片翼シリーズ番外編

星宮歌

文字の大きさ
1 / 41
私、異世界で監禁されました!?の番外編

『閑話 リドルの悲劇』より 旅路(リドル視点)

 ハミルの暴走に付き合わされたワタシは、癒しを求めていた。癒しとはすなわち、愛しい片翼、レティのことだ。
 馬車に揺られながら、テイカー家の別邸へと辿り着くと、これから会えるレティのことを思い、頬を緩める。
 なぜか痛ましげな表情をしている執事に気づくことなく、ワタシは玄関を潜り抜け、広間から階段を昇り、レティの部屋へと急いで……そちらに、レティの気配がないことに気づく。


「あら? 珍しいわね。どこに居るのかしら?」


 愛しいレティは、毎日玄関で出迎えてくれるか、部屋で待機していてくれるかが多い。けれど、今日に限って、レティは部屋に居なかった。
 すると、ワタシの背後に控えていた老齢の執事が恐る恐る声をかけてくる。


「旦那様。奥様より、お手紙を預かっております」

「手紙?」


 毎日一緒に居るのに、珍しいこともあったものだと振り返ったワタシは、執事のその表情に初めて気づき、何となく嫌な予感がしつつも可愛らしいピンクの便箋を受け取る。そして……その数十秒後、屋敷ではワタシの悲鳴が響くのだった。





 急いで片翼休暇の申請を商会とジークのところに提出したワタシは、数日分の荷物を詰め込むと、すぐさま馬車を出す。向かう先は、精霊の国、リュシー霊国だ。


「いったい、ワタシは何を誤解されたの?」


 握り締めた手紙を呆然と眺めながら、ワタシはもう一度、その文面を目で追う。


『リドルへ。

どうやら貴方は、わたくし以外を心に住まわせた様子。

そんな貴方の側には居られませんので、実家に帰らせていただきます。

レティシアより』


 このワタシが、レティ以外を愛することなんてあり得ない。何がどうなって、こんな誤解を生んだのか、全く心当たりがなかった。


「いえ、待って? まさか、ユーカちゃんに構ってることをレティが知ったとか?」


 一瞬過ったのは、黒目黒髪の不遇な少女の顔。ただ、ユーカちゃんの存在は極秘事項扱いなので、レティが本当にユーカちゃんの存在を知っているとは思えない。


「でも、疑いくらいはかけられても、おかしくないのかも?」


 ワタシは、商会での仕事を早めに切り上げて、ジーク達に協力してきた。帰宅する時間はいつもと変わりなかったものの、商会の者達に口止めをしたわけでもない。どこからかワタシの不審な行動が漏れていたのかもしれない。


「そうだとしたら、ワタシの失態だわ」


 愛しいレティに誤解されたことが、何よりもつらい。
 つらくてつらくて、馬車ではなく、さっさとスレイプニル(八本足の馬型幻獣)に乗って向かいたいと思うものの、それでは確かに早く着くことはできるけれど、帰りが大変だ。荷物がある上、レティも乗せなくてはならないとなると、さすがのスレイプニルも動きづらいはず。愛しいレティにそんな不自由はさせられなかった。
 ただ……今は、さっさとスレイプニルで進んだ方が良かったかもしれないと思っている。


「おうおうっ、有り金、全部置いてきなっ」

「後は女もなぁ。ゲヘヘ」


 馬車で急ぎながらリュシー霊国に向かっていたワタシに待ち受けていたのは、人間の盗賊どもだった。確かに、ヴァイラン魔国とリュシー霊国の間では盗賊が出没するという情報はあった。あったけれど……。


(何も、こんなに急いでる時に出なくても良いじゃないっ)


 ただ、この盗賊達が魔族と精霊が住まう国々の間に居るというのはおかしい。魔族であれば、人間盗賊ごとき、殲滅は容易いし、精霊であれば姿をくらませてしまうことで追われないようにすることが可能だ。


(背後に何かが居る? でも、関係ないわね。ワタシの邪魔をする者は、誰であろうと許さないわ)


 普段なら、盗賊であろうとも多少の手心は加える。そうして、捕縛して衛兵につき出すくらいの余裕はある。けれど、今は、愛しのレティに誤解されて拒絶された今は、そんな余裕、欠片もない。


「うふふ、良い度胸ね」


 とりあえず止まって、盗賊に対処しようとしていた御者に、ワタシは目で制して、馬車から降りる。


「うげっ、なんだよ、男じゃねぇかっ」

「気持ち悪っ、なんでそんな格好してんだよっ」


 真っ赤なドレスを翻して盗賊の前に出たワタシは、随分な言われようだったものの、それを気にすることなく艶然と微笑む。


「うふふ、今のワタシは、手加減できないの。だから、先に謝っておくわね? ごめんなさい」


 そう言えば、十人ほどの盗賊達には青筋が浮かぶ。


「このっ、やっちまえっ!」

「「「おぉっ!」」」


 リーダーらしき強面の男が合図すると、盗賊どもはそれぞれ武器を片手に襲いかかってくる。それに対して、ワタシは腰に提げていた護身用の鞭を取り出した。


「さぁ、泣きわめきなさい」


 毒をたっぷり塗り込んだいばらの鞭。それをヒュンッと振るえば、四人ほどの盗賊が一気にそこらの木や岩に叩きつけられ、意識を失う。しかも、その中には、盗賊のリーダーらしき男も居て、盗賊達の士気は一気に下がる。


「なっ」

「ひぃっ」


 今さら怖じ気づいた盗賊どもは、逃げ腰になる者と果敢に挑んでくるものとに分かれたけれど、挑んできた者達は、最初に昏倒させた奴らと同じように鞭で吹き飛ばし、逃げようとした者は、鞭で絡めとってから地面に叩きつけて気絶させた。戦闘開始から、数十秒という短い時間で、十人の盗賊達は、全員意識を失うのだった。


「ハンス、こいつらは縛って放置よ」

「はっ、承知致しました」


 ブルブルと震える御者、ハンスに声をかけたワタシは、鞭を収めて馬車に戻る。
 この辺りは魔物も出る。この盗賊達にどんな背後関係があるのかは知らないけれど、毒で三日は麻痺した上、魔物どもがうろつく場所に放置されれば、無事ではすむまい。
 そうして、馬車に乗り込んだワタシは、ハンスが急いで『こいつら盗賊。片翼休暇中に襲われたため、放置する』という看板を立てているのを眺める。本来ならば衛兵に突き出さなければならないところを、片翼休暇という言葉によってその手間を省いているのだ。
 これで、運が良ければ、この盗賊どもは誰かに衛兵に突き出してもらえるだろう。運が悪ければ魔物の餌だ。


「ありがとう。ハンス」

「いえ、当然のことです」


 本当は、看板を立てる時間すらも惜しいと思っていたものの、ハンスのやったことは、結局はワタシのためだ。ワタシが、盗賊を見殺しにしたという状況にしないために、あんな看板を立てて、救う意思はあるとアピールしたのだ。
 有能な部下を持てたことを嬉しく思いながら、ワタシはレティへの想いを溢れさせる。


「ごめんなさい。これからも急いでもらうことになるわ」

「もちろんです。急ぎましょう」


 そうして、盗賊達を残して、馬車はまた出発した。
感想 13

あなたにおすすめの小説

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!