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寄木細工の呪い箱編
19.仕組まれた仕事
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呪いを祓った翌日、亨と御門は寄木細工の箱を持って柏木秋子の元を訪ねた。
事の顛末を聞いた秋子は、涙を流して頭を下げた。
「祖母は最後まで私たちを守ろうとしてくれていたんですね。――それなのに私は……」
秋子は言葉を詰まらせた。
「呪いの影響ってのは本人にはわかんないもんよ。気にする事ないんじゃない」
御門はそう言って、寄木細工の箱を手に取ると続けた。
「呪いはもう祓っちまって、これはただの箱だ。ばあさんの形見のな。どうする?手元に置いとくか?」
「いえ。呪いを祓っていただいたとはいえ、私がそれを持つ事を祖母が望んでるとは思えません――以前おっしゃられたように、お焚き上げを依頼しようと思います」
御門の言葉に秋子は首を横に振った。呪いの影響が解けたようだ。
「だったら、アフターサービスに俺が引き受けよう」
ニヤリと笑ってそう言うと、御門は箱を亨に渡した。
秋子は感謝して頭を下げ、こうして柏木秋子の依頼は全て完了した。
「――本当によろしいんですか?お代をお支払いしなくても」
恐縮至極といった表情で秋子は玄関先で靴を履く亨に言った。
「今回の件は警察からの依頼となっていますので、柏木さんから頂く経費はありません。大丈夫ですよ」
亨は爽やかな笑顔でそう答えると、「一般人に払える額じゃねえしな。黙って出してもらっとけば?」と、足元で靴を履く御門が、秋子に背を向けながら付け足した。
「命の値段ってのは重いもんさ。これからは気を付けるんだな」
そう言うと、御門はさっさと玄関を出ていき、亨は御門の無礼をひたすら謝った後、御門を追いかけて家を出て行った。
平日の高速道路は空いていていい。
亨はハンドルを握りながら隣でタバコを吸う御門に尋ねた。
「それ、ちゃんと焚き上げするんですよね」
「ん――?するわけないじゃん」
御門は見せびらかすように箱をくるくると回すと、満足そうに見つめた。
――世の中どうなってるんだか……。
亨は言葉に出さずに溜息をついた。
付喪神が憑いたものや、呪いの依り代となったものを好んで蒐集するマニアと呼ばれる人種がいる。
御門はそう言ったものを依頼人から回収しては、蒐集家に高額で売りつけるのを副業にしている。
「呪いの残滓がいい感じに沁みついてやがる――これは高く売れるぜ、とーるちゃん」
御門は嬉しそうに煙を燻らせた。
こういうところさえ無ければ、もう少し尊敬もできるのに――亨は眉間に皺を寄せると自分もタバコを一本抜き取って火をつけた。
三日後、昼食には少し早い時間に、御門が東雲の元に現れた。
「やあ、御門君。あれから棚橋君の様子はどうだい」
御門の姿に東雲は柔和な表情で尋ねた。
御門は東雲の机の前に適当な椅子を引っ張って来ると、腰を下ろして東雲を正面から見つめた。
人畜無害そうな顔をしたこの男の目的が御門にはわからなかった。
しかし、亨を御門の元にこれだけ長い間置く理由は一つしか考えられない。
だが、それを口に出して否定されても面倒だし、今の御門にはそれに抗う術もない。
むしろ、御門が今好き勝手出来ているのは、ある意味東雲のおかげだという事も否定できない事実だった。
「あれが呪いだってわかってたろ」
御門が口を開くと東雲は首を少し傾げて微笑んだ。――やっぱわかってやがった。
「君ならいざとなったら呪いも喰えるだろ。たまにはうちの子にも一人で仕事させなきゃね。御門君も分かってたから棚橋君に任せたんだろ」
「呪いなんざ喰ったところで何の足しにもならねぇよ」
御門は姿勢を崩すと、東雲の机に長い足を放り投げた。
「とーるちゃんを術師として独り立ちさせたいなら返すぜ。――そうなったら俺も困るがお前らの方が困るだろうがな」
東雲は御門の靴の裏を顔をしかめて眺めたが、払い落すのを諦めたのか、背もたれにもたれると時計を見た。
「棚橋君は真神様への捧げものみたいなもんだがね――僕の部下でもある。たまには一人で成果を挙げさせないと、上がうるさいんだよ。――そろそろ昼だ。一緒にどうだい?たまにはご馳走するよ」
東雲の提案に、御門も壁の時計を見上げて机から脚を下ろすと立ち上がった。
「小遣い3万しかもらってないおっさんに奢られたら後がこえーわ」
「失礼な。これでも色々と裏技を駆使して小銭くらいなら持ってるんだよ」
東雲も立ち上がると、スーツの胸元を叩いて見せた。
「奥さん可哀想に――暑いし鰻でも食いに行こうぜ」
「君はちょっと精をつけすぎなんじゃないの?昔みたいに霊力分けてあげようか?」
東雲が笑いながら言うと、御門は心底嫌そうな顔をして東雲を睨んだ。
「脳みそ溶けた事言ってんじゃねぇよ。変態ジジイが――くそ。行くぞ」
御門が急ぎ足で部屋を出ると、東雲も笑いながら御門の後を追って部屋を出た。
事の顛末を聞いた秋子は、涙を流して頭を下げた。
「祖母は最後まで私たちを守ろうとしてくれていたんですね。――それなのに私は……」
秋子は言葉を詰まらせた。
「呪いの影響ってのは本人にはわかんないもんよ。気にする事ないんじゃない」
御門はそう言って、寄木細工の箱を手に取ると続けた。
「呪いはもう祓っちまって、これはただの箱だ。ばあさんの形見のな。どうする?手元に置いとくか?」
「いえ。呪いを祓っていただいたとはいえ、私がそれを持つ事を祖母が望んでるとは思えません――以前おっしゃられたように、お焚き上げを依頼しようと思います」
御門の言葉に秋子は首を横に振った。呪いの影響が解けたようだ。
「だったら、アフターサービスに俺が引き受けよう」
ニヤリと笑ってそう言うと、御門は箱を亨に渡した。
秋子は感謝して頭を下げ、こうして柏木秋子の依頼は全て完了した。
「――本当によろしいんですか?お代をお支払いしなくても」
恐縮至極といった表情で秋子は玄関先で靴を履く亨に言った。
「今回の件は警察からの依頼となっていますので、柏木さんから頂く経費はありません。大丈夫ですよ」
亨は爽やかな笑顔でそう答えると、「一般人に払える額じゃねえしな。黙って出してもらっとけば?」と、足元で靴を履く御門が、秋子に背を向けながら付け足した。
「命の値段ってのは重いもんさ。これからは気を付けるんだな」
そう言うと、御門はさっさと玄関を出ていき、亨は御門の無礼をひたすら謝った後、御門を追いかけて家を出て行った。
平日の高速道路は空いていていい。
亨はハンドルを握りながら隣でタバコを吸う御門に尋ねた。
「それ、ちゃんと焚き上げするんですよね」
「ん――?するわけないじゃん」
御門は見せびらかすように箱をくるくると回すと、満足そうに見つめた。
――世の中どうなってるんだか……。
亨は言葉に出さずに溜息をついた。
付喪神が憑いたものや、呪いの依り代となったものを好んで蒐集するマニアと呼ばれる人種がいる。
御門はそう言ったものを依頼人から回収しては、蒐集家に高額で売りつけるのを副業にしている。
「呪いの残滓がいい感じに沁みついてやがる――これは高く売れるぜ、とーるちゃん」
御門は嬉しそうに煙を燻らせた。
こういうところさえ無ければ、もう少し尊敬もできるのに――亨は眉間に皺を寄せると自分もタバコを一本抜き取って火をつけた。
三日後、昼食には少し早い時間に、御門が東雲の元に現れた。
「やあ、御門君。あれから棚橋君の様子はどうだい」
御門の姿に東雲は柔和な表情で尋ねた。
御門は東雲の机の前に適当な椅子を引っ張って来ると、腰を下ろして東雲を正面から見つめた。
人畜無害そうな顔をしたこの男の目的が御門にはわからなかった。
しかし、亨を御門の元にこれだけ長い間置く理由は一つしか考えられない。
だが、それを口に出して否定されても面倒だし、今の御門にはそれに抗う術もない。
むしろ、御門が今好き勝手出来ているのは、ある意味東雲のおかげだという事も否定できない事実だった。
「あれが呪いだってわかってたろ」
御門が口を開くと東雲は首を少し傾げて微笑んだ。――やっぱわかってやがった。
「君ならいざとなったら呪いも喰えるだろ。たまにはうちの子にも一人で仕事させなきゃね。御門君も分かってたから棚橋君に任せたんだろ」
「呪いなんざ喰ったところで何の足しにもならねぇよ」
御門は姿勢を崩すと、東雲の机に長い足を放り投げた。
「とーるちゃんを術師として独り立ちさせたいなら返すぜ。――そうなったら俺も困るがお前らの方が困るだろうがな」
東雲は御門の靴の裏を顔をしかめて眺めたが、払い落すのを諦めたのか、背もたれにもたれると時計を見た。
「棚橋君は真神様への捧げものみたいなもんだがね――僕の部下でもある。たまには一人で成果を挙げさせないと、上がうるさいんだよ。――そろそろ昼だ。一緒にどうだい?たまにはご馳走するよ」
東雲の提案に、御門も壁の時計を見上げて机から脚を下ろすと立ち上がった。
「小遣い3万しかもらってないおっさんに奢られたら後がこえーわ」
「失礼な。これでも色々と裏技を駆使して小銭くらいなら持ってるんだよ」
東雲も立ち上がると、スーツの胸元を叩いて見せた。
「奥さん可哀想に――暑いし鰻でも食いに行こうぜ」
「君はちょっと精をつけすぎなんじゃないの?昔みたいに霊力分けてあげようか?」
東雲が笑いながら言うと、御門は心底嫌そうな顔をして東雲を睨んだ。
「脳みそ溶けた事言ってんじゃねぇよ。変態ジジイが――くそ。行くぞ」
御門が急ぎ足で部屋を出ると、東雲も笑いながら御門の後を追って部屋を出た。
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