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事件簿012 『火事息子』その7
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藤三郎の火消への想いは、青年に成長しても全く衰えなかった。
毎日のように、父親の伊勢屋に、どうしても火消になりたいと訴えていた。
困り果てた伊勢屋は、飲み友達の大岡忠相に相談したのだった。
「駄目だと言えば、更に頑なになる。行かせればよい。」
「いやいや、あれは伊勢屋の跡継ぎ。火消になられては困るのです。」
「火消にしろとは言っておらんぞ。」
「しかし、行かせればいいと・・・。」
「まぁ任せておけ。」
大岡忠相は、配下の全ての町火消の頭に文を送った。
『神田伊勢屋の息子藤三郎が来ても追い返すべし。』
数日後、あれほど反対していた父親から「町火消に行ってもよい」と言われた藤三郎は、喜び勇んで出掛けていった。
しかし、どこの町火消に行っても、組の頭から「立派な若旦那が火消など・・。」と断られた。
意気消沈して戻ってきた藤三郎を見て伊勢屋は安心した。
「これで諦めてくれるだろう。」
町火消に入るのを諦めた藤三郎だが、火事と聞くと仕事を放り出して飛び出していった。
しかし、伊勢屋もそれだけは許してやったいた。
ところが藤三郎は、今度は定火消になると言い始めた。
江戸には、日頃は鳶の仕事で普通の生活を送る町火消とは別に、定火消という組織があった。
定火消は、旗本の火消屋敷で寝起きしている、火事専門の集団。
町火消が消防団なら、定火消は武家専属の消防署といったところ。
この定火消の火事人足は臥煙と呼ばれていた。
一年中フンドシに法被1枚。
全身に刺青。
荒くれ者ばかりで、火事の時以外は屋敷でたむろし、バクチを打ったりしている。
消防隊員ではなく、チンピラが消防署に詰めている、といったところか。
定火消は火消屋敷を住まいとする決まり。
つまり藤三郎は、チンピラになって店の跡も継がない、と宣言したようなものだ。
状況はさらに悪化してしまった。
「許さん!定火消など、もってのほかだ!」
「俺はどうしても火消になりたいんだ!」
「駄目だ!絶対に許さん!」
言い争った夜、藤三郎は家から姿を消した。
毎日のように、父親の伊勢屋に、どうしても火消になりたいと訴えていた。
困り果てた伊勢屋は、飲み友達の大岡忠相に相談したのだった。
「駄目だと言えば、更に頑なになる。行かせればよい。」
「いやいや、あれは伊勢屋の跡継ぎ。火消になられては困るのです。」
「火消にしろとは言っておらんぞ。」
「しかし、行かせればいいと・・・。」
「まぁ任せておけ。」
大岡忠相は、配下の全ての町火消の頭に文を送った。
『神田伊勢屋の息子藤三郎が来ても追い返すべし。』
数日後、あれほど反対していた父親から「町火消に行ってもよい」と言われた藤三郎は、喜び勇んで出掛けていった。
しかし、どこの町火消に行っても、組の頭から「立派な若旦那が火消など・・。」と断られた。
意気消沈して戻ってきた藤三郎を見て伊勢屋は安心した。
「これで諦めてくれるだろう。」
町火消に入るのを諦めた藤三郎だが、火事と聞くと仕事を放り出して飛び出していった。
しかし、伊勢屋もそれだけは許してやったいた。
ところが藤三郎は、今度は定火消になると言い始めた。
江戸には、日頃は鳶の仕事で普通の生活を送る町火消とは別に、定火消という組織があった。
定火消は、旗本の火消屋敷で寝起きしている、火事専門の集団。
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この定火消の火事人足は臥煙と呼ばれていた。
一年中フンドシに法被1枚。
全身に刺青。
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消防隊員ではなく、チンピラが消防署に詰めている、といったところか。
定火消は火消屋敷を住まいとする決まり。
つまり藤三郎は、チンピラになって店の跡も継がない、と宣言したようなものだ。
状況はさらに悪化してしまった。
「許さん!定火消など、もってのほかだ!」
「俺はどうしても火消になりたいんだ!」
「駄目だ!絶対に許さん!」
言い争った夜、藤三郎は家から姿を消した。
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