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第一章 英雄の帰還

11 不穏

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 今日の検査はハリスさんなので、久しぶりの休みが貰えた。

 ハリスさんは55歳のおじさんで、戦闘訓練でも1番弱い。だがハリスさんはメディクスの中でも強い方らしく、俺やユンがおかしいといつも言われる。キンじぃのおかげだろうか。ハリスさんは聞けばどんなことでも答えてくれるし、場を和やかにしてくれる、、医療班に娘がいるらしいが、その人もきっといい人だろう。

 

 そして俺は休みの日に何をするかと言うと……母の見舞いに来ていた。

 母や他の【永眠病】にかかった人は【バリム】のオスピタル本拠地で眠っている。

 当初【永眠病】は一般市民には聞かされず、(非常事態の為、グラウベンはアランに教えた)全員死亡として扱っていた。

 しかし【永眠病】の被害者家族もとい、【永眠病】を引き起こした者の息子として、俺は<まだ生きている>ということがどれだけ希望になるかをヲルスさんに話し、【永眠病】の存在を公にした。しかしリスクはある。過激な被害者家族が侵入、誘拐するかもしれないということだ。その対策として、月に一度のこのお見舞い制度が実装された。

 「おっ!?ワズ!」

 母の眠る横に、ワズがお見舞いに来ていた。

 「アラン……あなたも来てたのね」

 「久しぶりだな……ワズ」

 「そういえばメディクスになったんだってね。おめでとう」

 「おぉ……ありがとう」

 「私はもう帰るから……これ。そこの花瓶に挿しといて」

 「おっ……え?」

 そう花束を俺に渡すと、ワズは去っていった。

 「なんだかなぁ……」

 無愛想だが花束を用意してくれてるし……なんだかなぁ。

 




 「母さん……」

 思えば4年間。家族のことなど考えず、ただ強くなる事を考えてきた。

 ワズのように花束を用意する余裕があってもよかったのかもしれない。

 ワズがくれた花は、花びらが包み込むように開き、この世のものとは思えない美しさだった。

 いや、【血の英雄】にでてきた『バラの花』にとても似ている。

 「痛っ!!」

 花の茎の棘に指が刺さった。ポタポタと血が垂れる。こんなところまで『バラの花』にそっくりだ。

 垂れた血を拭き取り、花を花瓶に挿す。

 昔怪我をした時は、母さんがよく手当てしてくれたな…。

 もう一生、俺が母さんに恩を返すことはできないのだろうか。

 いや。簡単な恩返しがあるじゃないか。

 「母さん……必ず……起こしてやるからな…」

 帰りに、お見舞いに来てくれたザビエルさんと会ったが、ワズとはすれ違わなかったらしい。不思議な子だ。

 こうして俺の休日は終わった。







 


 2026年。7月6日。

 【オッド襲撃事件】から4年と1ヶ月。

 再びヴェロウイルスは世界を震撼させることとなる。

 ヴェロウイルス発生から16年。

 過去最悪の事件が起きる。








     【オッド壊滅事件】
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