片翼シリーズ番外編

星宮歌

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私、異世界で監禁されました!?の番外編

ヘルジオン魔国 出会い(パイロ視点)

 前魔王陛下は、あまりにも優柔不断な魔王だった。まだ成人を迎えていない私でさえもそれを耳にしているのだから、それは相当なものであったに違いない。
 成人を迎え、しばらくした頃に、その前魔王陛下の崩御の知らせを聞いた時は、不敬ながらもホッとしたほどだ。前魔王陛下の政策は、芯のないものばかりで、貴族達の間では横領も、その他の不正も、数多く横行している状況だったのだ。


(だが、優秀だったレドン魔王子の方が亡くなってしまっていたのは残念なことだ)


 噂によれば、レドン魔王子は優秀で、その弟であるサージェス魔王子は平凡だとのこと。どうせなら、弟の方が亡くなって、レドン魔王子が残ってくれれば良かった。
 そんなことを考えながら、私は、父から宰相の座を引き継いで、新たな魔王陛下となるサージェス魔王との顔合わせの日を迎えていた。


「パイロ様。こちらにお手紙が届いております」

「分かった。すぐに目を通す」


 顔合わせといっても、特に話をする予定はない。ギリギリまで仕事に打ち込んでいようとも、文句を言われることはないだろう。

 正直、この時はまだ、サージェス様のことなどどうでも良く、ただ、蔓延る不正をどうにかしなければならないという使命感だけに駆られていた。だから、途中で緊急の仕事が入り、気づいた時には顔合わせの時間をとっくに過ぎていても、仕方ないから、謁見を申し込もうというくらいにしか考えていなかったのだ。
 まさか、そこで運命の出会いをするとも知らずに。

 謁見の場では、さすがに顔合わせの場へ向かわなかったことへの謝罪は必要だと思い、考えを巡らせていた。下手をすれば罰を受けることにはなるだろうが、平凡だと謳われるサージェス様を丸め込むことくらい、簡単にやってのけるつもりだった。

 謁見の間に通されると、まだサージェス様は到着されていない様子で、私はひざまづいたまま、そこで待機することとなった。そして、ふいに香った甘い香りに、私は頭の中が痺れるような感覚に襲われる。


(何だ……これは……?)


 何か、危険な薬が蔓延しているのだろうかと一瞬疑うものの、私の知識に、こんな香りの毒はない。そもそも、こんな場所で毒を蔓延させるようなバカは、さすがに居ないはずだ。
 そうして、黙ったまま周囲を確認しようとしたところで、その声は聞こえる。


「っ、面を上げよ」

「はっ」


 かかった声は、少し高めの声で、なぜか心地良い響きを持っており、私は言われるがままに顔を上げて……目を見開く。藍色の角に藍色の髪、緑の瞳を持った美しい青年、サージェス様を見た途端、私は彼が、自分にとってどんな存在なのかを理解した。


(片、翼……)


 何よりも愛しい相手が、よりにもよって、魔王陛下であるという事実に、私は溢れ出そうな、感情をどうにか抑えつける。


「名は、何という?」

「パイロ、パイロ・リードと、申します」


 情けないことに、少し声が震えてしまうが、それすらも気にすることなく、サージェス様はその藍色の目を細めて、少し嬉しそうにする。


「宰相、であったな」

「はっ」


 そうだ。私は宰相で、サージェス様を支える存在だ。
 少し前まで、サージェス様に持っていた反感はあっという間に霧散し、今は、サージェス様の役に立てる地位に居ることが嬉しくて仕方がない。


「では、この後、私の執務室に来なさい」

「御意」


 サージェス様の執務室に招かれたことが嬉しくて、感情が漏れそうになるのを必死で抑えつつ、私は了承を告げる。この城は、けっして安全ではない。愛しい片翼を、サージェス様を守るために、私がサージェス様の片翼であることはなるべく隠し通さなければならない。さすがにそのくらいのことは、サージェス様も理解していた様子で、その表情はほとんど変わりない。


「詳しくはそこで話す。以上だ」


 そう言った直後、去ってしまったサージェス様。それを、私は酷く寂しく思いながら、それでもその感情を表に出すことなく、謁見の間から出ていく。


(あのお方が、私の、片翼……)


 相手は魔王陛下。しかも、私と同じ男だ。異性同士であれば、子供を望めたことだろうが、私ではサージェス様の世継ぎを生んで差し上げることはできない。となると、必然的に、サージェス様には他の女を抱いてもらう必要性が出てくる。


(こんなことなら、女に生まれたかった……)


 家格は十分に釣り合うのに、性別が問題だ。これが、魔王陛下相手でなければ、世継ぎのことなど考えないということもできたかもしれない。事実、貴族の中には、同性同士で片翼同士であった事例など、吐いて捨てるほどにある。そして、その場合、他の兄弟に家の跡継ぎをしてもらうなり、養子を取るなり、様々な手段が取られてきた。
 ただ、魔王陛下だけは、その血を残さなければならないという掟がある。どんなに想ったところで、その事実は変わらない。


(ならば、せめて、私はサージェス様の弱点とならないよう、サージェス様を最も支えられる者であり続けよう)


 それが、初めてサージェス様と出会った私の、最初の決意だった。
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