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俺、異世界で置き去りにされました!?の番外編
審判者
俺は、デリク家に仕える騎士の一人であり、主であるライナード様の片翼を見定める審判者の役割を先代から授かっている者だ。
審判者とは、主の片翼が、主を悪の道へ引き込まないように片翼を見定め、時には矯正のために手を尽くす役割を担う者達のことだ。貴族家には、必ずと言って良いほど、この審判者は存在している。
(さて、ライナード様は失翼だと思われていたから、俺達の仕事もないかと考えていたのだが……どんな片翼なんだ?)
ライナード様が急に人間の女を連れ込んだと聞いた時は耳を疑ったが、どうも本当のことらしい。そして、ライナード様は、彼女を自室に上げることまでしていた。もう、これは確定だろう。
すぐに、審判者の調査隊が片翼の君……カイトお嬢様のことを調べると、どうにもきな臭い情報が手に入る。
(魔王陛下を倒しに来た勇者一行の一人、聖女、か……)
これは警戒しなくてはならないと、審判者同士で目配せし、俺達はさらに情報を集める。すると……。
「いやぁ、カイトお嬢様って、お優しいよなっ」
「ほんとほんと。この前なんて、俺、鍛練中に怪我してそのまま帰ってきたんだけど、魔法で癒してくれたんだぜ?」
「あっ、ずりぃっ」
「カイトお嬢様、良く庭を散歩してるから、お前も怪我して訪ねてみれば?」
「ほう? カイトが、何だって?」
遠くで雑談していた同僚達を眺めていると、その背後にライナード様が立つ。ギギギギッとぎこちない動きで後ろを振り向く彼らの姿は、かなり面白かったが、ここで笑ってとばっちりを受けるのは勘弁だ。俺は、そっとその場を離脱して、小さな悲鳴を聞くのだった。
(カイトお嬢様は、何であんなクズどもと一緒に旅をしていたんだか……)
調査の結果、カイトお嬢様の性格には問題がなさそうだという結論になった。むしろ、詳しく調べれば調べるほど、カイトお嬢様は勇者一行に蔑ろにされてきたことが分かる。不思議なのは、勇者一行に出会う前の動向が全く掴めないことだったが……それは、どうも異世界から来たらしいという情報があり、そちらの方が信憑性が高かったりする。
魔本騒動も終わり、カイトお嬢様が無事に心を取り戻してくれたところで、俺達はホッと安堵の息を吐く。
(カイトお嬢様は、ライナード様に必要な存在だ)
そうと決まれば、とにかくライナード様の支援を、と思ったところで、今度は魅了騒動が起こり、最終的に、魅了使いの娘がこのデリク家に滞在することとなった。名前を、ニナ様という。
「よろしいですか? ニナ様? 本来、ライナード様とカイトお嬢様はもっとイチャイチャしているべき間柄なのです。ですが、カイトお嬢様はニナ様の前では遠慮してしまうでしょう」
「そこで、ニナ様は言うのですっ。『手を繋がないのか?』と」
「いえ、そこは、『チューをしないのか?』くらいにした方が良いのでは?」
「もちろん、それも段階を踏んで言わせるつもりです」
「なるほど」
ある日、ノーラとリュシリーがニナ様にそんな言葉を植え付けている現場を目撃した俺は、とりあえず目を逸らす。
オレハ、ナニモミテイナイ。
きっと、告げ口すれば命はないだろう。そんなことよりも、ライナード様への支援を、と思ったところで気づく。
(あれ? 俺がやらなくても、他がかなり気合いを入れてないか?)
執事長も、ノーラもリュシリーも、この家で使用人のトップに立つであろう魔族達が力を尽くしている中で、俺に何ができるというのだろうか、と気づいてしまう。
「まぁ、気長に見ることにするか」
そう言った直後、気配もなく、肩にポンと手を置かれ、慌てて振り返る。
「見ましたね?」
そこには、先程までニナ様を教育していたノーラが、光を失った瞳で立っていて……命の危険をヒシヒシと感じる。
「協力、してもらえますよね?」
「はひっ」
その日以降、俺はカイトお嬢様達のデートのために、御者を勤めたり、陰ながら護衛をしたりと、忙しい日々を送ることになる。
(早く、早く、くっついてくれっ!)
きっと、俺のこの仕事は、二人がくっついてくれるまで続く。早く平穏な日々が訪れるように、俺は祈らずにはいられなかった。
審判者とは、主の片翼が、主を悪の道へ引き込まないように片翼を見定め、時には矯正のために手を尽くす役割を担う者達のことだ。貴族家には、必ずと言って良いほど、この審判者は存在している。
(さて、ライナード様は失翼だと思われていたから、俺達の仕事もないかと考えていたのだが……どんな片翼なんだ?)
ライナード様が急に人間の女を連れ込んだと聞いた時は耳を疑ったが、どうも本当のことらしい。そして、ライナード様は、彼女を自室に上げることまでしていた。もう、これは確定だろう。
すぐに、審判者の調査隊が片翼の君……カイトお嬢様のことを調べると、どうにもきな臭い情報が手に入る。
(魔王陛下を倒しに来た勇者一行の一人、聖女、か……)
これは警戒しなくてはならないと、審判者同士で目配せし、俺達はさらに情報を集める。すると……。
「いやぁ、カイトお嬢様って、お優しいよなっ」
「ほんとほんと。この前なんて、俺、鍛練中に怪我してそのまま帰ってきたんだけど、魔法で癒してくれたんだぜ?」
「あっ、ずりぃっ」
「カイトお嬢様、良く庭を散歩してるから、お前も怪我して訪ねてみれば?」
「ほう? カイトが、何だって?」
遠くで雑談していた同僚達を眺めていると、その背後にライナード様が立つ。ギギギギッとぎこちない動きで後ろを振り向く彼らの姿は、かなり面白かったが、ここで笑ってとばっちりを受けるのは勘弁だ。俺は、そっとその場を離脱して、小さな悲鳴を聞くのだった。
(カイトお嬢様は、何であんなクズどもと一緒に旅をしていたんだか……)
調査の結果、カイトお嬢様の性格には問題がなさそうだという結論になった。むしろ、詳しく調べれば調べるほど、カイトお嬢様は勇者一行に蔑ろにされてきたことが分かる。不思議なのは、勇者一行に出会う前の動向が全く掴めないことだったが……それは、どうも異世界から来たらしいという情報があり、そちらの方が信憑性が高かったりする。
魔本騒動も終わり、カイトお嬢様が無事に心を取り戻してくれたところで、俺達はホッと安堵の息を吐く。
(カイトお嬢様は、ライナード様に必要な存在だ)
そうと決まれば、とにかくライナード様の支援を、と思ったところで、今度は魅了騒動が起こり、最終的に、魅了使いの娘がこのデリク家に滞在することとなった。名前を、ニナ様という。
「よろしいですか? ニナ様? 本来、ライナード様とカイトお嬢様はもっとイチャイチャしているべき間柄なのです。ですが、カイトお嬢様はニナ様の前では遠慮してしまうでしょう」
「そこで、ニナ様は言うのですっ。『手を繋がないのか?』と」
「いえ、そこは、『チューをしないのか?』くらいにした方が良いのでは?」
「もちろん、それも段階を踏んで言わせるつもりです」
「なるほど」
ある日、ノーラとリュシリーがニナ様にそんな言葉を植え付けている現場を目撃した俺は、とりあえず目を逸らす。
オレハ、ナニモミテイナイ。
きっと、告げ口すれば命はないだろう。そんなことよりも、ライナード様への支援を、と思ったところで気づく。
(あれ? 俺がやらなくても、他がかなり気合いを入れてないか?)
執事長も、ノーラもリュシリーも、この家で使用人のトップに立つであろう魔族達が力を尽くしている中で、俺に何ができるというのだろうか、と気づいてしまう。
「まぁ、気長に見ることにするか」
そう言った直後、気配もなく、肩にポンと手を置かれ、慌てて振り返る。
「見ましたね?」
そこには、先程までニナ様を教育していたノーラが、光を失った瞳で立っていて……命の危険をヒシヒシと感じる。
「協力、してもらえますよね?」
「はひっ」
その日以降、俺はカイトお嬢様達のデートのために、御者を勤めたり、陰ながら護衛をしたりと、忙しい日々を送ることになる。
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