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前編
9.誰が言ったのか
しおりを挟むジーナは思う。
彼が夜眠れないのは、自身の罪の呵責に耐えきれないのではないかと。そう思って、睡眠薬をいつも手渡していた。
ジーナは知っていた。
あの恐ろしく寒い夜、身体を血だらけにして自分の家に来た。
大した怪我はないのに、全身を赤く染めたその人はにこりと笑って言ったのだ。
『これでもう、ソーファは苦しまないよ』
ジーナの家に来た彼は、そのまま気を失った。そしてその身体の血は全て返り血である事を知る。
どうすれば彼も彼女も幸せになれたのか、今でも答えは出ていない。
「違う、違う違う違う違う違う違う!」
「町長……?」
「仲良くなりたかった? 違うだろう? 君は泣いていたじゃないか? それを、どうして仲良くなりたいなどと言う!」
「それは、そうでしょう……? 歪み合いたいわけじゃなかったから」
「違う! 君は、嫌いだと言った! モネもサウラもナキタもカヤもアネックも! 全員嫌いだと!」
「ーー」
「だから、全てなくしたのに! それなのに!」
ガタンっと。町長がソーファの首を掴む。少し力を入れたら折れてしまいそうな細い首。
「やめて! ソーファから手を離して!」
「ソーファ。私は君が好きだったんだ……毎日、眠れなくて、君を眺めてしまうほど」
「や、かっ」
「ソーファ、後から私も逝くから……だから」
「離して! 町長! お願いーー早く来て!」
コンコン。
場違いなほど、静かなノックが響いた。
「ケベリオン地区治安所、ケイネスだ。もしもし、おりますかな?」
ジーナは金切り声をあげて、入って! と叫ぶとぞろりと何人かが入ってくる。
朦朧とする意識の中、ソーファの視線はただ一人に注がれる。怖い思いをしてまでも、どうしても一緒に行きたかったその人が、そこにいる。
「ルカ……」
町長は中に入ってきた治安所の職員に取り押さえられ、力が抜けたソーファはルカとジーナによって支えられる。
ジーナが泣き声をあげながら、ソーファの名前を呼んだ。
「ごぼっ、けほっ」
「ソーファ、ゆっくり息して」
ソーファがその声に従ってゆっくり息をすると、震えた声でどうしてと尋ねた。
「ジーナかな。笛、鳴らしてくれたから」
そういえば、と。町長と二人で話しているときにピィーと高い音が聞こえた。あれは思えば、ジーナが持っている笛の音だ。
「ジーナを呼ぶための笛。鳴ってるのが、ジーナの家の方だったから。まさかと思ってな」
治安所職員連れてきて正解、と微笑む。
「ほんと、良かった、気がついてくれて……ソーファ?」
ソーファはゆっくり起き上がると、治安所の職員に連れて行かれる町長に、あの、と話しかけた。
「私の……面倒を、見てくれてありがとうございました」
そう頭を下げると、町長は何も言わずに職員に連れられこの場から去った。そして、ソーファも事情を聞きたいと言われ後に治安所に来るように言われ、その場はお開きとなった。
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