【R18】スパイス~高梨姉弟の背徳~

千咲

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65話、姉。

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 強盗や空き巣目的で家に侵入したら、家人が洗い物をしているときには襲わないほうが良い。
 そう、冒頭に記入してから、ハウツー本は売るべきだ。

「ちょ、ちょっと、落ち着いてください」

 発したのは、私ではない。侵入者のほうだ。
 仕方がない。彼の目の前には、右手に包丁、左手にトングを持った家人がいるのだから。

「私は落ち着いています。あなたが近づいたら包丁で切りかかるので、近づかないでください」
「は、はい」

 過剰防衛になったとしても、自分のことは自分で守らなきゃ。その覚悟だけはある。
 帽子をして、黒いパーカーを着た、怪しいひょろひょろの男は、見知らぬわけではないと私の記憶が告げている。どこかで見たことがある顔だ。

「目的は何ですか?」
「高梨くんと、美郷店長の交際をやめてほしいとお願いに」
「美郷、店長?」

 途端に思い出す。
 この人は、昨日私にお茶を出してくれた人だ。
 なるほど、ねぇ。

「弟は、美郷店長とはお付き合いをしていませんよ。それに、お願いに来るにはひどい状態ですよね? 鍵がかかっていなかったから勝手に入り込み、菓子折り一つもなく、軽装で」
「そ、それは」

 今から空き巣をします、と言っているような格好の人に、そんなことを言われて信じるような私ではない。
 私は無駄にトングを振りかぶる。
 一瞬びくっとした男ではあったが、少し余裕がでてきたのか、状況を整理したのか、ゆっくり上体を起こし始める。
 あ、まずい。
 いくら包丁を持っているとは言え、私は女だ。スマートフォンもリビングだ。相手にそれらを確認されたら、形勢は逆転されてしまう。

「高梨くんの、お姉さんですね?」
「あなたはショウのバイト先の人ですよね? 昨日はお茶をありがとうございました」
「……記憶力がいいんですね」
「用件は手短にお願いします。あと少しで友人が来ますので」
「あぁ、すぐすみますよ」

 キッチンは狭い。そして、テーブルもないので、ひらけている。大人の男の歩幅で五歩もあれば、私に到着してしまう。私は包丁とトングのみで身を守らなければならない。この、震える手に持った二つの調理器具で。
 男は一歩踏み出した。

「こ、来ないでくださいっ」
「店長を手に入れるためには、高梨くんが邪魔なんです」
「ひっ」
「高梨くんに愛されるあなたも邪魔なんです」

 男は、一歩一歩近づいてくる。
 こういうとき、普通の女は非力だ。手が震えて、上手に二つの調理器具を持てないなんて。振り回して武器にするなんて、無謀すぎる夢だ。

「こっ、こなっ」
「かわいそうに、こんなに震えて」

 すでに男は目の前に立っていた。
 振り回すはずの包丁は、いつの間にか手を離れ、床に落ちている。トングは握ったままだ。
 怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い……。

「大丈夫ですよ、お姉さん」

 男は、震えるトングを床にたたき落とし、私の顎をぐいっとつかんだ。
 痛い、痛いよ、やめて、やめてよ。
 私の体に触らないで。
 私の視界に入ってこないで。
 お願い、やめて。

「避妊はしますから」

 全っっ然、大丈夫じゃない!!
 ショウ、助けて――!!


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