えてくれない?あたしは真澄。バーのママをやってる。で、陸ちゃん……は、わかるわよね? その隣にいるのが中山大輔。あたしのダーリン」
「えっ?あ。……えっ、と……?」
一気に告げられ、彼の脳はキャパオーバーを起こす。
「あはっ。ごめんなさいねぇ。あたし、ついつい一気に喋っちゃうクセがあって。……そうよ。あたしとダーリンはそう言う関係。どっちも男よ。戸籍上はね。でも、あたしはずっと、自分を女だと思って生きてきたの。心と体が一致しないのよぉ。困ったことにね」
「そう……、なん、だ……」
「そうよぉ。でも、見た目がちっとも可愛くないから昔はね、いろいろ諦めてたの。こんな筋肉ムッキムキのマッチョになったのも、鍛えちゃえばあたしも自分のこと、男だと思えるかな? って思ってのこと。だけど、無理だった。でも、こんなあたしを唯一わかってくれたのがダーリンなの。だから今は、鍛えてもいるけれど、ネイルもするしメイクもする。これがあたしなんだ! って、胸張って言えるわ。その分、あなたはいいわねぇ。こんなにほっぺつるんつるん。目も綺麗だし何より全体がかわいいしっ。もうっ、食べちゃいたいっ!!」
そう言いながら、頬を指でつつくママに対し。
「やめ、て……っ!」
彼は抵抗を見せるが、彼女の方が一枚上手。
「んー。じゃあ、名前教えてくれたらやめてあげる。言わなかったらずっと、つんつんしちゃうもんねーっ♪」
ニコニコと笑いながらそう言われてしまっては。
「わ……、わかったっ。俺、はっ。あやせっ。……綾瀬尚哉って言うのっ!」
名前を告げる以外ない。
「あら、ナオちゃんって言うの。かっわいいーっ」
それを受けてママは返す。ペースの主導権は、相変わらず握られたまま。
彼らの様子を、間宮と大輔は近くで様子を伺っていたが。
「……真澄に任せた方が良さそうだな」
そう言われ、間宮は同意する。自分では、このペースに持ち込むことは到底できない。
彼らは、寝室を後にする。話の内容は、後で真澄から聞けばいい。
今ここにいること自体、無意味だと悟ったからだ。
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