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私、異世界で監禁されました!?の番外編
リドルの片翼(一)(リドル視点)
『精霊の病』という言葉がある。それは、何か一つの特徴のみを偏愛する者を称する言葉で、実際に、精霊がそのような性質を持つことから生まれた言葉だ。
約三百五十年前、ワタシではなく、俺だった頃は、まだ、その言葉がどういうものなのかなんて知らなかった。
「リド。旅行できるくらいの暇はある?」
「んあ? まぁ、今は洪水の影響で物流がストップしてるからな。今日から二週間は暇になる予定だ。……何だ? また片翼捜しに付き合えってか?」
銀髪に、濃いピンクの瞳を持つ、外見は華やかなのに、どことなく暗い雰囲気を持つ親友、ナリクに、自室を訪問された直後に問いかけられて、コーヒーを飲みながら返す。
「その通り。俺も、片翼は見つけたい」
「片翼、ねぇ……」
この場には居ない二人の親友が、片翼に苦しめられていることを思い出して、俺はつい顔をしかめる。
「そんなにほしいもんかね、片翼ってやつは?」
「片翼を欲するのは、魔族として当然。むしろ、片翼を求めないリドの方が異常」
「いや、でもよぉ。こんだけ捜して見当たらないとなると、相手は相当に厄介な存在ってことになるだろ? ジークやハミルみたいな苦労をするくらいなら、俺は片翼なんて見つけなくて良いと思うがね」
実際、片翼を見つけられずに生涯を終える魔族が居ないわけではない。そして、『片翼の宿命』に苦しめられている親友二人を思えば、片翼なんて居ない方が良いとさえ思えた。
「俺は、嫌だ。片翼、捜しに行きたい」
「……それで、毎回俺を誘うのはどういうわけなんだかなぁ……まぁ、分かった。旅行だと思ってついて行こうじゃないか。んで、どこに行くんだ?」
「リュシー霊国」
「げほっ」
ナリクの応えに、完全にむせた俺は、げほげほと言いながら、涙目でナリクを睨む。
「おい、俺は変な精霊に好かれるのはごめんだぞ?」
「大丈夫。その時は、骨くらい拾う」
「全然大丈夫じゃねぇっ!?」
精霊は、何か一つの特徴を偏愛する。それは、口調だったり、背格好だったり、性格だったりと様々だが、精霊に目をつけられると、一生つきまとわれるとまで言われているため、魔族のほとんどはリュシー霊国に向かうことはない。万が一、片翼以外の精霊に好かれたら、面倒以外の何者でもないからだ。
「もっと安全な場所にしろよ。さすがに、リュシー霊国は危険だ」
「……占い師に、俺の片翼はリュシー霊国に居ると言われた。ついでに、『赤い友達の片翼も居るから、一緒に行くように』とも」
「よし、その詐欺野郎はどこか吐け。すぐに殴りに行ってやる」
赤い友達というのは、十中八九自分のことだろう。真っ赤な短髪に、真っ赤な瞳。ついでに、小さすぎてよく見なければ分からないが、角も真っ赤な俺は、自分のこの派手な色合いがあまり好きではない。しかし、ここまで真っ赤な魔族は珍しく、俺は頻繁に赤い魔族と称されてきた。
「占い師、昨日、ポックリ逝った」
「おいっ、それじゃあ俺の怒りはどこにぶつけりゃあ良いんだよっ!」
ナリクのまさかの情報に憤慨していると、ナリクは少し考えて、口を開く。
「占い師は、有名だった。だから、信憑性はある」
「片翼捜しに占いを頼ること自体間違ってると思うんだがっ!?」
そう反論を試みるものの、ナリクの目は本気だ。これは、説得できないと、俺はその場で悟る。
「今日行けば、リドが暇なことも言い当てた。だから、行こう」
「……だぁっ、分かったよ。行けば良いんだろ? 行けばっ」
結局のところ、親友の頼みを無下にできない俺は、お人好しなのだろう。数日かかるリュシー霊国への旅に、俺は付き合うことにした。まさか、本当にそこで片翼と出会うことになるとも知らず。
「森、だな」
「あぁ、森、だ」
「地図、間違ってないよな?」
「間違って、ない」
現在、俺達はリュシー霊国と思われる場所で立ち尽くしている。それもこれも、目の前の広大な森がリュシー霊国であるらしいという現実に、少し混乱をきたしていたからだ。
リュシー霊国に関する噂は、いくらか聞いたことがある。曰く、一度入国したら帰れなくなる。曰く、国とは名ばかりの森。曰く、邪な心を持つ者は入れない。などなど。どこまでが本当か分からなかったものの、まさか、『国とは名ばかりの森』という噂が事実だとは思わなかった。
「なぁ、リク。噂では、ここは入ったが最後、出られないってことなんだが?」
「安心しろ。俺と、リド、どちらも方向音痴ではない」
「そういう問題じゃない気がするんだが!?」
そう声を荒げれば、ナリクはニヤリと笑う。
(こいつ、確信犯かよっ)
「冗談はともかく、心配ない。俺は、転移できる」
「……確かに。なら、心配ないか」
万が一、リュシー霊国の中で迷ってしまえば、ナリクに転移して入り口まで戻してもらえば問題ない。そう納得していると、ふいに、幼い子供の笑い声らしきものが聞こえ始める。
「クスクスクス」
「きゃははっ」
「あはははっ」
「ふふふふっ」
その声の数はどんどん増えていき、少なくとも十人は居るだろうと思われる笑い声が響き出す。
「リク、これはまさか……」
「精霊、だな」
精霊なんて、誰かの片翼でもない限り見ることなどない。そして、俺もナリクも、精霊を片翼とする魔族に知り合いが居なかったため、今回が初めての精霊との対面となる。
「行こう。リド」
「……おう」
陽気な笑い声が響くリュシー霊国。そこへ、俺は覚悟を決めて踏み入れるのだった。
約三百五十年前、ワタシではなく、俺だった頃は、まだ、その言葉がどういうものなのかなんて知らなかった。
「リド。旅行できるくらいの暇はある?」
「んあ? まぁ、今は洪水の影響で物流がストップしてるからな。今日から二週間は暇になる予定だ。……何だ? また片翼捜しに付き合えってか?」
銀髪に、濃いピンクの瞳を持つ、外見は華やかなのに、どことなく暗い雰囲気を持つ親友、ナリクに、自室を訪問された直後に問いかけられて、コーヒーを飲みながら返す。
「その通り。俺も、片翼は見つけたい」
「片翼、ねぇ……」
この場には居ない二人の親友が、片翼に苦しめられていることを思い出して、俺はつい顔をしかめる。
「そんなにほしいもんかね、片翼ってやつは?」
「片翼を欲するのは、魔族として当然。むしろ、片翼を求めないリドの方が異常」
「いや、でもよぉ。こんだけ捜して見当たらないとなると、相手は相当に厄介な存在ってことになるだろ? ジークやハミルみたいな苦労をするくらいなら、俺は片翼なんて見つけなくて良いと思うがね」
実際、片翼を見つけられずに生涯を終える魔族が居ないわけではない。そして、『片翼の宿命』に苦しめられている親友二人を思えば、片翼なんて居ない方が良いとさえ思えた。
「俺は、嫌だ。片翼、捜しに行きたい」
「……それで、毎回俺を誘うのはどういうわけなんだかなぁ……まぁ、分かった。旅行だと思ってついて行こうじゃないか。んで、どこに行くんだ?」
「リュシー霊国」
「げほっ」
ナリクの応えに、完全にむせた俺は、げほげほと言いながら、涙目でナリクを睨む。
「おい、俺は変な精霊に好かれるのはごめんだぞ?」
「大丈夫。その時は、骨くらい拾う」
「全然大丈夫じゃねぇっ!?」
精霊は、何か一つの特徴を偏愛する。それは、口調だったり、背格好だったり、性格だったりと様々だが、精霊に目をつけられると、一生つきまとわれるとまで言われているため、魔族のほとんどはリュシー霊国に向かうことはない。万が一、片翼以外の精霊に好かれたら、面倒以外の何者でもないからだ。
「もっと安全な場所にしろよ。さすがに、リュシー霊国は危険だ」
「……占い師に、俺の片翼はリュシー霊国に居ると言われた。ついでに、『赤い友達の片翼も居るから、一緒に行くように』とも」
「よし、その詐欺野郎はどこか吐け。すぐに殴りに行ってやる」
赤い友達というのは、十中八九自分のことだろう。真っ赤な短髪に、真っ赤な瞳。ついでに、小さすぎてよく見なければ分からないが、角も真っ赤な俺は、自分のこの派手な色合いがあまり好きではない。しかし、ここまで真っ赤な魔族は珍しく、俺は頻繁に赤い魔族と称されてきた。
「占い師、昨日、ポックリ逝った」
「おいっ、それじゃあ俺の怒りはどこにぶつけりゃあ良いんだよっ!」
ナリクのまさかの情報に憤慨していると、ナリクは少し考えて、口を開く。
「占い師は、有名だった。だから、信憑性はある」
「片翼捜しに占いを頼ること自体間違ってると思うんだがっ!?」
そう反論を試みるものの、ナリクの目は本気だ。これは、説得できないと、俺はその場で悟る。
「今日行けば、リドが暇なことも言い当てた。だから、行こう」
「……だぁっ、分かったよ。行けば良いんだろ? 行けばっ」
結局のところ、親友の頼みを無下にできない俺は、お人好しなのだろう。数日かかるリュシー霊国への旅に、俺は付き合うことにした。まさか、本当にそこで片翼と出会うことになるとも知らず。
「森、だな」
「あぁ、森、だ」
「地図、間違ってないよな?」
「間違って、ない」
現在、俺達はリュシー霊国と思われる場所で立ち尽くしている。それもこれも、目の前の広大な森がリュシー霊国であるらしいという現実に、少し混乱をきたしていたからだ。
リュシー霊国に関する噂は、いくらか聞いたことがある。曰く、一度入国したら帰れなくなる。曰く、国とは名ばかりの森。曰く、邪な心を持つ者は入れない。などなど。どこまでが本当か分からなかったものの、まさか、『国とは名ばかりの森』という噂が事実だとは思わなかった。
「なぁ、リク。噂では、ここは入ったが最後、出られないってことなんだが?」
「安心しろ。俺と、リド、どちらも方向音痴ではない」
「そういう問題じゃない気がするんだが!?」
そう声を荒げれば、ナリクはニヤリと笑う。
(こいつ、確信犯かよっ)
「冗談はともかく、心配ない。俺は、転移できる」
「……確かに。なら、心配ないか」
万が一、リュシー霊国の中で迷ってしまえば、ナリクに転移して入り口まで戻してもらえば問題ない。そう納得していると、ふいに、幼い子供の笑い声らしきものが聞こえ始める。
「クスクスクス」
「きゃははっ」
「あはははっ」
「ふふふふっ」
その声の数はどんどん増えていき、少なくとも十人は居るだろうと思われる笑い声が響き出す。
「リク、これはまさか……」
「精霊、だな」
精霊なんて、誰かの片翼でもない限り見ることなどない。そして、俺もナリクも、精霊を片翼とする魔族に知り合いが居なかったため、今回が初めての精霊との対面となる。
「行こう。リド」
「……おう」
陽気な笑い声が響くリュシー霊国。そこへ、俺は覚悟を決めて踏み入れるのだった。
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