付喪神狩

やまだごんた

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寄木細工の呪い箱編

12.儀式

『呪いくらい我の力を以てすれば造作もないだろうに』
 御門みかどの中から真神マガミが話しかける。
 御門の部屋ととおるの部屋は、空き部屋とリビングを挟んだ対角線上にある。
 同じ家にいてもここまで離れると、以前より力を取り戻した真神であれば、多少は意思表示ができるらしい。
 広い家も考え物だ。やはり隣の部屋にさせればよかったと、御門は本気で後悔していた。
「何でもかんでも俺が解決しちゃったらとーるちゃんの為にならないでしょ?」
 御門が言うと、真神は納得したように鼻を鳴らした。
 13年前はサモエドより少し大きいくらいだった体も、力を取り戻していく毎に大きくなり、今では立ち上がると御門よりも大きのではないかと思う程だ。
 完全に回復したらどうなるというのか。さすがに500年も生きる事は出来ないので見る事はできないだろうが。
付喪神ツクモガミ相手だとさ、どうしてもお前が出ちゃうだろ?得意分野でまで俺らがやっちゃうとさ、泣いちゃうよ?とーるちゃん」
『お前にとってあの者は我を抑える道具ではなかったのか。随分可愛がるではないか』
 呆れるような声で真神が言った。
 御門はポケットからタバコを取り出すと、火をつけてゆっくりと煙を吐いた。
「道具っても愛着は沸くもんよ。それにいくら使い勝手のいい道具でも、壊れちゃったら困るでしょーが。たまにはメンテもしてあげないとね」
 タバコを咥えたままベッドに寝転ぶと、昨日タバコを落として焼いてしまったシーツが新しくなっているのが分かった。
 今日は監視役おてつだいが来る日だったのか――真面目だねぇ。
『あの者も可哀想に――しかしお前は……』
 御門はタバコの灰をベッドに落とさないよう、注意深く灰皿に灰を落としたその時、真神の気配が消えたので、御門は亨が隣の部屋に来た事を察した。そして訪れた静寂に嬉しそうに微笑むとタバコをもみ消して目を閉じた。

東雲しののめさんを呼びます」
 その日の夜遅く、隣の部屋で呪いについて調べていた亨が部屋にやってくると、そう言い放った。
 ベッドに寝ころんだままの姿で、東雲の名を耳にして心底嫌そうな顔をした御門を無視して亨は続けた。
「霊視では正体を見れませんでした。何かが霊視を邪魔しているというか――呪いを守っているというか。なので、東雲さんの霊寄せたまよせで呪いの思念を僕に降ろします。東雲さんにも連絡済です」
 有無を言わせない亨に、御門は肩をすくめて了解のポーズをとった。
「それと、霊寄せの為に明日から3日間身を清めます。――穢れを持ち込まれると困るので、御門さんもその間は女性との接触は控えてください」
「マジかよ――それは俺に死ねって言ってるようなもんだろ」
「3日くらい女断ちしても死なないでしょうが」
「死ぬんだよ、俺は!」
 どんだけ女好きなんだこの人は――
 亨が呆れを通り越して怒りを込めた目で御門を見つめると、御門は唇の端を歪めながら立ち上がって亨の腰を抱いた。
「じゃぁ女の代わりにとーるちゃん、俺に喰われてよ。そしたら俺も我慢するからさ」
「僕は男といちゃつく趣味はありませんし、男でも穢れにあたります。とにかく、明日からお願いしますからね」
 御門を引き剝がしながらそう言うと、亨は乱暴にドアを閉めて自室に戻っていった。
「とーるちゃんの霊力だったら一口くれれば3日くらい余裕なのにな」
 御門が呟くと、『確かに』と御門の中から真神が同意した。
 御門は立ち上がると、服を着替えて財布を持った。
「しゃーね。今日はゆっくりするつもりだったけど、ひと狩り行きますか」

 いつも人で溢れているクラブは、週末になると身動きが取れないほどになる。
 こうなると何もしなくても霊は食い放題だ。御門は人で埋め尽くされたフロアを周りながら、人に憑いていたり、憑こうとしている霊を片っ端から喰っていった。
 御門の中の真神が満足気に鼻を鳴らすのがわかる。
 ――お前だけ満足してんじゃねぇよ。
 御門は忌々しげに眉間に皺を寄せたが、真神はどこ吹く風だ。これだけ喰っても付喪神一体には遠く及ばない。しかし、亨の清めの間くらいは凌ぐことができるだろう。
 ――俺ももう少し補給しておくか。
 御門は目ぼしい獲物を見つけると、ゆっくりと近寄って行った。

 セックスが霊力の交換に効率的だと言った東雲の言葉は実に正しかった。
 口移しよりも効率的に根こそぎ霊力を奪うことができる。
 東雲との修行を終えた御門に、東雲は女をあてがった。霊力が高く、御門よりも十は年上の色香の強い女性だった。
 真神に喰われても東雲の補給を拒否していた為、霊力の枯渇を感じていた御門は、東雲に反抗する事もなく素直にその女性を貪った。
 童貞を捨てたその行為は、快楽より霊力が体に沁み渡る安堵が勝っていた。
 伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミが行ったそれは、霊力の交換だった。二人の霊力を交わらせ国を生み出した。
 しかし、御門は真神の能力によって自分の霊力を渡すことなく、相手の霊力を喰うことができる。それは正に一方的な捕食だった。
 それからも御門にとってセックスは快楽を得るための行為ではなく、生きる為に必要な儀式でしかなかった。それは10年以上経った今でも変わっていない。
 クラブの裏手の非常階段で、ぐったりとする女を尻目に、御門は衣服の乱れを直すと「ごちそうさま」と言ってその場を立ち去った。
 今夜はあと2~3人は喰わねば。御門は狩り場へと戻っていった。
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