1 / 101
1話、姉。
しおりを挟む
「姉ちゃん」
ショウの視線が痛い。責めているのだとわかる。
お風呂から上がり、ショウが帰ってくる前に自室へ引き上げようとしていたのだけれど、無駄だった。ショウのバイトは、いつもより早く終わってしまったようだ。
やっぱり、怒られて当然だよなぁと溜め息をつく。
「ごめん」
「謝らなくていいよ。ただ、理由を説明してほしいんだ」
佐藤さんにも今日そう言われた。理由を教えて下さい、と。
僕が努力できることなら何でもしますから、と佐藤さんは言ってくれたけれど、彼の努力ではどうにもならないことなのだ。
この気持ちは、彼の努力では埋められないと、私はよく知っている。
「高学歴で、大手製薬会社の研究員として内定が出ていて、高身長で、人当たりがよくて、酒もタバコもギャンブルもしない佐藤先輩のどこが悪くて、姉ちゃんは付き合えないって言ったの?」
「うん、いい人だよ、佐藤さん」
「でしょ? お似合いだと思って姉ちゃんに紹介したのに」
佐藤さんは少し痩せ気味な男性で、ハゲてもいないし、ものすごく不細工というわけでもないし、ケチでも散財家でもなく、恋人としても伴侶としても、本当にいい人だと思うのだけれど。
「……ごめん」
今度はショウが溜め息をつく。
「わかってる? もう佐藤先輩以上のいい人、俺は紹介できないんだからね? 彼氏、自分で探してよね」
「うん……ショウの立場は悪くなったりしない?」
「なるわけないでしょ。先輩がそんな意地悪な人なら、最初から俺が姉ちゃんに紹介するわけないじゃん」
そりゃそうだよなぁとぼんやり考えて、バスタオルで頭を拭く。
いつの間にか、ショウはドライヤーを片手に、ソファを指さしている。まだ怒っているような表情のショウに促されるまま、私はソファに座る。お風呂上がりの定位置だ。
「怒ってる?」
「怒ってるよ。俺、佐藤先輩なら、お義兄さんって呼んでもいいと思っていたのに」
手際よくブラシで髪をとかしながら、ショウはドライヤーの温風を当ててくれる。不思議なことに、彼が乾かしてくれると、翌日の髪のセットのしやすさが変わるのだ。
弟の手がないと自分では思い通りにならない髪は、私の心と同じ。
「切ろうかな、髪」
「ダメ」
ショウの指が耳のそばを撫で上げる。優しくて冷ややかな指の軌跡に、ぞわりと体が震える。
「姉ちゃんの髪乾かすの、俺の特権だから」
耳元で聞こえた声に、さらに全身が粟立つ。
知られてはいけない。
佐藤さんに結婚を前提としたお付き合いを申し込まれたとき、一番に脳裏をよぎったのは、ショウの笑顔だったことを。
悟られてはいけない。
半分血のつながった弟に、私が淡い恋心を抱いていることを。
理由なんて、誰にも言えるわけがない。
ショウの視線が痛い。責めているのだとわかる。
お風呂から上がり、ショウが帰ってくる前に自室へ引き上げようとしていたのだけれど、無駄だった。ショウのバイトは、いつもより早く終わってしまったようだ。
やっぱり、怒られて当然だよなぁと溜め息をつく。
「ごめん」
「謝らなくていいよ。ただ、理由を説明してほしいんだ」
佐藤さんにも今日そう言われた。理由を教えて下さい、と。
僕が努力できることなら何でもしますから、と佐藤さんは言ってくれたけれど、彼の努力ではどうにもならないことなのだ。
この気持ちは、彼の努力では埋められないと、私はよく知っている。
「高学歴で、大手製薬会社の研究員として内定が出ていて、高身長で、人当たりがよくて、酒もタバコもギャンブルもしない佐藤先輩のどこが悪くて、姉ちゃんは付き合えないって言ったの?」
「うん、いい人だよ、佐藤さん」
「でしょ? お似合いだと思って姉ちゃんに紹介したのに」
佐藤さんは少し痩せ気味な男性で、ハゲてもいないし、ものすごく不細工というわけでもないし、ケチでも散財家でもなく、恋人としても伴侶としても、本当にいい人だと思うのだけれど。
「……ごめん」
今度はショウが溜め息をつく。
「わかってる? もう佐藤先輩以上のいい人、俺は紹介できないんだからね? 彼氏、自分で探してよね」
「うん……ショウの立場は悪くなったりしない?」
「なるわけないでしょ。先輩がそんな意地悪な人なら、最初から俺が姉ちゃんに紹介するわけないじゃん」
そりゃそうだよなぁとぼんやり考えて、バスタオルで頭を拭く。
いつの間にか、ショウはドライヤーを片手に、ソファを指さしている。まだ怒っているような表情のショウに促されるまま、私はソファに座る。お風呂上がりの定位置だ。
「怒ってる?」
「怒ってるよ。俺、佐藤先輩なら、お義兄さんって呼んでもいいと思っていたのに」
手際よくブラシで髪をとかしながら、ショウはドライヤーの温風を当ててくれる。不思議なことに、彼が乾かしてくれると、翌日の髪のセットのしやすさが変わるのだ。
弟の手がないと自分では思い通りにならない髪は、私の心と同じ。
「切ろうかな、髪」
「ダメ」
ショウの指が耳のそばを撫で上げる。優しくて冷ややかな指の軌跡に、ぞわりと体が震える。
「姉ちゃんの髪乾かすの、俺の特権だから」
耳元で聞こえた声に、さらに全身が粟立つ。
知られてはいけない。
佐藤さんに結婚を前提としたお付き合いを申し込まれたとき、一番に脳裏をよぎったのは、ショウの笑顔だったことを。
悟られてはいけない。
半分血のつながった弟に、私が淡い恋心を抱いていることを。
理由なんて、誰にも言えるわけがない。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる