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3話、姉。
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「課長、頼まれていた書類、できました」
「ありがとう。相変わらず仕事が早いね」
席に戻ると、机の上の家族写真がまず目に入る。五年前に家族四人で旅行したときのもの。私の隣で、ショウがぎこちなく笑っている。好きな人の写真を堂々と飾ることができるのは、幸せなこと。毎日ニヤニヤしてしまう。
短大を卒業してこの会社に就職、三年になる。時間はゆるやかに過ぎているようで、速い。
私の産みの母は、私が一歳になった頃、交通事故に遭って帰らぬ人となった。祖母に私を預けて買い物に出かけた際に、居眠り運転のトラックにひかれたのだと聞いている。
父は、慣れない育児と昇進したばかりの仕事で、大変だったという。職場でどんどん憔悴していく父を見て、心配して世話を焼いてくれたのが、今の母だ。
物心つく前の私は、母によく懐いたという。毎日遊んでくれて、一緒にご飯を食べて、私が「おかあさん」と母に呼びかけるようになった頃、父と母は再婚した。
そして、ショウが産まれた。
母が本当の母ではないと知ったのは、だいぶ時間がたってからだ。
当時はその話を聞いて、驚きはしたけれど、母の愛情を疑うことはなかった。愛されている実感をきちんと与えてくれた両親には、本当に感謝している。
ただ、ショウは、少し荒れた。
と言っても、家族と口をきかない、程度のかわいいものであったので、しばらくすると落ち着いたけれど。
その、無視されている期間も、私はいつも通りに接していたので、だいぶウザかっただろうなぁと思う。
写真の中のショウは、そのときのあどけなさを残している。今の口うるさいショウもかわいくて好きだけど、この頃のショウもかわいかった。いい写真だ。
「マドカ」
隣の席の川口が小さな声で私を呼ぶ。同期だけど、彼は大卒なので年上だ。
「仕事?」
「いや、昨日の院生との三回目のデートはどうだったのかなーと思って」
「あぁ、良かったよ」
内容は素晴らしく良かったと思う。
静かなレストランで美味しいディナーをご馳走になったあと、夜風にあたりながら公園を散歩。ベンチに座って、たどたどしく告白された。
流れはとてもいいと思う。
ショウの笑顔さえ頭をよぎらなければ、「ふつつかものですが、よろしくお願いします」と頭を下げて佐藤さんに握手を求めていたと思う。
「え、じゃあ、付き合うの?」
「ううん」
「えっ、なんで?」
川口の質問には答えない。
彼の背後に、笑顔の課長が立っているからだ。課長は仕事をきちんとこなす社員が好きで、仕事中に無駄におしゃべりをする社員は嫌いなのだ。
「何で付き合わないの? 優良物件だったんだろ?」
「……川口くん」
「大手の研究員として内定が出てるのに、何で付き合わないかなぁ」
「川口くん」
課長の声に、川口は弾かれるように立ち上がった。慌てすぎて、机の上の書類が雪崩のように落ちていく。
「す、すみません、課長!」
「そういう話は休憩中にしてね」
「は、はい!」
「あと、君たちは同期だからいいかもしれないけど、他の人にとってはセクハラになりかねないからね、さっきの言葉」
「はい、すみませんでした!」
課長は「気をつけるように」と川口の肩を軽くたたいて、席へと戻っていく。
机の下の雪崩の片付けをしながら、川口は笑いながら私を見上げた。
「今日飲みに行こうぜ」
ほんと、私じゃなかったら、セクハラにアルハラだよ、川口。
「ありがとう。相変わらず仕事が早いね」
席に戻ると、机の上の家族写真がまず目に入る。五年前に家族四人で旅行したときのもの。私の隣で、ショウがぎこちなく笑っている。好きな人の写真を堂々と飾ることができるのは、幸せなこと。毎日ニヤニヤしてしまう。
短大を卒業してこの会社に就職、三年になる。時間はゆるやかに過ぎているようで、速い。
私の産みの母は、私が一歳になった頃、交通事故に遭って帰らぬ人となった。祖母に私を預けて買い物に出かけた際に、居眠り運転のトラックにひかれたのだと聞いている。
父は、慣れない育児と昇進したばかりの仕事で、大変だったという。職場でどんどん憔悴していく父を見て、心配して世話を焼いてくれたのが、今の母だ。
物心つく前の私は、母によく懐いたという。毎日遊んでくれて、一緒にご飯を食べて、私が「おかあさん」と母に呼びかけるようになった頃、父と母は再婚した。
そして、ショウが産まれた。
母が本当の母ではないと知ったのは、だいぶ時間がたってからだ。
当時はその話を聞いて、驚きはしたけれど、母の愛情を疑うことはなかった。愛されている実感をきちんと与えてくれた両親には、本当に感謝している。
ただ、ショウは、少し荒れた。
と言っても、家族と口をきかない、程度のかわいいものであったので、しばらくすると落ち着いたけれど。
その、無視されている期間も、私はいつも通りに接していたので、だいぶウザかっただろうなぁと思う。
写真の中のショウは、そのときのあどけなさを残している。今の口うるさいショウもかわいくて好きだけど、この頃のショウもかわいかった。いい写真だ。
「マドカ」
隣の席の川口が小さな声で私を呼ぶ。同期だけど、彼は大卒なので年上だ。
「仕事?」
「いや、昨日の院生との三回目のデートはどうだったのかなーと思って」
「あぁ、良かったよ」
内容は素晴らしく良かったと思う。
静かなレストランで美味しいディナーをご馳走になったあと、夜風にあたりながら公園を散歩。ベンチに座って、たどたどしく告白された。
流れはとてもいいと思う。
ショウの笑顔さえ頭をよぎらなければ、「ふつつかものですが、よろしくお願いします」と頭を下げて佐藤さんに握手を求めていたと思う。
「え、じゃあ、付き合うの?」
「ううん」
「えっ、なんで?」
川口の質問には答えない。
彼の背後に、笑顔の課長が立っているからだ。課長は仕事をきちんとこなす社員が好きで、仕事中に無駄におしゃべりをする社員は嫌いなのだ。
「何で付き合わないの? 優良物件だったんだろ?」
「……川口くん」
「大手の研究員として内定が出てるのに、何で付き合わないかなぁ」
「川口くん」
課長の声に、川口は弾かれるように立ち上がった。慌てすぎて、机の上の書類が雪崩のように落ちていく。
「す、すみません、課長!」
「そういう話は休憩中にしてね」
「は、はい!」
「あと、君たちは同期だからいいかもしれないけど、他の人にとってはセクハラになりかねないからね、さっきの言葉」
「はい、すみませんでした!」
課長は「気をつけるように」と川口の肩を軽くたたいて、席へと戻っていく。
机の下の雪崩の片付けをしながら、川口は笑いながら私を見上げた。
「今日飲みに行こうぜ」
ほんと、私じゃなかったら、セクハラにアルハラだよ、川口。
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