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第四十一話 救うべき魂
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時は少しさかのぼる。
人々から『やましい心』のオーラを吸い込む悪魔、フルフルを封印しようとしていた私達。その目前に立ちはだかったのは、フルフル直属の三人の幹部達だ。マユちゃんにはカモメのヨナスが、レミナちゃんにはカラスのクロウラが、そして私、栗原アヤセには白ハトのピースが、それぞれ襲いかかってきたのだった。
「さて、どう料理してあげようかな」
野球のボールほどの大きさがある、エネルギーの球を両手に作り出すピース。そのエネルギーは、禍々しい紫色に揺らめいている。間違いない、前に私とレミナちゃんの体の自由を奪った、あの力だ。おそらく、三人の中で、彼が一番の強敵なのは間違いない。緊張で肩が震える。
おそらく、あのエネルギーボールにかすっただけで、私達は戦闘不能になるだろう。なんとか、一対一で戦うのは避けられないだろうか。レミナちゃんのバリヤーがあれば、直撃は避けられる気がする。何か、相手の気をそらさなければ……
私は、イチかバチかで、フルートを吹き始めた。相手の本当の気持ちを引き出す、本音フルートだ。曲を聞いている間は、相手は隠していた本音を言うことしかできず、耳をふさげないし、攻撃も仕掛けてこれない。本音を全て出し切ってしまうと、あとは効果がなくなるけれど、時間稼ぎにはなるはずだ。
私が演奏を始めたのを見て、慌てたように二つのボールを飛ばしてきたピース。でも狙いが甘く、私は軽く左右に避ける。フルートの音を聞き、両手で頭を抱え、のけぞりながら、彼は叫んだ。
「ボクの頭の中を、のぞくなーーーー!!」
大きく息を吸い込んだ彼は、急に淡々とした、抑揚のない声になり、語り出した。
「ボクは、物心ついた頃から、人間に飼われていたハトだった。
ペットじゃない。小道具としてだ。
ボクを飼っていたのは、手品師の男だった。
シルクハットやら、箱やら、空っぽに見えるところから、飛び立って、男の手に止まるのが、ボクの仕事だった。
遠くに飛んで逃げないようにと、羽根は短く切られた。
体が大きくなると仕掛けの中に収まらないからと、与えられる餌は減らされた。
いつも狭い隠し場所に押し込まれて、身動きを許されなかった。
そんな生活をして、元気でいられるわけがない。
ある時、男が公演の真っ最中、シルクハットから出されたボクは、羽ばたくこともできず、床に落ちた。
その日は暑くて、狭い仕掛けの中に押し込まれたボクは、暑さと苦しさで、もう限界だった。
客席からは『かわいそう』『どうしたの、あれ、死んでるの?』とざわめきが聞こえ、いつもは鳴り響く拍手も聞こえてこない。
ボクを拾い上げる男の、怒りに満ちた作り笑顔が、今も忘れられない。
気がつけば、ボクは公園の芝生の上に捨てられていた。
暑かった。
たぶん、もうじき、ボクは命を失う。
でも、風が吹いている。ボクを閉じ込めるものは、何もなかった。
最後に、空を飛びたい。
一度、誰にも邪魔されずに、青い空を飛んでみたかった。
切られた翼で、どこまで飛べるのか、分からないけど。
精一杯、飛んで飛んで、力尽きて、落ちそうになった時……
突然、竜巻が現れて……」
フルートの音が止んだ。それ以上、演奏できなかった。
私の目から、とめどなく涙がこぼれ落ちる。
ひっく、ひっくと、泣き声で息が乱れて、フルートを吹くことができない。
彼は、救うべき相手だ。
天使だったら、絶対に彼を救わなければならない。
自由を取り戻したピースは、これまで見せていた、余裕のある表情を失っていた。
しばらく呆然としたあと、急に怒りの表情で、私に向かって怒鳴り始めた。
「なんてことをしてくれたんだ! これだから人間は!」
言うやいなや、ピースは両手を合わせて、大きめのエネルギーボールを作る。
その時、少し離れた場所から、小さく
「降参する」
という声が聞こえてきた。あれは黒川くん……? マユちゃん達は、勝ったのだろうか?
たぶん、ピースにもそれが聞こえたのだろう、声がした方向に向き直ると、エネルギーボールを、黒川くんに向かって投げつけた。黒川くんの様子がおかしくなり、ピースの方へ飛んでいく。それを見て、私もマユちゃんとレミナちゃんの元へと飛び立った。
人々から『やましい心』のオーラを吸い込む悪魔、フルフルを封印しようとしていた私達。その目前に立ちはだかったのは、フルフル直属の三人の幹部達だ。マユちゃんにはカモメのヨナスが、レミナちゃんにはカラスのクロウラが、そして私、栗原アヤセには白ハトのピースが、それぞれ襲いかかってきたのだった。
「さて、どう料理してあげようかな」
野球のボールほどの大きさがある、エネルギーの球を両手に作り出すピース。そのエネルギーは、禍々しい紫色に揺らめいている。間違いない、前に私とレミナちゃんの体の自由を奪った、あの力だ。おそらく、三人の中で、彼が一番の強敵なのは間違いない。緊張で肩が震える。
おそらく、あのエネルギーボールにかすっただけで、私達は戦闘不能になるだろう。なんとか、一対一で戦うのは避けられないだろうか。レミナちゃんのバリヤーがあれば、直撃は避けられる気がする。何か、相手の気をそらさなければ……
私は、イチかバチかで、フルートを吹き始めた。相手の本当の気持ちを引き出す、本音フルートだ。曲を聞いている間は、相手は隠していた本音を言うことしかできず、耳をふさげないし、攻撃も仕掛けてこれない。本音を全て出し切ってしまうと、あとは効果がなくなるけれど、時間稼ぎにはなるはずだ。
私が演奏を始めたのを見て、慌てたように二つのボールを飛ばしてきたピース。でも狙いが甘く、私は軽く左右に避ける。フルートの音を聞き、両手で頭を抱え、のけぞりながら、彼は叫んだ。
「ボクの頭の中を、のぞくなーーーー!!」
大きく息を吸い込んだ彼は、急に淡々とした、抑揚のない声になり、語り出した。
「ボクは、物心ついた頃から、人間に飼われていたハトだった。
ペットじゃない。小道具としてだ。
ボクを飼っていたのは、手品師の男だった。
シルクハットやら、箱やら、空っぽに見えるところから、飛び立って、男の手に止まるのが、ボクの仕事だった。
遠くに飛んで逃げないようにと、羽根は短く切られた。
体が大きくなると仕掛けの中に収まらないからと、与えられる餌は減らされた。
いつも狭い隠し場所に押し込まれて、身動きを許されなかった。
そんな生活をして、元気でいられるわけがない。
ある時、男が公演の真っ最中、シルクハットから出されたボクは、羽ばたくこともできず、床に落ちた。
その日は暑くて、狭い仕掛けの中に押し込まれたボクは、暑さと苦しさで、もう限界だった。
客席からは『かわいそう』『どうしたの、あれ、死んでるの?』とざわめきが聞こえ、いつもは鳴り響く拍手も聞こえてこない。
ボクを拾い上げる男の、怒りに満ちた作り笑顔が、今も忘れられない。
気がつけば、ボクは公園の芝生の上に捨てられていた。
暑かった。
たぶん、もうじき、ボクは命を失う。
でも、風が吹いている。ボクを閉じ込めるものは、何もなかった。
最後に、空を飛びたい。
一度、誰にも邪魔されずに、青い空を飛んでみたかった。
切られた翼で、どこまで飛べるのか、分からないけど。
精一杯、飛んで飛んで、力尽きて、落ちそうになった時……
突然、竜巻が現れて……」
フルートの音が止んだ。それ以上、演奏できなかった。
私の目から、とめどなく涙がこぼれ落ちる。
ひっく、ひっくと、泣き声で息が乱れて、フルートを吹くことができない。
彼は、救うべき相手だ。
天使だったら、絶対に彼を救わなければならない。
自由を取り戻したピースは、これまで見せていた、余裕のある表情を失っていた。
しばらく呆然としたあと、急に怒りの表情で、私に向かって怒鳴り始めた。
「なんてことをしてくれたんだ! これだから人間は!」
言うやいなや、ピースは両手を合わせて、大きめのエネルギーボールを作る。
その時、少し離れた場所から、小さく
「降参する」
という声が聞こえてきた。あれは黒川くん……? マユちゃん達は、勝ったのだろうか?
たぶん、ピースにもそれが聞こえたのだろう、声がした方向に向き直ると、エネルギーボールを、黒川くんに向かって投げつけた。黒川くんの様子がおかしくなり、ピースの方へ飛んでいく。それを見て、私もマユちゃんとレミナちゃんの元へと飛び立った。
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