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37話、姉。

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 さすがにランチのあと会社に戻らないわけにもいかないので、カナからは「続きは今夜! 飲みに行くよ!」と一方的に誘われた。

 仕事中、カナとのランチの件が気になって仕方がない川口がそわそわとこちらに視線を寄越すけれど、無視をする。そんな川口は課長から叱られていたけれど、やっぱり無視をする。
 ほんと、聞く勇気がないなら、チラチラ見ないで欲しいよ、まったく。

 カナが連れてきてくれたのは、ショウがバイトをしている居酒屋の系列店だ。ショウが働いているのは別の店舗だし、そもそも厨房のバイトなので、顔を合わせることもないだろう。

「今日は混んでるね。金曜だから仕方ないか」

 幸いにもすぐに個室に入れたけれど、オーダーしたものが届かなかったり、間違って届いたり、とにかく落ち着かない。

「前は雰囲気もすごく良かったんだけど、次はもうないなぁ。これじゃ、お客さんとは来られないわ」

 カナはビールと焼酎さえあれば満足なので、私と話すだけなら、こんな空気でもいいみたいだ。

「で、一つ確認しておきたいんだけど」

 カナがビールを飲んだあとすぐに切り出してくる。待ち合わせたときからうずうずしていたから、仕方ない。応じるしかない。

「高梨と弟くんに、その、血のつながりはあるの?」
「たぶん。異母きょうだいだから」
「異母かぁ……何歳差?」
「三つ違うかな」
「へぇ。お母さんは死別? 離婚?」
「私が一歳のときに交通事故で亡くなったの」

 枝豆を食べながら、カナの質問に応じる。
 カナは私とショウのことに興味津々というよりは、一つ一つ疑問を解決していくという感じだ。

「じゃあ、高梨のお父さんはすぐ弟くんのお母さんと結婚したの?」
「ううん。確か、ショウが産まれて少ししてからだったかなぁ。入籍したのは」
「……」

 揚げ出し豆腐と出し巻き玉子を持ってきた女の店員さんの動きが一瞬止まった気がした。けれど、カナは気にしていないようだ。

「高梨と弟くんがそれぞれ連れ子同士なら、確か結婚できるんだけど、異母だとできないよね、結婚」
「たぶん、ね」
「子どもが産まれたら、認知はできるのかな。でも、近親だと障害が多少は気になるもんなぁ」

 カナの話がとても現実的で、聞いている私のほうがびっくりしてしまう。私ですら考えていなかったことを指摘され驚いている、というのが正しいのか。

「カナ、詳しいね」
「高梨が考えなさすぎなのよ。普通考えるでしょ。血の繋がった弟とどうにかなるなら、その先のことをちゃんと考えておかなきゃ。弟くん、なんて?」
「なんか、添い遂げる覚悟はあるって言っていた、かな」

 思った以上にカナが真剣に考えてくれているので、ありがたい。そういう関係はやめておけと言われたり、気持ち悪いと思われるかと思っていたのに。
 なんだか、嬉しいなぁ。拒絶されない、ってすごく嬉しいんだなぁ。

「添い遂げる覚悟、かぁ。じゃあ、一時的な想いではないんだろうね。高梨と違って弟くんはいろいろ考えているんだね、たぶん」
「そう、なのかな……?」
「常に高梨のことを考えてないと、咄嗟に出てこないセリフだよ。羨ましいね。ちゃんと愛されているんじゃない?」

 そう、だといいな。
 また嬉しくなって、私はビールを飲んだ。

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