21 / 97
第二章 目論む者達
第二十一話 居ない者
しおりを挟む
様々な光景や音が頭の中に流れ込んでくる。それらは全て、この館の中での光景と音。
少しばかり多い情報に頭痛を感じながらも、私はそれらの一つ一つをしっかりと受け止めて……気づく。
(領主、不在?)
聞こえてくる声達は、領主が居ないのに私達が来てどうしたものかと惑う声ばかりだった。それならそれで、誰か代行ができそうな家族でも向かわせれば良さそうなものだが、それも、今は居ないらしい。執事長と呼ばれた男の竜人が頭を抱えている様子が見受けられる。
「……アルム。どうやら、私達は歓迎されていないようです。この度は、お暇することにしませんか?」
少し、話をする時間を取りたい。そんな意味を込めて視線を投げかければ、アルムは少し迷った素振りを見せて、うなずく。
「あぁ、確かに先触れもなかったしな。改めて出直すこととしよう」
先触れがなくとも、領主館においては、どんな者が来ても対応できるよう、誰かが残っているものらしい。例え、誰も居なかったとしても、誰かに代行を頼むことくらいはできる。それができなかったということは、よほどの緊急事態か、職務怠慢か……。
(後者、ですね)
使用人達の動向から、私は職務怠慢だと結論づける。引き続き、蜘蛛達には監視と盗聴をしてもらうことにして、私達は一度、ナット領の宿屋に入ることとする。貴族御用達の宿は、とても落ち着いた造りの建物で、旅館というらしい。温泉という体に良いお湯の中に浸かって、身を清めることもできるらしく、時間があれば、ベラと一緒に入りたいと思っていた。
しかし、今は、情報の確認作業だ。
宿屋の一室に案内された私達は、アルムが防音の結界を張ったのを確認して話し始める。
「まずは、私から話させていただきます」
そうして、私は使用人達の慌てぶりと、領主が不在であること、代わりに対応できる者も存在しないことなどを話していく。
「どうも、領主はどこかへ遊びに出掛けていらっしゃるようで、執事長と呼ばれていた方は頭を抱えていましたね」
まだ、どこへ出掛けているのかまでは分からないものの、それもしばらくすれば判明するだろう。
そこまで話終えると、私は次に、ギースへと視線を移す。
「俺からも、分かったことを話す。まずは、あの金細工からは、微かに闇の魔力が感じられた」
「あぁ、それは確かに」
「闇の魔力、ですか?」
残念ながら、私は魔法に精通しているとは言いがたい。いや、鍵を勝手に開けたり、罠を解除したり、護衛やら門番やら監視官やらの目を眩ませたりすることは得意ではあるのだが、魔法の分析などはあまり得意ではない。
「恐らくは、相手の精神を乱す類いの魔法」
「つまりは、領主はそれで乱心した、とでも?」
そう問いかければ、『そこまでは分からない』と返ってくる。どうやら、魔法そのものはあまり強いものではないらしい。ただ、長時間それらに触れていると、少しずつ、精神的に不安定になるだろう程度のものなのだと、ギースは説明する。
「あれらの品を、領主に渡した人物の特定もしなくてはならないか……」
「アルム。元々、この地の領主はどのような人物だったのですか?」
眉間にシワを寄せるアルムへと問いかけると、アルムは一つうなずく。
「彼は、小心者な弱小貴族、という印象が強いな。妻が一人と、娘が一人居たはずだが、そちらの噂はほとんど聞かない。娘の年齢は、十二、だったか……」
そんな言葉に、あの金ぴかの調度品達の姿がよみがえり、聞いている話の領主像との差が大きいなと感じる。
「……とりあえず、しばらくは情報収集に尽力します。ギースは、適宜指示を出しますので、それに従ってください」
「あぁ」
「分かった」
今は、とにもかくにも情報だ。私は、もう一度蜘蛛達に意識を集中させ、目を閉じるのだった。
少しばかり多い情報に頭痛を感じながらも、私はそれらの一つ一つをしっかりと受け止めて……気づく。
(領主、不在?)
聞こえてくる声達は、領主が居ないのに私達が来てどうしたものかと惑う声ばかりだった。それならそれで、誰か代行ができそうな家族でも向かわせれば良さそうなものだが、それも、今は居ないらしい。執事長と呼ばれた男の竜人が頭を抱えている様子が見受けられる。
「……アルム。どうやら、私達は歓迎されていないようです。この度は、お暇することにしませんか?」
少し、話をする時間を取りたい。そんな意味を込めて視線を投げかければ、アルムは少し迷った素振りを見せて、うなずく。
「あぁ、確かに先触れもなかったしな。改めて出直すこととしよう」
先触れがなくとも、領主館においては、どんな者が来ても対応できるよう、誰かが残っているものらしい。例え、誰も居なかったとしても、誰かに代行を頼むことくらいはできる。それができなかったということは、よほどの緊急事態か、職務怠慢か……。
(後者、ですね)
使用人達の動向から、私は職務怠慢だと結論づける。引き続き、蜘蛛達には監視と盗聴をしてもらうことにして、私達は一度、ナット領の宿屋に入ることとする。貴族御用達の宿は、とても落ち着いた造りの建物で、旅館というらしい。温泉という体に良いお湯の中に浸かって、身を清めることもできるらしく、時間があれば、ベラと一緒に入りたいと思っていた。
しかし、今は、情報の確認作業だ。
宿屋の一室に案内された私達は、アルムが防音の結界を張ったのを確認して話し始める。
「まずは、私から話させていただきます」
そうして、私は使用人達の慌てぶりと、領主が不在であること、代わりに対応できる者も存在しないことなどを話していく。
「どうも、領主はどこかへ遊びに出掛けていらっしゃるようで、執事長と呼ばれていた方は頭を抱えていましたね」
まだ、どこへ出掛けているのかまでは分からないものの、それもしばらくすれば判明するだろう。
そこまで話終えると、私は次に、ギースへと視線を移す。
「俺からも、分かったことを話す。まずは、あの金細工からは、微かに闇の魔力が感じられた」
「あぁ、それは確かに」
「闇の魔力、ですか?」
残念ながら、私は魔法に精通しているとは言いがたい。いや、鍵を勝手に開けたり、罠を解除したり、護衛やら門番やら監視官やらの目を眩ませたりすることは得意ではあるのだが、魔法の分析などはあまり得意ではない。
「恐らくは、相手の精神を乱す類いの魔法」
「つまりは、領主はそれで乱心した、とでも?」
そう問いかければ、『そこまでは分からない』と返ってくる。どうやら、魔法そのものはあまり強いものではないらしい。ただ、長時間それらに触れていると、少しずつ、精神的に不安定になるだろう程度のものなのだと、ギースは説明する。
「あれらの品を、領主に渡した人物の特定もしなくてはならないか……」
「アルム。元々、この地の領主はどのような人物だったのですか?」
眉間にシワを寄せるアルムへと問いかけると、アルムは一つうなずく。
「彼は、小心者な弱小貴族、という印象が強いな。妻が一人と、娘が一人居たはずだが、そちらの噂はほとんど聞かない。娘の年齢は、十二、だったか……」
そんな言葉に、あの金ぴかの調度品達の姿がよみがえり、聞いている話の領主像との差が大きいなと感じる。
「……とりあえず、しばらくは情報収集に尽力します。ギースは、適宜指示を出しますので、それに従ってください」
「あぁ」
「分かった」
今は、とにもかくにも情報だ。私は、もう一度蜘蛛達に意識を集中させ、目を閉じるのだった。
1
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
本編完結済み。
続きのお話を、掲載中です。
続きのお話も、完結しました。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる