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第一話 鹿が空飛んでやってきた

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ここは放課後の小学校。
四年三組、今日の日直の私、神田川マユは人通りのない渡り廊下を歩いていた。

「日誌書くの遅くなっちゃった。早く職員室に持ってかないと……」

今日はたまたま料理部の活動もあって大変だったのだ。
でも部活でココアクッキーをたくさん作って楽しかったし、試食したら美味しくできあがってて大満足。早く家に持ち帰って家族の感想も聞いてみたい。

ニコニコしながら日誌を抱えて歩いていると、渡り廊下の右から左へ、大きな影が通り過ぎていくのが見えた。
何やら鳥のような、四つ足の動物のような、夕暮れの光に伸びる、長い不自然な影。

「えっ……何?」

不思議に思って廊下から、地面を踏まない程度に身を乗り出して空を見上げると、奇妙なモノが目に映る。

枝分かれした角がある鹿の頭に、人間の上半身。お腹から下はやっぱり鹿で、炎がボウボウと燃えているような尻尾がついている。背中には鳥の翼が生えていて、上空をゆったりと飛んでいる。

「ええええええええ!
な、何、アレ!!鹿のお化け!?」

思わず叫んでしまった。

するとバケモノは空中にピタリと止まり、こちらを振り返ると、低いしゃがれ声でつぶやく。

「なんだと?
この世界にもワシの姿が見える者がいるのか?
なんと面倒な……フンッ!」

彼があおぐように手を振ると、どこからか大きな竜巻が出現した。
逃げる間も、叫ぶ間もなく、私は風に巻き込まれてしまう。

えーーーー!?
そんな、ウソでしょう!!
目、目が回るーーーーーー!!

「これでいい。さて、行くか……」

鹿は回っている私を置いて、どこかに飛び去って行った。

「助けてーーーー!!」

叫んでも、誰の耳にも届いてないようだ。
そ、そんなあ……



✳︎✳︎✳︎



くるくるくるくる……パッ!

目が回って気持ちが悪くなってきた頃、いきなり竜巻が消え去って、私はどこかに落っこちた。
背中から落ちたけれど、なんだかフワフワしたところだったから、ケガはなさそう。

めまいが治まって、まぶたを開くと、目の前にあるのは雲ひとつない真っ青な空。
そして、ふと下を見ると、そこにあるのは地面ではなく、真っ白な雲。



……もしかして今、私がいるのは、天国!?

どうしよう!!
私、死んじゃったの!?
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