【R18】スパイス~高梨姉弟の背徳~

千咲

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1話、姉。

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「姉ちゃん」

 ショウの視線が痛い。責めているのだとわかる。

 お風呂から上がり、ショウが帰ってくる前に自室へ引き上げようとしていたのだけれど、無駄だった。ショウのバイトは、いつもより早く終わってしまったようだ。
 やっぱり、怒られて当然だよなぁと溜め息をつく。

「ごめん」
「謝らなくていいよ。ただ、理由を説明してほしいんだ」

 佐藤さんにも今日そう言われた。理由を教えて下さい、と。
 僕が努力できることなら何でもしますから、と佐藤さんは言ってくれたけれど、彼の努力ではどうにもならないことなのだ。

 この気持ちは、彼の努力では埋められないと、私はよく知っている。

「高学歴で、大手製薬会社の研究員として内定が出ていて、高身長で、人当たりがよくて、酒もタバコもギャンブルもしない佐藤先輩のどこが悪くて、姉ちゃんは付き合えないって言ったの?」
「うん、いい人だよ、佐藤さん」
「でしょ? お似合いだと思って姉ちゃんに紹介したのに」

 佐藤さんは少し痩せ気味な男性で、ハゲてもいないし、ものすごく不細工というわけでもないし、ケチでも散財家でもなく、恋人としても伴侶としても、本当にいい人だと思うのだけれど。

「……ごめん」

 今度はショウが溜め息をつく。

「わかってる? もう佐藤先輩以上のいい人、俺は紹介できないんだからね? 彼氏、自分で探してよね」
「うん……ショウの立場は悪くなったりしない?」
「なるわけないでしょ。先輩がそんな意地悪な人なら、最初から俺が姉ちゃんに紹介するわけないじゃん」

 そりゃそうだよなぁとぼんやり考えて、バスタオルで頭を拭く。

 いつの間にか、ショウはドライヤーを片手に、ソファを指さしている。まだ怒っているような表情のショウに促されるまま、私はソファに座る。お風呂上がりの定位置だ。

「怒ってる?」
「怒ってるよ。俺、佐藤先輩なら、お義兄さんって呼んでもいいと思っていたのに」

 手際よくブラシで髪をとかしながら、ショウはドライヤーの温風を当ててくれる。不思議なことに、彼が乾かしてくれると、翌日の髪のセットのしやすさが変わるのだ。
 弟の手がないと自分では思い通りにならない髪は、私の心と同じ。

「切ろうかな、髪」
「ダメ」

 ショウの指が耳のそばを撫で上げる。優しくて冷ややかな指の軌跡に、ぞわりと体が震える。

「姉ちゃんの髪乾かすの、俺の特権だから」

 耳元で聞こえた声に、さらに全身が粟立つ。

 知られてはいけない。

 佐藤さんに結婚を前提としたお付き合いを申し込まれたとき、一番に脳裏をよぎったのは、ショウの笑顔だったことを。

 悟られてはいけない。

 半分血のつながった弟に、私が淡い恋心を抱いていることを。

 理由なんて、誰にも言えるわけがない。
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