片翼シリーズ番外編

星宮歌

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わたくし、異世界で婚約破棄されました!?の番外編

バレンタイン ルティアス編(前半リリス、後半ルティアス視点)

 とうとう、この日がやってきた。バレンタイン。それは、乙女が悩み抜く日でもある。


「わたくしなら、やれますわ。ユーカ様にもお墨付きをもらえましたし……」


 結婚して初めて迎えるバレンタイン。わたくしは、絶対に成功させるべく、お菓子作りが趣味というユーカ様に、直接指導をしていただいていた。


「材料は、チョコと卵と薄力粉と生クリームと砂糖とお酒……お酒?」


 材料を並べたはずのテーブルの上に、お酒が見当たらないという事実に気付き、わたくしは必死に辺りを探そうとして……。


「そういえば、これをユーカ様に渡されていたのでしたわ」


 ユーカ様から、特別なお酒だと言われて渡されていたそれを思い出す。小さな手のひらサイズの小瓶に入ったそれは、一本丸々使えばちょうど良いと言われていた。


「よしっ、これで、ルティが居ない間に作ってしまいますわっ!」


 そうして、わたくしはお菓子作りに取りかかった。







 今日は、せっかくのバレンタインだから、リリスとゆっくり家で過ごそうと思っていたのに、仕事が入った。片翼休暇はもう適用されないため、僕は渋々と職場に向かって、騎士達をこれでもかとしごく。そう、よりによって、今日という日に入ったのは、見習い騎士達の訓練という、非常につまらない仕事だったのだ。


「ルティアス、イライラしてる?」


 そして、一通り見習い騎士達が死屍累々とした状態に陥った頃、回復魔法をかけようとしていたところで、同僚のジェドに声をかけられる。


「当たり前じゃないか。僕は、リリスと一緒に居たかったんだっ」


 新婚で初めてのバレンタイン。甘い甘い時間をしっかりと過ごしたいと思うのは、魔族ならば当然のことだろう。


「……ルティアス。バレンタインは女の戦場。帰った時を楽しみに待つのが礼儀」

「どういうこと?」


 そう問いかけるものの、ジェドは話せることは話したとばかりに去っていく。わけが分からないながらも、僕は見習い騎士達が倒れては回復させるのを繰り返して、ようやく仕事を終える。


(早く、帰らないとっ)


 リリスには、バレンタイン用に可愛らしいネックレスをプレゼントするつもりで用意している。僕は、それをつけて喜んでくれるリリスを早く見たいがために、走って帰る。そして……。


「お帰りなさい。ルティ」


 どこか甘い匂いを漂わせたリリスが、僕を出迎えてくれて、少し頬を赤くしながら、『は、早く行きますわよっ』と言って手を引いてくる。


(一体、何が……?)


 どこか恥ずかしそうな様子のリリスに、僕はこれから何が起こるのかと首をかしげる。


「ルティっ!」

「はいっ!」


 連れてこられたのは、なぜか食堂で、いきなり勢い良く名前を呼ばれて、思わず僕もその勢いのままに返事をする。


「こ、ここここ」

「こ?」

「これを、差し上げますわっ!」


 顔を真っ赤にして、リリスが差し出したのは、シックな青の包装紙に、茶色のリボンがついた小袋。


「これを、僕に?」

「そ、そうですわ」

「開けてみても?」

「か、勝手にすると良いですわっ」


 真っ赤になって視線を逸らすリリスは、言葉こそ素直じゃないものの、時折チラチラとこちらを窺っており、僕の反応が気になっているのが丸わかりだ。

 僕は、リリスがくれたそのプレゼントの包装を丁寧に解くと、フワリと、甘い匂いが漂う。


「ガトーショコラですわ。その……わたくしにしては、上手くできたと思いますのよ?」


 そう言うリリスに、僕は感激しながら、ギュウッとリリスを抱き締める。


「ありがとうっ! 嬉しいよ、リリスっ!」

「はぅっ……と、とにかく、食べてみてくださいましっ」


 そう言われて、僕は名残惜しいながらもリリスを離して、その真っ赤な顔に満足しながらカップに入ったガトーショコラを眺め……フォークをリリスからもらって、それを一口、食べてみる。


「うん、美味しい」


 そう言った直後だった。何やら、頭上に違和感が生まれたのは。


「ふぇ?」

「うん?」


 いや、頭上だけではない。何やら、お尻の方にも違和感がある。具体的には、尻尾でも生えているのではないかという感覚で……。


「ルティが、ルティが……」

「え、えっと、リリス、さん?」


 なぜか、目をキラキラと……いや、ここは、素直に言おう。ギラギラと輝かせたリリスを前に、僕はタジタジだ。


「犬耳ですわっ!」

「うわぁっ!」


 リリスに飛び付かれて、僕はいつもなら嬉しいはずなのに、危機感しか感じない。


「フワフワですわっ」

「ちょっ、んんっ、リリスっ、ひゃうっ」


 なぜか、犬耳が生えたらしい僕は、想像以上に敏感なその感覚に狼狽える。


「フワフワ、モフモフ……はっ、もしかして、尻尾もあったりしませんっ?」

「ひぅっ、リリス、ちょっ」


 止める間もなく、ズボンがずり下ろされた。


(くっ、屈辱っ)


 そう思いながらも、尻尾を握られた瞬間、頭の中が真っ白になる。


「うわぁぁあっ!」


 そうして、僕は興奮して我を忘れたリリスが満足するまで、色々と……色々と、弄ばれてしまうのだった。
 後から聞いたところ、ユーカ様からもらったお酒、と思っていたものが、ユーカ様自身が研究していた獣人化の薬だったらしいとか、ユーカ様は、リリスが喜ぶだろうとこれを渡したらしいこととか、リリスはそんなこと全く知らなかったらしいとか……色々と判明したものの、僕が、リリスにバレンタインのプレゼントを渡せるようになったのは、翌日のお昼のことだった、とだけ言っておこう。
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