スノウ・スノウ・ナイト

Homi

文字の大きさ
7 / 11
前編

7.返事、恩返し

しおりを挟む
ソーファはそのコートを壁にかけ、首を捻った。

(ちょっと大きかったかな)

いかんせん、身体の大きさは目測。肩周りはそれとなく、長さは適当に作ったのだ。

商品として売り出す時にも大体適当だったが、今回はルカに着せるという目的があったためもう少し正確に作りたかったと思っていた。

ブラックベアの毛皮の色はルカに良く合いそうだと思っていたが、やはり正解だった。
素材に関しては満足しているソーファだった。


「それ、どうしたの?」
「あ、ルカ。起きて平気なの?」
「あれから三日だよ。もう大丈夫だよ」
「もう大丈夫、が心配なんだけど」
「心配しすぎ」


そう言って、ソーファの横に立つ。壁にかけられたコートはごつく、ソーファが着るのには似合わないなとルカは思った。


「これ誰の?」
「ルカの」
「……俺の?」
「作ったの。旅行中なんでしょ。この国寒いから、こういうの一着あると良いかなって思って」
「すごいな、上手じゃないか」
「これが仕事だからね」


どうやってソーファが生活していけてるのか気にはなっていたが、なるほど、こういう事かと妙に納得したルカであった。


「そうだ……恩返し、決まった?」

ルカの発言に、ソーファはどきりとした。

「ん、まだ、かな。中々、何して欲しいとか、なくて」
「そう?」


なんでもいいのに、とルカが呟く。
そのなんでも、がソーファには難しかった。叶えて欲しい願いはきっと叶わないし、ルカに負担を強いることもなんとなくだが、嫌だった。それはすなわちルカには何も頼めないのだろうな、とソーファは思っていた。

だから、元気な姿で、このコートを持って、また旅行に出てくれたら良いと。ソーファはそれだけで充分だと思っていた。


そんなソーファを見て、ルカがぽつりと口を開く。


「ソーファが望むなら、あなたをこの町から連れ出す事だって出来るよ」
「……え?」
「この部屋を見張ってる奴を、あなたの前に連れて来てもいいし」


ルカの口が止まらない。


「ソーファが望むなら、あなたに平穏をあげることができるよ」
「ーー!」

開いた口が、空気を吸わない。

どっ、どっ、と心臓が嫌な音を立てている。


「え、と?」
「気付いてないの? まさかだよね。ソーファ、こんなにビシバシ視線送られてるのに」
「え、あ」
「怖いから気付かないようにしてる?」


心が、見透かされたように感じた。


「ルカ、ちょっと待って。私、見張られてるって?」
「うん」
「そう……今も、そう?」
「うん」
「とんでもないね、本当に。ルカってケンカ強いでしょ?」
「そんな事ないけど」


あは、と。ソーファがから笑いをする。それからソーファがルカの手を引き、共に暖炉の前に座った。
手は握られたままだった。


「やっぱり……ルカには話しておこうかな」
「教えてよ。ソーファの事が知りたい」


ソーファは自分語りが苦手だった。いつもどう話せば真実が伝わるのか悩んでいる。


「うん……もしかしたらルカは気づいてるかもしれないけど。この家、見られてるんだ」
「ああ」
「昔から。でも毎日じゃ、なかったと思う。でも、最近どうだろう。ルカは」
「毎日感じてる。俺が起きてる時は、必ず」


ソーファは目を閉じた。そっか、と。そう呟いた。


「昔、この辺りにはもっと人がいて。町も町っぽかったんだけどね」
「ああ」
「いなくなっちゃったの。色々あってね」
「前も言ってたな、色々って」
「うん」
「色々ってなに?」


暖炉の薪が爆ぜる。ぱちぱちといった音が部屋に響いた。


「みんな、死んだの。原因は遭難って事になってる」


ソーファは続ける。


「でも私は遭難なんかじゃないって思ってる。みんな、殺された」
「ーー誰に?」
「町長」


今も目に焼きついている光景。

窓から覗く外の雪景色。
その一面の雪景色が、赤く染まっていた。

その翌日に出会した町長が言ってたことはあまり理解できなかった。ただこれだけは覚えている。


『もう大丈夫だよ。君をいじめる人は……もういないからね』


ソーファは町長の方が怖かった。自分に酷いことをする住民にはいなくなって欲しかったが、死など望んではいなかった。


「幼くして両親を亡くした私を、心配しているのだと思う。でもそれが異常過ぎる気もしている。だから、私は……怖い」
「……いつから、視線、感じてる?」
「気づいたのは最近……って言っても二、三年は経ってるかな。たまたまね、昔、それは親切な旅商人さんがいて。私の家まで物資を売りに来てくれたの」
「ああ」
「その時に言われたの。その人、狩猟もやっててね。気配に敏感なんだって言って。その時、初めて気づいた」


異常な視線、見張られている感覚。


「視線、町長なのかな、と思う。他に思いつかない。私は静かに、平穏に暮らしたいだけなのにーー」
「ソーファ」


ルカは思う。彼女をここに置いておくべきではないと、そう感じている。
何故、生きているだけで苦しい思いをしているのか。


「一緒に町を出ないか?」
「え?」
「町長。治安所に突き出しても良いけど、証拠がないだろう?」
「うん。でも突然出るって言っても……」

頭の中にある人物が過ぎる。

「ジーナの事が心配?」


ソーファはこくりと頷く。


「そうだな……無理強いはしないが、ソーファ。ジーナに相談してもいいかもしれないな。ただこれだけは知っていて欲しいんだが」

ルカはソーファの背中に手を置く。
まるで支えられてるみたいに。

「俺はあなたを連れて行くことに、躊躇いはないよ。それだけの恩を、ソーファ、あなたに感じているんだ」


ソーファはその言葉に目を見開いた。
変化が怖いと言っておきながら、いつかこの異様な環境を壊してくれることを望んでいた。いつかここから誰か連れ出してくれるのではないかと、切望していた。

それがルカだった。

願ってもないことだった。


「ルカ」
「なに?」
「明日、ジーナのところへ行ってくる」


自分の手のひらを握る。
握った手のひらは冷たくはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ガネット・フォルンは愛されたい

アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。 子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。 元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。 それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。 私も誰かに一途に愛されたかった。 ❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。 ❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...