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34話、弟。

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「団体用の皿、全部こっちに出して!」
「デザート、終わりました!」
「サバ、あと五つです! オーダー気をつけてください!」

 団体予約が入っているとは言っても、人数もコースも決まっている。仕込めるものは先に仕込んで、タイミングよく仕上げていくだけだ。
 本店は店の規模が大きく、それに対応するために厨房も広い。スタッフも、優秀な人が多い。
 俺は、板長に指示されたとおりに、団体予約用の焼き物の準備をする。ブリの照り焼き。美味しそうだ。

「高梨、彼女できたのか?」
「できましたよ、板長」

 料理長である永田さんは、以前板前をやっていたので、親しみを込めて皆から板長と呼ばれている。
 刺身を切っているときはあまり喋らない板長が喋ってくるなんて、余程気になったのだろう。

「そりゃ、美郷店長がキレるだろ」
「殺気を感じましたよ、本当に」
「ま、仕方ねえな。あいつのセクハラはこんぷらあに引っかかるからな」

 板長は覚えたての「コンプライアンス」を使ってみたかったのだろう。言えていないけれど、そういうところは何だかかわいいと思える。

「俺の次に犠牲者は出ました?」
「いや、いねえな、見たところ。手はつけてない感じだな。あれだけ合コンばっかり行っていたのに、最近は派手に遊ぶこともなくなったから、逆に怖えよ」
「そうですか」

 怖いな、確かに。
 俺に会ったことで、変なスイッチを押さなければよいのだけれど。
 本当に、もう、接触してこないで欲しい。
 次に何かあったら、セクハラで本社に訴えるか、店を辞めるかしないといけない。

「ま、今日は早く帰れよ。残ったりすんな」
「はい、そうします」

 永田板長は、顔は怖いけれど、心は優しい人なのだ。


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